助けて
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え、まずはいつごろの話かって？
そっか、そこからだよね
ううんと、えっと……そうそう！
水晶球が魔王に乗っ取られた事件の後だった！
お兄ちゃんと最後に会ってから一月後ぐらいだったよね、あれ
世界中に中継されてたから見てただろうけど、すごかったよ
なんてたってあのマスカレイドによる魔王暗殺未遂事件だもん！！
………どしたのみんな？
いいから続き？
わ、わかった
えっと……そんな事件があったから大人たちは大騒ぎ！
けどなんでかマーサさんはすっごく呆れてたような？
だからかな、院の仕事は変わらずやってたよ
ステラの花の手入れに、アースガントへの出荷、ちびっ子たちのお世話
いつも通り過ごしてて、でも事件の４日後ぐらいだったかな
突然、私とマーサさんの周りに変な光がまとわりついてきたの
いま思い返すとお兄ちゃんが転移する時に出してる光と似てたかも？
うん、それで目の前が真っ白になって！
思わず目をつむっちゃって！
次に目を開けたら、ぜんぜん知らない場所にいたの！
窓も何もない広い場所で、天井も高かった
石でも木でも土でもなくて、金属っぽい壁で出来てたと思う
それで周りには何に使うかよく分からない道具とかおっきな箱とかが少し
ぽつん、ぽつん、って感じでテキトーに置いてあったかな
なんか使われてない倉庫みたいだったかも？
私以外の人？
う、うん、すっごくたくさんいた！
みんな同じように突然転移したみたいで戸惑ってたわ
知ってる人はマーサさんとカイトお兄ちゃんだけだったけど
数は……ちゃんと数えられなかったけど多分２０人から３０人くらいかな
え、うん、みんなファランディアから連れてこられた人達だと思うよ
こっちの人達みたいな格好してる人、誰もいなかったから
あ、でも全員ヒューマンだったのは確かだよ
他の種族の人は誰もいなかったわ
うん？
髪の毛の色？
ええっと、たしか………あれ？
そういえば黒や茶、金、その系統の人しかいなかったかも？
ちょっと珍しいね？
………どしたのお兄ちゃん？
あ、うん、その後はみんなで……話し合い、かな？
どこにいたとか何をしてたとかここがどこかとか
私は聞いてるだけだったけど、みんなバラバラの場所にいたみたい
あっ、私はその時にはもう潜ってたから
マーサさんがね、転移してすぐに隠れててって
えへへ、そうだよね、さすがマーサさんって感じ！
おかげで私はやつらに気付かれないまま動くことができたんだから！
…………うん、そう
そのあと、やってきたの
壁だと思ってた場所が開いて、変な形の鎧を着た人達が何人も！
カクカクした四つ足の、硬そうな変な生き物みたいなのもいた
そいつら何か喋ってきたんだけど、私はよくわからなくて
でもこっちの何人かは話が通じてるみたいだった
マーサさんもカイトお兄ちゃんもたぶん分かってたと思う
でも、それで、あのね！
話がこじれちゃったのかなんなのか
あっちが急に攻撃してきたの！
手に持ってた何かから小さい攻撃魔法みたいなのバンバン！
けどカイトお兄ちゃんがすぐに動いて、そいつら倒してくれた！
他の戦える人達も一緒に戦ってくれて、最初に来た連中は全員ぶっ倒したわ！
でもそのすぐ後に四つ足のが次々と、すごい数でやってきて……
しかも倉庫の壁から小さい大砲みたいなのが生えてきて……
そしたら天井から誰かの声がして、何を言ってたのかは分からないけど
カイトお兄ちゃんたち、武器を捨てちゃって……たぶん、そういうことだと思う
新しくやってきた鎧の人達にお兄ちゃん達は縛られて、連れてかれて……
それから…うぅっ、それからその人たち誰もっ……誰も戻ってこなくてっ！！
あぁ……ぅぅ、ぐすっ、うん、だ、大丈夫、私がちゃんと話さないとっ
…………私は、私はその時もずっと潜ってた
マーサさんがそうしてろって
他のみんなは持ってた物を取り上げられて、そのまま閉じ込められちゃった
わたしっ、そこで慌てちゃって！
急いで助けを呼ばなきゃって外を目指したの！
でもそこ地下で、あちこちに開けた場所があったから呼吸は続いたけど
地上にはなかなかたどり着けなくて！
だから一度戻って、相談しようって思ったんだけどそこで私、肝心の
