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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第二章「彼が行く先はこうなる」
222/286

歓迎都市シーブ3








カラフルな街だ。

それが高峰(たかみね)大吾(だいご)が抱いたシーブの第一印象である。

これといって建物等の色合いが多色で溢れているわけではなかったのだが、

ゲートシティ・オルゲンが“白色”のイメージが強かった分、明るめの色彩が

多い街並みにそんな印象を抱いただけ。だが、しかし。


シーブ中央駅。オルゲンからの直通の─一風変わった─地下鉄により訪れた

場所は日本人からすると駅前の華やかさと異世界の奇妙さを併せ持った光景であった。

まるで毛先を切り揃えた頭のように同じ高さの建物が等間隔に並ぶ街並みと

日本のそれを参考にしたのだろうその中身(ラインナップ)。見慣れた全国チェーンの

コンビニに各種ファストフード店、格式高いものから格安まで揃う有名ホテル群。

ガレストらしさといえばところどころに外骨格やスキルの店舗型体験施設が

こちらでいうゲームセンターのような外観で見受けられ、それなりに

盛況しているようだ。それだけならまだ奇妙というほどではないが、

車道では鎧を着込んだサイのような生き物が荷台を引いていたり、

四足のロボットが疾走している光景は一般日本人の大吾には見慣れぬもの。

旅行者らしき地球人たちもその6割は似たような顔で驚いているので

自分だけではなかったかと人知れず安堵する彼だ。そんな行きかう人々も

意外か妥当か割合は案外半々で地球人とガレスト人が丁度混ざっている。

歓迎都市、観光を第一とした都市としては妥当なところなのだろうと

大吾はその大柄な長身が邪魔にならぬよう建物の角から街並みを覗く。

目に痛い色はないが、やはりカラフルと思うがそれ以上に何かが違う。

違和感があるといった方が正確か。


「信一や武史ならこれをうまく言葉に………だめだな、うん」


それぞれ別方向に妙な鋭さを持った幼馴染たちなら自分の感覚的な疑問を

明言化できるだろうと思いかけたがすぐに首を振った。彼らはきっと

ろくでもないあるいは身も蓋もない表現を使うので、やめた方がいいと

本能が警鐘を鳴らす。人間の善性を基本信じていない幼馴染Tは評価が

辛辣で何事も黒く(悪く)見る傾向があり、変な方向で人の機微に聡い幼馴染Sは

当事者が自覚してない意図や本音を悪気なく暴いてしまう傾向がある。


「………今更だけど俺よく友人やってたな」


その数々を思い出して苦笑してしまうが前者は大吾の善性は信じ、

後者は今回のような頭のモヤを取り除いてくれる爽快さがあった。

だからだろう。最近再会したばかりと昔に別れたままの幼馴染両名の顔を

脳裏に「元気でやっているだろうか……主にあいつらの周りの人達」という

心底からの心配が口から出そうになってなんとか止める。口は災いのもと。

あるいは幼馴染たちがよく使う言葉でいうフラグか。手遅れの気がするのを

全力で無視して寄りかかっていた建物の壁に触れる。一瞬あみだくじのような

光の線が走って見えたのはガレストのことを事前に勉強していたゆえの錯覚か。


「えっと、確かにこういうのが一般的なガレスト建築でMB資材だっけ」


マイクロ・ブロック資材。ガレスト語の固有名詞は時として地球言語ないし

それに慣れた地球人たちの舌では表現しにくく耳では聞き取れないものが

ある。そのため翻訳の際にこんな翻訳家が仕事放棄したような安直な訳が

産まれるらしい、という雑学を内心で補足しながら彼は最近覚えた知識を思い出す。

一般住宅や民間施設等に使われる資材の多くは容易に再利用ができるように、

また損傷時に迅速で簡単に修復できるように、様々なサイズや形のブロック状に

