表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
257/286

彼が鍛え過ぎた結果です



このままではいけない、と感じた


いい人たち、マジメな人たちだとは思うわよ


なにを言ってるかは分からないけど、なんとなくそうかなって


でもいま必要なのはそうじゃないのよね───困るわ


悪い人たちとくっついてないっぽいのは助かるけど


時間の問題よね?


キキカンが足りてない、わけじゃないのよ


むしろそこはちゃんとある気がするのだけど


わたしが持ってほしいキキカンじゃないと感じるの


だめね


まずいわ


これならあのお姉さんたちの方が、うん、でもなんかイヤ


男の人はともかくあの女の方は敵よ、敵だわ


わたしの女のカンが言ってるのだからマチガイない


疲れていたとはいえそんな女の胸で寝ちゃうなんて、クツジョク


「───────」


ん、呼ばれた?


ここの人たちと、うん、これはじつにウサンクサイ女がいた


あぁ、おそかった


おなかすいててお菓子にムチュウになってたのは、うん


ひつような、かろりぃセッシュ?


とでも思って忘れよう


うん、わたしわるくない


でもこれ、逃げられるかしら?


たしかこういう時は起こせるだけ大きなソウドウを起こせ、だったわね


ええ、ここでつかまってなるものですか!



「ハデにはじけて! (ジバルド)っ!!」







 簡単な仕事だ、と思って油断していたのは間違いないと女は振り返る。

珍しくもない依頼であった。事情を聴かずに、手段を問わずに、画像の少女を

捕まえて連れて来い。当然きな臭い、もっといえば単純に違法行為であろう事は

認識していたが元よりそういう仕事ばかりしていた女は気にしてはいなかった。

大都市で名も知らぬ一人の少女を探す面倒さには始める前から辟易としていたが

正規の住民でも旅行者でもないという情報を依頼主が提示してくれたのもあって

捜索開始後すぐにターゲットの少女と何度かニアミス出来る程に迫れた。

都市運営及び管理のシステムはそれに追われると面倒だが使う側・追う側と

なれば逆にこれほど使い勝手のいいモノはない。ハッキングツールで機能を

借りれば行動の予測と活動範囲の絞り込みは容易。

もう捕捉できる所まで準備は整っていた。


まさにその日にオークライを揺るがす大事件が起こってしまう。


身動きが取れなくなったのはいったい誰の運が悪かったのか良かったのか。

これにより状況が最悪になったのは勿論、持ち込んでいた装備以外の全てが

使えなくなり捜索が振り出しに戻るどころかマイナスにまで落ち込んでしまう。

しかし不幸中の幸いか。四日目には全住民の避難誘導が始まった事で人々の

動きが限定されたのは都合が良い。受付所全てを監視すればいいのだから。

連れ立った仕事仲間や持ち込んだ数台のカメラが役に立った。

ただ肝心のターゲットを発見したのが避難がかなり進んだ時期だったのは

先が見えない待ち時間として自分達を苛立たせたが裏を返せば人が少ない好機

という事でもあって、これも都合が良いとほくそ笑む。


──人間が一番油断するのはうまくコトが進んだと思った時。

あるいは苦痛な時間から解放された時であるとはよく言ったものだ──


女は冷静に振り返る。よくよく考えれば何度もニアミスはしているのに

追いきれなかった事実を重く受け止めるべきだった、と。


ガレスト学園の生徒がターゲットを保護して受付所に連れてきた時は思わず

感謝の言葉を述べた女は彼らが離れるのを待つと騒ぎにならぬよう母親の

フリをして少女を回収する作戦を実行する。

依頼主が提示した少女の情報によれば意味の分かる(・・・・・・)言語で(・・・)喋れない(・・・・)という。

ここまでの捜索でそれが事実だと確信していた彼女らは少女自身が拒絶しても

言葉が通じない以上ぐずっているようにしか見えないため強引に押し通せると

考えていた。また受付所の役人達がここまでの作業で疲れ果てて注意力が散漫に

なっているのが見て取れたので堂々と娘と逸れた母親を装えば事足りると。

仕事柄かそれが出来るだけの演技力を女は持っていた。目論見通り少女(ターゲット)

