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01-01 白昼の茶番劇

ちなみにですが、サブタイ横の数字は時系列の順番を表しています。

一番左数字がどの時間軸か、右がその順番といったところ。

これはこのあと時系列順に公開していかないための処置です(汗)

なので数字が繋がってなくても失敗ではないのであしからず。






───世界は固唾をのんでその光景を見詰めていた───





それは街の広場だろうと豪邸の一室であろうと王宮の広間であろうと変わらず。

市民も貴族も獣人も鬼人も、立場も地位も種族も関係なく視線を釘付けにされる。

だからある意味においてその『事件』の目撃者は“世界そのもの”と言えた。



水晶球と呼ばれるクリスタルで出来た球体の映像投映装置。

寂れた小さな村にすら性能や大きさはともかく最低一つはあって、

人々に世界の、そして身近な日々の話題を映し出して伝える魔導器具だ。


『現在、首都ルセントでは慈愛の勇者カイトさまを中心とした────』

「ん?」

「あれ?」


天気予報から魔物警報に商店のお買い得情報、迷子速報までと種類は千差万別。

人々にとってある種の日常の象徴でもあるそれが突如として途切れた。

たいして真面目に見ていなかった者たちでさえめったにない出来事に意識が向く。

途端、誰もが見たことのない光景が映し出されて皆の度肝を抜いた。


「な、なんだよあれ!?」

「やだ、なに気持ち悪いっ」

「『城』なのか。でもあんな城どこに?」


暗雲が覆う黒き空を穿つかのようにそびえたつ巨大な塔が連なる建造物。

鈍い色を放つ金属で作られたそれは『城』と評されるには充分な巨大さと威圧感を。

同時に色が持つ冷たさと暗さが見る者をどうしようもない不安な気持ちにさせた。


石造り以外の城を見たことがない多くの人々にとってそれはあまりに恐ろしかった。

その映像を流した者の意図がなんであれ最初に城の全景を見せたのは正解であろう。

たった一瞬で畏怖によって人々の注目をより集めることができたのだから。

そしてそうなったのを見越したかのように映像がさらに引きの絵となる。

瞬間、果たしてどれだけの人々が悲鳴をあげたかは想像することさえ困難だ。


「ひっ!」

「おいおい、冗談だろ?」

「いやあぁぁっ!!!」

「な、なんで水晶球にこいつらが映ってんだよ!?」


問題の謎の城を囲むように集まったヒト、ヒト、ヒト。

それだけならまだどこかの国の催し事か何かだと考えただろう。

集まっている者たちの誰しもが頭から角を(・・・・・)生やしていなければ(・・・・・・・・・)

形や大きさこそ皆、千差万別だが誰もが頭に角を持つ種族は一つしかない。



───『魔族』



数では最大のそれを持つ人族ヒューマンと敵対している、とされる種族。

どんな種族よりも純度が高い魔力と強靭な肉体を持つ種族。

それが魔族であり、人族と長い戦争の歴史を持つ不倶戴天の敵。

だからこそそんな魔族達が自分達の水晶球システムに映った状況に誰もが悲鳴をあげていた。


どれだけの者が映像を切ろうとしたか計り知れないが誰の操作も受け付けず、

目を背けようにもあり得ない光景のインパクトに誰もが見入っている。

そして引きの絵から一気に映像は拡大され、ある一点に焦点が合う。

それはその城で一番高い位置にあるバルコニー。そこに立つ数名の魔族たち。

立場ある者たちであろう豪奢な出で立ちで威風堂々とした佇まいを見せつけている。

その中で一番の存在感を見せつけている“彼”が前に出て魔族たちはもちろん。

見入ってしまっていたヒューマンたちもその男が持つ威圧感と雄々しさに息を呑む。



側頭部から天に向かって伸びる巨大な二本角は彼の力強さを示し、

色素の薄い白髪と燃えるような赤い瞳は不気味さと苛烈さを訴える。

鍛えられた筋肉の鎧の上に黒染めの甲冑と赤黒いマントで武装したその大男は

魔族の群衆と水晶球越しのヒューマンたちの前に堂々とその姿を現した。

それは今にも戦場に立とうという格好でありながら粗野で野蛮な雰囲気はなく、

ひどく落ち着いた所作からむしろ高貴さを感じさせるオーラはまさに本物(・・)