なっているという。最小単位はそれこそマイクロだとか。

一般的な建造物の多くはその組み合わせで形作られているのだ。


「発想がまんまあのおもちゃだなぁ、歴史的にはこっちが先らしいけど」


接続面や継ぎ接ぎ部分、隙間等は肉眼では確認できず直接触れても分からない。

一般にはまだ技術公開されてないものの大元の素材がガレストには比較的

豊富にある物質を加工したもので、その特性を利用して接合状態での固定及び

解体時の分離が容易だということは明かされていた。


「とんでもない技術だけど、下手にいれると地球の建築業界大激震か…………ん?」


改めて、もはや『未来の技術』としか思えないそれに感心しつつも一応は

名目通りいきなり全てを地球側に導入したわけでもない証拠のようで

複雑な色の目を遠くに向けてしまうのはまだ彼の中で消化できないものが

あるからだろう。しかしその内心とは裏腹に遠くを、広くを見てしまった

視界に違和感が映る。


ナニカが僅かに動いた。


途端、何かに躓いて転んだらしい─髪色からガレスト人の─男が二人。

タイル状になっている路面に顔面から飛び込んだ形となった男らに続けてと

ばかりに手の平サイズの立方体が背中目掛けて落下した。小さな呻き声から

衝撃はあったようだが最初の転倒にも落下物へも痛みは無さそうである。

当然だ。ここはガレスト。旅行者ですら防御用スキルを常時展開する装備品を

所持するのが義務付けられている世界なのだ。その程度では痛みにまで届かない。

とはいえ人目の多い駅前で男二人組が派手な転倒をし落下物にまで襲われたのだ。

注目を集めてしまうのも当然であり、男らは恥ずかしい姿を見られているとでも

思ったのか顔が真っ赤だ。そしてそれを視界の中心で見た場合、その隅で

─────誰かがほくそ笑んだ。


「………………ええぇ?」


なぜ気付いてしまった自分。どうにも素行がよろしくないらしい転んだ男達の

それらしい喚き(見世物じゃねえぞ!)を尻目に大吾は内心で頭を抱えた。これは絶対に関わっては

いけない類の予感がするのだが件の人物は何やら手元で指を動かしていた。

その目に慈悲も享楽も憤慨も熱さも冷たさも何も感じなくて、だが男らを

横目ながら獲物と捉えている独特の雰囲気に大吾は現実で頭を抱える。


「おいおい、そういうのはあの二人だけで勘弁してくれよ!」


だからこそ彼は走りださずにはいられなかった。






ハリボテの街ね。

プライドの無さが窺い知れる自分の色を失った街並みを一人で彼女はそれこそ

温度を持たない瞳で眺めた。異世界(地球)に寄せる気遣いや必要性ぐらいは認めるが

行き過ぎれば滑稽にしか感じない。これで旅行者たちがガレストを知った気に

なられた方が迷惑でしょうに。ただでさえガレスト都市の横のつながりは薄い。

シーブ市民でさえ最近これをスタンダートと勘違いしている者が増えている。

嘆かわしい、と思うほどシーブにもガレストにも彼女は思い入れはないのだが。

せいぜいそれで諍いが起こっても巻き込まれたくはない、という程度。

アンニュイな表情でそんな考えをした女は膝丈のスカートを翻しつつまるで

人波をその眼光だけで開かせるように、それが当然かのように街を歩いていた。

造り物かと疑うような完成されてはいるがどこか血の気が、暖かみの無い美貌は

人目を逆に遠ざけていたが当人はその方が気楽とばかりに無造作に薄紫の

長髪を背で揺らしながら。




彼女が駅前に来たのはただの暇潰しといった理由以外は何もない。

目的無き散策といえば聞こえはいい。いいだろうか。よい気がする。

シーブという街並みは好きにはなれないが歓迎都市、観光都市として

曲がりなりにも成功しているがゆえの人波は嫌いではない。それだけ数が

集まればやはり様々な反応が起こる。つまり、見世物に(・・・・)事欠かない(・・・・・)

