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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」
209/286

04-121 経過と出発9

デトネーションされちゃった(意味不明)

悔しい!あんな小さい女の子たちに泣かされるなんて!(誤解を招きそう)



と関係ない話をしたところで本編の続きをどうぞ!






強い口調での、詰問のそれともいえる言葉が向けられた。

だが、それを語る彼女の顔にあるのは案じるような憂い。

思わず意図を取りあぐねて目を瞬かせるも、ある種言葉以上に

雄弁なその表情に目を泳がす。フリーレが何を指摘しているのか

分からないシンイチではない。今問い質してしまった感情(心配)も。

これも彼女の中では約束の範囲なのか他の二人には伝わらない言い回しを

使う姿勢には微笑ましいものを覚えるが自分には情けなさしかない。

案じさせていたのを気付いていなかったのか。


「ははっ、わりといつも通りさ、大変そうだろ?」


少し考えれば分かりそうな気持ちを見逃していた落ち度。

教え子が難儀な状態にあると知って、その実例を示されて、

心穏やかでいられる女性ではないととっくに知っていたのに。

ぼかした形ではあってもソレを教えたのは自分だというのに。

自らへの苛立ちを抑えるように彼は軽口を叩いていた。


「お前な…」


「だからフリーレの力を貸してもらっているんだ。

 知っての通り俺はDクラス所属の落ちこぼれだからね、手伝ってよ」


表の立場や実績がない自分ではどうしようもない事が多い。

そう嘯き、おどけながらも本心からでもある助力を求めた。

彼女はそれにしばし黙るも、されどあっさりとこう答えた。


「そこはいい」


「は?」


「だからそれは別にいいんだ。いくらでも力は貸す。フォローもする。

 しかし、こんなのが続くというならお前はいつ休める(・・・・・・・・)というのだ?(・・・・・・)


