表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
261/286

監禁された者達(サイドA)




ガレストで近年になるまで地下鉄が誕生しなかった安全面での問題とその解決の

経緯は以前に狐耳娘と技術科ロマン生徒が語っていた通りであるが心情的な

問題から地下開発自体が長らく忌避されていた背景もあった。


大陸世界であるガレストにとって大地(地下)には限りが存在する。

厳密にいえば地球にも限りはあるが実感はしにくい。惑星において大地の下を

真っ直ぐに突き進めば極論どこかの地表に到達するがガレストはそうではない。

つまり、その()を抜ければ何も無いのだ。現代では滅多に起きないが

過去の地質調査・資源回収等の際に事故により突き抜けて(・・・・・)しまい落下(・・)

そのまま次元空間にまで飛び出してしまい戻ってこなかった者は幾人か

記録されている。また大陸である以上『端』ないし『先端』と呼べる場所が

あり、そこは崩せる(・・・)のだ。当然崩した分、本体というべき大陸全体から

切り離され、次元の海に解き放たれて消えていく。これは『大陸底』も同じ。

これまでの研究や観察で証明されていた。そしてその事実を人々は知っている。

隠すより皆に周知させて事故を防ぐことを目的とした教育であった。


危険な生物が跋扈する自然保護区という物理的に手を出せない地域とは違い、

輝獣を無視すれば到達や居住が不可能ではない地域にも関わらず大陸外縁部は

調査すら滅多に許可が下りない不可侵領域として扱われていた。そしてそれは

大陸底も同じ。下手に手を出せば文字通り自分達の足元を崩しかねないのだから

当然だろう。


だからこそ心情的にも常識的にも、安全を証明された範囲よりさらに深い地点。

大深度地下は一般的なガレスト人の認識の外にある。あるいはそこに意識を

向けたくないという意識が働く、というべきかもしれない。誰だって自分達が

住む大地が突然崩れ落ちる状態など考えたくもない。それを前提にして生活が

出来るわけもない。尤も、だからこそ一般的ではない者達の拠点として実に

都合の良い場所になってしまったのだが。



そう、件の地下施設はまさにそんな場所にあった。

オークライに認められた地下開発可能範囲より深い領域。

そして開発禁止範囲という危険領域よりは浅い中間の空間に。

またガレスト型都市における治安維持組織や行政の目が一番届きにくい、

都市の真中センターホールの真下という位置関係はその存在の秘匿に

一役買っていただろう。深さと位置の絶妙さは一般的なガレスト人の盲点。

されどそれでオークライでの事件と無関係でいられたわけではない。


「くそっ! 交代要員どもはどうした!? 予定はとっくに過ぎてるぞ!!」


むしろ公に存在が認知されておらず、外界との繋がりが限られていた事で逆に

オークライで起こった事件での影響を直に受けていた。端的にいえば内部の、

施設側の人間も身動きが取れなくなっていたのだ。


「落ち着けよ、備品も食料も充分あるしまだたった四日だろうが…」


「たった四日じゃねえんだよ!」


元帥の部隊やその増援によるオークライへの地上・地下両方の監視網及び

包囲網は事件関係者を逃すまいと非常に強固なものとなっている。

表向きないし実質的には防衛力を失った都市と市民を守るためであるが、

そのために事件とは無関係の犯罪者達もオークライから出ることは勿論

オークライに入ることも出来なくなっていた。当然、地下も含めて。

むしろ都市と都市を結ぶオーソドックスなルートが地下鉄である近年では

最も警戒する場所として認識されていた。結果、皮肉な事に異世界の住人を

拉致監禁した彼らもまたオークライ地下に閉じ込められていたのである。


「お前と違って俺はもう一月以上こっちに缶詰なんだ!

 つまんねえ監視・点検を代わり映えのねえ地下に潜んで毎日、毎日!

 気が狂いそうだ!!」


「最初からそういう仕事だって説明受けたじゃねえかよ」


「だからっ! 今まで我慢してたんだろうが!

 なのに交代が延期に延期して、しまいには音沙汰もねえときた!」


不幸中の幸いはここが完全に独立した施設でオークライの都市機能麻痺の影響を

直接的には受けなかった事だ。おかげで空気の循環や酸素供給システムが停止

するような事態にはならなかった。実際その問題があったから都市では当初、

地下シェルターが使えず避難施設が足りないという問題が発生して元帥達の

頭を悩ます要因の一つになっていたほど。


「くそっ、くそくそっ、くそったれがっ!!」


「……荒れてんなぁ。

 まあ、連絡無し(・・・・)の遅れってのは確かに珍しいが」


一方、不幸であったのは施設側の人間ですら自分達が潜む都市オークライで

何が起こったのか把握していなかった事だ。外部からの独立性と秘匿性を

維持するために全てがここだけで完結するような造りになっていて“上”の

承認が無ければ外に出られず通信機器の類も外からの連絡事項を受け取るだけ。

個人レベルの端末では深すぎて外部と通信もできない。だから彼らは地上で

何が起こったのか知りようが無かった。まるで元から閉じ込められていたような

状態だがそれでも連絡や交代要員・補給物資は送られてきていたため彼らに

その認識が無かったのだ。が、この状況になったことで彼らの雇い主達は

人を送るのは勿論一方通行の通信すら位置を特定されかねないと危惧し、

沈黙するしかなくなっていたのである。しかしそれを内部の者達が知る由は

無く、閉鎖空間から出られないというストレスが急激に表面化する事に。


「ん、おい。どこ行くんだ、俺らまだ待機時間だぞ?」


理由が分からない状態での─気付かされた─行動制限(監禁状態)

