絡まった問題3
「だからしばらくここで缶詰にされるのは納得できる。
けど──────それ、オレたちが何かしなきゃいけないことか?」
ガレスト政府の仕事だろう。
巻き込まれた。初動を手伝った。当事者の一人。それらは事実だ。
この問題が解決しなければ自分達の身動きが取れないのも。
けれどだからといって後処理まで、それも政府が対応に迷う状態に
自分達が頭を悩まして解決策を探る必要があるのかとリョウは問うた。
それに対し、誰よりも先に答えたのはやはりか教師フリーレ。
「ああ、まったくもってシングウジの言う通りだ。
私たちが本当に悩みたいのはその後のことだというのに!」
「へ?」
しかし予想外の反応に彼からは間の抜けた声が出る。
じつのところリョウは道義的な理由から非難されることを覚悟して
意見を述べていたのだがどこか暗い感情を背負った女教師に肯定されてしまった。
「……シングウジさんが仰る通り本来ならこれらは政府が考えるべき話で、
政府が責任を負うべき話です。わたくしたちはあくまで偶発的な事情で
初期対応せざるを得なかっただけの準民間人、いえ被害者といっても
構わない立場でもあります。状況把握は必要ですが打開策・対応策を
考える必要は本来ならありません」
次期当主たる個人としてなら考えるべきでしょうが。
そう付け加えつつアリステルも同意を示す。しかし強調された一部分が
発言全体の意味を微妙に変えていた。
「……なにがあった?」
本来なら関わる必要のない諸問題に関わらざるを得ない事情が生じたと
それは暗に示している。僅かに緊張感を漂わせて問うシンイチに、だが
彼女は首を振った。確かな悲痛さをにじみ出しながら。
「いえ、今はまだ何も……ですが予兆は感じます。
それこそ皆が本格的にここで缶詰となれば表面化するでしょう」
「っ、生徒達の心理的ブーストが切れかけているんだな?」
苦しげに頷く女教師と令嬢。一方、何の話だと首を傾げるトモエとリョウを
余所に、いつのまにか耳をピンと立てて目を細めたミューヒが短く告げた。
「戦闘ストレス反応……いえこの場合は急性ストレス反応といった方が適切?」
「端的にいえば、おそらくそれかと」
「惨事ストレスから来るものだろう。
少しずつ、もしや、という反応をする生徒がちらほらといてな」
形ばかりの訓練をしていただけの半素人が突然命の責任を背負う現場に
放り出されたのだ。そこで目の当たりにした本物の災害現場で本当に
生命の危機に陥った人々と相対したのである。本業でさえ心を病む者が
いるのだから経験と覚悟の足りない生徒達に何も異常が出ない訳がない。
「切羽詰まった状況からくる使命感や責任感で誤魔化せていても
騒動が落ち着いて、我に返った時の反動が怖いとは思っていたが……」
「今はまだ初動を請け負った興奮と自負が続いてはいる。
実の所、あちこち手伝わせてるのは仕事を与えることで表面化を
遅らせている部分もある……助けた相手との交流も有効だと聞いてな」
しかし、と濁すように吐いた言葉に続けたのはフリーレとは違った立場と
意味でそういった反応を熟知していたミューヒである。
「いずれ誤魔化しは切れる。けれどボクたちはここから出れない。
その抑圧も加えられたら精神や肉体に不調を抱える子が一斉に現れても
不思議じゃない。現状のオークライでそれは致命傷だよ」
全住民に等しい避難者と機能停止した行政・駐留軍を抱えるこの都市で
数百人規模の集団が精神的に不安定になるなど互いにとって悪夢以外の
なにものでもない。
「そっか、だから先生と先輩は解決策が無いか考えてたんですね。
あたしたちをまずはオークライから引き離すために」
それこそが今回抱えた学園側の問題であり本来なら政府に任せるべき
オークライの問題にあえて踏み込んで頭を悩ませていた原因である。
どんな対策や対応を取ろうにもここに閉じ込められたままでは手段に
限りがある。そして即座に、何の後腐れなく出立するにはこの事態への
