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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
244/285

オークライの長い一日15


一方。

守護対象の少年を突き飛ばして安全圏に逃がすと同時に飛び退いたルビィは

直後に着弾した砲撃の衝撃を─吹き飛ばされる輝獣や囚人達を横目に─防御

姿勢で受け流しつつ意識とセンサー類の大部分を発射予測地点に向ける。

もはや隠れる気もないのか奇襲染みた一発が外れた以上はその必要もないと

判断したのか。衝撃が静まりきる前からソレら(・・・)は特徴的な駆動音と

機械的な足音を遠慮なく、止めどなく立てて迫ってきていた。


『ちょっっっと、それはないんじゃないかなぁ?』


着弾の余波が過ぎ去り、ルビィは文句をこぼしながら己が獲物を呼び戻す。

セントラル4の照明が届かぬ闇からはい出るようにやってきたその姿を

暗視光学センサーで捉えたせいだ。尤も人間の脳がそれらを正確に

認識するには少々の時間が必要であったが。


「なんなんだ!? 影? 巨大蜘蛛? いやガードロボ?」


『いいえ、あれはおそらく……』


後方の彼が思わずそう誤解(・・)するのも仕方ないシルエットであった。

初見の印象は不気味の一言。全長およそ6、7mの胴体と思しき前後に長い

楕円体の部位から八本の節ある脚が伸びている。確かに巨大なクモのようで

多脚型の無人防衛戦機(ガードロボ)のようでもある。ただ全身がくどいほどに黒一色。

しかも光を殆ど反射していない。ゆえにその形状に沿った黒い穴が空間に

開いていると脳が勘違いしかける。それほどの黒色を出す塗料の技術とは

相反するがまるで同色のクレヨン一本で子供が描いた落書きのような

立体感の無さを演出しており非現実的な存在感も醸し出していた。それでいて

なんらかの金属製の物体であることは見て取れる上にせわしなく複数の節足を

動かして地を這うようにドカドカと音を立てて突き進んでくるのだ。


『っ、もう視覚攻撃よね。きもちわるっ!』


非生物にしてなんでもありの姿となる輝獣に慣れていても生理的嫌悪を

覚えるそんな挙動も加わって脳が混乱する。そんな存在が一つでなく(・・・・・)三つ(・・)

三角形の頂点を形成するように並んで迫ってくるのだから余計に。

だがそれは生身の目か光学映像“のみ”でソレを見ていた場合か

そもそも人間ではない場合だ。


〈類似形状検索終了、結果を表示します〉


その後者、余分な情緒で左右されない─出来るほど高度な知性の無い─

補助AIの判断と情報処理は的確にルビィが欲しい答えを示す。


『やっぱりアーレスト社の高機動型多脚戦車!』


「っ、軍用兵器じゃないか!」


慄く陽介少年を背に「見覚えがあるわけね」とルビィは一人納得する。

仮にもテロ支援組織の戦闘エージェント。ガレストで1、2を争う軍需企業が

開発してる兵器の形状や設計の癖ぐらい見抜ける目は持っていた。ただ即座に

確信が持てなかったのは同社の既存商品のどれとも形が一致しなかったからだ。

出自を誤魔化す改造品かとも考えたが数多の武装・兵器をその“眼”で見てきた

ルビィは未知の新商品といった所感を覚えていた。


『新型の試作機を盗まれたって噂あったわね……どこまで事実かは別として』


推測を補完する話を聞いていたこともあって一応は理解と納得をするが本当に

盗まれたにせよ、盗まれた(・・・・)ことにした(・・・・・)にせよ、それは目の前の敵性兵器という

脅威とは別の厄介ネタでしかない。前者はそれだけの軍需企業からモノを

奪える勢力がいるということで、後者は同社そのものがこれの背後にいるからだ。

冷や汗が頬を伝う。マスカレイドと関わってからこんなのばかりの気がすると

苦笑も漏れる。されどそんなものは戦闘中には些末事。あれらが障害であるのに

違いはなく、自分が請け負った仕事はこの地の守護である。

ならばするべきことは変わらない。いつも通り突っ込むだけ。

何よりどうやらあれは──────敵ではない(・・・・・)ようだ。


『はぁっ!!』


気合いと共に地面を蹴り、背のスラスターを全開にして突撃する。

暗闇に乗じてというより何故か無警戒に堂々と正面から迫る三機にとって

それは予想外の反撃であったのか。たまさか一番近い正面頂点を担当する機体と

砲弾のように飛んできた彼女が激突する。戦車胴体だけでも自らの4倍以上の

サイズ差がある。そんな存在との衝突はまず最初に周囲へ衝撃をまき散らし、

次に金属と金属がぶつかり合う音を響かせ────多脚が(・・・)たじろいだ(・・・・・)