地球の娯楽であるドラマなるものもあれはあれで面白いがやはり一番は

生の反応を持つリアルな人間だろう。あちらでは家族連れの子供が駄々を

こねてぐずっている。そちらではカップルが些細なことから口論中。

こちらでは間抜けな呆けた顔で街並みを見る旅行者。さて次は、と

今すれ違った男達は確か先程強引なナンパを盛大に失敗した者達か。


「くそっ、あのブサイク! せっかく俺らが誘ってやったのによ!」


「何が忙しい、だ。あの程度の女にそんな用事があるわけねえ。

 寂しい時間を埋めてやろうっていう親切断りやがって!」


おっと、これはいけない。

自らパートナー、ないし今限りの友好相手を探そうという意気は買おう。

どこかに引き篭もって、いもしない運命を待つより余程有意義である。

だが自分から誘っておいて、反応がよくなかったからと相手を貶めるのは

良くない。じつによくない。その主張を良しとすれば遠回しに自分は

見る目がないと宣伝していることになる。またその悪態が負け惜しみにしか

聞こえないことが理解できないとも宣伝している。これもよくない。

よくないが、もっとよくないのはこの手の輩はきっとこのあとその苛立ちを

無関係のナニカに当たるのだ。ああ、間違いない。

だから────その前に遊びましょう。


「ふふ」


通行人の邪魔になってはいけない。待ち人でもいるかのように建物を

背に立って何もない空間を指で弾く。地球人からは妙な動きに思われるが

不可視化した空間モニターでも弄ってるのだろうと同郷人たちは気にもしない。

実際にはそんなもの()使っていないのだけど。気分の問題だ。

だから指に合わせて片手を合図のようにくるりと回す。

途端に狙った歩道の一部が盛り上がる(・・・・・)

ちょうどいい位置に出来た段差に男達はあっさり足を取られて間抜けな声

と共に転んで顔面から道路と熱いキス。いくら盛ってるからって

そんなものとの接吻は勘弁したいところね。などと内心でだけ

ほくそ笑んだ彼女は今度は逆方向に手をくるり。誕生したばかりの

段差は消え、代わりに上でナニカが外れる音。ソレは重力に従って

計算通りの位置に落下すると道路に欲情する変態達を呻かせる。

運悪く(・・・)建材の不具合で落下したブロックが当たったのだ。

その無様さに周囲の視線が集まったのに顔を真っ赤にする姿は本当に間抜け。

さて、締めを決めよう。もう一度指で空間を弾いて、手をくるりと───


「───はい、そこまで」

「っっ!?!」


回そうとした腕を突如誰かに掴まれる。痛みを感じない絶妙な力加減だが

同時に逃がさないという意志の力みがあった。呼吸が、思考が、一瞬止まる。

それでも表情を変えず、動揺を示さずに腕を掴んだ存在に視線を向けた。

背の高い、がたいはいい男がいた。少しばかり顔を見上げるのに苦心したのが

どこか煩わしい。顔つきからすれば成人男性か。特出するほど美形でも醜くも

強面でもない。どう表現すればいいのか迷う容姿ではあったが精悍とはいえる

それに黒髪黒目。彼女は黒髪の東洋人という単語を頭から引っ張りだして

旅行者だろうと当たりを付けた。しかし、なぜ自分はこの男に腕を掴まれているのか。

しかもその際の発言はまるでこちらが行おうとしていることを察しているかのよう。


「……なにかしら?」


そんなわけがないと平静を装いながら抑揚のない声で、しかしどこか咎める

ニュアンスで問いかける。続けて反論や言い訳も許さぬとばかりにまくしたてた。


「いきなり腕を掴むなんてマナーがなっていないわね。

 それともこれが地球流の最新のお誘い方法なのかしら?

