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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
236/286

オークライの長い一日7

なんとか、もう一度書けた……データ消失でガクンとなってたが、秒ごとにイライラしてきて、

なんで俺のミスのせいで俺がこんな不愉快な気分にならなきゃいけないんだ。ふざけるな!!

(意味不明)

となって勢いでさっさと書き起こしていた。

まあ、その後油断して、完成させるのに今日までかかってしまったのだが(汗

というわけでご心配おかけしました。再開です。







「はあああぁぁっっ!!!」

──戦いの最中に敵を忘れてどうするトモエ・サーフィナ!


自らの迂闊さを罵りながら飛び上がる勢いそのままに霊刀を振り上げる。

数百mも自分達を殴り飛ばした衝撃の中でも手放さなかったカムナギで

迫っていた紫光を切り裂く。


「きゃあぁっ!!」

「ぐぅっ!!」


別たれたそれは左右の集合住宅の壁面をなぞるよう削って眼下の者達をかすめた。


「建物から離れて!」


「こっちです! 急いで!」


破片落ちる中、生徒達が市民を大通りの中央に誘導して避難させる。

それを下にトモエは斬った勢いのまま建物の高さを飛び越えた。

そこで空中停止(ホバリング)すると血払いするかのように刀を振って彼方を睨んだ。


「今の攻撃、まさかさっきの顔面野郎か!?」


破片落下が落ち着き、発射方向を見る余裕ができた生徒達はその先に

あった存在を視認して騒ぎ出す。


「おい……なんだよ、あれ?」


「きょ、巨人っ!?」


「二人はあいつにぶっ飛ばされたのか!」


撃墜の理由を察しつつも彼らはその巨体に圧倒されていた。

50m級の高さは多くが地球人である彼らには珍しいものではない。

だが、それが人型の巨体となれば話は別だ。自分達とシルエットの似た、しかし

圧倒的なサイズ差は本能的な畏怖を呼び起こす。さらに周囲の環境も悪かった。

遠目であることが慰めにならないのだ。何せその巨人は周囲の建造物とほぼ

同じ高さの巨体を誇っていた。そしてそれと同じ高さの建物は彼らの左右に

いくらでも並び立っている。ガレストらしい光景が遠くで立つ歪な巨人の

サイズを実感させてくるのだ。それは輝獣に慣れているガレスト人とて

同じこと。それほどの巨大さは彼らにとっても異常なる相手だ。

声を発することもできずに息をのんでその敵を見据えていた。


「っっ!?!」


まるでそれがわかっているかのようなタイミングで巨人が足を踏み出した。

ズンッ、と擬音化すればその程度でしかないモノが縦に揺れる衝撃として

彼らを襲う。一回の縦揺れでもまるで地震のそれは装備を纏う生徒達の

足すらふらつかせた。だが、その衝撃な一歩は。


神威(カムイ)見た? ご丁寧に踏ん張ったわよ、あいつ」


巨人からすれば体勢を整えただけなのだろうとトモエには分かった。

両足を肩幅に広げ、左右の建物を支えとするかのように両手で掴む。

そして白い光が見えた(・・・・・・・)