対面できる所まで難なく進んだ。肩で切り揃えたキャラメルブロンド髪の少女が

菓子を頬張っている。一般的感性なら保護欲そそる愛らしい姿であろうが

女にあったのは獲物を追い詰めたような喜悦。

だが予定通りだったのはそこまで。


「地味に々$±■! Ⅰ∑●∨!」


少女(ターゲット)が殆ど意味不明な言葉を発した途端に雷光が放たれる。

視界を奪われ、不意打ちの衝撃に屋外まで弾き飛ばされて路面を転がった。

こればかりは依頼主に悪態を吐きたい。少女(ターゲット)に戦闘能力があるとは聞いてない。

軍用携帯端末(フォスタ)の防御を突破する威力ではなかったがここまで飛ばされた以上、

元より弾き飛ばすのが目的の一撃だろうと女は判断する。証拠に少女は

慌てふためく役人達を尻目に外に飛び出すとこちらを睨みつけてくる。

受付所を左手に置くその位置取りは漲る戦意とは別に役人達を巻き込まない

配慮と感じられた。だから女は少女をターゲットではなく敵だと認識した。

そうしなければ負けるのはこちらだと。


「▲♭√∠爆ぜて! ∽≠∩!」


ノイズが走ったような翻訳音声。一部理解できる言葉となるのがこちらの

集中力を乱される。その隙を狙うように“氷の槍”が少女の頭上に出現。

即座に放たれた。脳の戸惑いを無視して今度は自ら転がっていく。

一本、二本、三本と転がった先を狙う襲撃を紙一重で避けつつ、間で体勢を

整えて立ち上がると最後の四本目を飛びのいて躱す。反撃を。

その思考より先に足元から湧き上がる怖気を覚えた。


「いぐにっしょん」


誘導されたという直感と少し舌足らずな子供の声は同時。

瞬間、女の視界は体ごと赤き爆炎に包まれた。


『─────ちっ!』


危なかった。

展開が間に合った外骨格のメットの奥で舌打ちする。

機械の計測によれば生身で受ければ全身火傷は避けられない炎だった。

苛立ち交じりで殴りつけるように炎を払えば驚愕に歪んだ少女の顔が映る。


「∠♯&∑●っ!?!」


その驚きをさらに濃くしてやろうと取り出したキャノン砲を担いで砲口を

少女に向ける。身構えた顔先を掠めるように路面を砲撃で焼いてみせた。

わざと外したそれはターゲットの背後にあった建物を轟音と共に炎で包む。


「っ!」


参った。

生きて連れてこいというオーダーだ。殺すわけにはいかないためこれで

心を折る心算だったが予想以上に少女(ターゲット)は肝が据わっていたらしい。

泣きわめくどころか腰を抜かしもしない。血の気が引いた真っ青な顔を

している以上戦力差は理解はしているようだが眼の光は死んでいない。厄介な。

何せあと5分もしない内に騒ぎを聞きつけて軍がやってくる。きっと少女は

それを狙っていた。最初の雷光の派手な光と音は衆目を集めるため。

逃亡を選ばなかったのも時間さえ稼げばそちらの方が安全であるとの判断。

女は感心した。自分がこの少女の年齢の時、ここまで出来たかと聞かれれば

迷わず首を振る采配である。

だが。


『おいおい、ガキ相手にてこずり過ぎだろ』


『腕が落ちたんじゃないか?』


増援(これ)で詰みだ。

上空より少女の背後を穿つような銃撃が落ちる。

発砲音と着弾音が大きいだけの威嚇用の光弾だが逃げ道を塞がれたと

少女は蒼白な顔をさらに青くした。


『うるさいよ! 前金は払ってんだっ、さっさと仕事しな!』


ターゲットを囲むように今回限りの仕事仲間二名が女を含めて三角形を

形成するように降り立つ。どちらも外骨格を展開しての完全武装状態。

生身の子供がどうこう出来る状況ではないが女は油断しなかった。


『おいおい、何を慌てて…』


『そのお嬢ちゃん、その歳でどうも修羅場慣れしてるようでね。

 この状況の半分以上は嬢ちゃんの仕業さ』


『なに?』


そしてその言葉にやってきた二名も纏う空気を変えた。

一部の壁が吹き飛んでいる受付所。道路に突き刺さったままの氷の槍。

不自然に一点だけ黒焦げの路面。完全に延焼が始まっている建物。

見ていなかった彼らにどれがどうなのかは分からずとも“この半分以上”