両隣で息を呑む声。そして彼自身もそんな当たり前に面食らった。

その不可思議さへの疑問より、その異常の問題より、彼女は

ただ普通に目の前の少年の身体を心配していたのである。

冗談のように事件を引き寄せ、連鎖していくというのなら、

お前の安息はどこにあるのだとどこか責める声色さえ混ぜて。

それは彼が想定していた案ずる気持ちより一歩先の話だった。

今更ながらに気付いてしまう。純粋過ぎて、真っ直ぐ過ぎて、

時折誰よりもフリーレという女は心情と行動が読みづらい。

どこかの令嬢とは違った意味で自らの天敵かもしれないと困るような

何故か嬉しいような感慨を覚えて、まいったとばかりに天を仰ぐ。


「──────まあ、わりとこの手の時間がそうなんだけどさ」


「なんだ?」


「なんでもないよ。

 ってか常日頃からぐーすかと寝てるのはよく知ってるだろ、先生?」


「ん……それは、つまり、あれはそういうことなのか?」


遠回しのかまかけは気付けずとも、さすがに解るようにヒントを

出されれば彼女も察したのか。苦笑いと共に呆れたように首を振った。


「まったく、お前は本当に困り者の生徒だよ。

 これでは居眠りを見つけても小言もろくにいえないじゃないか」


「うん、地味にそれ狙った」


満面の笑みで本音を告げれば、溜め息と「極力私の前だけにしとけ」

という目こぼしの通達が返った。当然彼の返事は「善処する」だが。

彼女はその正直さに困ったものだとこぼすが“らしい”と感じたのか。

力の抜けた、気安い笑みを見せた。教師として、大人としての顔を

完全に忘れた幼いとさえいえる純粋な笑みはどれだけ彼女がシンイチに

心を許しているかの証明のよう。尤もそれに穏やかな面持ちを浮かべた

彼自身と違って両隣は呆気にとられていた。


「……最後の最期で全部持ってかれた気分。

 これでトモトモ以上に自覚ないんだもんなぁ」


「あはは……ですが先生のご指摘は至極真っ当、やはり強敵です」


令嬢はそこに考えが至らなかった自らの不明を恥じながらも

卑屈にならずに、ただ恋敵として争う価値があると燃えていた。

それにやれやれと首を振りながら彼女の横顔を覗く狐娘は果たして、

自らのその視線に含まれた羨むような色を理解しているのか。


──当人を挟んでする顔じゃないだろう


双方のそれを横目で把握しながら素知らぬ顔をするシンイチだが

内心では地味な気恥ずかしさで苦笑気味である。その表情が、想いが

向かう先が誰かという事を誰よりも理解しているがゆえに。

根の部分でシンイチという少年は自らに向けられる好意に不慣れだ。

よくからかって遊ぶのは趣味・実益半分、照れ隠し半分か。


〈次元渡航管理局クトリア支局から入電。渡航申請が許可。

 合わせて空港から渡航機とゲートの準備が整ったと連絡〉


「ん、そうか、分かった。

 さっきのすぐでなんだが……ナカムラも来てくれ」


白雪からの報告に教師の顔となって腰を上げた彼女だが、シンイチへの

それには少しばかり申し訳なさがある。助力を求められた直後に、

その彼女がシンイチへの助力を請うことになって微妙な気分なのだろう。

だから、でもないが彼は気にした風もなく頷く。


「あいよ、問題児()の監督兼問題がないかのチェックだな?」


「助かる───ほら、お前達もそれぞれのクラスの所に戻れ!」


素直な感謝の後、ラウンジに響くように声を張れば生徒達は

条件反射かという速度で全員が立ち上がった。尤もシンイチは

皆の反応に戸惑いながら追従する形で、あったが。

素があらわになりつつあっても一度染みついた偶像の鬼教師への

畏敬か怯えはまだ有効らしい。


「……これでようやくガレストへ、か。

 日数でいえば転入してから約一月半……長いんだか短いんだか」


全員が連れ立つようにラウンジを後にする中。

彼は窓越しに異世界への扉ともいえるそのゲートを見据えた。

果たしてどれだけがそこで彼が難しい顔をした事に気付いているか。


「……とりあえず出発すれば一時間足らずで到着だぞ」


「時間かかるのかよ?

 次元空間内は時の流れが無いんだろう?」


「お、体験者は語る、かいイッチー?

 まあ確かにそこはそうなんだけどねぇ」


「はい、ですが今の技術で異世界渡航をするためにはその影響を

 受けぬよう特殊なエネルギーフィールドで囲んだ機体や世界と世界を

 結ぶトンネルを用意する必要があるので、時間の影響を受けるのです」


「どうにかその特性を活かせないかと研究してる人はいるけどね。

 時間経過による劣化が無い保管庫に自然のコールドスリープ装置とか。

 実現できれば世界の常識がまた塗り変わるっていわれてるものさ!」


「おいおい、それまだ夢物語の代物だろうが。

 どうやって次元空間内で自由に活動するか。

 どうやってその特性を持ったままの空間を作るか。

 そしてその状態のままどうやって世界と紐付けするか、が課題だとか」


「詳しいわねリョウ。

 ……でもそれって殆ど全部できてないってことじゃない?」


さすがはガレスト学園の生徒達というべきか。

彼が投げかけた一つの疑問から始まった短い会話で答えばかりか

関連した話題が即座に飛び出し、その問題点まで提示されていた。

勉強になると彼が感心している事は果たして誰か気付いているか。


「というわけ……でもないが、移動中は特にすることもない。

 ナカムラは寝ていてもいいが……寝ないんだろうな」


休んでいてほしい、とフリーレの顔には書いてあったが、それと

同じくらい、無理なんだろうな、という諦めもそこに書いてあった。


「そりゃね。初めて乗る機体で初めてやる科学的な異世界渡航。

 そのうえ向かう先が初めて行く異世界(・・・・・・・・)となれば気が抜けないし」


「ははっ、お前からすれば確かに────はっ?」


その理由の前半部分は察していたであろう彼女達であったが、

最後に語られたソレに全員の視線が一気に少年に集まった。

狼狽える事もなくそこに浮かぶ悪戯な三日月に皆の顔が引き攣る。


「え、えっとシンイチさん?

