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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
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絡まった問題1



「ガルドレッド元帥、無事のお戻り何よりです」


マスカレイドへの非公式な感謝と記録に残()ない会談を終えて戻ってきた

アマンダを彼女の旗艦で出迎えたのは几帳面が顔と姿勢に出ているとばかりに

背筋をピンと伸ばした40代と思しきくすんだ青髪の細身男性。灰色(ガレスト)軍服姿

だが元帥のそれと比べれば肩章は金刺繍ではなく全体と同じ灰色でマントは無い。

胸元の階級章はガレスト軍・大佐の物で、並んで元帥付副官を示す物もあった。

ただアマンダは自らの副官の出迎えに顔を歪める。彼の声に抑揚はなく表情にも

感情は見受けられないが盛大な非難の意思を感じたのだ。


「嫌味かオルバン」


「いえ皮肉です」


即答である。


「……根本的には一緒じゃろ、それ」


「私としてはどちらにせよ、そんな言葉を向けられる謂れがあるのを

 閣下がご自覚なさっているかが気掛かりなのですが?」


案の定、敬意はありつつも暗に咎める声と視線が鋭く彼女を襲う。


「うぬっ……わ、わかっとるわい! 軽率じゃと言いたいのじゃろう!?

 だがの、誰も行かせぬわけにもいかぬし、ワシ以外の誰に万が一の際に

 生還の可能性がある?」


「ええ、理解はしています。念のため戦闘機能のみのフォスタを装備し、

 わざわざ通信機能を物理的に排除した型落ちの訓練艦で向かったことも。

 あのマスカレイドと対峙する以上、必要なことでしょう」


「そうじゃろうとも! なら……」


「なので、私が遺憾に思っているのは説明と説得が面倒だとトリヴァーの

 ように事後承諾の形で出立された事です。事前に、充分に、ご説明を

 していただけたなら私もここまで申しておりません」


「ぐ、ぐぬぬっ」


「いい歳した老婆の『ぐぬぬっ』など痛々しいだけなのでやめてください」


「お主もっと上官を敬わぬか!」


付き合いの長さと気心の知れた関係を垣間見せる平和(?)なやり取りを

続けながら艦長室へと足を進めた両名。入室した元帥はどこか疲れた顔で

自らの席に深々と落ちるように座り込む。


「────どうでしたか仮面の魔人殿は?」


だが執務机を挟んで向かい合う副官は一息もつかせぬようにそれを問うた。

立場を考えれば中々に無礼とも取れる振る舞いだが他者の目が無ければ

二人にとってそれは自然なことであり彼女は気分を害した風もなく─

多少不満げであったが─答えた。


「ん、異常の一言よな。戦闘力は勿論じゃが圧倒的力量差があるとはいえ

 グラシオスの群れを三日も相手し続けられる精神にそれを面倒な残業でも

 やらされたかのように『少々気が立つ』程度で流す感性が……ワシは怖い」


「閣下がそこまで言い切りますか」


長年に及び、数多の戦いを経験している名実ともにガレスト最高峰の軍人が

気心知れた部下だけとはいえ正直に「怖い」と明言したことを彼は重く

受け止めていた。元々尋常ではない存在と認識してはいた仮面の評価を

悪い意味で内心格上げする。

が。


「しかしの、びっくりするぐらい話が通じる御仁でもあったんじゃ」


「は?」


続けて元帥が放ったのは一転した軽い口調での、されど当人が一番

困惑しているような言葉であった。そして続けて自らで確認するように

仮面とのやり取りを振り返りつつ印象を口にしていく。


「世に放った言葉、成した結果は確かにぶっ飛んでおるのじゃが直接話を

 してみるともっとこう、等身大の人間味があっての。打てばよく響いて

 返ってきおるのが小気味よくてな。いつ首が飛ばされるかという緊張も

 あったが、存外楽しかったわい」


「そんな心境の中そういえるあなたも大概でしょうが、楽しめたのなら

 何よりです……本音は、部下にでも欲しい、ですか?」


これは気に入ったな、と長年の経験から察した副官がそう揶揄すれば

彼女らしい闊達な笑い声が返ってきた。


「クカカッ、絶対にあり得んが否定はせん。察しは良く、気遣いは出来、

 何よりどこぞのバカどもの何十倍も話が通じるのがいい!」


「個人で二世界を脅せる魔人より耳も頭もない身内の方が厄介ですからね」


「違いない!