諸問題に解決策が提示されるのが好ましい。このままでは十中八九、
生じるデメリットをあえて受ける決断が下される可能性が高いからだ。
即応即断即決を是とするガレストでその先延ばしはあり得ない。しかし
それによって生じる混乱や批判は学園の動きを阻害する。彼らは確かに
活躍し感謝もされているが、所詮は外部集団ゆえの制限があるのだ。
「我々は立場が微妙だ。本来、皆と同じ被害者だが多くを助けてもいる。
あくまで緊急処置だったが結果どっちつかずとなった。被害者としての
扱いは中途半端で、かといって殆どが地球人の学生だ。対処する側に
置く訳にはいかず、といった具合にな」
「なので外からカウンセラーを呼べたとしても優先は住民の方々で、
わたくしたちに任せられる手伝いも今日明日でなくなるでしょう」
「先生……元帥閣下の軍と交渉はしてみたがあちらも手一杯でな」
最低限、自分達の世話を自らで出来るだけの装備と能力を持つ学園の
優先度は低いのだ。理解できる上にごねても事態は良くならないのが
目に見えていたため出来る限り早期の出立許可の陳情が精一杯であった。
尤もだからせめてとばかりに外部から学園への様々な連絡や干渉は
押し付けてきたのだとフリーレは暗い笑顔で語ったが。
「いったい誰の教育なのかにゃー」
それを揶揄する声は誰に向けてか。
無言の少年が目を泳がしているのを呆れと苦笑の視線が見ていた。
「おっと、お前たち、パデュエールに当然ナカムラもだが何かあれば言え。
私にしづらいのなら他の先生でもいい。少しの不調や不安も隠すな。
総合試験に続いてのこれだ。誰がどうなってもおかしくはないのだから」
ただ当人は一転して柔らかな口調と表情で教師として生徒達に声をかけた。
そんな素直な心配と気遣いにそれこそ全員が素直に頷く。そこで一拍の
小休止とばかりに女教師はコーヒーで喉を潤す。他の者達もつられてか
状況を理解した緊張感でか乾いていたようで各々のカップを傾ける。
「────ま、確かにこれは俺に相談すべき案件だな」
「え?」
それらが再び置かれたのを狙ったかのように彼はそう呟いた。
「最初に生徒達に救助作業をやらせろと言ったのは俺だろう?」
なら俺が責任を取らないと。
そう当然のようにこぼす少年に一番に顔色を変えたのは令嬢と女教師。
「っ、いえ、わたくしたちはそういうつもりで相談に来たわけでは!?」
「そうだ!
だいたいお前は意見しただけで最終的に決断したのは私だろう!」
「ああ、どっちも分かってるさ。
けど言いだしっぺだからな、半分くらいは俺でいいんだよ。
だから、気にするなよ。むしろ……ふふ、存分に頼るがよい!」
なーんてな。
などと軽い口調で何故か偉そうに言い切って笑う。それを見た二人から
ここまでずっと見えていた妙な力みが抜けていく。彼は気付いていたのだ。
ここにきて尚、またシンイチに頼らなくてはいけないことへの罪悪感と
無力感を。それを解きほぐすことを彼は優先したのだ。
これは俺の責任でもあると傲慢に言い切ることで。
「君はまーたそうやってポイント稼ぐ……けっ」
変わらず隣にいた狐耳娘は何やら女性がしていい顔をしていなかったが。
尤も。
「といっても今聞いたばっかでアイディア何も無いけどな!」
「おい!」
あっけらかんとした告白に彼女含めた全員がずっこけた。
当然といえば当然の話ではあるがあたかも妙案・腹案があるかのような
雰囲気であったくせに案無しだというのだから、さもありなんであろう。
「まあ、待て……ぶっちゃけ寝てないから頭働かねえんだ」
「お、おう。そういえばそうだったな」
「それ言われるとこっちは何も言えないわよ!」
オークライが物理的には無事であることへの彼の貢献はあまりに大きい。
その疲弊があるといわれては返す言葉もないのが周囲の本音であった。
とはいえ自分で払拭させた罪悪感を即座に自分で再燃させるのは彼らしいと
いうべきか。そこまで気が回らないほど本当に疲労がたまっているのか。