──ゆえに誰もが彼の正体に気付き、口々にその名を叫ぶ



「まさか……魔王?」

「…っ…魔王!」

「ま、魔王だって!?」

「なんて恐ろしい……ああっ、リーモアさまどうかお助けを!」

「つ、ついに魔王が出てきた……よそと同盟なんか組むから!」


誰かが怨嗟を、誰かが畏怖を、誰かが怒りを乗せて男を『魔王』と呼ぶ。

人類の怨敵・魔族のトップにして最大最強の敵である最強の魔族。

水晶球の映像越しであるのに感じる威圧感と王としての一種の気高さに

恐れ慄きながらも誰も彼から目を離すことさえできず魔王を注視していた。


「まずはこの場に集まった我が臣下臣民たちよ、ご苦労である。

 そしてこの放送を聞いているヒューマンたちよ。よく聞くがよい。

 余が魔族を総べる魔の王、第142代魔王ゲーナン・ギオルである!」


野太く、されど粗暴ではない威厳ある声が世界中に轟く。

水晶球越しだというのに誰もがその力強さに身動きひとつとれない。

その場にいる魔族たちでさえ名乗られただけで戦慄させられていた。

微動だにしないのは魔王の後ろで並ぶように立つ年若い男女の魔族。

魔の王子と王女たちは硬い表情で沈黙したまま父である王の言葉を聞いていた。


「さて、さっそくではあるが………余はじつに悲しい」


どこか、らしい所作と悲しげな声が演技くさいが逆に見ている者の不安を煽る。

“魔王はなにを言い出すつもりなのか?”と。


「これまで我ら魔族はお前たちヒューマンの不当な要求や侵略に寛容に対処してきた。

 だが、お前たちは愚かにも我が国への侵略目的に大同盟を結んだばかりか。

 『勇者』という関係のない異世界の民の力まで借りて我らを滅さんとしている。

 実に嘆かわしい。実に情けない。非力以前に矮小なまでに卑怯で、

 この同じ世界に生きる者として何とも恥ずかしい限りだ」


“馬鹿な!”

この言葉にそう叫んだ者は世界にわずか数名。

ヒューマンをバカにされたからではない。

大同盟が魔族討伐目的であることや勇者が異世界出身である話は極秘事項。

それを知っていた僅かな者たちは彼らの諜報能力に愕然としている中、

魔王の言葉に城下に集まっていた魔族たちも声高に叫ぶ。


「自分たちだけで戦えんのか!」


「見境なしの臆病者め!」


「他世界の者を巻き込むとは恥を知れ!」


「薄汚い侵略者の横暴を許すな!」


「こっちが甘い顔してれば付け上がりおって!」


軽く十万を超える魔族の群衆が叫ぶ声はそれだけで恐怖を呼ぶ。

半ば一方的な糾弾であったが人々の多くは反論するよりただ縮こまった。

しかし放っておけばそのまま暴徒にでもなってしまいそうな群衆の叫びも

魔王が少し手を挙げただけで水を打ったかのように静まりかえる。


「皆の気持ちはよくわかった。

 ………余もまたこれ以上のヒューマンの暴走は放っておけぬ」


彼はそうなることが分かっていたのか。

群衆の言葉を受け入れたかのように振る舞いながら用意していた言葉を叫ぶ。


「我らが祖国を荒らす侵略者ヒューマンどもに魔族の力を見せてやろうぞ!!」



────うおおおおおぉぉっっ!!!!!



魔王の号令に群衆は待っていたといわんばかりに雄たけびをあげる。

一致団結を見せた魔族たちにヒューマンは誰しも恐怖に顔を青ざめた。




しかしながら。




果たして、その瞬間その異常に気付けた者はどれだけいたか。

水晶球を凝視していた者たちもその場で魔王を見ていた者たちでさえ気付かない。

隣りに立っていた王子、王女はもちろん当の魔王でさえ気づいていなかった。



「よってこの瞬間、魔王の名において命ずる!