それにぶつかる形で後方に続く二機の脚をも止まる。


『くっ、もうっ、こいつパワー弱い!』


しかしそれは弾き飛ばすつもりだったルビィからすれば物足りない結果だ。

現在彼女が纏う外骨格は正体を隠す必要のある仕事で使われる偽装タイプ。

流れの傭兵という設定を守るために外観をその業界に流通している標準的な

代物に装っており中身は『無銘』製ではあるが使い慣れた最新鋭と比べると

幾分か物足りない(頼りない)装備だったのだ。僅かに競り勝ち、拮抗しているので

サイズ差を思えば十二分な出力(パワー)といえるのだが彼女には不満だったらしい。


『こっ、のっ!』


力比べでは埒が明かないと押し合っていた胴体を蹴り飛ばすように跳躍。

空中に躍り出ると相手方はそこでこちらの存在に気付いたのか後方の二機が

それぞれ左右から一本ずつ脚を掲げた。否、それは脚ではなかった。

先端が他と違い、人のそれを模したマニピュレータ()だ。

その機械の五本指全ての先には穴──銃口が展開する。


『ハッ』


反応が遅い。そしてたかがそんなもので迎撃か。

計二十の銃口から次々と放たれる光弾の弾幕を空中で鼻で笑いながら回避。

外骨格の機動ではなく体のひねりによる曲芸じみた動きのみで。

あまりに弾をばらまき過ぎていて近距離の彼女に対して隙間が多過ぎたのだ。

だからルビィはそこに自らを置くだけで優雅に、静かに着地できた。

当然そこで止まるわけでも終わるわけでもない。無論、彼女の方がだが。

両手の手斧は即座に投擲されていた。自らを高速回転させ、円盤のように

飛ぶそれは空で孤を描いて弾幕のお礼とばかりに二機を襲う。

それぞれの両腕は弾こうとしたのか受け止めようとしたのかその鋼腕を

向けるがどちらも出来ずに火花が散るだけ。刃を潰した模擬戦用のため

両断するには足りないが遠隔操作と高速推進システム自体は彼女(ルビィ)愛用の

それと変わらない。離れ、襲い、また離れ、襲う。二機に纏わりつくように

周囲を飛び回って突撃してくるそれの衝撃は機体を破壊はできないが

姿勢をぐらつかせるほどには威力があった。


『とろい』


僚機二機の動きが実質封じらていると気付いたのか。一番前の機体が

胴体正面から並んで突き出させた二門の砲身をルビィに向けるがあまりに

遅い(鈍い)。何せ今まさに発射されようとしている砲口、その穴に

矢じりのように尖った小さな光弾が飛び込もうと既に数cmの距離に

あったのだから。


──────!!


