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帰ってきてもファンタジー!?  作者: 月見ココア
修学旅行編 第一章「彼の旅はこうなる」
189/282

04-102 ライブ防衛戦線1

裏組織同士の争いってこんなもんでしょ?(という勝手な妄想)



一応血生臭い描写ありますと注意しておく。まあたいしたことはない(注※作者の感覚)







「───続いて行くわよ! みんなついてこれる!?」


歌姫が客席を煽れば大歓声の肯定が返り、興奮が会場を占めていく。

まだ始まったばかりのライブだがその盛り上がりは最高潮を更新し続けている。

一転その外となれば不届き者が紛れ込まぬよう幾人もの警備員が巡回中なのを

除けば周囲の森林は夜の闇と静寂さで支配されていた。

もちろんそれは“表向き”の話に過ぎないが。






光弾が闇を裂く。

刃が血花を散らす。

鉄爪が鋼と肉を貫く。

銃火と爆音が眼と耳を支配する。

苦悶と絶叫と物言わぬ骸がそこかしこに存在する。

そこはもう紛れもなく、誤魔化しようもなく、戦場だった。


「ちくしょうっ! 意味分からねえっ、なんだよ、なんで、こんな!!」


「うるさい、喚いている暇があれば一発でも、がっ、ぁ……!?」


「っ、おいっ、あぁぁ……くそったれ!!」


一瞬前まで喋っていた隣の同僚が倒れた。

目撃した兵は悲鳴のような嘆きのような声をもらして飛び上がる。

血だまりに倒れた仲間への救援は微塵も考えられない。意味がないからだ。

そう問答無用で分からせるほどの大穴が身体に開いていた。大型砲からの

徹甲弾スキルによる砲撃。正規軍では使えない莫大なフォトンエネルギーを

贅沢に使った一撃は個人装備の外骨格では耐えられもしなかったのだ。

生命反応は一瞬で消えている。そして残された彼がもう最後の一人だった。

尤もそんなことを考える余裕もない程に彼はただ怯えて逃げただけだったが。




ソコを守っているのは一人だと聞かされていた。実際そうであった。

襲ったのは三人一組チームが四組、計十二名。過剰と全員が思っていた。

相手が完全武装。無銘の戦闘エージェントの精鋭だとは聞いていても、

一人か二人ならやられるかもしれないとは思っていても、

ここまでの虐殺(・・)になるとは夢にも思っていなかったのだ。

それどころか相手が全員若い女と知ると男達は勝手に期待を膨らませた。

女達はその様子を茶化しつつ相手取る女達の最後を勝手に哀れんでいた。

その油断と驕りは一発の銃声で儚く散るとも知らずに。


初手は防衛側から。

彼らに隙はあったが全員ではなかった。

接近に気付かれているのも気付いていて、防備を固めていた。

しかしそれでも最初の一撃目は奪われ、誰かの頭に風穴が開く。

さすがに裏の世界で生きる者。一人目の死者が大地に沈むより先に

動き出し、弾道予測から射手の位置を推定し即座に防備を固めた。


「ぇ?」


途端に何人かの足元から光が放たれた。遠隔操作型フォトン地雷。

日本語訳すればそう呼称される対人兵器の爆発光が彼らに牙をむく。

そう、まさに巨大な猛獣にでも食いつかれたかのように幾人かの

者達は外骨格ごと四肢のどれかを持っていかれた。