 まあ、あの御仁は御仁で困った方向に厄介そうじゃがな」


「というと?」


「口調は居丈高ではあったが、言葉の節々から真面目さとお人好し加減が

 滲み出ておってな……あれだけの力を持ってそうなると苦労人の気配が

 ビンビンして不憫に思えてしまうわい」


「それはそれは……苦労人の量産がお得意な元帥が仰ると説得力が違います」


「っ、嫌味か」


「いえ、皮肉です」


先程と同じやり取りを繰り返し、一方は苦々しくもう一方は平然と無言で

向かい合う。が、時間の無駄であると元帥側が折れた。副官の指摘に覚えが

ありすぎる座りの悪さもあったが。


「ふう、まったく────で、そちら……市民達の様子はどうじゃ?」


「都市全域という被害規模から考えればよく落ち着いています。

 特に内層の、それも一般市民たちの方がその傾向が顕著です」


「意外じゃな。そこは一番被害が出たところじゃろ?」


天から注ぐように発射された白き光が狙ったのは都市中央()層だった。

されど白光は謎の黒き巨腕によって殴り消される。確たる証拠は無いが

そんな荒唐無稽な所業が出来るのは十中八九マスカレイドだけだろう。

元帥の感謝は本心であったが僅かにその確認の意味もあった。とはいえ

そのおかげで直撃こそしなかったものの残滓ともいえる欠片が飛び散り

被害が出ていた。当然その内訳で最も多いのは白光が直撃しかけた(最接近した)

内層である。


「だからこそ、かもしれませんね。

 彼らはいわばこの事態による被害を直接的に最も受けたといえます。

 そこから誰かの思いつき(・・・・)のせいで(・・・・)たまさか通りがかった外の学生に

 命を救われたのです。深刻さを一番に理解しているのかもしれません」


「っ、そこを掘り返すでない! こんな不幸中の幸い、冗談でも喜べん」


その件でも直後にはかつての生徒とその教え子から二重に責められ、

グロッキーであった所にこの副官のお小言を食らったため思い出すだけで

顔が苦い。ましてや被害抑制に貢献した自らの行為も所詮、結果論だ。

オークライが攻撃を受けてしまったからこその話であるため彼女は心底

快く思えていない。ガレスト軍人は守る者。後ろの市民が撃たれた時点で

結果はどうあれ実質は負けなのだ。


「……ふむ、しかし、そうか。

 市民に混乱が少ないのは素直に喜ばしいものじゃな」


「はい、なんでも昨日、星陽が変わらず昇ったのも精神的な安寧を

 もたらしたようです。聞けば涙を流した者もいたとか」


「当たり前にあった物が突如消え、異常事態に巻き込まれて死にかけたのじゃ。

 それが戻ってきたとなれば当然であろうな……これより先、くだらぬ事で

 一人とて死なすなよ?」


「了解です。

 一軍人としては勿論、不出来な生徒が不慣れな指揮で救った者達を

 我らの管理不足で減らすわけにはいきませんので」


「ふふ、確かにの。

 じゃが……何度聞いてもアレがやったというのが信じられんのぅ?」


「ええ、突撃させるしか使いようのなかったあの小娘が学生を統率して

 よくやったものです。地球へ行き、教師業を経験したのが良い刺激と

 なったのでしょう……我らの教導はまだまだだったということです」


「ん、老成してまだ未熟、か…………あの小僧の影響な気もするがの」


手を焼いた教え子の成長への感慨。

自分達でそれを引き出せなかった不甲斐なさ。

両方に感じ入る両名だが老女の脳裏にはその容疑者が過ぎる。


「そういえばあやつを含めた修学旅行生達はどこにおるのじゃ?