されど当人は気にした風もなく話を続ける。
「だがこういう時にすべき考え方は知ってる。受け売りの知識だが、
こういった複数の問題が絡み合って道を塞いだ場合まず一つずつ分析し
本当に難題なのかを見極めるべきだ」
「一つずつ見極める……」
「こういうのは突然一気に襲い掛かってくるもんだ。
だから慌てちまうが、案外バラしてみると穴が見つかったりもする」
「困難の分割ってこと?」
「ああ、まさにそれだ。とはいえ、今回はそれをさっきの説明の中で
半ばやってたし、しかも分割すればするほど逆に人手を圧迫しそうだ。
時間に余裕がないのも痛い」
「ええ、従来通りのやり口だとデメリットが大きいって結論は変わらない。
それを避けたいからこそ袋小路に陥っているっていう状態だもの」
「必要なのは今までに無い方法ってことか」
「そういうのって案外思いついたら『そんなこと?』っていう
コロンブスの卵パターンなこと多いけど、必要な場面で
思い付けるのはある種の才能よね、うーん」
「だが秀逸な案さえ出れば、人手も物資も十全と使える。
さすがに無制限ではないが最高でオークライの半分程度の都市を
二、三日で建造させるぐらいの人と物は出てくるはずだ」
問題はその案がないために政府の動きが鈍っていることなんだが、と
付け加えるフリーレに全員が顔を突き合わせて唸る。シンイチはその苦悩に
応えるように次の段階を示す。
「分割が難しいのなら今度はどういう状態にもっていきたいか理想像を
明確化してみる。これは荒唐無稽でも実際は実現不可能でもいい。
問題の問題である部分を解決できるとすればそれはどんな状況・条件かを
形にするんだ」
「えっと……解決した状態を先に想定して、そこに到達するためには
何が必要で、何をするべきかを逆算していくってこと?」
「それもありだな。用意した答えに固執しなければ、だけど。
これはあくまで解決状態の定義化と可能不可能の把握だ。
そうやって枠を作り、ピースを集め、それを組み上げていく。
どれとどれを使えば多少不格好でも見れる絵になるか模索しながら」
「見れる絵、か」
それは完璧な答えを求めるより幅広さがあり実現性を感じさせる表現だ。
いくらかの不出来さはあっても今はベターな選択肢が欲しい所なのだから。
「まあそれでも何の絵にもならなかったらあきらめるしかないけど」
「っておい!」
「ははっ、別にふざけてるわけじゃないさ。
悩み過ぎて何もしないのが一番の悪手。強引でもデメリットを許容してでも
何か一つでもいいから問題に着手すること自体が状況を変える一手になる」
「どんなデメリットが出るか予め分かっているのならカバーする手立てを
用意しておくことも出来るしね。特にボクたち一応フリーでしょ?」
意味深にそう付け加えたミューヒの意図が読めない者はいなかった。
じつに悪巧みをしていてそうなニコニコとした笑みが分かり易過ぎたのだ。
「……学園全体が難しいなら個人で、か」
「それなら確かに出来ることが無いわけではありません」
「隠れながらこそこそ、か……あたしらの十八番かもしれないわね」
「お前の隠行の真似はできねえが、誤魔化しようはあるか」
それぞれで前向きに受け取っていく中で一人だけ渋面で狐耳を睨む少年がいた。
ピコンと耳を跳ねさせながら彼女は変わらぬ笑みで受け止め、視線を
交差させる。
『なに唆してんだお前?』
『選択肢を増やしただけだよ』
『モノは言いようだな』
『ハハッ、イッチーにだけは言われたくなーい』
『このやろっ!』
まるでそのような会話を行ったかのように。
勝敗(?)は渋い顔のままの少年の敗北が見受けられたが。
「……まあ、それはあくまで何の絵も出来なかった場合だ。
まずはさっきも言ったように理想像の明確化をやってみよう。
それから俺達の手札と知識で出せるだけのピースを揃える。そうすれば
自ずと出来る絵が見えてくるはずだ。あとは互いをすり合わせていけばいい」
全員の頷きと共に彼らは即座に議論に入っていく。