〈エネルギー集束確認、判別不能ながら一射目とデータが酷似〉


「っ、やっぱりこいつが!」


望遠映像で覗いた歪な巨体の醜い顔面。冷や汗を流すこちらを

嘲笑うが如く、緩めて開けた口からノズルのような砲門が飛び出る。

その先端に集まり、白き光球を成す正体不明のエネルギー。

何者かの悪意が込められた破壊の力がいま再び振るわれようとしていた。


「全リミッター解除、全機関最大! 神威のフルパワーで迎撃するわよ!」


ここに一射目を防いだ彼はいない。相変わらず通信は遮断されていて

呼ぶこともできない。リーダーであったアリステルは外骨格を失い戦闘不能。

トモエが対処するしかない。普段から低出力で並の外骨格以上の出力を誇る

機体なのだからこんな時ぐらい最大出力で暴れてやろうと不敵に笑う。

それでもきっとあの威力には届かないであろうと理解しながら。

だが。


〈不可能です。

 『蒼炎Ⅱ型』程ではないですがこちらもダメージレベルはレッドゾーン直前。

 装甲は三割喪失、一号及び二号エンジンは停止、三号エンジンと霊子機関は

 どちらも出力が60%以上にはあがりません〉


「……マジ?」


〈マジです〉


現実はそれ以上に非情だった。

最大出力(フルパワー)でなんとかなると思ってはいなかったがそれに挑戦すらできないというのは

さすがにトモエの慮外。咄嗟の事にダメージチェックを怠っていたのも

あるがあまりに普段通りに動くために神威の損傷を低く見積もってしまっていた。

初歩的なミスに乾いた笑いがもれる。


「は、ははっ……参ったわね。

 ねえそれ、足して120%とかにならない?」


〈現状での最大出力は通常時を20%前後として80%程度かと〉


「はぁ!? この状態で普段の4倍って、どれだけ出力抑えてたのよ!!」


〈マスターの現在の力量に合うように調整していました〉


「あぁ……はいはい。どの道使えないっていいたいわけね。

 わかってますよ! もうっ! せめて何かいい情報はないの!?」


〈……対象のエネルギー集束(チャージ)には時間がかかるもよう。

 一射目と比較して未だ1割にも満たないエネルギー総量です。

 ですが────ロックオンされました!〉


報告を遮る急報。だが必要な情報であり、そしてある意味朗報だ。

そのために彼女は空で立っていたのだ。巨人の注意を自分に

ひきつけるために。


「っ、来たわね! 一応第一段階はクリアかな」


同時に彼女がここから巨人に突撃できない理由でもあった。

現状あの巨人に対してこちらの最大にして唯一の戦力はトモエのみ。

だからこそあちらも彼女の動向を無視できない。だがトモエ自身は

それ以上に動きを制限されていた。迂闊に動けば迎撃や防御手段に

乏しい上に庇う存在のいる生徒達は先程のような攻撃にさらされる。

かといってこちらからの遠距離攻撃は選択肢が少ない上に距離があって

あの巨体に通じるモノがない。外骨格自体は特注品の神威だが

攻撃オプションはトモエに依存している。攻撃スキルも術も届く前に

迎撃されるか届いても装甲を削る程度にしかならない。既にあちらの

切り札と目される攻撃の発射体勢に入られてしまった状況で

嫌がらせ以上にならない余分な攻撃をする余裕はトモエには無い。

その分の手数を、エネルギーを、集中力を、意識を、相手の切り札への

対処に全て注力させるべきだとあの白光を見た時に決めていた。

このロックオンはその目論見の前提がなった証でもあった。

だが。


〈釣れたのか釣れてくれたのかは微妙なところですが〉


「あれでロックオンしてきた以上は後者って感じよね。

 見なさいよ、あのニヤケヅラ! 馬鹿にして!」


ロックオンという行為の意味は別の所にもある。

あの光は文字通り撃ちだすものであろう。誘導弾でもミサイルでもない。

ならばそのロックオンとは“今は”お前を狙っているというだけの話。

下手に動けば、接近や逃亡そしておそらく回避の素振りでも巨人は標的を

変えるだろう。その証左のように醜い顔面がこちらを見ながら卑しい笑み

を浮かべていた。付き合ってやるから逃げるなよ、とでも言っているかのよう。


「ふんっ、上等よ! 神威、現状の最大出力でいい!

