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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」
201/286

04-113 経過と出発1

今回から少しの間(前にもやった気がするが)

短く区切って、されど短い間隔で投稿してみる



いつまで続くかわからんけど(汗





───クトリア第一国際空港




それは現在地球・ガレスト間の玄関口として最大の規模を誇る施設。

地球側にあるせいか役割としては大差が無いためか。

第二と同じく8年前の感覚を引きずるシンイチから見ても

違和感無く“空港”と呼べる施設や外観と内観を備えた建物であった。

明確な違いはラウンジから覗ける滑走路内に巨大な門が見下ろすように

建てられている点であろう。先程から垂直離着陸機型の大型航空機が

巨大な枠を通り抜けて向こう側に消えていく。

開いた(・・・)状態では向こう側の風景は全く見えない。

代わりに見えているのは彼がどこかのいつかで見たような

全ての色が混ざり合わないまま混ざっているような空間だ。

虹色。では表現が美しすぎる。絵具をぶちまけたよう。でもまだ違う。

かといって混沌というには輝かしい色合いに満ちてもいた。

そのうえ注視していると遠近感が狂いそうになる光景。

二次元の絵と三次元の光景が混ざっている空間か。あるいは

どちらかであってどちらでもあるといえる場所というべきか。

過去地球人の誰かが「壁に描かれた海であり海で作られた壁」と

表現したという。言い得て妙だ。というのが彼の感想であった。

それが8年前のあの日シンイチが落ちた空間であり、一ヶ月半前に

こちらに戻ってくるさい通ってきた次元の狭間の空間だ。

あまり良い印象が無いのはそのせいかと彼は苦笑するしかない。




6月16日。早朝。

学園の修学旅行へと合流したシンイチはその足で学園生徒達と共に

一旦クトリアに戻るとこの第一国際空港で機体の順番待ちをしていた。

最大規模のゲートを保有している事とクトリアの立地の関係で仕事や

観光等でガレストへ渡航するためだけにここに訪れる者は多い。

ただそんな外部の人間達とクトリア在住者では渡航手続きに差がある。

また外部の者は許可がなければ空港外に出ることが基本許されないため

一般的な利用者と在住者扱いになる生徒達とでは受付どころか

待合室から搭乗口まで完全に別の棟であった。


「……派手にやってるな」


尤もフォスタ片手に早めの朝食を取っているシンイチがいるのは

在住者用待合室の中でもVIP用のラウンジだ。本来は利用者の中から

さらに様々な条件をクリアした者だけが利用できるサービス満点の

高級ラウンジなのだが現在は引率教師の代表となったフリーレ個人が

諸々の事情で実質占拠しているに等しい状況だ。シンイチがいるのは

彼が旅行出発時に航空機のVIP席に座らされたのと同じ理由である。

表向きは他生徒と関わらせずフリーレの監督下に置くという名目だが

実際は彼女の仕事を手伝わせるためといざという時シンイチが自由に

動けるようにという配慮である。しかし彼女自身は様々な手続きの処理や

各所への連絡、確認等でほぼこのラウンジに落ち着く暇が無かった。

シンイチは、緊急性が低い、直接他者と接触する、自分でなくてもいい、

フリーレが出来ない事ではない、等の理由から手伝ってすらいない。

実際─彼のアドバイスを受けて─彼女は同僚達の力をいくらか借りて

順調に一つずつ処理していた。


「はむ、んぐっ……ん?」


それを遠目にBLTサンドを一口で飲み込んだ彼の手元で端末(フォスタ)が震えた。

これまで見ていた画面にメール着信を伝えるメッセージが浮かぶ。

送り主の名は「ジャン=ルータニ・モカ」と表記されている。が、

そんな人物は実在していない。彼がなんとなくの気分で考えた偽りの

登録名で、正確な送り主の名は「モニカ・シャンタール」である。

彼女とは連絡先を交換していた。当然基本は緊急時の連絡用である。

だが、脅迫メールだけで何かが違うと今回の事件の前兆を読み取った

モニカの勘を彼が重要視し些細な事でも知らせろと事前に言ってあった。

無論何らかの手段で彼女の端末が調べられてもどこの誰かは全く

解らないアドレスであり彼のフォスタに届くのは彼が作った独自の

ルートによる転送であるため、シンイチにはたどり着けないように

幾重にも偽装工作されていた。そんな用意周到、対策万全の

連絡網でモニカが伝えてきた最初のメッセージは、


『 とりあえず、おはよう、かしら?