と言われれば彼らとてそれなりに非合法行為を続けて捕まりもせず、且つ

生き残っている悪党達だ。子供相手という驕りと隙を即座に消していた。


「∽÷♯∃∧∞!!」


それは少女にも伝わったのだろう。相変わらず何を言ってるか不明だが

罵倒するように吠えた。それは折れそうな自分を鼓舞する意味もあるはずだ。

蒼白な顔のまま、気概だけで立っている彼女はそれでも負けまいと拳を握る。

その両手には氷舞う冷気が纏う。立ち向かう気である。それが余計に自分達から

油断や慢心を奪うのだから皮肉な話である。もはや打ち合わせも必要もない。

囲んだまま非殺傷系の拘束・鎮圧に向いた武装やスキルを放って無力化すべし。

その判断を全員がしていた。誰もがターゲットの一挙手一投足に視線と表情も

見逃さない。それでいて周囲の警戒も怠っていない辺り彼らの練度の高さを

示している。もはや少女が何をしても対応され、外部の救援が間に合っても

無事かどうか。まさに詰み。


だからその衝撃(・・・・)は本当に不意打ちだった


何も感じさせず、どの意識にも触れず、センサーですら無反応。

ただただ突然全身を襲った衝撃に女は何が起こったか考える間もなく

意識を暗闇の中に手放した。





─────時は本当にたった数秒前に遡る。

シンイチが─あれでも─真面目にバイクを走らせていたのは妹弟の目が

届く範囲までの話だった。そこを超えた瞬間、他の人目が無いのも確認しつつ

彼は十八番の転移で跳んで、飛んだ。


「あそこか!」


切り揃えた毛並みが如くの街並みを見下ろす高度をバイクが突き進む。

正確には滑空どころか単純に落下する直前の一瞬の浮遊に過ぎないが煙が

あがった現場を視認するにはそれで充分。そして見えてしまえば後は跳ぶだけ。

狙ったのは少女を取り囲む外骨格を纏う誰かたちの誰か。そのほぼ真横。


尚ここで転移魔法について説明しなければならない事がある。移動する物体を

転移させた場合意図的に消そうとしない限りその運動エネルギーは維持される。

つまりバイクにあるまじきロケットが如くの非常識な加速によってもたらされた

殺人的な速度を保ったまま鉄塊と呼んでもいい物体が突然真横に現れたのだ。

もはや“その後”は当然の結末しかない。


『──』


女は悲鳴や苦痛どころか微かな声や息をこぼす事も出来ずに吹っ飛んだ。

見ていた者達からすればそれこそ彼女“が”転移で消えたかと錯覚しかける程

一瞬の出来事。彼女は砕け散る装甲だったモノの破片をばらまきながらその身と

車体もろとも向かいの建造物に轟音と共に叩きつけられ、粉塵を舞い上げる。


点火(イグニッション)


しかもどうしたことか──白々しい。

燃料など使ってない車体が突如爆発して辺りに新たな黒煙と粉塵を広げた。


「伏せろ!」


それが全員の視界を妨げた瞬間に叫ばれた少年(シンイチ)の声。

衝突の瞬間、車体から下りていた彼の存在を誰も気づいていなかったが

ファランディア語で叫ばれたそれに件の少女だけが反応して従った。

そしてその下がった頭上を這うように大蛇が尾を振るう。黒煙と光学迷彩に

紛れた蛇腹の刃が残った二点(二人)を薙ぎ払うように絡めとると輝獣の猛攻にも

耐えられる壁に叩きつける。両名は肺の中の酸素を無理やり吐き出されたような

苦悶の声をあげたがシンイチは気にもせずに右手で操る蛇腹を高速で引き戻す。

彼らを絡みつかせた状態で。


『ぐっ、なにが、っ!?』

『あがっ、くそっ…え?』


まとめてシンイチの眼前に連れてこられた彼らに向けられたのは盾と槍を

一体化させたような形状の、どっかのロマン武装信者が作った杭打ち機(パイルバンカー)

