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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」
204/286

04-116 経過と出発4


そのまま送信されたのを目で追った彼は端的に核心に触れた。

この後は見返りを要求する絵が見えたのだ。

図星だったのか。途端に音を立てて固まったミューヒは苦笑をもらす。


「あはは……バレちゃった?」


「そりゃ背後でずっとタイミング見計らっているばかりか。

 何度も息を整えて、落ち着け落ち着けって呟いていればね」


「うっ」


絶句する彼女の横顔は赤い。

それは事前に気付かれ目論見を見抜かれていた、だけではあるまい。

自分から彼と密着するというのは彼女にとってそれだけハードルが

高かったのだろう。それでも意を決して行ったとなればその目的は

その距離でなければできない話なのだろう。


「そ、そこまでバレてたら率直に聞くんだけどさ。

 結局モーちゃんのマネージャーたちってどこの誰なの?」


「ヒントは出したと思うが?」


「だからこそ、ともいうけどね。

 だいたい誰かさんと違って昨日の今日とかで分かるわけないでしょ」


「それもそうか……でもなんでお前がそれを気にするんだ?」


にやり、と意味深に笑って聞く彼に言葉に詰まったミューヒである。

その表情は理由を察しながらも言わせようとしているのが明白だ。


「き、君が放置してる以上危険はないんだろうけど、

 あんなちょこちょこ意味深につつくから気になっちゃうじゃない。

 これでも私だって彼女を守ったひとりなのよ、心配しちゃダメ?」


若干の拗ねと照れくささが混ざった声色に彼はクスリと微笑む。

遠回りはしていたが最後の一言が聴ければ文句などない。

だから彼もまた歪曲だが正直に答えた。


「素直でよろしい……まあ簡単にいうと、中央の三、だ」

「っ!?」


動揺を声や顔に出さなかったのはさすがか。

されど密着していた彼は確かに乱れた息遣いを確かに感じた。


「どこでその言い回し覚えたのよ………本当に?」


「調べれば意外にわかるものさ……本当だ」


それは所謂裏業界での隠語─の日本語訳─というものであった。

何らかのフレーズと数字の組み合わせのそれは前者が所属を、

後者が役割を示す形で使われる。この場合「中央」はガレストの

「政府」を示している。数字は近代化する以前のガレスト軍で兵科や

部隊の識別呼称が数字によるものだった事に由来する。その中で

「三」は今でいう情報部を示すのだがもう一つ、この場合はもっと

適切な役割もその数字は担っていた。それを日本語に訳すとすれば

おおよそこういう言葉となる──────秘密警護部隊。


「でも、だってそれは……っ」


それは、何らかの事情により公に護衛を配置できないが政府として

保護ないし監視しなければならない人物を時に当人にすら気付かせずに

警護する表向きには存在していない政府直属の特殊部隊だった。

昨日の事があったから動くというのならまだ分かるが彼女の

デビュー時から既に周囲を固めていたという事実に彼女は息を呑む。


「つまり彼女は……そういうこと?」


「ああ、歌の問題がなくても元々面倒な立場だったようだ」


それは厄介な事情を彼女が前から抱えていたという事に他ならない。

稀代の歌姫。異世界公開前から産まれていた混血。交流の象徴の一つ。

それらとはおそらく比較にならない、ガレスト政府にとって表沙汰に

したくない背景がモニカにはあるということだった。


「道理で昨日の一件で政府の動きが妙に迅速なわけね。

 事情を知られた仮面から遠回しに脅されてるようなものだし。

 その圧力を期待してイッチー、あの人達に仮面を見せたでしょ?