 私の霊力全部使ってでもあの攻撃だけは抑えるわ!!」


〈了解、最大限にサポートします〉


意気軒昂と声を─強がりでも─張り上げながらカムナギの柄を両手で握った。

意識して刀全体に霊力を張り巡らせ、その存在を、力を、魂で感じ取る。

剣の達人は刀を己が手足のように扱うという。その境地には程遠い彼女でも

霊力による繋がりで疑似的な再現は可能だ。自意識との一体感をしっかりと

感じながらゆっくりとカムナギを天に突き刺すように掲げる。同時に

神威からは静かなれど強い唸りが響き、青と金の粒子が舞う。

霊子機関がフォトンエンジンの補助を受けて現状での最大臨界に

到達しているのだ。そしてそれらが生み出した莫大なエネルギーは

彼女の意思の下でカムナギに注がれ、その刀身に渦巻くように絡み付く。


「────今この一時に限り、我が刃は破邪にあらず。

 あらゆる暴虐を打ち払う暴虐にして、破を断ずるモノなりて──」


青と金の渦は空を裂き、轟音を響かせながら破壊の暴風となっていく。

彼女と天を繋ぐように舞い上がる金粒子(フォトン)を纏う青き竜巻。

暗き空を食らって伸びるそれは周囲の空気を引き寄せ猛き風とする。

そしてそれをさらに食らって霊力の暴風は巨大に、強力になっていく。

まるで台風直下。50mは下にいる者達ですら舞い上がる強風を感じる。

けれどそれさえ序の口、次の瞬間には風と風が擦り切れ雷光さえ轟きだす。

一帯の空気を全て震撼させるそれはまさしく竜の嘶き。幾人かの日本人達は

その現象をなぜ『竜巻』と書くのかを理解させられる。そして誰しもが

風の形の怪物を幻視して息を呑んでいる。


「──────」


対称的にそれを掲げるトモエの顔は驚くほど感情が消えていた。

数秒前にはあった虚勢や不安、気負いさえ無い能面のような表情。

退魔師の修行で真っ先に仕込まれた人と魔の間に立つための心得。

一歩間違えば自らも他者も傷つけてしまう力を振るう者として

何があってもぶれない精神と意識を保つあり方。それは暴れる風を

制御しながら遠く相対する歪な巨人を静かに見据えていた。

ゆえに。


「吹き荒れろ──────颶風!」


巨人の発射タイミングに先んじる形で暴虐の風は放たれた。

振り下ろされたカムナギが枷を裂いたように大気を、空間を震わせる

黄金光纏う風の怪物が獲物を求めて突き進む。それはスキルの竜巻が

龍の息吹というものであったのならこれは竜そのものの突撃であった。

その牙は、爪は、ただ目の前の不遜なる巨人にだけ向けられている。

それでも強大なるモノの通り道は余波だけで建造物を削り、傾かせた。


「ぁ───」


対して、僅かに遅れた形で放たれた白き光は不気味の一言。

未知のエネルギー。退魔師の直感に警鐘を鳴らす気配。それだけでも

異常であるというのに、静か過ぎる。歪で醜い巨人の口から発射された

真っ直ぐに伸びる白光は無音で、余波をもたらさず、空気さえ震えない。

静かに、淡々と、されど光の速度で進む白。集中力を極限まで高めていた

トモエには空間というキャンパスにただ白い線を引いている行為に思えた。


だからそれは奇しくも正反対なモノの激突となった。


轟音、暴風を纏って何もかも吹き飛ばして迫る強大なる竜の颶風。

何も奪わず、与えず、淡々と塗り消していく無音の白き侵略の光。

互いの中間地点より少し巨人側の空で違う性質の破壊の力がぶつかり合う。

集中し加速する思考の中で退魔師トモエはそれを捉え、そして。


──あ、ダメだ


瞬間ただただ冷静に自らの敗北を悟った。


〈なっ、嘘でしょ!?

 まだ未完成とはいえ『颶風』が一方的に押し負けてるなんて!!〉


破壊の暴風は白き光と激突した瞬間には先手の優位性を奪われていた。


「うっ、ぐぐっ!」


あり得ないと叫ぶ神威の声を遠くにしながらトモエは『颶風』越しに

全身にのしかかってくる驚異的な圧力に歯を食いしばって耐えていた。

余波さえ皆無な無音の白き線はその静かさと反比例するほどに、重い。

絶大な霊力を込めて作った風を一方的に押し消して進むそれこそが

暴虐の侵略者。スラスターは全開で、動く機関(エンジン)はフル稼働で彼女自身も

霊力を振り絞っているのに颶風と霊刀越しの圧にさえ抗えきれていない。

そうして小手先の抗いに意識を割いてる間にも白光は進む。

まるでそんなもの無いかのような静かなる非情な行進であった。


「あっ、ううっ……ははっ、ま、参ったわね。

 さすがにこれは、っっ、予想外っ……ぐぅっ、ああああぁぁっ!!」


じりじりと足場のない空で後ろに押し込まれる。

神威は普段の4倍近い出力で彼女を支え、アシストしているがまるで

全身を押さえつけられているような痛みが襲う。それに少女は声を張り上げた。

それは苦痛の絶叫か不屈の雄叫びか。霊力の竜巻がさらなる咆哮をあげて

暴れまわる。それは真下の人々が思わず伏せてしまうほどの嵐を

生み出したが押し消されるスピードをわずかに遅らせるのが精一杯。

一秒ごとに全身全霊をかけた術が、技が、“白”に塗り潰されていく。

いくら力を注いでもそれは変わらない。そして抵抗虚しく『颶風』は

数百m分の優位さをあっさりとひっくり返されて残りは10m以下。


『トモエさん、もういいです! 避けてください!』


苦痛と苦渋の表情でそれでもと抗うトモエの視界に小さなモニターが開く。

吐いた血を拭うことさえしていない美貌の令嬢が必死に呼びかけていた


『その角度なら側壁上部に穴が開くだけで済みます! ですから!』


「ははっ、ありがとうございます……でもそれは今のままならですよね?