事前の探査や直前までの警告は一切なかったのに、何故。

フォトン地雷にここまでの破壊力は無かったのに、何故。


重傷の衝撃と二重の疑問を前に、されど彼らは適切な対応をする。

追撃の弾幕を盾やシールドで防ぎながらの速やかな飛翔である。

いかに強力であろうとも地雷は所詮地雷。空を飛ぶ相手には無力。

空中機雷の類が無いのはセンサー及び目視で確認しており、重傷を

免れた者達が支援しつつ重傷者を下がらせようとしての行動だった。

既に会場外を覆うように存在する森林には『蛇』側『無銘』側双方が

形成した遮音及び衝撃緩和フィールドバリアと高度な立体映像の投映で

何が飛んでいようと何が爆発しようと外からは分からない状態になっていた。

だからこそ人目を気にせず飛び上がった彼らは、しかし四方八方から

強烈な挨拶を食らう。


「なんだ!?」

「くっ!?」


爆発音と共に彼等の全身に浴びるように降りかかったのは鉄球の群。

それは木々の先端近くに仕掛けられていた指向性対人地雷クレイモア。

爆破の力で解き放たれた小型の鉄球が扇状にばらまかれ、彼らを襲った。

至近距離ならば人体を易々とミンチにするが純正且つ手持ちサイズの

地球製兵器では外骨格の装甲とバリアを突破できる威力は発揮できない。


「脅かしやがって!」


「こんな玩具で俺たちを、ぇ?」


だが突然の爆音と衝撃は動きを一瞬止めるには充分で、次の仕掛けが動き出す。

直撃したビー玉サイズの鉄球は潰れて地に落ちたが、大半の外れ球は

彼等の困惑の中で周囲で静止すると一気に変形・拡大を繰り返し、

その真の姿を現して襲い掛かる(・・・・・)


「携帯用の小型ドローンッ、しまった!!」


彼等の頭上を覆うは鋼鉄の狩人。

鋭きフォトンのくちばしと爪、大いなる鋼の翼を持った猛禽の大群。

獲物を見つけた本物のそれのような急降下による急襲に対応が間に合わない。

一人、また一人と地面に叩きつけられ、その鋭利なくちばしの餌食となる。

その光景はまるで腐肉に群がるハゲタカのような有様であった。


「じょ、冗談だろ! クレイモアの中にドローン仕込むなんて!?」


運良くか我武者羅な反撃でドローンを撃退した何名かは悪辣なその仕掛けを

察して悪態を吐いた。外骨格相手にはほぼ意味の無いクレイモアと携帯用

小型ドローンの待機状態が鉄球状であるのを利用したその仕掛け。

足止めと隙作りを担う初撃と本命の急襲による連携を作りだしたそれは

ガレスト装備に慣れたからこそ生じた慢心をついた巧妙な罠だった。


「撤退だ! これはもう待ち構えられてるなんてレベルじゃねえ!」


「くそったれ!!」


自分達は敵の術中に飛び込んでいる。戦いにすらなってない。

既に、三人一組が複数組、などというチーム分けが意味のない程に

被害を受けたのを偶々残った4名は理解していた。

だから地上1mの低空飛行の形で森林の外を全員が目指す。

慌てながらも扇状に広がってバラバラでの撤退を選ぶ冷静さはあった。

何せ彼等はまだ無銘のエージェントの姿すら見ていない。

こうなっては最初の狙撃すらその当人であったのか疑わしい。

どこでどんな罠や攻撃があるか分からない以上固まって一網打尽に

されるより別れての逃走の方が帰還率を上げると判断したのだ。

が。


「っ、アラート!?