その鋭き穂先。集束されていた高密度のフォトンが衝突の瞬間炸裂する。

打撃の一点に集中したその威力は二人分の外骨格を易々と突き抜け、外も中も

砕き散らした。縛り付けるように食い込んだ蛇腹の刃が逃がしてもくれず、

二人は身を守る装甲と体の骨が砕ける音を聞きながら意識を手放した。


「………」


落ちるように倒れ伏した二人を気にした風もなく、されど本当に気を失ったかの

確認だけはしたシンイチは武装を起動状態にしたまま視線・感覚・機械で周囲を

索敵する。まず一番近くにいたのは粉塵と黒煙で状況を視認できないまま

遠巻きにしている受付所の役人達。そして少し離れた地点から接近する軍の

飛行警邏部隊である。他に見当たる存在はいない。とりあえずは終わったかと

武装を収納すると立ち尽くしている少女へとゆっくりと歩み寄る。

そしてその眼前で膝を折り、目線を合わせるように屈んだ。


「クララ、怪我は無いか?」


普段しか知らない者が聞けば「お前誰だ?」と言われかねない程、一際柔らかな

声でファランディア語を紡いで少女に語りかける。一瞬それに驚いたかのように

びくついた少女であったが、恐る恐るといった様子でこちらを見詰めた。

キャラメルブロンドの奥にある青い瞳がどこかぼんやりとシンイチを見据える。

ただ自分が何を見ているのか理解できないのか信じられないのか。瞬きだけを

増やして、どこか呆然としている少女のまだ固く握られた手に彼はそっと

己の手を重ねていく。自身すら凍らせかねないほぼ不安定な氷魔法を

優しく解除しながら。


「あ…」


その手際か温もりか。見開いた青眼はそこでやっと現実と認識したのだろう。

重なった手を確かめるように握りしめ、だがそれだけでは足りないのか。

小さな手が恐る恐る伸ばされる


「っ……シ、シンおにい、ちゃん?」


「ああ、正真正銘お前の知ってるシンイチだよ」


それを優しく受け止めて、誘導して、自らの顔に触れさせた。

始めは片手だったそれは次第に両手になって、ペタペタと触れていく。

これが本当に自分が知る存在か確認するように。


「よく持ち堪えた……俺が教えた事ちゃんと守ったんだな。

 おかげですぐに気付いて、間に合った。偉いぞ、クララ」


そう言って優しく頭を撫でたのが切っ掛けとなったのか。

硬くなっていた顔がくしゃりと崩れ、きつく閉じられていた口から、

必死に何かを耐えていた瞳から、堪え切れなくなった想い(モノ)が吐き出された。


「ひっ、うっ、ううっ……うわあぁぁぁんっ!! おにぃいちゃぁぁんっ!!」


身体ごと衝突するように飛び込んできた幼き身を嗚咽ごと受け止める。


「こわかったっ! ずっとひとりでっ、ひっ、うっ!

 ああぁぁっ、だれともっ、おはなしできなくてっ、うあああぁぁっ!!」


「うん、うん………よく頑張った。もう大丈夫だ」


安心させるようにシンイチはその背を少女が落ち着くまで優しく擦り、

しっかりと抱きしめ続けるのだった。




「──────しっかし…」




されどそうやって泣きじゃくる少女を慰めつつも苦笑気味の呟きがこぼれる。

周囲を見回したことで頭を過る言葉に彼自身が陰鬱な気分になっていたからだ。

半壊の建物。周囲の小火。乱立する氷の槍。黒焦げの路面。軍レベルの装備を

“誰か”に粉々にされた三名の重傷者。爆破してしまった借り物のバイク。

これらの事態の中心にいたファランディアからの迷い子。

しかも誰かに狙われているらしいという厄介案件付き。

そして軍到着まであと2分。



「………これ、どうやって誤魔化そう?」



後始末まで考えて行動しなかった少し前の自分を彼は小さく呪うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さぁ久々に読破したぞ… 3日もかかっちまった 続きはまだかね( 'ω')?
[良い点] 蛇腹剣パイルバンカーなんか久しぶりで嬉しい。 [一言] いや無茶苦茶www
[良い点] 更新助かります。 8年ぐらい前から読んでるので、続いてて脱帽です。 [気になる点] アリサが誰だったか覚えてなくて、ほんま誰やっけか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