 あたしが避けたらアレはこの光をどこに向けるか分からない!」


『そ、それはっ』


直接対峙した感覚からアレはそれをやるという確信。

口にある砲門は顔の角度で射線がある程度自由自在という事実。

アリステルはトモエの懸念を可能性の高い話として否定できない。


〈……マスター、もういいでしょう〉


「神威?」


〈あなた方は頑張った。この都市に対する立場や責任も無いのに

 出来る限りはやったのです。ですのでもうっ」


「────黙りなさい、それ以上いうなら回路ごと叩き潰すわよ」


それは口走った当人ですら驚くほどに底冷えする、殺気さえ混じった拒絶。

やんわりと現実的な案に誘導しようとした神威もモニター越しの令嬢も

その迫力に一瞬、押し黙ってしまう。


「いいから、あなたはサポートに集中して」


〈……こ、ここから何が出来ると!? 意地を張ってる場合ですか!!〉


「っ、うるさいわよ! それがなんだって、っ!?」


されど引き下がらないAIにトモエが感情的になりかけた瞬間。

視界の隅にあったモニター、そこにいる彼女の存在に言葉が止まる。

だがそれは余計であった。冷静になるのなら、止めるなら、

見るべきではなかった。だって、画面向こうにはいるのだ。

体を寄せ合い、不安と恐怖に耐えながら震えている誰かたち。

学友も市民も区別なく、いま自分だけが守れる人々。


「……ってっ、しょうがないじゃないっ!!」


〈マスター?〉


それはどこかの誰かが、力があるから見捨てさせられた人達だ。


「それをしたくないから! 見捨てたくなんてないから!

 あいつはっ、あのバカは! だからあたしたちに頼むって言ったのよ!!」


誰よりも強大な力を持つために一番の脅威に立ち向かうしかない彼。

だからこそいま窮地にある誰かに手を伸ばせない。自らの大ケガよりも

それの方を痛がった少年の横顔を見た時、そして思い出すだけでトモエは

胸を引き裂かれんばかりだった。それは今もなお、痛い。


「わかってるのよ! バカなことしてるって! あれだけ怒っておいて

 何をやってるのって自分で思うわ! けどっ、だけどっ、ここで逃げたら

 あたしはどんな顔であいつに会えばいいっていうのよ!!」


だからそれは結局のところそんなワガママだ。

退魔師としての自分などとっくに維持できなくなっていた。

理性は逃げろと訴えても少女の恋心はそれを全身全霊で嫌がった。


『トモエさん、あなた……』


〈あぁ、なんて馬鹿な(マスター)……〉


通信越しの共感と感歎の声。

言葉とは裏腹に感心しているような電子音声。

されど少女は、状況は、そこに意識を向ける余裕を持たない。

トモエの全てを込めた『颶風』はもう押し消される直前。

彼女の視界はもう“白”だけで染まりかけていた。


「うっ、ああっ、ああああああああぁぁぁっっ!!!」

『もうダメっ! 逃げてトモエさん!!』

〈もう猶予がないっ、こうなれば私が、っ!?!〉


負けてなるか。

乙女の絶叫が霊力の迸りとなってカムナギに注がれるが消滅に抗えない。

それでも衰えない抵抗の意思の下で突き出された刃が白き光に突き刺さり、

そして。


「────っっ」


それは悲鳴だったのか雄叫びだったのか。

言葉として聞こえなかった声を最後に空で爆炎の花が咲いた。


「あ、あぁ……トモエさぁぁぁんっっ!!!」


真下からそれを目撃した彼女の悲痛な叫び声が響く。

あれだけ荒れ狂っていた風はぴたりと止んで、けれども

生徒達の間にはそれ以上の凪のような息をのむ静けさが訪れる。

悲鳴をあげる者。茫然とする者。嗚咽をもらす者。誰もが憎らしくも

大きく広がった黒煙の花火から目を離せないでいた。

だから。


「っ、おい、あれ!」


そこから弾き飛ばされるように落ちてくるナニカを見逃さなかった。

大通りの路面に落ちたソレは二、三度跳ねるように転がって彼ら近くの

建物に激突する形で止まった。それは若干薄汚れてはいたが特徴的な

紅白の色合いそのままの人型。誰であるかは明白だった。


「あ……誰か、急いで救護を! わたくしはいいですから!」


「了解!」


安堵の空気に急いで動き出す生徒達は、しかし倒れ伏している彼女の

胸元から黒い光が漏れていることに誰も気付いていない。


〈…………嘘でしょ?