 今しがたナニカすごいことを仰ったような…?」


「あーあー、ボクはいま何も聞かなかった!」


「だ、だから妙な事を知らなかったのかこいつ!」


「薄々疑ってはいたけど、普通こんな所で言う!?」


「特ダネだけど危険物過ぎて取り扱えないよ!」


苦笑い。耳塞ぎ。驚愕。愕然。混乱。

全員が形が違えど、あっさりと明かされた衝撃的な暴露に狼狽える中。

シンイチはすんなり信じられた事に平静な顔で驚きつつ、一歩横へ。


「くっ、何食わぬ顔でまた避けて! ナカムラ、頼むから

 そんな爆弾をいきなり放り込むな! 心臓に悪い!!」


空振りした拳骨を持て余した女教師は、されどその顔に縋るような

懇願の色を乗せて本気でやめてくれと訴えていた。尤もシンイチは

その反応が面白いとクスクス笑うだけだが。


「ああもうっ! さっさと行くぞ!」


これは反省も改める気もないと察したのかフリーレは彼の腕を掴むと

引きずるようにラウンジから直行できる搭乗口へと大股で突き進んでいく。


「お前達はちゃんとクラスの集合場所へ戻れ、いいな!」


顔だけ振り返った教師の怒号は激しいものであったが、その後ろで

引きずられている少年がとぼけた顔で「またなー」と気の抜けた声と

手振りをしているので彼らはただただ苦笑するしかない。

そんな視線に見送られるように引きずられる彼は皆の姿が

見えなくなると何かが切り替わるように顔から感情が消えた。

引きずっている教師は当然その変化に気付いていない。


「────頼むから、俺に引き寄せられてくれよ?」


人気のない静かな通路ですら響かないほどの呟き。

誰の耳にも届かない声は真実彼の願いでもあった。

きっと叶わないんだろうと薄ら理解しつつも願ってはいたい。

それが─不可抗力とはいえ─騒動のタネを持ち込んでしまう(・・・・・・・・)彼が

現時点で唯一出来ることなのだから。


だって、どうせ、もう、何も起こらないはずがない。


ならせめて自分の手が届く場所で起きてくれ、と願うのは傲慢か横暴か。

行動には反応が返る。どれだけ気を付けても、気を付けたがゆえの

結果が跳ね返ってくることもある。彼はそれをよく知っていた。


「だっていうのに、それだけじゃない、ときたか」


思わず無表情のまま鼻で笑いそうになる。

これから向かう初めての土地。初めての世界を意識するほどに

感じ取ってしまう不可思議な(懐かしい)可能性(匂い)があった。

そんな漠然とした感覚でしか分からない騒動の予感がもどかしい。

自分が関わったナニカがこれから先待っていることだけが解る、

というのは果たして心の準備だけは出来ると思うべきか。

それしかできないと嘆くべきか。

ああ、確かにこれでは休む暇もない。だから、なのか。

そう当たり前に言ってのけた女の手を逆に掴み直すとごく自然に

恋人繋ぎにして堂々と彼は自らの足で搭乗口へ進んでいく。

呆気にとられた彼女の“意識だけ”を置いてけぼりにして。

無論その後、搭乗口にいたスタッフに一瞬だけ訝しげに見られて

慌てたフリーレがうまく誤魔化せずにあたふたする一幕を彼は

隣で最大限に楽しんだ。



〈───────〉



それを無言で記録する端末(誰か)を失念しながら。


これで一応、修学旅行・日本(地球)編は終了です。


ガレスト編へと行きますが、うん、ちょっと、待たせるかな?


11月中にスタートできるよう善処します………


うん、こう書くと読んでる人に疑われるな(汗

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― 新着の感想 ―
[一言] ファランディアがガレストで関わってくるのはこの話で確定として あと何話くらいかなぁ……
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