最新校とはいえ表面的には教師と生徒に過ぎないメンバーであるが内情は
かなり違う。人間的に幼い部分はあるが現・元帥の教え子たる元軍人の
女教師。十大貴族の古参三家の跡継ぎとしての教育を受けている才女。
『無銘』の戦闘部隊を預かる隊長というガレストの表裏を知る女戦士。
地球における普通の少年少女として育ちつつも裏でもある退魔師の血と知識を
継ぎ、それゆえの勘と感性をも持つ者達もいる。それに加え、自己申告通り
頭の回転が鈍くなってはいるが他が知らぬ異世界の知識をふんだんに持ち、
こういった問題への経験値がずば抜けて高い仮面がいる。
議論は白熱した。
否、正確に表現するなら誰かが思いつく『絵』に対し、他の者が必ず
見落としている穴を見つけてしまう展開が続く。小さな穴なら問題ない。
ただオークライの現状で見逃せる穴はさほど大きくも無かった。
荒唐無稽な夢物語的な手段を用いた『答え』はいくつでも用意できる。
そこからいかにして現実的な手段に摺り寄せるかが─当然─難題だった。
例えば現在彼らがいるホテルのように外部から持ち込んだフォトンや機器に
よって多数の宿泊施設を稼働させて充分な避難所を、ひいては容疑者隔離
施設を確保して捜査と復興の片方ないし両方に集中できないかという案が出た。
先に述べるがこれを学園側が容易に行えたのは元々修学旅行が行われた背景から
何らかの緊急事態を想定してフォスタを含めた様々な端末の予備を最初から多数
用意していた事と─個人的な工具も持ち込んだ─技術科の教員と生徒がいた点が
大きい。彼らだから出来たことと言える。
これに付け加え、他のメンバーから出たのは数々の問題点への指摘。
この方法で復活させられる機能は必要最低限であり一つの施設ごとに多くの
リソースと人手を要求される。あくまで既存機能を持ち込んだ外部動力源と
外部機器で動かしているだけなため広範囲かつ所々物理的に破損している
インフラやライフラインの復活には使えない。また結局は都市内部であるため
諸問題からあまり逃れられていない。物資・人員の消耗が激しいわりに効果が
薄い。維持するためだけに理論上使える人手と物資をかなり独占する。
等々から自分達が求める方法ではないとされた。
こういった提案・指摘・却下が幾度が繰り返されていく。
究極的な理想は今すぐ住民達の調査を完了させ『シロ』となった者達を
他都市に避難させ、現地行政や駐留軍を中心に復興に着手したい。
ただ“どうやって”という部分は空白だ。
調査に有効活用できそうな情報は失われており、聞き取りとその
裏付けをするしかないが当然それは時間がかかる上に確実性に欠ける。
またそれだけの時間、住民達を現状のオークライに押し込めるのは
難しい。いま問題が少ないのは事件直後という時期による住民達の
理解ある我慢のおかげで、だがそれは長くは続かない。
復興を思索の中心に置いてもなまじ建造物の殆どが無事であったために
割り切って全てを作り変えるという手段が使えない。修復にせよ交換にせよ
大部分の位置関係は変えられず、現状の構造を把握する手間がかかる。
また仮にあえて全てを変える決断をしても『撤去』という手間が加わるので
どちらにせよ、だ。
「────結局のところ。
足りない時間を、なにで、どうやって、確保するかが肝心か」
行き詰った議論の末に出たシンイチの言葉は光明のようでありつつ
難題の焦点を言語化しただけ。どの問題も突き詰めれば対処方法が
無いわけではなく時間が足りないために急がざるを得ない部分が大きい。
それがわかっただけ歩を進めたといえるが『時間』というガレストの技術でも
ファランディアの魔法でも届かない事象はより頭を悩ませてもくる。
「それぞれのタイムリミットをなんとか引き延ばせればいいんだけど」
「他はともかく事件捜査は無理だろう。
どこの誰ともわかんねえ連中に何をどうしろってんだ?」
「そうですね。ならばネックは住民達の生活環境でしょうか?
