04-120 経過と出発8
とはならなかった……うむ、このシーンだけでもちょくちょくいけると思ったのだが。
宣言していた日付を超えたことお詫びします………いつまでも想定が甘いな、俺。
「ナカムラの言う通り、ここまではランド側も把握してる事情に過ぎん。
─────よくわかったな?」
最後だけシンイチにだけ投げかけられた言葉に彼はまあなと返す。
「批判を恐れた程度で全員が隠蔽に動くのは少し理由が弱い。
腐敗は組織の常とはいえ、この国で生まれ育った人間としては
さすがにそこまでではないと思いたいしね」
別の思惑があるはずだという確信とそうであってほしい希望。
それらを一緒にこぼしながら視線を送ればフリーレは頷いた。
「どうも捜査機関の方がある理由で公表を差し控えたかったようだ」
「ドゥネージュ先生、わたくしも聞いていませんが?」
「そこは私も不思議だ。そもいくら未然に防いだ立役者役であっても
捜査情報など本来聞かされる訳がない、はずなのだが何故私だけ…?」
意味が解らない、と戸惑いと疑問を素直に顔に出して首を傾げる。
それを見かねたのか答えを提示したのはあろうことか彼女の端末だ。
〈やり取りを分析した所、元ガレスト軍人の立場から意見ないし
何らかの情報を引き出そうとしていたと推測〉
「ん、そうか。彼らはそれが狙いだったのか。
…って分かってたのなら教えないか白雪!」
〈要請がありませんでした〉
「なんでお前はそういう所だけ機械的なんだ!
最近はずっと好き勝手してるくせに!」
生みの親に一度文句をいってやると気炎を吐く彼女を余所に、
機械にすら見抜けた会話の意図に気付けなかった教師の姿に
シンイチは笑えばいいのか泣けばいいのかかなり真剣に悩んでいた。
「……フリーレの鋭い所と鈍い所の差が微妙にわからん」
「君がいうなという話だけどね」
呆れたような声色のシンイチに、だが気付けば空いている方の
隣に腰かけていた狐娘が冷静に突っ込む。
〈回りくどい発言が多数。言葉の裏を読めなかったと推測〉
そんな様子を白雪は拾っていたのか。一応の弁護らしき
情報を開示したもののそれは妙な哀れみを深めるだけだった。
「ああ……ナニカ知ってることがないかとカマをかけたつもりが
理解できなかったためにあっさり避けられたのか……不憫な」
勿論それはフリーレにカマをかけた相手が、だが。
まさか相手も彼女が純粋過ぎて話が通じていなかったとは夢にも思うまい。
何気なくフリーレ・ドゥネージュという女がこれまでその幼い素顔を
隠し通せていた絡繰りを垣間見た気分の生徒達であった。
「アハハ……それで先生、話を戻させてもらいますが、
肝心の裏の裏の事情とはいったいなんだったのですか?」
「ん、ああ、とはいってもさして難しい話でもない。
最後に現れて着ぐるみに倒された連中なんだが調査と取調で彼らが
地球とガレスト双方で活動している裏の傭兵ということが判明した。
どこからかの依頼を受けて犯人達の補助をしていたらしい」
ただ、依頼者がどこの誰かは末端である彼らは知らされていなかったが。
と付け加えられればこの場の面々ならその後の話は読めてしまう。
「その依頼者を追うために、ということですか?」
「そのためにこの件を公にして騒ぎを起こしたくない。
依頼者の目的の一つにはその混乱も含まれている可能性がある。
という判断が行われたのは事実だろう……実際、依頼遂行中に
何もさせないで拘束できたせいか結構な数の証拠品が出たらしい」
〈補足情報。
マスターへの発言内容から依頼者に見当をつけていたと推測〉
「なるほど、そういうことですか。
真の首謀者に心当たりがあり誰にとっても予想外の完全阻止で
手に入った証拠と時間。この機に一気に極秘捜査を進めたいから
余計な騒ぎは困る、といった事情に関係者の利害の一致が真相」
「私に聞かされた話によれば、そういうことだろう」
それが全てではないかもしれない、と慎重さか自信の無さかでそれを
匂わせながらも話し終えて一息ついたフリーレはカップの残りを飲み干す。
話に得心がいったのか頷くアリステルもこの先は日本の捜査機関の
仕事だろうと二人揃って自分達とこの件を意識から離そうとしていた。
しかし。
「ニャズダーのも、やっぱアレだよな?」
「多分イッチーの思う通りじゃない?