 落下のダメージだけって、なんてデタラメな加護。

 本当に神器手前よ……直撃直前にアレを一方的にかき消しちゃうなんて。

 でも、そうなるとあの攻撃はまさか疑似的な……?〉


「おい、サーフィナ聞こえるか!」


「意識はある? 返事して!」


だから電子音声の驚きと疑惑の言葉は誰の耳に届くこともなく流れた。

駆けつけた生徒達はここ数時間で手慣れたバイタルチェックを行いつつ

声をかける。それに彼女は倒れ伏したまま僅かに反応する。


「ぅ、ぁ……ぇ、あれ……あたし……?」


衝撃でまだぼんやりとした様子ながら声を返してきたトモエに

駆け寄った生徒達は胸を撫で下ろした。そしてあらゆるチェックでも

異常らしい異常が見受けられないことは全員に周知された。

しかし。


「っっ、ダメ! 逃げて! 上よ!!」


彼女は突如力無く開いていた眼を見開くようにその危機を訴える。

一番近くにいた生徒は勿論他の者達はただ戸惑う。が、この場の指揮官は

誰よりも先に動いた(叫んだ)


「各員、対衝撃防御最大!!」


日頃の訓練の賜物か。実戦的な修学旅行での鍛錬が続いたゆえか。

リーダーの指示を受けて反射的に生徒達は自分達や市民を守護する

バリアを幾重にも展開して身構えた。ソレが来たのはまさのその瞬間。


「っっ────」


思わず出た誰かの悲鳴はかき消された。

それどころか隣の誰かが何か叫んでいても微塵も聞こえない。

まるで爆撃を受けたのかと勘違いしそうな衝撃と爆音に襲われたのだ。

瓦礫と粉塵を纏った衝撃波が張ったばかりのバリアにひび割れを走らせる。

しっかりと踏ん張ったはずの両足が大地震もかくやという揺れに膝をつく。

何が起こったのか。大半が訳の分からないまま、されどそれを考える余裕

も無く、バリアが割れるそばから張り直し、補強をし続けて耐える。

いったい何度それを繰り返した後か。どれだけの時間の後か。

5分にも満たないはずのそれを数時間にも感じていた彼らだが、

不幸中の幸いか衝撃波は回数としては一度しか襲ってこなかった。

そのことに気付いた生徒達はまるでそこで呼吸を思い出したかのように

大きく息を吐くと周囲を確認した。高く舞い上がった粉塵と襲ってきた

瓦礫の数々が散乱して視界は悪いがもとより一か所に集まっていた彼らだ。

距離が一番離れていたトモエやその救護に向かった面々も含めて、

近くにいた者達が変わらずそこにいることをすぐに認めて安堵する。


「え────?」


だがそんな中で、誰かがその違和感に気付いた。

周囲はまだ高く昇る粉塵と瓦礫の山で先が見えにくい。

されど上にいくほど薄くなり隙間も多く向こう側が透けている。

吹き飛ばされてしまったスキルの光球も既に再設置していた。

なのに建物が(・・・)見えない(・・・・)。確かに凄まじい衝撃波だった。

周辺の建物が無事であったわけがない。それは解る。だが、

そうだとしてもあれだけ立ち並んでいたマンション群がどの方向を

見ても影も形もないのはどういうことか。


「まさか……っっ!?!」


言いようのない不安のまま、その気配に、その威容に多くの視線が動く。

奇しくも彼ら自身がばらまいて設置した光球が“その影”を粉塵に映していた。


「あ、あぁ……」


首を痛めるほどに上げても全容が分からない巨大な存在(カゲ)

誰もがそれに息を呑んだタイミングを待っていたかのように。あるいは

遮るモノ(・・・・)がなくなったがゆえの必然か。風が流れ、粉塵が晴れた。



──GYAaHAHAHAッ!!