それに気付きもしなかった多脚戦車は飲まされた光弾により

発射直前だった砲身内の光砲弾が誘爆。爆炎と衝撃が機体を大きく揺らす。

内部をも、否、内部こそ最もその被害を受けたのだろう。砲身から逆流する

エネルギーに内部機構をずたずたにされ、金属が無秩序にこすれあったような

機械の悲鳴を響かせて車体が沈む。六本の脚で僅かに浮いていた胴体部が

完全に落下し、鋼脚が力を無くす。ルビィはその姿にフルフェイスの内で

小さく笑った。攻撃がうまく決まった喜びでも無様な姿を嘲笑したのでもなく、

ひしゃげて開いた鋼の花のような砲身の成れの果てがまるで目を回した人の顔に

見えて少しおかしかったのだ。少々、独特のセンスである。


『ハアァッ!』


尤も彼女は生粋の戦士だ。戦場で笑えることが起こっても体は

意識するまでもなく戦うため、相手を倒すための行動をしていた。

気合いの一声と共に周囲にあった適当な瓦礫を二つ、殴り、蹴り、飛ばす。

沈黙した僚機とまとわりつく回転手斧の攻撃に混乱する二機はその接近に

衝突まで気付かなかった。それぞれの戦車の胴体と地面の僅かな隙間に

挟まるように衝突した瓦礫。しかしそれは攻撃にせよ行動の阻害にせよ

中途半端である。壊されたとはいえガレスト都市を形成する一部だったそれは

見た目以上に頑丈ではあるが砲弾としては不適当で戦車胴体には大きく劣る。

機体と地面の隙間に挟み込む障害物と見ても整えられた物体ではない瓦礫と

整形された楕円体では密着しても隙間はいくらでも存在していたし、そも

多脚戦車の強みは通常車両では走りづらい地形を走破できる所にある。

邪魔ならば胴体を少し浮かせればいいだけ。では、無意味か。違う。

瓦礫を殴り、蹴り、飛ばした直後に彼女は既に適当な武装を呼び出していた。

それを瓦礫と同じ方向ながら上方に僅かな曲線を描くように二つ投げつけた。

幅広の刀身を持つ長柄の大剣を。二振りの到着は瓦礫の衝突に続く。

どちらもほぼ同時に戦車胴体と瓦礫の僅かな隙間に吸いこまれるように

入り込んで、勢いと自重で地面に深く突き刺さる。それでも平均的な

大人の身長以上の長柄は地面から斜めに伸びた柱のようにそびえ立っていた。


『ねえ、おたくら──』


くいっとルビィの左手人差し指が何かを引っ張るような仕草をする。

本来する必要のない動作であったがまるで見えない糸に操られるように

ねちっこく戦車を襲っていた二つの回転手斧が急上昇し、急降下した。

その勢いはそれまでの嫌がらせ攻撃以上の速度であり、だがその狙いは

戦車ではなく突き刺さった大剣の柄そのほぼ先端。


『──てこの原理って知ってる?』


微笑を湛えた言葉が発せられたのと刀身が跳ね上がったのは同時だった。

そうなればいわばその上に乗っていた形の戦車はその特徴的な多脚が

意味をなさない空中へ弾き飛ばされている。宙を舞う手斧の衝突が力点、

差しこまれた瓦礫が支点となり作用点となった刀身の腹は衝突の力以上の

力を発揮したのである。そしてルビィは狙い通りに飛びあがらされた二機に

親指を立てた右手の人差し指を付きつけ、悪戯な声で一言。


『バーン!』


銃弾を放つ仕草と愛らしい声のオノマトペ。それが合図であった。

彼方から迫った幾つもの赤き流星が勢いの頂点で一瞬浮いたように

空中で制止した戦車をずたずたに引き裂いたのだ。特にその多脚と砲身は

原形なく撃ち抜かれ、消し飛ばされ、バラバラの破片となった胴体と

共に落下する。そんな大小様々な地面への衝突音が同居する中、ルビィは

表面装甲も抉り取られ、あの特徴的な“黒さ”も失いつつも原形が残る

三つの戦車胴体から視線を離さない。役目を終えて手元に戻ってきた歪な

形状の巨大手斧を楽々とキャッチしながらも油断なく、

文字通り手足もがれた機体に歩みを寄せる。


「すっげぇ……軍用多脚戦車三機が一瞬で」


だがあと数歩で武装の間合いという距離で呆けたように零れ落ちた

賛辞と驚嘆が混ざった陽介少年の声が聞こえた。それが思っていたより

近いことにルビィは視線だけを──外から見れば中身の見えない

フルフェイスの正面部位を彼に向ける。地表から1m程で浮遊する少年が

こちらの援護でも考えていたのかキャノン砲を構えていた。ちょうど

戦車残骸と自分で彼女を挟むような距離と位置で。


「あ、ははっ、必要なかった、ですね。素人が失礼しました」


『いいえ、必要な備えよ。武装選択も適切だし──っ!?』


『──副隊長! 命令だから従ったけどそんな雑魚に支援いる!?』


『コレけっこうフォトン食うんですから無駄撃ちさせないでくださいよ!』


『絶対自分でやるの面倒だから押し付けた!』


『ちょっと! みんなして大声で文句いわないで!