 確か初期対応時から避難所の数が足りんという話ではなかったか?」


不意に元帥はそこが気になった。引率者である教え子の話が出たからだが

今オークライは市民ですら全員が避難所に入れないでいるという。ならば

現場対応をなし崩しで担うことになった責任者たる彼女が数百人規模の

外部集団の所在は気になって当然でもあった。


「はい、内層へのダメージによる影響で主だった場所が使用不能ですので」


「普通なら内層に被害が出る前に破棄・避難の話になるからの。

 だからこそ宿泊施設含め避難所に転用できそうな場所が集中しておった。

 それがほとんど使えぬのは痛いな」


「元より全市民を収容する状況を考えて施設は用意されていませんが、

 今回は実質それに匹敵する数の避難者が発生しております。現在、

 災害用簡易住居の展開や一部軍艦の解放等で対応していますが

 まだ足りません」


「ん、人的被害の少なさゆえと思えば贅沢な悩みではあるがの。

 ……そんな状況で学園生達は本当にどこにおるのじゃ?」


「場所としては中層寄りの内層。物理的被害は無かった区域の一つです。

 そこの建物としては(・・・・・・)傷のない大型宿泊施設をまるごと学園に貸与した形を

 とっております」


「はぁ?」


副官が空間に表示させたマップの光点と説明に元帥は眉を寄せる。

避難所が足りない中でそれ程の場所を学園だけに貸与した事がではない。

外部の人間にして功労者である彼らにならそれは問題とならない。

問題なのはそこは部下を展開させた場所でも、簡易避難所を設置した

場所でもなく、むしろそのどれとも近しいとはいえない地点。つまり

こちらからのエネルギー、物資、人員の援助を受け辛い場所なことだ。


「これはあれか?

 オークライ市民をいの一番に救った功労者達にガワは確保するが

 中身の方は自分達でなんとかしろというやつかの?」


現在オークライ全体でフォトン炉心及びその供給網は死んでいる。

何者かによる犯行であると分かっているだけに綿密な調査を挟まなければ

即時の再起動は現場の軍人達では是非の判断ができない。ただそれによる

エネルギー喪失が物理的な被害よりも避難者を生み出している原因だ。

何せ建物が無事でも動力源が無いために内外の設備がどれも動かない。

場所によっては小型炉心や搭載フォトンによる非常時の稼働を約束した

施設もあったがそれすらも現状動かないというのだから都市機能のマヒを

狙った犯人の徹底ぶりが垣間見える。元帥の言った『ガワ』という

表現はなんとも言い得て妙であった。


「それはいくらなんでもどうなんじゃオルバン?

 確かに独自の端末とフォトンを所持しておるのじゃ。

 そういった施設をいま使えるのは実質学園だけじゃろうが……」


学園はオークライとは関係のないそれらを独自に多数保有しているため

的確に使えば最低限の機能を確保するのは難しくなく、現状無用の長物と

化した大型施設はむしろ彼ら以外には使いようがない場所といえる。ただ

不慣れな救助活動後も大小様々な形で復興・支援作業に協力してくれている

彼らにそこでも負担を強いる罪悪感に目を瞑ればの話だが。


「誓って、こちらからの提案ではありませんので睨むのはおやめください」


「……つまり、学園側(フリーレ)からじゃと?

 いくら成長したといってもそこまで気を回せる奴じゃったか?」


「疑わしいですね、誰か助言した者がいたかもしれません」


かつての先生達に誰一人信じてもらえないというフリーレからすれば

かなり失礼で悲しい話であった。自覚はある両名だが当人がいないので

好き勝手いう。ただ副官の言葉に老元帥は再びあの顔を脳裏に浮かべた。


「ああぁ、あの小僧ならいいそうじゃ。というか絶対言う!

 なんならこの事態が始まった瞬間に先に仕込んでおりそう!」


「……そこまでですか、オルティス将軍に似ているという少年は?」


「そりゃもうっ!