不快な笑い声が高みから落ちてくる。

醜悪な巨人が、暴魔の巨体が目と鼻の先に立っていた。

誰かが瞬きを忘れた。誰かが呼吸を止めた。誰かが膝を折った。

強大な敵に一瞬で距離を詰められた、からではない。

巨大な存在に間近から見下ろされている、からでもない。


周囲に何も無くなっていたのだ。


巨人と同じ高さを誇っていたマンション群は放射状に倒れていたうえに

元がなんであったか分からなくなるほど粉々に砕けており文字通りの瓦礫の山。

自分達を襲ったのがその余波(一部)に過ぎないのだと見ただけで、視界に入っただけで

理解させられる光景だった。そしてこの巨人が何をして(・・・・)こうなったのか。


──跳躍(ジャンプ)


ただそれだけの話だった。

謎のエネルギーも未知の技術や武器でもない、その大質量を用いたただの落下。

高く飛びあがった巨体が着地しただけという単純な行動の結果であるのを

理解できてしまったことが、簡単にこんな光景を作り出した存在の足元に

自分達がいるという事実が、生徒達と市民達の心を折ってしまった。


「みなさん……?

 し、しっかりしてください! 逃げるのです! 立って!!」


「くっ、妖気だけじゃない。単純に呑まれちゃってる! このままじゃ!!」


正気を保っていたのはアリステルとトモエだけ。

そして彼女達の言葉はもはや互いにしか届いておらず、

二人とも満足に動ける状態ではなかった。その、頭上で。


「っ、あ、あぁっ!?!」


「最悪っ!!」


眩い白き光が照らすように集まりだしていた。


「踏み潰せばそれだけで済むでしょうに! 馬鹿にして!!」


「っっ、強者の誇りすらない下劣さ! 屈してなるものですか!!」


必要のない、発射までに時間のかかる攻撃。それをこの状況で選ぶ在り方。

白き光を集束させる砲門を向けられながら、標的を折ろう、絶望させよう

とする行動に少女達はかえって義憤にも似た怒りを燃やす。

奇しくも巨人の悪辣な行動が動けない彼女達を動かした。

術とスキルで─意味はないと理解しながらも─人々を守護する障壁を展開し、

続いてその矛先を巨人に向けた。ソレを倒そうという攻撃ではない。

せめて、と口の砲門への集中攻撃。発射阻止を狙った乱発。


──GUGYA?


それ自体は集束する白き光球が盾になって砲門に届かない。

だが怯える姿を見せると思った巨人にとってそんな激しい抵抗は

想定外であったのか彼女らを見下していた下卑た笑みが苛立ちに歪む。

路面にめり込んでいた足を抜き、再度叩きつけて地面を揺らすが

既に心折れた者達は無反応で、必死に抵抗する少女達は意に介さない。


──GAAAAaaッッ!!!


後者はともかく前者は巨人自身の望んだ結果であったろうにソレは

腹立たしいとばかりに砲門を向けたまま、開いたままの口から大気を

震わすような咆哮を叩きつけた。だがそれも反応を返す者は皆無だ。

多くの者にはその感情が消えており少女達はそれどころではないから。

不愉快に醜い顔をさらに歪めた巨人はならばもう消えろと光の集束を

加速させ、照準を固定させた。それは少女達を中心とした一帯を、

そこにいる人々を跡形も無く、誰一人逃さないのを明確にするロックオン。

尤もそれさえも誰かの反応を引き出せはしなかったが。


──GYAAAOOOッ!


皮肉な話、追いつめている巨人の方が屈辱を感じた様子であった。

そしてそれが最後の引き金となった。先程よりも短いチャージ時間。

されど彼らを滅ぼすには充分だったのか巨人は白光を解き放つ。

文字通りの光速。視界を瞬時に白色に染め上げ、一瞬よりも速く

全てを漂白してこの世から消し去ってしまう無慈悲な断罪の如き悪意(苛立ち)

これを避ける、防ぐ手段などなく、これにて少女達の結末は決まった。

巨人は直前までの不満を忘れたように発射と共に口角を吊り上げる。


〈────────いいえ、お前は時間をかけすぎたわ〉


幸か不幸か折れている者達は結果を理解する意志が失われている。

だが一方で意志を曲げない(折らない)少女達はむしろその傲慢な白き光を睨み付けた。

だから、ソレを真っ直ぐに、しっかりと目に焼き付ける。


『フンッ』


不機嫌な声と共に白き終焉を塗り潰す黒き極光を。

どんな暗闇の中でも際立つ漆黒を纏う夜色の大きな背中を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巨○兵顕る。まぁ、消化できていれば問題ない(のか?)
[良い点] 主人公登場ぉおおおおおお!! [一言] 更新頑張ってくださってありがとうございました
[一言] データ消失... OneDriveかDropboxのフォルダでテキスト管理とかなら巻き戻し出来るし、 サクラエディタとかも定期的に保存する機能あるし 色々防ぐ方法はあるので悲劇を繰り返さずに…
感想一覧
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