 ライブが終わってから怯えまくってたじゃない、可哀想に」


気持ちがよくわかるといわんばかりに同情的に彼女は笑う。

シンイチは否定も肯定もせずに微笑と共に肩を竦めるだけである。

しかしすぐさま表情を引き締めると先んじて釘をさす。


「言っておくがその事情の方を教える気はないぞ。

 本人も知らない、しかも政府が隠したい話だからな。

 さすがにお前ら側には簡単には教えられん。

 釣り合うような対価があるなら話は別だが?」


さて、今のお前らに俺が認める対価を出せるかな。

試すような視線に彼女は白旗を振るように苦笑する。

ただ、それは。


「オーケー、今はここでやめておく」


「賢明だ」


「ええ、さすがに睨まれるならともかく、

 羨ましがられるのはやっぱりちょっと慣れないし」


「は?」


困ったとばかりに頬をかく姿は彼の言葉に頷いたというよりは

何か別のことを気にしてどう対応すればいいか分からない様子だった。

ミューヒは視線を一瞬だけその原因の人物に向ける。見られている事は

気付いていたシンイチはそれで彼女の言い分を概ね理解した。


「仲良くやってるようで」


「やめてよ、立場が違い過ぎて胃と心がホントに痛いんだから」


「ハハ、それぐらいがちょうどいい」


真剣な顔つきでそう訴えるミューヒに、だが彼はそれでいいと笑う。

そして文句を返される前にラウンジスタッフを呼んで飲み物を頼む。

タイミングを外された、そして密着しているのを完全な第三者に

見られたという衝撃に固まった彼女は言うべき文句が吹き飛ぶ。

その間に運ばれてきたカップをソーサーごと受け取ると彼はそっと

隣に置きながら囁く。


「巴、飲み物ここに置いておくぞ」


「あ、うん、ありがと」


視線は一度も古書から離れないがしっかり把握していたのだろう。

すぐさま片手が探るように動いてカップに触れると口まで運んだ。

それを横目で確認すると静かに立ち上がってその場を離れる。

何故か首元から離れないミューヒを若干引きずるように、だが。

彼女自身そこに不満はないのか。やっと復帰したのか。

変わらない耳元の距離でおかしそうに呟いた。


「…君のそういう所、一周回って感心してきちゃった」


「何の話だ?」


「無自覚にポイント稼いでる所かな、しかも全方位に」


「は?」


本気で分からないと顔に書いてあるシンイチに彼女はクスクス笑う。

しかしそれ以上は語る気が無いらしい彼女に一度首を傾げた彼だが

まあいいかとばかりに足を進めた。その文字通りの背後で狐娘は

機嫌良く笑ってしがみ続けていた。


「…ルオーナの奇行は今更だけど、彼の受け入れっぷりは凄いね」


「違う、あれはマシになったっていうべきだ。

 オレが初めて見た時は放り投げられてた……ってこっち来る!?」


そんな光景を死んだ目で眺めていた彼等のもとへシンイチは訪れた。

慌てて我に返った二人の前で足を止めると苦笑しつつ声をかける。


「さすがだなヴェルブラ。結構操作が楽になったぜ、助かった」


フォスタ片手に告げれば、死んでいた彼の顔には活力が満ちる。

名前をつけるとすれば自信と好奇心が多分に含まれた活力が。


「でしょでしょ! こっちも面白い作業させてもらったよ。

 今まで色んなとこ弄ったけどそこは初めてだったからね」


「あらま、いつのまにフォスタを違法改造したの?」


「気持ちは分かるが違法じゃねえよ」


「そうそう、今回()クイックエクストラクト用の調整と

 技術科生徒に許されている範囲の部品交換ぐらいさ。

 10分もあれば終わる作業だよ」


違法性を否定するヴェルナーとシンイチだがミューヒは白い目である。

特にある種の自白をしている技術者に対しては視線が厳しい。

シンイチと違いそれに盛大な冷や汗を流す彼は沈黙を貫く。

が。1秒ごとに彼は口が開きたくなる誘惑にかられていた。怖くて。

そこへまるで助け舟のような疑問の声が。


「ク、クイックエグ……なんだって?」


「ああ、そっか。グウちゃんは知らないか。

 精神ランクが低いイッチーがやってる高速のフォトン抽出方法だよ。

 元々誰かが提唱したなんちゃって眉唾理論だったんだけど……」


「なるほど、出来ちまったわけか。うん納得」


この男ならそうだろうなという信頼か諦めにも似た表情によく分かると

頷くミューヒである。当人に抱き着いたままなのはご愛嬌か。


「お前って出来ない事は本当に出来ないけど、

 変なことは恐ろしいくらいに一瞬で修得するよな?」


フォスタという万能端末の扱いやスキルの変則的な使い方等は

手にしてからの期間に一年以上の差があるリョウからすれば

極めて異常な速度といえる習得と把握であった。一方で同じ

男子寮生活の身であるため師弟になってから彼の部屋を一度

訪れたことがあり、家事─特に整理整頓─方面が壊滅的であるのを

何気にガレスト学園関係者では誰よりも先に知っていた。


「不器用な癖に感覚で生きてる、とはたまに言われるがな。

 感覚(ソレ)がものをいう分野ならハマれば早いってだけだ。

 ハマらなかったら延々と周回遅れだから最悪だぞ?」


そういうものだろうかという疑問半分、

こいつがいうならそうなんだろうなという理解半分、で

興味なさげに頷いたリョウに、だがシンイチは微笑を浮かべた。


「─────それで、どこがわからなかったんだ?」

「うっ!」




次は、たぶん、10月8日

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