怪獣横の密談
空に数多輝く星陽の光が降り注ぐ若葉色の大地。
何も知らぬ者が遠目からみれば草原かと見間違う色合いの地平線。
されどそこにあるのは植物の緑ではなくそれに似た色合いの“砂”だ。
地球にもグリーンサンド・ビーチと呼ばれる場所があるが一面に広がる緑の砂漠
という光景はそれとはまるで違う輝きでもってここが地球とは異なる世界で
あることをまざまざと見せつけてくる。しかも砂漠といえば多くが命の危険を
もたらすほどの酷暑であるイメージを持つがここは穏やかな気候で日本の四季で
いえば春のそれに近い。見渡す限り緑の砂しかない静かな土地。都市や施設等も
見当たらないせいか異世界の中の異世界といえる空気感である。
だが、しかしそれはおかしい。
ここはガレストだ。都市外であればどこでも輝獣が蔓延る世界だ。
なのにその姿が微塵も見えないのであればそれはもう異常といえる。
その静寂な空気を打ち破ったのは緑砂の大地に響く轟音と水柱が如く
立ち上った緑砂の柱であった。
「ギッ、ァァァ……」
巨体が断末魔さえ満足にあげられずに半ば砂に埋もれるように落ちたのだ。
見れば周囲には同じく一面の緑色を汚すような多大な赤黒さ達が倒れている。
比較対象が無いため砂漠の広大さに比べると斑点状の汚れにも見えるが
一つ一つが50m級のサイズを持つ生物。それが十八体も転がっている光景は
目の当たりすれば背筋が凍ろう。それが悪名高きグラシオスとなれば余計に。
しかしながらその場の勝者は、支配者は、当然倒れたモノ達ではない。
大きさだけなら怪獣に比べれば目を凝らさなければ見つけにくいほど
小さな黒一点。およそ2m弱というサイズであったがその存在感は例え
映像越しでも甚大であろう。何せそこだけが夜なのかと疑う程の深い黒が
人型をしてそこに在るのだから────仮面の暗殺者マスカレイドそのヒトだ。
すべてはソレと怪獣達が争った─といえるかどうか─結果であった。
人間の気配が集まっている場所すなわちどの都市からも距離があるこの緑砂の
大地まで怪獣達を引きずってくると解放し自身を狙って暴れ出すグラシオスの
攻撃を避け続けた。突撃を、熱線を、尾の殴打を、踏みつけを、相手にせず
受け流すように同士討ちに利用して。それでさらに激昂したグラシオスの
狂騒さえも静かに流し、延々と十八の巨体を弄んだ。
この地に元からいた輝獣達はその騒音に集まり、暴れる巨獣の餌食に。
否、黒一点を狙った攻撃に巻き込まれて消滅したのである。目撃者達は
我が目と自らの正気、その両方を疑ったことだろう。何せそれは一帯の輝獣が
僅かな時とはいえ全滅するほど戦い続けたということなのだから。そうして
長時間に及んだ大暴れは一体また一体とグラシオスの無尽蔵と思えた体力を
尽き果てさせ、ついにいま最後の一体が緑の砂地に沈んだのだ。それを
見届けているのかいないのか。黒夜の影が場違いなほど色違いの大地に
ふわりと降り立つ。そこは倒れた巨体全てを一方向から見通せる位置。
死んではいないがもはやピクリとも動かぬそれを監視する夜の黒。
「さすがはマスカレイド殿、といったところですかの」
その背後から声をかける者が現れた。老齢な女の声だ。
『──────ッッ!!』
「ぅ、ぐっ────!?!」
即座に返ったのは白き面。その奥から向けられた質量をもった視線。
鋭い。射抜く。などといった形容詞では表現しきれない重圧を伴う戦意。
声の主たる老女は覚悟をしていたのに息を詰まらせ、膝が折れそうだ。
普段なら曲がっていない背や腰が年齢相応のそれになっていく。彼女の背後に
ついていた数名の灰色軍服達は男も女もまるで巨大な掌にでも力尽くで