意識した分、心身共にかかる負担が大きくなる。余程の人間でなければ精神の

均衡をあっさりと崩すだろう。それが既に長期間滞在し開放予定を連絡無しで

お預けされた人間であればまともな思考も理性も働くまい。

この彼のように。


「知らねえって言ってんだろ! こうなったのも全部あの連中のせいだ!」


「あの連中って……ああ、あの閉じ込めてる奴らか。

 確か3月頭にした実験の結果とかいうよく分からん話の…って待てって!」


荒ぶる感情のまま男は自動ドアに激突しそうな勢いで警備室から飛び出した。

ここでは警備・点検を請け負う人員は二人一組での行動が求められている。

単独行動は例え片方の暴走だろうともう一方も責任を負わされてしまう。

仕方なく残された男はモニタールームで監視作業をしてる同僚に一言告げて

追いかける。


「はぁ、気持ちはわからんでもないが俺を巻き込むなよ」


姿は見失っていたが直前の発言を思えばどこに向かったかは容易に分かる。

彼の交代が延期され続けたのは確かにその集団の存在が要因ではあったのだ。

突然施設内に現れた彼らと最初に接触した幾人かの雇われ警備員達の中に

彼はいた。即座に返り討ちにあったらしいが雇い主達はその失態よりも彼らと

接触した人間の数を最低限にしたかったらしく最初に遭遇したその警備員達を

施設外に出すのを渋っていたのである。


「おいっ、何すんだよ!?」


だからそこから声が聞こえたのは予想通りでしかない。

謎の集団が現れ、そのまま監禁している場所。3月頭までは何らかの実験室で

あったというが成果が出なかった事で閉鎖。倉庫に改修された第6倉庫室。

その扉前で警備員達が睨み合っている。片方が先程突っ走っていった職務上の

相棒だと認めて男はため息を吐いた。


「てめえこそ、何運んでやがる!

 こいつらに恵んでやる物なんかここにはねえっ!」


「バカいうな、上から死なせない程度には世話しろって命令だろうが!

 どうせ廃棄予定のまずいレーションだ。惜しくも無い!」


「次の補給がいつになるかって時に呑気なこと言ってんじゃねえっ!」


「じゃあ今てめえが飛び散らしたのがお前の夕飯ってことでいいんだな!

 そいつは掃除の手間が省けて良かったぜ!」


「あんだと貴様!!」


どうやら最低限の食事を運びに来た監視役達と男がかち合ってしまったらしい。

どちらもこの状況にストレスを感じているせいか喧嘩腰であり、追いついた男は

相手の相方に目を向ける。疲れた顔で首を振られた。察するにそちらの男も

最初に遭遇した何名かの一人なのだろう。互いの苦労を同情し合うが

今にも殴り合いどころか殺し合いを始めそうな空気に一計を案じる。


「ったく、落ち着けよお前ら」


「ああっ!?」


「黙ってろ、俺は!」


注意を引くために声をかければ予想通りの怒声。

これに怯むどころか意味ありげな笑みを浮かべながら彼はその扉を叩いた。


「怒りをぶつけるのはこっちだろ?」


それが指し示す意味に気付いた男達は怒り心頭だった顔を嗜虐的なそれに

変えた。壁に埋め込まれた開閉パネルに触れるとロックが解除され、

左右に開かれた金属製の扉を超えて二人は並んで倉庫に入っていく。


「おいおい、いいのかよ?」


「あのまま殴り合いとかになる方が面倒だ。

 それにまだ十数人はいたはずだ。2、3人減っても誤差だろう?」


「はっ、違いねえ」


ここは無許可で造られ非合法な目的で運用される地下施設。

そこで働く者にまともな倫理観などあるはずが無い。同程度の装備と戦闘能力を

持つ同僚同士の争いを止めるより非武装の人間をいたぶらせる方が制御が楽で

何より鬱憤を解消させるには都合がいい。そんな程度の考え。

だから倉庫内の人間達の運命はそこで決まってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 兵士共オワタ
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] サイドA、悪党サイドってことですね 悪党の行く末に合唱
[良い点] 更新に感謝! [一言] 組織の男達の運命が決まってしまったんですね分かります。
2023/02/28 21:06 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