 急速接近って今度はなん、ぎゃっ!?!?」


まるでそれを嘲笑うかのように飛び込んできた真紅の閃光が

一人の兵を貫くように真っ二つに切り裂いた。そこで足を止める愚を

犯す者は誰もいなかったが流れていく光景の残滓に震えた。

返り血を浴びてもなおそれ以上に真紅な全身装甲を纏うシルエットは

女性と分かるラインを見せていたが当初あった下衆な欲望など跡形もない。

その両腕には己が体躯より太く長い、異様な形状の片刃大剣が二振り。


「あ、ああっ、速さが違い過ぎる!? く、来るなっ、来るなあっ!! ぁ」


巨大な蕎麦切り包丁といわれた方がまだ納得できる姿の凶器を

軽々と持ちながらの再飛翔。基本性能がまるで違う無銘製の外骨格は

全力で逃走しているもう一人に瞬く間に追い付くと処刑の刃を振り下ろす。

その質量と刃を覆うフォトン、そして速度を乗せられた一撃はかつての

断頭台のそれのように一瞬で首と胴を別れさせた。


「うわああぁっっ!!」

「くそっ、くそっ、くそぉっ!!」


二種類の赤に染まるフルフェイスがまるで次はとこちらを覗く。

それだけで残った二人は半狂乱になりながらあらゆる火器を放って弾幕とした。

あの速度を目にしては別れて逃げるのも意味がないと考えたか単純に

単独の心細さによるものか即座に合流したが落ち着く暇もなくどこかに

隠されていた砲台からの一射で貫かれ、誰かは独り飛翔(逃走)していた。

油断はあった。驕りもあった。だがそれも最初の一人がやられる前まで。

戦場は初めてではない。同僚の死は初めてではない。敗戦も初めてではない。

無銘との戦闘も初めてではない────だからこそ何かが違うと男は怯えていた。


彼女達は分かっているはずだ。

自分達が防衛側であることを。

自分達が圧倒的少数であることを。

いま接敵したのが威力偵察の第一陣に過ぎないと。

ここで相手を全滅させた所で情報は既に本隊に送られていると。


そうだ。

ここで、ここまで本気で、全力で叩き潰すことに意味はない。

彼女らを強敵とは思いながらも実際より低く見ていたのは認めよう。

だが後先考えない戦い方であるのも事実で、罠の使い方も派手。

機先を制す、などという話ではない。あの威力、あの速さ、あの戦意。

分析するまでもなくフォトンも体力も戦意もあれでは長くは持たない。

初接敵で自分達を使い潰すほどに全力な防衛戦術など聞いた事がない。

最後の兵はそこに別の意志を感じたのだ。彼女達の背後に誰かがいる。

彼女達を使う者の意志(悪意)と、さらにいえば物理的な背後に脅威(ナニカ)を。

防衛側の激しい攻勢には敵を逃さない意志はあっても抜かせない意識が希薄だ。

違和感から漠然に感じ取ったナニカの存在感に彼はまるで初陣の新兵かと

いうほどに怯えてしまった───いささか遅きに失したが。


「はぁはぁ……ん?」


訳の分からない恐怖心から一心不乱に逃げを選んだ彼だが、レーダーが

示す敵の光点がまるで動かないのに気付いて空を進みながら顔だけ振り返る。

深い森林の一角ではあったがその赤は目立つ。まるで移動していない。

それどころかただそこに立っているだけであの巨大な凶器すら無かった。

助かった。思わずそう安堵しても詮無きことであろう。


「ぇ、あ」


瞬間、外骨格は警報を鳴らした。高速で接近する物体が直撃すると。

方角は進行方向より。距離は残り1m。なぜそんな接近するまで

気付かなかった、と訝しむ暇は彼には無かった。振り返るまでもなく

外部カメラが伝えてきた光景は己が結末を悟るには充分だった。



──高速で回転する二振りの大刃がもう目の前



悲鳴さえ出なかった。







一番まともな動きをした獲物を三分割した刃は彼女の意志通りに手元に戻る。

そして軽々と血振りすると大地に突き立て、警戒──そのタネは単純だった。

投擲武器としても使えそうな形状と考えた使い手の希望で自立浮遊及び

遠隔操作機能が後付されたに過ぎない。無銘の武器職人たちが面白がって

ステルス性能まで付けたのは嬉しい誤算ではあったが───敵影は無し。


「こちらレディ2よりレディ1へ、B2地点における第一陣の沈黙を確認」


『ご苦労さまレディ2(ルビィ)