押さえつけられたかのように地面に崩れ落ちていた。本来話しかける距離では
ないが、100mも離れていて、それだ。
『……悪い、少々気が立っている……それ以上は近づくな』
彼女らの様子に自分がしていることに気付いた仮面は視線を外した。
それに伴い圧力もだいぶ減って、老女は呼吸を取り戻す。
“少々”の部分でその眉がぴくりと揺れたが表情は動かない。
仮面も横目で見ていたが反応はしなかった。それよりもこっそりと息を
整えてささくれ立った自らを落ち着かせていく。自身で考えていた以上に
纏う空気が攻撃的になっていた事実に“少々”慌ててしまっていたのだ。
「っ、ふぅ……いいえ、これほどにやり合えば当然でしょう。
こちらこそもっと気を使うべきでした……だから言ったじゃろう。
下がれ、邪魔じゃ」
地に伏せたまま青い顔で頷いた彼女の部下達は這う這うの体でさらなる
後方─遠目に小さく見える距離で─着陸中の戦艦へと逃げるように去っていく。
それを残った両名はどちらも気に留めず老女は背筋を常のそれと同じように
伸ばして佇まいを整えた。
「お初にお目にかかる。ガレスト軍で元帥の地位を預かるアマンダ・
ガルドレッドという、見ての通りの老い先短いババアですじゃ」
そして軽くお辞儀するように灰色に白が混ざった頭を見せた。
好々爺を気取ったような笑みを浮かべているがマスカレイドには逆に
胡散臭く見える態度である。ただカレの正体を知らない元帥が仮面相手に
取る態度としては妥当と思えるので表には出さない。高圧的にならず、
かといって媚びすぎず、そして敵対心は無いとアピールする意味が
あるのだろう。
『そうは見えんな。
あと20年は現役で下の昇進を阻んでやろうという面をしているぞ?』
「カカッ、これは手厳しい。
いや、あなたに長生きを保証されたと思えば僥倖かのう?」
『……本当に面の皮が厚い、というか図々しい』
「年寄りの特権というものじゃよ……あなたが何歳かは知らぬがな」
『中身は三千を超えたと自負している』
「年上じゃったかぁ」
分かってるから仮面もまた気軽な体で答えている。
元帥も乗ってくれたことでより軽い調子を見せていた。
ただ重ねていうがこれは100mは離れた者同士の会話である。
しかもどちらも叫んでいるわけではなく目の前の相手と喋る程度の声量だ。
魔法の身体強化の応用による五感、主に視力と聴力の強化によって相手の
言動を把握しているマスカレイドと軍用フォスタによる集音機能で遠くの
声を拾っているアマンダ元帥だ。届くだろうと考え話しかけた元帥も元帥だが
さも当然と応じた仮面も仮面である。じつは何気に互いが別種の異世界技術を
用いての遠距離会話、という地味に歴史的な行為をしているが気付ける仮面
の感覚が麻痺しているのでその感慨は生まれることなく流れた。
「しかし、聞いていた以上じゃな。あれだけのグラシオスを無傷のまま
全員スタミナ切れで気絶するまで追い詰めるとは……あなたでなければ
記録映像があっても信じてもらえる気がせんよ」
『ふん、単なる能力と時間のゴリ押しでしかない。
他の手段が思いつかなかったとはいえ下策もいいところだ。
所詮この程度だよ、私は……』
感心と呆れが混ざった老元帥の発言に仮面は卑屈気味に返す。
これには彼女も瞬きを増やして意外そうな表情を浮かべる。
同じ条件ならもっとうまく出来る者がいるだろうというニュアンスを
正確に聞き取ったからだろう。両世界をその驚異的な戦闘力と破壊力、
さらに移動力と調査力で脅した存在の口調としては不適格か。
口が滑ったなと意識を切り替えた仮面はアマンダ元帥に振り返る。