尻尾ぐらいは見せていくのは奴らの十八番だし」
小さな声での相談に彼女はすんなりと頷いて肯定を示す。
そして話すべきか否かを一瞬考えて───考えるまでも無かったと
まるで授業中かのように手を挙げた。
「先生、俺その首謀者知ってまーす」
「は?」
「え?」
「君ねぇ」
突然のカミングアウトに当然に驚く両名とふざけすぎだと影で
肘打ちするミューヒである。読んでいたので痛みはなかったが
表情だけは真顔に戻ったので意味はあったかもしれないが。
「…裏にいたのは十中八九『蛇』だ」
「なっ!?」
「へ、び、ですか?」
ただ、その名に対する反応は正反対のものとなった。
目を見開いて信じられないと愕然としているのがフリーレ。
思い当たるモノが全く無いという困惑顔がアリステル。
知っている前者にはそれを示すガレスト語となり、知らない後者には
単純な「へび」という日本語発音にしか翻訳されなかった結果でもある。
「アリスの立場でも知らないか。俺も一昨日初めて知ったんだが
双方の世界に別々にいた歴史の裏で暗躍する同名の秘密結社だそうだ。
なんでも異世界交流の交渉段階にて世界の垣根を越えて合併して
両世界をびびらせたとか」
「……お前には今更な気もするが、それはかなり上位の機密情報だからな」
それこそ今更ながら、ではあるが周囲を見回しながら冷や汗をかく女教師。
尤もとっくの昔に彼の手によって会話の中身が外にもれないよう結界が
張られているので無用な心配でもある。
「わたくし、それも知りませんでしたわ」
その中で語られた知らない話に令嬢は両手を握りしめている。
若干唇を噛むような表情は何かの感情を堪えているようでもあった。
「パデュエールはまだ当主の立場を継いだわけでもないし、
こちらにいれば深く実務にも関われないのだから仕方あるまい。
私も元帥閣下から昔聞かされたことがあっただけで軍人時代に
奴らそのものも起こした事件にも遭遇したことは幸か不幸か無い」
だから気にするなと慰められた令嬢は僅かに顔を歪めるもすぐに
─不承不承ながら─そうですねと納得した顔を見せた。
「それでナカムラ、どうしてあれが『蛇』の仕業だと……いや待て。
一昨日初めて? お前、知人の墓参りの後からどこで何をしていた?」
頷き、話を進めようとした彼女だが言葉途中でそこに勘付く。
これにシンイチは愉快そうに笑った。
「ふふ、鋭い所が出たな」
「茶化すな」
真面目に答えろとより鋭くなった視線に彼は解ってると頷く。が。
「美人のお姉さんとイチャついてただけだよ、ねぇイッチー?」
隣から誰かのような、嘘ではないが真実とは言い難い、発言が出た。
苦々しい顔をするシンイチを余所に多種類の視線が集まる。
「……ヒナ、お前まさかまだ気に障ってるのか?
アリス、そこの所くわしくって顔をするな。
フリーレ、その白い目やめろ、やましいことはない!