 だとしたら趣味じゃないわ……離さないと大声をあげるわよ?」


強い語気での脅しと人を威圧する眼光は─虹彩が赤ゆえ余計に─大概の

相手を怯ませる。はずだったのだが、男はどこか慣れた様子で平然と言葉を返した。


「ああ、うん別にそれでいいよ。

 俺が恥かいてどっかに連れてかれるだけだから。

 けどその前に、足から伸ばしてるヤツを引っ込めてくれ」


「っ」


言い当てられた(・・・・・・・)動揺で、彼女は歩道に突き刺していたモノ(・・)を引っ込めてしまう。


「お、素直、ありがとうな。

 悪かったよ、さすがにいきなり足を掴むのもどうかと思ってさ」


そっちだったら一発で逮捕だな、と苦笑する男は安堵したようにあっさりと

腕を解放した。さらにこれ以上は何もしないと示すように自らの両手は

降参するように上げて、だ。しかし彼女の方がそれで安堵などできない。

自分がしていたことを全て見抜いたかのような発言に警戒心が

一気に跳ね上がっていた。


「あなた、いったい?」


「別にたいした者じゃないさ。見ての通りの地球からの旅行者だよ。

 ただあれ以上はやり過ぎだと思ったからお節介させてもらっただけ……」


ちらりと彼は背後を気にしながらぼそぼそとした小声で誤魔化そうとするが

とてもそうは思えなかった。そんな言葉通りの存在がこれまで一度として

誰も気付かなかった自らの所業を見抜くなどあり得ない、と。


「嘘です! 何が目的で、いえ、いったいどこの誰に雇われましたか!?」


「おおっと、もしやそういうことされそうな家の人!? って声が大きい!」


存外に大きな、怒鳴るような声になってしまったのを当人が一番驚きつつも

表情だけは平然としたもので、鋭い眼光を叩きつけるが頭一つ以上は高い

位置にある顔は素直に『厄介なの引いてしまった』と苦笑を深くしていた。

その落ち着きが、ともすれば背丈とは違った意味での上から目線とも

とれる態度に彼女は甚だ納得いかないと赤の瞳に険しさをより乗せた。


「そういうんじゃないんだけど、証明するのって悪魔のやつだよなぁ。

 仕方ない、まずは身の安全からか」


「なにを…」


「ちょっと持ってて」


一人困惑し一人納得したかのように男はナニカを腕から外すと女へと軽く投げた。


「え、っ!?」


途中からそれがなんであるかは理解したため思わず受け取った彼女はしかし、

息をのんでしまう。それは飾り気のないブレスレット。地球からの旅行者に

貸与されることの多い防御用装身具。ガレストでは誰もが身に付けている、

決して外す事のない最低限の鎧。彼は、今、それを、無造作に脱ぎ捨てた。


「っっ!」


慌てて彼女はMB資材の歩道を足裏で叩いた。無表情とさえいえた

造り物の美貌を驚愕と苦々しさでいっぱいにしながら。


「あはは、その顔やっぱ俺にも何かしようとしてたね。

 若干肝が冷えた……こういうのは信一の役目(やり口)だってのに」


柄じゃない、と肩をすくめた大男。冷や汗まじりなのは自らに差す影から

大枠の状況を察しているからだろう。いま彼の頭上では拳大のブロックが

浮いている。正確には近くの建物から伸び出た柱と衝突(結合)して

停められていたというべきか。


「あなた正気!?」


わかっていてやったのかと暗に問い詰めるそれに再び苦笑する彼だが

それには答えずに、されど彼女の背筋を凍らすほどに正鵠を射る言葉を吐いた。

 