威圧感は既に落ち着かせたおかげか彼女は一瞬身構えただけで済んだ。
『……そろそろ本題を話せ。
わざわざ挨拶をするためだけに来たわけではあるまい?』
グラシオスという脅威を正体不明の怪人に任せ続けるわけには立場上
できないにしても彼女本人がここまで足を運ぶ理由としては弱い。
何か本命があるのだろうと促せば好々爺とした表情が真顔になった。
「そうですな、まずは────深く、深く感謝しますマスカレイド殿」
そして言葉通り腰を直角に曲げる程に深く頭を下げた。
発せられた深謝の声にはどこか感極まったような震えが混ざっている。
「あなたがいなければオークライの数十万に及ぶ市民達は訳も分からないまま
突然命を失っておった。運良く助かった者達がいようとも初動は遅れ、最悪
全滅もあり得たじゃろうっ……」
そうなっていたらという怖気とそうならずに澄んだ安堵が滲む震えだった。
だが本気のそれであると解るだけに仮面はどうにもむずがゆい。
素直に受け取れず誤魔化しの溜め息がもれる。
『はぁ、正体不明のテロリストもどきに元帥が頭を下げてどうする?』
「元帥だからこそじゃ! 立場上そなたの存在や行動を公には出来ぬし、
何の報酬も出せん! だがお主の働きに対して感謝せぬのもまた元帥として
出来ぬ! こんな老婆の頭を下げられたところで嬉しくはないであろうが
これしかできぬならせめて全力で感謝したい! 本当に助かった!
ありがとう!!」
頭を下げたままそう訴える元帥の姿に仮面は別の誰かが被って見えた。
外見や立場、世間の評価とはまるで違う幼さを抱えながらも自ら選んだ
立場や約束を重視する大人で子供な女教師を。
『あの生真面目さはお前譲りだったか』
「ん、なにか?」
『いや、ただ……本を正せばお前のお遊びのおかげともいえるだろう。
そう思えば不愉快だが、私の不快さ程度で現役元帥に返せない恩を
売りつけられたのなら安いものか』
「っ、マスカレイド殿それは……」
だからつい落とし所という名の彼女が納得する言い訳を口にする。
思わぬ言葉を受けたせいか驚いたようにアマンダは顔をあげた。
さすがに長年その地位にある女傑か。不遜な物言いの裏にある気遣いを
察したのだろう。小さく頷くと真顔となった彼女は無言で両手を己が
胸元で合わせた。手の甲をこちらに見せる形で握った左拳と開いた右手を
胸の前で合わせるようなポーズだ。中国武術等で見られる包拳礼に
似ているが拳の向きは違うし左右が逆という似て非なるもの。
『ハッ、大層なことだ』
しかし見知っていたモノと類似しているというのは印象に残りやすい。
だから、最近さる令嬢から勧められた幾冊かのマナー本で見たそれを
勉強が苦手なカレでも覚えていた。ガレスト軍人の最敬礼を。
「なんの、これが精一杯であるのが口惜しいほどじゃ」
こちらでは兵装端末を利き手問わず左腕につける事が多いためそれを
見える位置に出し、しかも手の甲を見せる向きにすることで現在の
稼働状態を映す画面を相手に見せる。さらに右手を開いた状態にし、
その左手で塞ぐことで武器の不所持をも表す。戦うことを仕事とする
軍人が手の内をさらし非武装を示すそれは彼らにとって最大級の礼となる。
表立って仮面の行為を褒められないどころか公にも出来ない元帥が
この場で出来る最大限の気持ちを表す行為であったのだ。
『受け取っておこう。
ただ、知ってるかもしれないが場所や人によってはそれ。
敵対行動と受け取られるからな、気をつけたまえ』
諸説あるものの包拳礼と左右が逆のポーズと似ているガレスト軍式最敬礼は
そう思われる場合があった。知ってはいたのだろう。老元帥は難しい顔で唸る。