 あやつの嫌なところを全部煮詰めて悪ガキにした感じじゃ」


「それは……となると移動制限(・・・・)にすんなり頷いたのも同じ理屈でしょうか?」


「ごねなかったのか、あり得るの。そもそも事件性を最初に暴いたのは

 学園じゃからな。予想しとったのかもしれん」


「はい、色々と察しているような様子はありました。

 いま彼らに出立されると困るので深く聞かずに甘える形を取りましたが」


「聴取や調査が完了してないのもあるが……市民感情が燃えそうじゃからな」


「ええ、どう言い繕っても追い出したように見えますからね」


困ったように吐き出されたため息が被る。

全体を救い、仮にも落ち着きつつある現状(いま)を整えたのは元帥率いる部隊だ。

それは自他ともに認める事実。されど最初に駆けつけ、初動を学生ながら

全うしたのは彼らである。直接的に被災現場から救われた者達は多く、

既にその活躍は市民達に広がっていた。一方で事件性が明らかで

あるために迂闊にオークライの人間を外に出すわけにはいかない。

都市内部、その深淵にして中枢への被害が大きい以上は協力者ないし

内通者の可能性は排除できない。移動制限はそのためで現在元帥直下と

援軍として駆けつけた部隊を除けば誰もこの都市に出入りしていない。

その状況で彼らが避難の名目でも外に出てしまうと追い出したように

見えてしまう。それも完全に犯人にしてやられた形となる行政や軍が、だ。


「この状況下で市民に爆発などされた日には本当にオークライが終わるぞ」


「行政府もそれを危惧してか動けないなりに彼らの要望に応えていますよ。

 結果、学園関連の通信や要請は全てこちらかあちらに回されていますが」


「それも……助言かのう? それともあやつもついに面倒なことは

 誰かに押し付けるという黒いこと覚えてしもうたのか」


その成長はなんだか嫌だのうと嘯く元帥にそうですねと頷く副官の

なんと冷め切った目なことか。お前がいうなと全身で語っているかのよう。


「避難所や修学旅行生、その他の問題についても中層、外層がまともに

 動いていたのなら他に方法はいくらかあったのですがどちらも内層よりは

 軽度でも根本的には同じ状態です。施設や設備はあっても動かせない。

 せめて地下シェルターが使えれば……」


「結局はそこか」


溜め息混じりの嘆き。その原因は彼らがオークライに到着し状況を把握した

時点から付きまとっている、だが彼らにはどうしようもない問題であった。


「フォトン炉心の全停止に運営システムの全消失、しかもそれらが

 何者かによって引き起こされたのがほぼ確定事項というのが厄介です」


「反面、市民と建物は比較的無事というアンバランスさがややこしいわい」


「どこに、なにが、仕込まれているのか不明なまま、というのもあります」


続けての確認のし合いのようなやり取りは再度の、今度はふたり揃っての

溜め息を作り出す。人的被害が少なかったのは間違いなく不幸中の幸い。

学園側の尽力のおかげである。二人はそこを称賛する事はあっても微塵も

疎んじていない。だが「事件性のある都市全体を覆った災害」という事象と

組み合わさると途端に厄介さの要因となっていることを否定できなかった。


「長年軍人やっとるがこんなことは初めてじゃ……大統領府からはまだ?」


「はい、あちらも対応に苦慮しているのでしょう」


副官の答えに「仕方なし」と思う自分と「即断してほしい」という自分が

いるのをアマンダは感じていた。元帥直属部隊の到着による救助と支援は

さすがの迅速さ。装備と指揮系統が十全に機能した軍の強みを見せつけ、

救助作業自体は三日目にして完全に完了していた。だがその反面遅れていたのが

都市機能の復旧。もっと正確に言えば復興計画の草案すら白紙のままであり

本来それを打ち立てるべきオークライ行政府は被災者側というのに加えて別の

事情で身動きが取れず、大統領府からも指示や方針の提示すら梨の礫。

政府は援助物質や人員を送りこそすれ、これからどうすべきかは全く

決められないでいたのだ。


これはドーム型都市という一種の閉鎖空間を住居とするガレストにおいて

異常な遅さといえた。そういった場所における問題回復の遅延は地球の

都市以上に被害拡大と二次災害を誘発しやすい。逃げ場の少ないドーム型

都市でそれは致命傷となりかねないためガレストでは即時対応・即時回復は

もはや当たり前になっていたのだ。しかしそれは既にわかっている弱点であり

対応策は二重三重に用意されていた。またいくら被害が都市全域で現地行政や

軍が機能停止という異常事態でも政府には都市壊滅時のマニュアルさえある。

今回の事態に対応できないはずがなかった。されど現実として今後への指示を

出せていない以上そこには原因がある。いや、盲点があったというべきか。


「まさか、こんな形で都市の新たな脆弱性が明らかになろうとはっ────」

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― 新着の感想 ―
[一言] ガレスト着いてからはや3年ぐらいかぁ。 生きてるうちに世界の謎とか分かると良いな。
[気になる点] ぎゃーぎゃーわめいておとされたやつどーしたんだろ
[良い点] 幕間的なこの会話でもシンイチの影がチラついていて楽しいw [一言] 更新最高です
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