 身の程知らずのヒューマンどもを─────ッッ!!??」




────すべての者がそれを見ていたというのに



影だった。

不定形でかろうじて、もしかしたら人型かもと推察できるような黒い影。

はっきり視認できたのは顔にあたる位置にある猛禽類の嘴を模した白き仮面だけ。

皆が見ていながら結局ソレが魔王に攻撃するまで(・・・・・・)影は認識されなかった。

ゆえにその瞬間に魔王城の空には鮮血が舞って、謎の極光が煌めいた。


「ぐっ!」


短い魔王の苦悶の声と共にその巨体が揺らぐ。

身に付けていた鎧はソレの一撃のもと木端微塵にされ周囲に散らばった。


「なっ、陛下!?」

「父上!?」


突然の出来事に驚き、戦慄く中ようやく黒き影の姿を誰もが視認する。

全身を黒衣で覆った人型のナニカ。振り下ろした形の右手が赤き血に濡れながらも輝く。

恐るべきことにただの手刀の一撃が鎧を砕いて、魔王をよろめかせていた。


「警護の者たちは何をしていたっ!? 易々と賊の侵入を許すとは!」

「はやく衛生兵を! 父上っ、お怪我は!?」


驚きのあまり呆けていた近衛兵たちを叱咤しながら自らの剣に手をかける赤い髪の王女。

部下に指示を出しながら状態を確かめようと駆け寄りかけた金の髪の王子。


「落ち着かぬか馬鹿者っ!!」


だがどちらの行動も魔王の一喝で押し留まる。

彼は自らの無事を証明するかのように踏みとどまりバルコニーの床を踏みしめる。

胸元についた傷も血を拭うように無造作に手で払えばあっさりと消えた。

そして浅いとはいえ自らを白昼堂々襲って傷つけた相手を凝視する。


「………面妖な」


はっきりと存在を認めて睨みつけているというのにそれでも輪郭がぼやける。

顔を隠す白き仮面だけが明瞭に見えることが逆にソレの不気味さに拍車をかける。


「だが、その鳥のような形の白き仮面………聞き覚えがあるぞ。

 我が首を取りに来たか、仮面の暗殺者『マスカレイド』よっ!!」


その伝説の名を叫びながら抜剣し押し潰さんとばかりに振り下ろす。

もはや剣撃というより爆撃のような攻撃にバルコニーの一角が消し飛ぶ。

衝撃に粉塵が舞いあがり僅かに仮面も黒衣も誰からの視界にも映らなくなる。


「ん……え?」

「っ……なにっ!?」


その一瞬で黒い影は王女と王子の間をすり抜けるように城内に入り込む。まさに一陣の風。

そうとしか表現できないほどのスピードに、通り過ぎてから初めてそれを認識した。


「……うそだろ……なんだよあの速さ!?」

「わ、わたしが反応すらできなかった、だと?」


金の王子が振り返るがすでにそこに影はいない。

身動きすることもできなかった赤の王女はその事実に呆然となっていた。


「な、なんだこれは……いったいっ、なにがっ!?」


それを現実に呼び戻したのは皮肉にも無様にも狼狽える男の情けない声。

魔王と同色の髪と瞳を持つも対照的な優男が青い顔で想定外の事態に混乱している。


「見苦しいぞシュトル! 貴様が警備責任者であろうが!!」

「ひっ!」


王女は血走った眼で詰め寄ると剣を抜いて優男の喉元に突きつける。


「姫様っ、なにを!?」


「責任者なら責任者らしくその役目をはたしてもらおう。

 あの暗殺者を取り逃がせば、その首、明日には胴とつながっていると思うな!!」


「そ、そんな! あんな奴が出てくるなどっ」


「黙れ無能! この中継とて貴様のアイディアだ。

 結果、我が魔王家は世界中に恥をかかされたのだ!

 お前の首ひとつで済ませてやるだけ温情と思え……いやなら死にもの狂いで探せ!!」


「くっ、貴様らなにをぼさっとしている。侵入者を探せ! 探して殺すのだ!」


反論を一喝する王女の迫力に押し込まれて彼は部下を引き連れて暗殺者を追う。

それを見送る形となった王女はシュトルに向けていた剣を近くの壁に叩き付けた。

父のそれに比べれば威力は劣るがそれでも剣は内壁を切り裂くように貫いている。


「あれだけ近づかれていて気付けなかったとは!」


「姉上、八つ当たりで城を壊さないでよ」


「うるさい! お前のほうこそなにをしている!」


「中継を切ってきたんだよ! ほとんど全部流れたあとだったけど……」


どうしてこんなことに。

悔しさをにじませながら取り返しがつかない状況になったと唇を噛む。

易々と暗殺者に侵入されて国のトップが襲われた所を世界中に見られた。

ましてやその多くが元々こちらを攻め入る気だった国々である。

こちらも宣戦布告するつもりであったとはいえ付け入る隙があると思われたのは痛い。

そしてこの場合の『世界中』の中には自国の民も入っている。

士気は大いに下がったと考えざるをえない。


「……レーベン、回線を開いてもう一度全世界に中継しろ」


これでは戦えないと気落ちするふたりへ魔王は厳かに命令を下す。


「え、でも」

「急げっ、勅命である!」


例え息子であっても魔王の命令は絶対。

即座に中継を回復させ、王はひとり半壊したバルコニーに再度出る。

何事が起きたかわからず混乱する群衆に対して姿を見せると声を張り上げた。


「落ち着くがよい我が民たちよ! 余はこの通り無事だ!

 ヒューマンごときの暗殺者が余を殺せるわけもない。

 お前たちはそのまま城の出入口を封鎖せよ、不埒な侵入者を逃がすな!」


その言葉に、命令に、魔族たちは震えあがる。これでこそ俺たちの魔王だと。

何者にも屈せず誰よりも強く、自分たちを導いてくれる最強の男。最強の王。

そんな王に命じられて血が湧き立たない魔族などいない。


「魔王さまぁっ!!」

「陛下ぁ!」

「さすがだぜ!」

「よっしゃ、ねずみ一匹逃がさねえぞ!」



────うおおおおおおおぉぉっっ!!!!!



魔王の声に雄叫びが答えて彼らは城から誰も出さぬように陣を組んでいく。

何事もなかったかのように姿を見せて群衆を動かした手腕とカリスマ。

それを前にして子と親であるが魔王子と魔姫は内心で平伏する。

“これが魔王なのか”“いずれ自分もあの場所に”


「私もこうしてはいられん!」

「シュトルだけに任せたら逃げられるだけだろうしね」


決意も新たに暗殺者の捜索へと向かう子らを気配で察しながらも魔王は動かない。

民の前から姿を消せれないのもあるが何よりこれから先は自己責任(・・・・)

互いにこれ以上は関わらない。最初からそういう約束であり契約。






────だが、友が無事に故郷へと帰れることを祈るぐらいは自由であろう?






胸の中でそう呟いて、魔王は一瞬だけ薄く微笑んだ。





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