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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
246/286

噂話




ガレストにおいて所謂オカルト的な文化は存在していなかった。

霊魂、幽霊、妖怪、魔性、幻獣、悪魔、天使、神などという超自然的な概念。

異世界の超科学を用いても実在・非実在を証明できない空想上といわれるモノ。

それらの実在を信じるか否かは別としてそういった概念を知らない者は地球では

少ない。だがガレストの歴史では類似したモノは誕生すらしなかった。

一説として怪物的な存在である『輝獣』や魔法のような『スキル』が身近に

あったのが原因ではないかといわれるが定かではない。宗教が無い理由も

合わせて地球の歴史及び民族学者たちは様々な憶測や検証、調査をしているが

ガレスト人側からすれば「無いものは無いんだからそれがどうした」といった

感覚が多数で関心は薄い。尤も、薄いのは「どうして生まれなかったか」という

方面においてのみであり超自然的な存在や現象に対する興味やそれを題材

とした物語等が受け入れられなかったというわけではなかった。科学的に解明

してみたい研究者やスキル運用の参考にしたいという戦畑の者達が

実務的現実的な受け取り方をする一方、単なる無いものねだりと一蹴する者。

または地球人の空想力への感心や実在するかもしれないという可能性に

好奇心を刺激される者など受け止め方は十人十色であるが、地球との交流が

一般にも開放され、そういった概念はガレストでも知られつつあった。




それを思えば今回の大規模テロ(オークライの事件)が後々「『巨神事変』の始まり」とされたのは

異世界交流の影響といえなくもない部分が少しだけあった。




そもそもそう呼ばれるようになった要因は大きく分けて三つある。

第一に後々に起こる(・・・・・・)事件がこのオークライで起こった事件と大なり小なり

繋がっていた、あるいはこれが起こったがために発生したといえるもの

であったこと。そのために「始まり」として分かりやすかった点がある。

ガレスト全体で見ても大都市の機能を何者かの手により完全停止させられ、

駐留軍すら機能不全にさせられたのは前代未聞な出来事であり双方の世界で

トップニュースとなって認知度が高かったのもあった。


第二に“巨”大な脅威が明確に襲ってきた点だ。フィクションに出てくる

ような神の怒りを具現化したが如き圧倒的な裁きの白光。醜い巨顔を

頭部とした歪な巨大人型兵器。そして群れで強襲してきた巨獣グラシオス。

白光を除けばそれぞれの目撃者の数はさほど多くは無かったのだが、

人の口に戸は立てられぬのは異世界も同じだったのか。個人端末の全滅、

自宅からの避難で娯楽や仕事を奪われて噂話等に興じるしかなくなった

オークライ住民たちが面白おかしく、おどろおどろしく知っている話を

広めた結果であるといわれている。


そして第三にして交流の影響であったのが『巨神事変』という呼称そのもの。

これが人為的な大規模テロであることは公表されたものの実行犯はともかく

最終的な黒幕は明かされなかったのだ。捜査が行き詰ったのか事情があり

発表できなかったのかそもそも黒幕などいなかったのか。それさえも

一般には説明されずに一連の事態は解決された(・・・・・)ことになって処理される。

それは数多の憶測を生むことになるが同時に一連の事件への人々の関心を

集めることにもなり、後々起こった超常的な出来事も合わさり『謎』の部分を

オカルト的に解釈する言説が出始めたのが『巨“神”』という表現に繋がって

いったのである。神の概念が無ければそも生まれなかった呼称であろう。



ガレスト全体や世界間あるいは複数の都市を跨いで活動する人間を除けば、

都市ごとで半ば独立しているガレスト社会において都市間を越えた規模で

民間発祥の話が共有されるケースは珍しい。しかも発生経緯が噂話や

都市伝説と大差がないとなれば余計に。ただそれの通りがあまりにも

良かったために『巨神事変』という呼称は後に公でも使われだし、

歴史に刻まれる事になる。たいした出世、といえなくもない。


一方で噂話らしく『巨神事変』のせいでかき消された話が幾つかある。

でたらめに強い痴女通り魔がいるだとか。コスプレ集団があちこち

闊歩しているだとか。未認可の自警団が過激な私刑をしているとか。

輝獣の大発生には周期があって今年どこかで起こるだとか。

実際の事件から派生したようなものから何の話か不明なもの。

こじつけのような考察が話題になったものまで多種多様な噂があった。


そういったモノの中には件のオークライで事件が発生する直前に

同都市のネットで流れ、話題になりかけた噂話というのがあった。

だが人々の話題が自分達を襲った未曾有の危機に集中し、さらにオークライ

ネットワークが崩壊したことで記憶からも記録(ログ)からも完全に吹っ飛んで

しまったのだ。ただその忘れられてしまった話もまた地球由来の概念を

受け取ったといえる部分を持っていた。何せ怪談染みているのだ。

自称体験者たちの報告は内容や状況に差異はあったが共通点から

同じ事象であると受け取られていたという。

それは概ねこういう話であったとか。




──街のどこか


少女の声が聞こえる


言ってる内容は分からないが悲愴で悲痛そうな声が聞こえる


その切羽詰まったような声を辿ると薄汚れた格好の幼い少女がいた


何かしらの事件かと保護しようと駆け寄って少女の声に耳を傾けてみるが


火急を訴えるが如く口早に喋るが翻訳機を通してもまともな言葉にならない


すると話が通じないと少女も理解したのか


どうしてわかってくれないのかとこちらを睨みつけ、踵を返して走り去る


慌てて追いかけるがほんのわずか見失った隙に少女はある場所で消えてしまう


そこは他に行く先のない袋小路で建物への扉もなければ子供とはいえ


通り抜けられそうな隙間もなく、まさかと空を見上げても影すらない


夢か幻かと疑うなか翻訳機のログを遡ってみればそこには翻訳できず、


所々文字化けしたようなテキストと少女の音声がしっかり残っていた──




タイトル『話せない(・・・・)幽霊』




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― 新着の感想 ―
[一言] ついに交錯する時が来たのですか……? 待ちかねたぞ!
[一言] 痴女通り魔→魔族さん、コスプレ集団→姫様ズ、未認可自警団→教会、カナー?
[良い点] 更新ありがとうございます [気になる点] 珍しく短いw
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