「確認だけど、君があの二人に何かされたわけじゃないよね?」


「………」


「やっぱり……一応言うだけ言うけど、態度が悪いとかナニカを

 やらかしそうな奴だからって遊んじゃ(・・・・)ダメ。そこ免罪符にしない」


「なっ」


「けどまあ、そういう線を律儀に守ってる人だから

 ケガしかねない状況なら止めてくれると思ったけどね」


「…………」


見込み通りで良かったとアハハと朗らかに笑った大男に呆気にとられる。

不思議と「お前は私の親か」と説教に反発する気も、こちらの善性に

頼った無茶を怒る気にもならなかった。前者は声には否定感が無く、

後者は単純に悪い気はしなかった。というのもあったがいきなり腕を

掴んできてまで止めにきた割に呑気な様子に毒気を抜かれたのが正確だ。


「あ」


その緩みとでもいうべき隙間に、誰かが大男の肩を掴んだのが見えた。

注意も警戒も出来ないまま、けれど相手が完全に彼の真後ろにいるせいで

姿が殆ど見えない。けれど剣呑な空気と振りかぶられた拳は把握した。


「おいっ、てめえだ、なっ!?」


なかなかに、キレイな動きだった。

掴んだ肩を強引に引く形で男を自分に向かせた誰かはそのまま

耳障りな怒声と共に顔面目掛けて拳を突き出したが、男は反射的に

首を横にして避けると流れるような、体に染みついたとばかりの動きで

相手の腕を掴むと勢いを殺さないまま背負うようにして投げ落とした。


「がっ!?!」

「…あっ」


地球にあると聞く何らかの対人戦闘技術なのだろう。

相手の勢いを利用した重心移動による、力ではなく技の投げ。

身体能力、殲滅能力重視のガレストにはない『人を倒す発想』の術。

ただ、動きそのものは美しかったが行った当人はその顔に素直にも

「やってしまった!?」という焦燥を浮かべた。一連の全ては意図して

ではなく反射で行ったのだろう。


「だ、大丈夫ですか! って変な落ち方してる!?」


美しい流れでの投げと打って変わって相手は不恰好なありさま。

そこにいたのは転ばせた男達の片割れだが、腕が伸びきった状態で

MB資材の大地に頭から激突する形、になっていた。ただ、歩道には

傷も罅も入っておらず衝撃はシールドで防がれたというのに男の顔に

あるのは苦痛を訴えるそれだった。それに慌てたのか大男が手を放せば

支えを失って変な角度で倒れる始末。無様。


「っ、ぁ、が、腕が、肩が…ぐうっ!?

 な、なんでっ!? シールドあって痛ぇんだよっ!?」


「あちゃあ、脱臼まではいってないけどこれ結構痛めてるかも」


痛みを訴えて悶える男を軽く触診した大男はそうごちるが彼女は疑問だった。


「……ねえ?」


「え、なんですか?」


「どうしてこいつ痛がってるの?」


「ええっと、多分……受け身を取れずに変な姿勢で落ちたから俺の

 引いた腕が結果的に無理矢理引っ張ったみたいな形になったんだと思う。

 関節へのダメージってやり方によっては装備次第で判定外になって

 通用するとかなんとか前に授業で聞いた気もするし」


「…通常接触扱いの動作による瞬間的なダメージだったから通ったわけね。

 こいつの耐久ランクなんて知らないけど、余程高ランクでもない限り

 そういう特殊なのは通りやすいから……ありがとう、勉強になったわ」


「ど、どうも………って君もマイペースか!?」


どうしてこの手の奴は、と大男は呆れたような顔を向けてくる。

何かいいようのない不快感を覚えた彼女だがそれを示す前にもう一人が

喚き散らしながら突撃してきた。


「くそっ、てめえら離れやがれ!」


相方から自分達を引き離す目算か。肩を怒らせながらのそれに

彼女も彼もすっと男達から距離を取る。ただその表情は両者で違う。

大男は刺激しないように神妙なそれであったが女の顔は邪魔されたと

ばかりに不機嫌なそれで男達を見下ろしていた。


「大丈夫か! ちくしょうっ、よくもやりやがったな!」


「いやいや、待って待って!

 いきなり殴りかかってきたのそっちでしょ!?」


「うるせえっ! だったらその頭の上のやつはなんだ!

 さっき俺らに落ちてきやがったのと同じじゃねえか!

 なのになんでお前らは無事なんだよ!! なんかしやがったな!!」


お前らが原因なんだ、そうに決まってる。恥かかされた責任をとれ。

などと無茶苦茶な理屈と発言ながら真相を言い当ててはいる男達。


「本能だけでい…」

「落ち着けっ、これは事故だ! 何か不具合があったんだろうさ!

 それがたまたま、そうたまたま重なってぶつかりあって俺らは無事だっただけ!