 むしろ感謝してよ、雑魚相手でも出番作ってあげたんだから!』


余計なお世話だったかと自らを卑下する彼に首を振るルビィだが、

突如耳元から不満の声が響いた。狙撃支援を命じた部下達のものだ。

反射的に言い返していたがきょとんとする少年の顔が見えて説明する。


『ああ、ごめんね。仲間から急に通信が入っちゃって』


しかしそれに陽介少年は瞬時に花開くように顔を、瞳を輝かせた。


「それってあの二機を一瞬で破壊した狙撃をした方々ですよね!?

 あれだけの数の弾丸が互いを邪魔することなく一瞬で交差して

 同一標的を食い破った光景!! まるで一瞬の芸術作品を

 見せられたような気持ちです!! すごかった!!」


『あ、ありがとうございます?』


興奮気味な賛辞に戸惑いながら返したルビィと違い、開いたままの通信

からそれが筒抜けだった狙撃手たちは満更でもない様子であった。


『でへへっ、いやあ、それほどでもぉ』


『うーん、若い子に褒められると潤っちゃうわね』


『うふ、将来有望な男の子か……じゅるり』


相手に聞こえてないのをいいことに好き勝手なことを口にしながら。

全くうちの娘たちは、とありもしない頭痛を感じてしまうルビィだ。

そこには僅かばかりの「知らないって羨ましいわね」という気持ちもある。

少年とその姉、と今回の依頼者の関係を上司(ミューヒ)から知らされていたのは

副官であるルビィだけであったのだ。だから黙って通信を切る。

続く再三のコールすら無視した。部下の悪乗りであの仮面に睨まれたくはない。


「本職の傭兵の方々はこれほどの腕前なんですね!

 軍用兵器すら手玉に取れるなんて……脱帽です!」


一方そんな苦悩を知らず真っ直ぐな賛辞を向けてくる彼にむず痒いものを

覚えながらも動かない戦車胴体から視線は外さないまま首を振った。


『そこまで褒められて悪い気はしないけど、

 この結果は私達が強いからじゃないわ』


その否定は少年がこれから“本物の”傭兵の実力を過大評価しないように、

軍用兵器を過小評価しないように、という気遣いが理由の一つであった。

何せ装備の質と練度という意味で自分達と並の傭兵では桁が違う。また

あっさりと撃退してみせた新型戦車も本来なら(・・・・)彼女達といえど

ここまで簡単に無力化できるものではなかったのだから。


「え、それじゃなんで?」


それがここまで容易となった最大の理由(原因)は単純明快。

クスリと攻撃的な嘲笑を声としてこぼしながらルビィはそれを口にする。


『────乗り手がド素人だったからよ』


「乗り手、って、まさか!?」


『そういうこと。

 わざわざ自分達の存在を知らせる雑な砲撃。それが外れたっていうのに

 反撃があることを考えもせずに歩行モードでのんびり接近して私の攻撃に

 あたふたするだけだった間抜け達……いいかげん出てきたらどうなの?

 わざわざハッチは外してあげたんだから!』


無残に破壊された胴体。その内部に聞こえるよう張り上げた声に応じたのは

戦車ハッチではなく、戦車の残骸を含めた彼女らの周囲の方だった。

同じ蛍光色のつなぎを着ている武装した、されど意志なき者達。

暴走させられた囚人達だ。


「陽介、ルビィさん!!」


しかもそれはこの場に集まり、尚且つ現在も活動可能な囚人達全員。

セントラル4正面玄関にいる陽子らの視界を遮るほどの人垣が輪を作る。


「くっ、こいつら!?」

『…………』


動揺と無言の差はあれど自然と互いを背にするように身構える二人。

そこへ降り注いだのは息の荒さが滲んだ怒声であり罵声であった。


「クソッ! 誰が素人だ、誰が間抜けだ!