理屈はわかるものの、こちらでの最大の礼が場合によっては挑発行為に
なってしまうというのは感覚的に眉を顰めたくなる。
「い、異文化交流の難しいところじゃのぅ」
『同感だ』
三つ目の世界を現在進行中で体験している仮面と立場上振る舞いに殊更
気を付けなければならない元帥だ。その大変さは痛感している。
そんな妙な共感での溜め息を重ねて、互いに微笑を浮かべた。
片方のそれは見えてはいないのだが雰囲気で察したのか老元帥の
纏う空気は最初に比べれば穏やかとなっていた。しかし“まずは”と
始めた以上彼女の要件はそこで終わりではない。感謝のそれも本音では
あるが元帥がここまで足を運んだのはそちらが本題であろう。
一つ、話の仕切りとしての咳払いをするとアマンダは話題を移した。
「コホン、しかし惜しむらくは今回の一件でオルティスの馬鹿の動向が
読めなくなったことかの……いや惜しいどころか正直頭抱えておる」
『誰にとってもイレギュラーだろうな。ままならん。
おかげで『無銘』は今回の容疑者から外れたが釣り合う話ではない』
オークライの事態はトリヴァーでの事件で匂わされた彼の将軍の影を
余計に見えづらくさせていた。だが老元帥への稚拙な襲撃は少なくとも
彼女の行動を制限し、学園側と距離を取らせる目的があったはずだ。
だが緊急事態となれば、別れた直後で距離が近いとなれば、元帥の部隊は
駆けつけねばならない。しかしながらそれはオルティス将軍の思惑を
破壊する行為である。『無銘』が容疑者から外れる理由だ。無論、組織の
上と下で情報共有に失敗していた可能性はあるが一都市が壊滅するか否かの
行為をトップの承認無しで行うかは疑問だ。
それに。
「まったくじゃ。
聞けば“誰か”に依頼された赤い女傭兵集団の活躍もあったとか。
……虎の子のあれらをあやつがこんな所で使い捨てるものか」
『元帥、言っておくが……』
「わかっておる、あくまで緊急時に誰かが傭兵を雇っただけじゃ。
責めるような話でもそやつらを探し出す話でもないと約束しよう」
『……あっさり引いたな』
「雇い主殿と敵対したくないが半分。オークライの下手人ではない以上、
『無銘』を刺激するのはかえって犯人に利すると思ったのが半分、じゃな」
『フッ、確かに。犯人達は予想外に私と『無銘』を敵に回した形だ。
そして軍トップは裏を牽制する気がないときたか。協力・共闘は全く
していないのに表と裏で包囲網の完成とは……意外に頭回るのだな?』
「ぬ、そこはかとなくバカにされとったのは置いておいて……だからこそ
あやつの動きに探りを入れらなくなったのが吉と出るか凶と出るか。
企みがあるとだけは分かっておるのが痛いわい」
『そして今回の件もある……犯行声明や目星は?』
「今の所はどちらも、無し、だのう。
しかしこれだけのことをやっておいて、はい終わりなわけもあるまい。
予想外に攻撃を防がれてあたふたとしとるのは事実じゃろうが」
『そっちはそっちで動きが読めんか。
警戒案件が増えただけとは……これからの修学旅行については?』
「まだなんとものう。続けさせるのは可能じゃ、学園はこの事態に
巻き込まれただけといえるからの。逆にこれほどの事態でもある。
中止となっても誰も文句はいえん、じゃが……」
意味深な言葉の切り方とどちらにしろ簡単に事は終わらないと言いたげな
ニュアンスに仮面はひとつ心当たりがあった。
『もしや活躍しすぎたのか?』
生徒達が。
「さよう。限られた範囲ではあったが子らの初動の速さが多くを救った。
他にも貴重な情報を掴んだり、不心得者を捕えたりしておっての。
個人的にはその頑張りにも感謝しておるが、立場上はのぅ……」