彼らの不満や不安を抑え込めればある程度時間は稼げるはずです」
「だがパデュエール。
人々を閉じ込めたままそれをやるには結局復興を目指すしかない」
「そして毎度おなじみの堂々巡りかー!」
「うーん」
またこの流れかとさすがに疲れた表情を見せるミューヒの横で唸っていたのは
トモエ。彼女は先程から思考に引っ掛かりを覚えていた。
「なんかこう歯車一つズレればカチッとはまりそうな感じがするんだけど、
……どこかが噛み合ってない? ううん、ナニカを見落としている?」
「トモトモ?」
その独り言にも等しい呟きは後半に行くにつれ、彼女の表情から色を奪う。
真剣さのみの無表情は何も見ていないようで全てを視ている。周囲にそう
錯覚させるほどの神秘性を突如として纏ったトモエは懐からすっと一枚の
霊符を取り出す。感情のない瞳がそこに浮かんだ文字を認めると途端に
少女は少女の顔を取り戻し、不思議そうに呟く。
「『外』?」
「何の啓示だよ?」
「単純に都市の外の話か、外部勢力の話か……だが思えば俺達はどこか
コトをオークライの内だけで考えていたような?」
「いやでもイッチー、それはみんなを外に出せないからでしょ?
それで、出す出さない、どうやって、っていうのは散々議論し──」
「──ん、すまん。通信が入った」
さすがに疲れを見せる否定の言葉に割って入ったのはコール音。
フリーレのフォスタから鳴り響いたそれに彼女が一言断ってから出ると
正面にのみ空間モニターが開き、同時に泣き言のような調子の軽い悲鳴が
飛び込んできた。
『ドゥネージュせんせーい! お願いです!
ちゃんと許可取ってるって説明してぇ!!』
ブロンドのぼさぼさ頭をモニターいっぱいにしながら叫ぶ白衣の生徒。
技術科3-Bのヴェルナー・ブラウン。ドイツ出身の地球人学生であった。
「ヴェルブラ?」
「いたねー、そんなロマン馬鹿にして邪魔な説明野郎っ」
「そういえば瓦礫撤去とかの手伝い行って戻ってきてなかったな」
いま思い出したという感じでそうだったと頷く面々。
あくまでシンイチ個人と友誼を結んでいる関係でこの場の全員と
面識こそあれど親しい仲ではなかったので半ば忘れられていた。
一応頭の片隅にはいたのがそのポジションを何故か苦々しく感じている
ミューヒだけであったのは良いことか悪いことか判断に迷うが。
「ブラウン、頼むから先にこっちに説明してくれ。
何を求められているのかさっぱりわからん!」
『あ! はい、すいません!』
一喝に何故か敬礼と答えた彼はモニターの視点を少しずらして背後を
見せながら事情を説明し始める。
『持ち込んだ俺自慢のロボたちで撤去作業手伝ってたんですけど
軍人さんに違法だとかどこから持ち込んだとか難癖つけられて!』
「……待て、ブラウン。確かに自衛目的で複数の小型ガードロボの
所持とその持ち込み許可を出したが…………ソレはなんだ?」
ヴェルナー越しのモニター奥にて。
瓦礫の山の前にて赤・青・黄をふんだんに使った色合いの人型ロボが
─おそらく─決めポーズを見せていた。周囲の人間や建物の大きさから
およそ15m級といったところか。彼から事前提出されていた資料に
記載されていた五機のガードロボのどれとも微塵も被らないモノがそこにいた。
「────おいおい、ファイブバトラーロボじゃねえか」
困惑するフリーレの様子を訝しんだシンイチが後ろから覗きこむと
その巨体の名を呆れ混じりに口にした。誰もがなんだそれという視線を
彼に集めるがモニター向こうから喜色の声が届く。
『やっぱりナカムラもいたんだ! ふふん、いい出来栄えだろ?』
「そこは認めるが────ああ、ファイブバトラーロボってのは大昔の
ロボットアニメの主役機だ。40年、いや今はもう50年近く前になるのか。
それぐらいの時期の作品で俺も見たことはないが様々な特性を持った五機の
戦闘機が変形合体して完成するロボットで元祖五体合体ロボとして有名だ」
言葉途中に周りの視線に気付き解説するも誰かが反応する前に製作者が食い付いた。
『そうそう! 後に続く様々なロボ造形に多大な影響を与えた機体を
作中機能ごと忠実に立体化するのはやっぱたまらないものがあるよね!!」
「性能まで再現したのかよ……ん、あれ?