 好き放題いいやがって! たかが傭兵風情がっ!!」


比較的─意図的に─原形が残っていた戦車胴体部の一つ。

その上部が開き、人一人が通れる程度の開口部から戦車の色味を思えば

比較的普通の黒色装甲(プロテクター)を纏った男達が一機につき一人、計三人姿を見せる。


「けど詰めが甘めぇっ! 所詮は女と子供(ガキ)

 俺達の戦力はこの戦車だけじゃねえんだぜ!

 見ろ! お前達を取り囲む囚人達(コマども)を! 逃げ場はねえぞ!」


「どいつもこいつも非道で名を馳せた罪人ども! それが意識もないまま

 全力で暴れる! いくら武器だけでもこれだけいたら勝てねえだろ!」


ヘッドギアとバイザーのために口許以外は隠れているがそれでも伝わる

形勢逆転だとでもいいたげな愉悦感のある声色で高笑いを奏でる男達。

だが悲しいかな。自分達の優位をどうやら本気で勝ち誇っている彼らが

立っているのは一瞬で無残に破壊されたスクラップな戦車の上である。

少なくとも格好はついていない。


「うわぁ……本当に素人臭い、ってかマジ? それマジなの?」


『有人操縦タイプなのはデータから分かってたし動きが素人感満載の

 場当たり的なものだったからそうだろうと思ったけど、ここまでとは……』


そしてどこか白けた視線を向ける二人の様子にも気付いていない。

彼らにとってこれは窮地でもなんでもないからだ。確かに数の差はある。

囚人達の武器も外骨格に通じる危険なもので彼らのステータスも高い水準で

まとまっており、そんな者達をどうやってか操れるなら確かに脅威ではある。

しかし囚人達の意識はなく、全員が生身。取り囲む形とはいえ一か所に

集められているためかえって撃退しやすくなっていた。彼らの厄介さは

まとまった行動をせずに他囚人を巻き込んででも破壊活動をしていた点が

非常に大きい。防衛対象がいるこちらからすればそういった無軌道さこそが

難敵だったのだ。その利点をわざわざ潰して、外骨格装備の二名と位置も

悟られていない狙撃手数名が監視している所に堂々と姿を見せている。

お粗末にも程があると未だ生徒の身である陽介ですら呆れている。

その声には相手の正気を疑う色すらあった。しかしそれはルビィには

届いても相手には届いていなかったらしい。


「クハハッ、今更ビビっても遅いぞ! 俺達に楯突いたバツだ!

 囚人どもの手でたっぷりいたぶってやるぜ!」


『ああ、うん、そうね』


意気揚々か。自信過剰か。あるいはこの世の春(調子乗ってる)というべきか。

彼女の「ここまでとは」を良い意味で受け取ったらしい男達にルビィは

呆れを通り越して憐みさえ覚えて聞き流すことにした。何せこれはハズレだ。

軍事企業の最新鋭機を盗んだ者達とは到底思えず、それを偽装した者達とも

思えない。真相がなんであれ真犯人に都合よく利用されている愚者であろう。

捕えて締め上げたところでたいした情報は知るまい。ただでさえ意図せず

カレの妹弟の守りにつくことになって内心戦々恐々としていたのに多脚戦車の

襲来という事態で緊迫させられ、たかと思えば中身がコレである。依頼内容を

思えば危険度が低いのは良いことなのだが妙に肩すかし感や骨折り損感を

覚えてしまう。


「……結局、君たちは何者?」


それは彼も同じだったのか。疲れと苛立ちが混ざったような声での問いかけに

待ってましたとばかりの上機嫌さと高笑いで男達は答えた。


「ハハッ! よく聞いた小僧!

 俺達こそこの腐った世界に夜明けをもたらす者!」


「こんな窮屈な都市を根こそぎぶっ壊し、真の自由を目指す者!」


「その名も黒き革命の翼! レイヴンだ!!」







痛い奴を書くのって難しい……痛さってなんだ?



あ、次回で長い一日編は終わりです!(やっとかよ)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 痛い奴? 最大限に痛々しい方がいらっしゃったような? 最近そっち視点書いていないから忘れているだけでは? そしてやっと一日が終わる。色々有りすぎてよくわか…
[一言] 更新お疲れ様です。応援してます。
[一言] オークライの長い1日本当に長かった
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