閉じ込められてる場所を調べるのを忘れてたことに気付いて、でも遅かった！
施設中を探したけど、もうカイトお兄ちゃんたちいなくなってて！
みんな慰めてくれたけど、私がなんとかしなくちゃって必死で地上を目指したの
何日もかかったけど、どこをどう通れば地上に行けるかやっと分かって、
でもそしたら今度は見たことも聞いたこともない場所だった……
空には星みたいな太陽がいっぱいあるし、建物の間が狭苦しいしっ
よく見たらでっかい壁に囲まれて、さっきの四つ足のでっかいのが
走り回ってて怖くて、それに……誰とも…言葉が、通じなくてっ……
ぐすっ、ぅぅ……マーサさんたちに相談したんだけど、
みんな閉じ込められたままだったから、疲れ切ってて……辛そうで
食べ物もあんまり与えてもらえなくって、なんとか隠し持ってた保存食で
食いつないでたけど、限界で、それで……それ、で………ごめん、なさい
お兄ちゃんと約束してたのに！
悪いことに使っちゃダメだってわかってたのに！
いろんなお店から食べ物たくさん盗んで、みんなに配ってたけど
マーサさんがごめんねって
嫌なことさせて、何もできなくてごめんって！
そんなことないのに！
いつも私達を助けてっ、守ってくれたのマーサさんなのに！
悪いことしたの私なのに！
だからなんとか助けたくていっぱい声をかけたけど、やっぱりお話ができなくて
それに私達を閉じ込めてるのがどこの誰なのか分からないから普通の人以外は
声をかけられなくて……悪い人を捕まえてるような人たちがいるのは
分かってたけど、もし後ろで繋がってたらって思ったら怖くて……
他に声をかけられなくて……私しか、助けを呼べないのに！
その私も捕まっちゃったらって思ったら、わたしっ！
でももうどうしていいか分からなくなって、そうこうしてる内に攫われた日から
だいたい一か月ぐらい経っちゃって……その間にも何人かまた連れてかれて！
わたし慌てて追いかけたけどっ！
動く箱みたいなのに乗せられて、すごく速くて追いつけなくて！
どこに連れてかれちゃったのかもわからないのっ！
でも、でもせめて食べ物だけはって何度も盗んで、何度も運んでたけど
この前、街中が真っ暗になった時に、何かあったんだ、って
慌てて戻ろうとしたんだけど、地下にあった色んな物も動かなくなったり、
光ってたのが消えちゃったりして、完全に真っ暗で！ 何も見えなくて！
私っ、そういうの目印にしてたから戻り方がわからなくなっちゃったの！
何度か挑戦してみたけど、全然違う場所に出ちゃって！
迷ってる内に、気付いたら地上に戻っちゃうし！
しかも今まで一度も行ったことのない場所で！
余計にみんなのいた所がわからなくなっちゃって！！
それに真っ暗になる前から誰かに追われてるような感じもしてたから
焦って、食事するのも忘れて動き回ってたらどこかで気を失って、
気付いたら姉弟らしき二人に保護されてたの
そのあとは役人さんらしい人達に引き渡されて、お世話されてた
何を言ってるかはわからなかったけど、うん、いい人達ではあったかな
でもそこに変な女が来て、ああこいつだって一目で分かった
雰囲気も目の色もぜーんぜんフツーじゃなかったもん！
大昔に見た人買いみたいだった！
だから私を狙って追い掛け回してた奴だって確信したわ！
それで、もしかしたらこいつらがみんなを閉じ込めてる奴の仲間かも、って
騒ぎを起こしてこの世界の人に捕まえてもらえばそいつの口から
私たちのことが伝わるんじゃないかと思ったけど、敵う相手じゃなかった
もうダメかもって、そう思ったら……ふふ、お兄ちゃんやってくるんだもん
一瞬であいつらぶっ飛ばしちゃって、また助けてくれて……ホントずるいよ
…………ううん、違うよね
ずるいのは私だ、ここまで言えば絶対お兄ちゃん頑張ってくれるって
助けてくれるって知ってて、こんなお願いしてる
いっつも……助けてもらってばかりなのに
………でも、お願いっ、します！
もうお兄ちゃんたちしか頼れない！
あれからもう四日なの！
みんな満足に食べれてなかったのに！
いまマーサさんたちがどうしてるかって考えるだけでっ、わたしもうっ！！
胸が痛くて、苦しくてっ……お願いっ！
───────みんなを助けてっ！！！