敬愛する上司からの労いに外骨格のフルフェイス下で頬が緩むルビィ。

しかしながらこの程度は自分達なら朝飯前であると胸も張る。

外骨格という強化スーツを互いに用いた戦闘において雌雄を決するのは

その性能と使用者の力量であることはいうまでもないことであろう。

彼女達はそのどちらでも『蛇』側に負けているとは全く思っていない。

とはいえそれは基本一対一での話。それだけならば多数である『蛇』側に

多少抵抗できるだけであったろう。この一方的な戦闘を作りだしたのは

依頼主(マスカレイド)が破格の資金を出したことで莫大なフォトンの使用許可と彼女達の

正規装備や数多の武装や罠の使用許可が下りたのもあるが彼女達の本分が

元々そこ(・・)にあったのも大きい。


『無銘』の精鋭、とはいうがその役目を知る者は当人達以外には少ない。

彼女達は“少数精鋭による外骨格部隊の殲滅部隊”を目的に結成された部隊だ。

発足当時から無銘が圧倒的少数の組織であった事とトップたるオルティス将軍が

大概の危険から身を守れる外骨格を纏う事で生じる油断に勘付いていたからだ。

ゆえにその戦術と装備は総じて外骨格ごと敵を殺す方面に特化している。

機能を壊しバリアを貫き装甲を砕き中身を殺す。数的劣勢はいつものこと。

そこでどう立ち回れば敵を叩き潰せるかを彼女達は研鑽し体に染み込ませている。

『無銘』躍進にはガレストの外骨格への盲信を打ち崩す彼女達の活躍(暴力)もあった。

数的優位があり捕縛ないし制圧が主な正規軍とは対外骨格戦に対する姿勢が違うのだ。

また主にそういった軍や官憲と戦っている裏社会の者にとっても。

それでもここまで最初からトップギアで暴れた経験は彼女達もこれが

初めてであったが。


『これで第一陣は全滅。随分と早かったわね、お嬢さん方。

 でもこんな序盤ではりきり過ぎてバテないでよ?』


「あれ、私最後ですか!?」


他の皆が了解と返す中で独り、私も急いだのに、とショックを受けた様子の

彼女に苦笑する隊長(ミューヒ)だが続いて出た声には緩みなど欠片もない。


『私達の役割は一番難易度が低いが一番激しい労働を要求されている。

 だが、彼のマスカレイドはそれが私達なら出来ると判断した。

 これを裏切るのは私達の沽券に係わる、各員の気力と体力に期待する』


「了解です!」



──各自基本的にはその場で迎撃し続けろ、あとは全て自由

彼女達がマスカレイド─シンイチ─からされた指示はそれに尽きる。

戦線を維持できないとなれば各々の判断で下がってもいいとも言われている。

そして所謂第二防衛ラインには近づくなとも。そういって指示された配置は

10人足らずの彼女らを一人ずつバラバラに、会場を囲む円状にしたもの。

この時点で彼女達は聡くも自分達の役目を概ね理解していた。

無銘のクリムゾン、その配下の精鋭という看板と穴だらけの防衛線が

敵側からすればどう見えるかなど想像に難くない。


無能な指揮官でもない限りその裏に「罠」を見る。

ならば初手はどんな罠なのかを確かめる捨て駒か。

自分達を集結させないための足止め要員か。あるいはその両方か。

どれにせよ、シンイチの口ぶりは防衛の要が第二防衛ラインであると

告げていた。ならば彼女達の役割は自分達に向けられる人員の足止めだ。

『蛇』側の兵力がこちらより圧倒的な多勢であるのは予想出来ていた。

確実にマスカレイドがいると分かって戦力を集めないのは愚に過ぎる。

尤も彼女達からするとそれでも攻めてきた事も充分愚かに見えているが。

ともかく『蛇』の戦力その消耗と分散を狙い、穴だらけでも無視できないと

印象付けて一定の兵力を釘付けにしてもらいたいのだろうと推測した。

シンイチ自身が、途中で自棄になられるのが一番面倒、とこぼしたのも

その推測を補完していた。