 それに俺達は知り合いでもなんでもないし、なぁ!?」


本能だけで生きる能無し(バカ)は勘が鋭いわね、などと思わず口走りかけた彼女の

言葉を遮るように間に入り込んだ大男はより大きな声で、両手を

大袈裟に動かしながら自分達は無実だと、運が良かっただけの

同じ被害者だと訴える。真っ赤なウソだが既にブロック落下を

ブロック柱が止めた現象で集まっていた人目はそちらの見解の方を

正しいと受け取ったようで、いつのまにか出来ていた人垣の輪からは

納得するような声が聞こえてくる。おそらくは男達の主張の方が単に

言いがかりにしか聞こえなかったからだろう。


「そうね…」


この状況に、乗るべきか乗らざるべきか。乗らずにさもこの大男と

親しいふりをして場を引っ掻きまわすのもそれはそれでその後が

面白そうであったがこのやかましい男達に付きまとわれるのは面白くない。


「今しがた下手くそな誘い(ナンパ)をしてきただけの他人よ」


「ほら!」


だから落ち着こうよ、人目も集まってきているよ。

と大男はその体躯に見合わず腰の低い態度で男達を宥めていた。

だが予想だにしない痛みを与えられた男と衆目にさらされ、より

大きく恥をかかされたと思っている男達に納得する素振りはない。

大男も気付いてか説得しながらも彼らから距離を取り始めていた。


「うるせえっ!!」

「わっ!?」


それが幸いした。乱暴に振るわれた腕の先には短くもフォトンの刃。

護身用短剣の類が握られていたが間一髪、大男は飛び退いて避けられた。

体躯に見合わず、反応と動きが良い。と感心していれば周囲から悲鳴、

そしてそれ以上の非難の声が出る。


「おい、みっともない真似してんじゃねえ!」

「うわぁ、逆ギレして武器出すとかないわー」

「このシーブでガレストの恥を見せおって…」

「カッコわりぃおっさん達だな」


武器への怯えがあるのはほぼ地球人観光客が大半。ガレスト人達は

侮蔑の視線と端末から伸びる銃口を向けていた。男たちが不当に武装を

出したのを検知して彼らの端末に武装展開許可が下りたのだ。勿論どれも

非致死性武装で対象の拘束を念頭にしたもの。それらに取り囲まれたも

同然だが血の気が上った男達は大男と彼女だけを睨みつけていて、

周囲の声など耳に入っていなかった。自分達がいかに詰んでいるのか

気付いてすらいない。ゆえに誰もが次の瞬間に起きる武装不当使用による

現行犯逮捕劇を疑っていない。


しかし、そこには誰も予想してない問題点がある。


彼女と彼らの間に立つ形になっている大男。

彼は貸与されていた防御用装身具を先程から外したままなのだ。

そしてそれを知っているのは当人を除けば彼女だけ。そして周囲の

誇りある血気盛んなガレスト市民は最低限の訓練しか受けてない民間人。

近距離でも誤射は当然あり得る。また非致死性武装といってもそれは

防御用装身具をつけている相手が基準になっている代物であった。

が、彼らの頭には『装身具を外した人間』などそもそも存在していない。

大きく外さなければ問題無い。感情で武器を出す人間を放置する方が危険。

それが一般的なガレスト人の感覚であり意識であった。ゆえに残念ながら

現在一番危険な目に合う可能性が高いのはこの大男の方。


「………」


──────それはさすがに私の筋が通らない

周囲が武装を向け始めた瞬間に出したそんな結論と斜め後ろから

覗き込むように見上げた横顔に彼女は自身が目立たないことを諦めた。

冷や汗だらけで緊張感を見せる表情は真剣だ。男達二人組とは別の意味で

周囲に注意が向いていないが刃物を取り出して自分たちを狙う相手が

目の前にいる以上当然の反応といえる。だというのにその位置から

微塵も動こうとしない姿勢の彼に、コレならいいか、と妙な許可を

自分に出して彼女は脚を増やす(・・・・・)

そして、


「上を見たら殺すわ」


「え?」


彼の戸惑いを置いて、人型ではない影が大男を飛び越えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] あー、やっとこの女性の正体が分かったマン
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] 春来た!
[一言] 狐かな?
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