白雪、露骨に溜め息を吐くな!」
各々の態度に彼なりに突っ込むが彼女らの様子は変わらない。
意味は違えど妙な理由で注目されているのはさすがに居心地が悪い。
溜め息を吐きながらシンイチは強引に話題を元に戻すしかなかった。
「はぁ……単に『蛇』の実行部隊と遭遇して戦ったんだよ」
決して聞き逃せない内容によって。
そんな話を前にして再び茶化せるミューヒでもなく、
他の者達も真剣な面持ちで話の続きを待つ姿勢となった。
尤も狐娘の思惑は友人の慰めだろうと彼は当たりをつけているが。
「経緯は省くがそこで奴らが歌姫モニカ・シャンタールを狙ってると知った」
「モニカ・シャンタール……確か有名な混血の歌手だったか」
「はい、わたくしも何度か行事や式典などでお会いした事が……
待ってください、あの日彼女はニャズダーランドにいましたっ」
「なに?」
「そうです!
最後の爆弾は彼女のすぐそばに動かされていました!
まさかっ、あの事件そのものが彼女を!?」
「ああ、名持ち同士の会話ではっきり聞いたよ。
どこかの馬鹿が企てた爆弾テロを利用する計画が失敗したってな」
「歌姫暗殺を隠すためのカモフラージュってことでしょうね。
大勢の被害者の一人となれば誰も狙いが彼女だけだったとは思わない。
ありがちといえば、ありがちな手だけど……胸糞悪い」
「薄ら寒い話だ」
「気分が悪いです」
あの日の、人々の笑顔を間近で見ていたからか。
たった一人を殺すためにあの場の全員が犠牲になりかねない計画への、
知ろうが知っていまいが実感の無かった秘密結社への、嫌悪を
彼女達は隠そうともしていなかった。
「やっぱいいなぁ」
ソレを大切に思ってくれている心情を感じ取って彼の頬は緩む。
立場や経歴、心情は違えどそこに同じモノがあると感じ取ったから
自分は彼女達を気に入ったのだろうと理解しながら。
「しかし、その歌手は大丈夫なのか。
私が聞いた通りなら『蛇』は一回の失敗で諦めるような組織では……」
「ニュースになってない所をみると無事なようですが、
確か彼女は昨日ライブでわたくしたちと同じく北海道に……あ」
「ナカムラ、お前……」
まさかという二対の視線に否定する意味もないので正直に頷く。
そもそもこの話を自分から振ったのは隠す意味がないのと、
後々の手間を省くためだ。
「察しの通り、ライブの影でも戦ったし手も打っておいた。
しばらくは『蛇』も手を出せないはずだ……顛末や他の事情は
数日もすればお前達の耳にも入ってくるだろう。それが概ね事実だ」
何せ二人はモニカを守るために流した情報を知れる立場にある。
仮面に関わることならば正体に勘付いている彼女らは無視しないだろう。
その時個別に確認や説明を求められるよりここで前提の話を聞かせて
おいた方が手間がかからないと面倒臭がり屋な思考で考えていた。
尤もそれは彼女の呆れを誘ったらしい。
「君って本当に自分の事は抜けてるよね。
……あれ知った二人の反応をまるで想定してない」
「あ、何か言ったか?」
隣からそんな色の小声が聞こえた気がした彼だが背中の時よりは
注意していたとはいえ意識をあまり向けていなかったせいか
殆ど─特に後半を─聞き逃していた。
「ふふ、べっつにー」
珍しく彼が聴いていなかったと察したミューヒがニタリと
悪戯な笑みを浮かべたために彼は強烈な嫌な予感を覚えてしまう。
──あれ、俺また何か無意識にやらかした!?
経験則から、そうなのだろう、という確信に顔が引き攣る。
“ドレ”が原因か解らない辺りが自分らしいと思いながら。
だが即座にまだ目算が甘かったことを彼は思い知る事になる。
「──────ナカムラ」
「ん?」
「さすがに笑えないぞ、なんだその流れは?」
次は、来週のいつか………(進みが悪くてアバウトになった)
いいもん!明日はなのは見に行くから!リフレッシュするんだ!
もしくはデトネーションされるんだ!(されるの!?)
という露骨なダイマしてお別れです、では次の更新で!!