『オークライ行政府と軍が完全にしてやられた事件の尻拭いを偶然影響外に
あったとはいえ学生にやられては面目は丸潰れ。バッシングに責任問題で
何人のクビが飛ぶことか……だが』
「うむ、その活躍をセンセーショナルに伝えて賛美でもすれば人々の意識は
子供らに集まって失態のイメージは薄まる……よくある手で、そして政治よ。
ワシではどうにもできん、すまぬ」
『どうしようもないことなら謝るな。出来ることをしろ。
それをした子供達に報いたいのなら、な』
「そうじゃな…………この物言いどこかで?」
『どの道、仕方のないことだろう。
犯人の目的に現体制への攻撃や混乱目当てな部分がないともいえん。
抑える一手は必要だ……さしずめ代表者だけでも首都に呼んで表彰、か?』
「ん、最低でもそれぐらいはやらねば格好がつかぬであろう。
じゃがそれは狙ってくれというておるようなものじゃ」
有象無象の輩も含め、例の将軍や今回の犯人達にとっても。
『……忙しくなるな』
「老骨には厳しいわい」
意見と認識が一致し、そして溜め息も揃って出た。
必要性も、妥当性も認めるがオルティス将軍への警戒とこの事件の
犯行グループ捜索を優先したい二人からすれば頭が痛い話である。
『せめて全員を呼ぶようにしてくれ。
違う都市にいる集団の護衛はさすがに手数が足りん』
「やってみよう。それぐらいの意見を通す権力はあるはずじゃ。
……修学旅行の護衛は続けてくれると理解しても?」
『そもそもの懸念相手が出てきてもいないのに降りてどうする?
とはいえ状況が状況ゆえ絶対は約束できんが尽力しよう』
「いや、それだけでも充分にありがたい。再びの感謝を」
『こちらにも色々思惑あってのことだ。礼を言われる話ではない。
だから、ではないがそろそろ私はオークライに戻ろう。こういうのは
終わったと思った時が一番危ない……こいつらの後片付け、いや監視は
任せても?』
周囲に倒れ伏した怪獣達を黒い腕で示しながら問えば頷きが返る。
「勿論。
グラシオスの行動監視に誘導は軍の仕事の内じゃからな」
『そうか。
余裕があれば一頭ぐらいもらって安全な倒し方の研究と実験をしたいが、
今は修学旅行の安全と色々見逃してくれている君らを立てておこう』
「……お、お気遣いありがたく……心臓に悪いことを」
こいつなら黙ってやりかねないと戦々恐々とした顔を隠せもしない元帥を
尻目に、では、と背を向けた仮面であったがふと疲れもあってか聞く必要も
ないことを口にしていた。
『ああ、そうだ』
「ん、なんですかな?」
『私はこのトカゲどもの相手をどれだけしていた?』
自らのフォスタから現在時刻を把握すればいいだけの話ではあったが、今は
そこから経過時間を計算するのも億劫だった。ただその質問に元帥は一瞬だけ
引き攣った表情を見せたがすぐにそれを消すと意図的に淡々とその数字を
口にした。
「──────約68時間、およそ三日弱といったところかの」
その時間、その日数の経過を言葉として聞いて実感したカレもまた淡々とこぼす。
『ふむ、やはり建設的なグラシオス攻略法ではないな』
仮面はそんな感想だけを残して転移の光を纏って姿を消した。
非常識な戦闘時間への軽い態度に顔を青くした元帥を残して。
「伝説の男に、未知の広域破壊自律兵器に、スタミナも人外な魔人か。
はぁ……猛烈に引退したくなってきたのう……」
なぜ自分がそんなモノたちの坩堝か三つ巴に巻き込まれているのか。
20年先どころか今すぐにでも誰かにこの地位を押し付けてしまいたい。
老女のそんな嘆きは緑の砂地に吸い込まれて誰にも届かず消えたのだった。