その割には小さくね? 確か設定だと全長57mだったような?」
『うぐっ!!
い、いや設計時はそのつもりだったんだけど当時は許可が下りなくて、
悩んだけどどうしても作りたかったから許可が出た最大サイズで
作ったのがこの15m級ファイブバトラーロボというわけで……』
「約四分の一にダウンサイジングしたわけか。
……逆にすごいことやってねえか?」
『あははっ、それほどでもぉ!』
「ゴホンっ! 話を戻していいかブラウン、ナカムラ?」
話が横道にずれていると咳払いで強引に軌道修正したフリーレは
教師の顔でモニター越しの生徒を睨む。
「で、ブラウン。今の話を私なりに解釈したが、つまりお前は合体機能を
最初から有していた機体を、その旨を記載しない資料を提出して私や
学園を欺いてガレストに持ち込んだとそういうことでいいんだな?」
ただしそれには誰かさんに影響された怖い笑顔というオプションがついていた。
『あ、あわわっ、それは!?』
「っ、お前という奴は! この忙しい時に!!」
『すっ、すみませーん!! 正直にいうと却下されそうで!!』
もはや自白に等しい慌てっぷりに激憤した教師の説教が始まったのを余所に
皆は苦笑を浮かべた。そんな中、ただ一人真顔で考え込んでいる者がいた。
「イッチーどしたの? あのロボットもファン?」
「いや世代が違いすぎてさすがに。
って、そこじゃなくて合体ロボっていうフレーズがな」
「それがどうしたのよ?」
「なんか諸々と繋がりそうな気が……うーん、外、外部、都市外?
合体ロボ、変形合体……合わせて変化させる? 何を? 都市を?
都市と合体? どこに? 外に?」
一人ディスカッションのような独り言は隠すつもりもなかったのか。
はっきりと発音され、周囲にもしっかり聞こえていた。当初困惑気味な
表情だったが次第に日本人勢の顔には気付きが浮かぶ。
「っ、信一それって!?」
「その手があったか!!」
「──────フリーレ、そっちは許可出てることにしとけ。説教は後だ」
結論が出たのだろう。まずはこちらの問題が先だと暗に彼は告げた。
しかし皆に向けられたその顔には苦笑と呆れが半分ずつある。
どう見ても解決策を見出した者の顔ではないが、自嘲ともとれる表情に
察した面々はあえて沈黙して続きに耳を傾ける。
「それより今から俺が話す方法が現実的に可能かどうかお前らの
意見がほしい……もしかしたらもしかするぞ?」
そうして彼が語ったアイディアはその場の検証でも、その後話を持っていった
元帥側でも実現可能であり現状思い付ける最良の方法と判断され即座に政府に
上申。同日中に実行されることになる。
尤も。
「こんな単純なことを思いつくのに何時間かけてんだよ……」
実質的なその発案者は裏でずっとそう落ち込んでいたが。