  きちんと届くかの確認をさせてもらったわ

  だからきちんと、すぐに、返信をしなさいね

  あんた筆不精っぽいからスルーだけはやめなさいよ 』


挨拶と確認と何故か彼の性質を見抜いての指示だ。

どうしてわかったのかとタマゴサンドを咀嚼しながら唸るシンイチ。


『 そうそう昨日の話、忘れないでね 』


そして少しの空白の後に記された一文とウインクのイラストに

クスリと笑う。それは昨日─日付上は今日だが─別れ際に彼女が

出したシンイチへのさらなる報酬案であった。



───ねえ、私の専属護衛にならない?───



高給の仕事を与え、そして彼自身が懸念しているこれから先の

モニカの安全をシンイチに直接守らせる。という形の報酬であったが

それを告げた顔には「この悪ガキは誰かがきちんと監督してないと

ろくでもない大人になる気がする」と強く書いてあった。


『生憎とお前一人に構ってられるほど暇じゃないんでね』


それを読んだからか。珍しく言葉通りの理由か。

挑発するような断りに彼女は一瞬むすっとした表情となったが、


『バカね、(休み)は自分で作り出すものよ悪ガキ』


嫌味かアドバイスか判別がつかないことを返して、笑う。

あれはきっと大人でも歌手でも姉貴分でもない素の彼女の

眩い笑顔だった。


『だから予約しておくわ、空きが出たら一番目には考えなさい』


それが昨日の別れ際の最後のやり取りとなった。

シンイチは、まるで休むことを覚えろといわれたような。

あるいはいつでも休みにきなさいと誘われたような気がした。

気遣いは純粋にイイ女だと思う彼だ。一方、近くで控えていた

マネージャー達がこの会話に顔面蒼白になっていたのはあえて無視した。

それは彼らの事を考えて、でもあるがそれ以上にその場で急に

静かになってしまったミューヒに気を取られ────


「───なーにフォスタ見てニヤついてんのよ」


回想は突然─分かってはいたが─隣の席に腰かけた少女に遮られた。

魔力操作で『一番目にはしといてやるよ』とあえて偉そうな文面で

返信しつつも顔をあげる。そこには予想通りの異国然とした─本人は

あまり自覚のない─整った相貌があった。


「わかった、女、でしょ?」


しかしそこに浮かぶ表情は、そしてこちらを見据える青い瞳は

意外にも悪戯気な輝きを見せていた。その指摘(揶揄)は確かに

正解ではあったのだが、相手が悪い。


「ああ、俺の制服着てた()について考えていた」


それを挑戦と受け取った彼は脳裏に浮かんでいた普通の返しを

却下して即座にそんな揶揄に変更した。平常運転である。ともいう。


「え、ちょっ、ここでそれいう!?」


「いうさ、渡しにきてくれたんだろ?」


微塵も疑わずに手を伸ばしつつ彼女の後ろ手にある手提げバッグを見る。

事実であったのだろう。一瞬言葉に詰まった彼女は不承不承な

顔でバッグからビニールカバーに包まれた学生服を取り出す。

どうやらきちんとクリーニングにまで出したらしい。


「はい……まったく、素直に渡させなさいよ」


その気遣いに彼は顔を綻ばすも一方で彼女は余計な茶々を入れる、と

かなり不満げであった。が。


「ありがと……お前が一昨日の今日で素直に俺に渡せるのか?」


まず感謝を告げつつも、自らその話題を掘り返す真似が出来たのかと

暗に問われた彼女は思わず眉根を寄せる。が、すぐにハッと何かに

気付いたような顔になると途端に溜め息を吐いてシンイチを睨んだ。


「あんたのそういう変な気の使い方嫌い!」


「くくっ、そいつは悪かった……が、自業自得だ。

 弟子の分際で俺をからかおうなんざまだ早いんだ、よ!」


「いたっ!?」


ちょんと額を指で弾くように突かれてトモエは若干ふらつく。

しかしそれは予期していなかったからだけであり衝撃も痛みも

軽く押された程度のものでしかなかったが彼女は額を押さえながら

恨みがましい視線でシンイチを睨み付けつつ唸っていた。

当然彼はどこ吹く風で朝食を続けているがその横顔は楽しげだ。


「なあ、ブラウンよ。

 あれで当人(トモエ)はイチャついてるつもり無いってどうなんだろうな?」


「いやいや、彼女は初々しくていいじゃない。

 問題はその反応を狙って遊んでるナカムラでしょうよ」


尤もその様子は他者から見ればそうとしか見えなかった。

ここに入るための、資格及び精神的付き添いをさせられたリョウと

頼まれごとがあったのをいいことに高級ラウンジを堪能していた

白衣の学生(ヴェルナー)はソファに腰掛けながら二人のじゃれ合いを

半ば死んだ目で眺めていた。


次は10月2日(出来てはいるので俺が忘れないかどうか、予約含めて)

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