だから彼女達は蛇の第一陣に全力を出して一方的に虐殺した。

これで分かるのはせいぜい自分達の装備と罠の質、そして本気度。

相手からすれば予想以上に強い抵抗で最初の門番から躓いた格好である。

その後ろのことが何も分からないままで。


これで防衛ラインの穴抜けだけを狙う進軍はやりづらい。

早々に発見されて第一陣の焼き直しになるだけだと敵指揮官は考えるし、

実際彼女達はそうするつもりである。防ぐためには彼女らを抑える戦力を

別に用意し続けなけ(・・・・)ればならない(・・・・・・)。そうなるように彼女らは

近付く敵兵を容赦なく壊滅させ続けるつもりであった。


だが、それは果てしない苦闘である。


自分達に援軍は期待できない。少なくとも『無銘』からは無い。

この場の頼りになる上司と怖すぎる依頼主は容易には動けない。

だが敵兵の総数は不明で、あちらには援軍の可能性がある。

一人の兵士としての力量と装備の質で負けるつもりは毛頭なくとも

体力と気力は有限。尽きれば、折れれば、そこで数に潰される。

だがそれでも引き受けた以上は投げ出す気は彼女達にはない。


おかしなものであった。いつか『蛇』とコトを構えることは考えていた。

いつか自らを死地に追い込むような戦いをする覚悟は元よりあった。

こんな裏の業界で生きている以上まともな死に方はしない予感もあった。

だがそれが異世界の地球で、表面的には平和な日本で、それもまさか

ライブ会場とそこにいる人たちを守るために死力を尽くす羽目になるとは。


──死の商人のテロリストがまるで正義の味方のようね


そのおかしさを揶揄し自嘲しながらも不思議な高揚感があるのを

認めざるを得なかった。ガレストの裏を知るがゆえに無銘に所属する

彼女達だが、これは存外(・・・・・)悪くない(・・・・)、と。



『なお、依頼主(クライアント)より奮闘次第では追加報酬の約束を取り付けた。

 お嬢さん方、甘いものは好きでしょう。話題のお店、貸切にしたくないかしら?』



そして彼女らでも嗜好そのものは一般的な乙女たちとさして変わらない。

吊るされた甘い物(エサ)に─故意に─釣られて雄叫びを上げる。

士気は否応無く高まり、敵の第二陣は燃える彼女らに襲われる(・・・・)事になる。



『……まずはお財布に甘えてみました、かな?』










「──────────容赦なく殲滅とは、さすがクリムゾンレディズか?」


投入した三人一組のチームその総数は三十。おおよそ一人に三、四組を当てた。

結果は接敵から僅かな時間で一方的で後先考えない罠と兵器の投入での蹂躙。

まるで一大決戦かというほどの外骨格のフル稼働での虐殺。正規軍相手では

無い裏同士の戦いとなれば“いつものこと”ではあるが度が過ぎてもいる。


「第二陣は既に投入したが勢いがついて止まらん。あと3分も持ちそうにないぞ」


「こんな戦術、自分達の重労働をわかってるだろうにこの士気の高さ。

 クリムゾンにしろ、マスカレイドにしろ、よく躾けたものだ」


考えられるその意図を読んでシックスはその顔を一瞬だけ歪める。


「自分達を抜けられるものならもっと出せ、か」


「おい、何が狙いだ。私には暴走してるようにしか見えんぞ?」


長期戦を度外視した全力戦闘を見せる彼女達は確かに“今は”優勢だ。

だがあちらもこちらがある程度の、それこそ非常識な兵力を揃えた事は

マスカレイドを擁している以上は予見できているだろう。

こんな戦い方ではいずれ体力か気力かフォトンが尽きる。

ベノムの疑問は当然で、だからこそ不機嫌そうに彼は答えた。

思惑は見抜けても対処しようがないのだから。


「ふん、最初の読み通り誘ってるだけさ。

 ただし半端な数では偵察にも足止めにもならんぞ、って示してな。

 だがその先に行きたい俺達はどの道ここで出し惜しみができん」


「…つまり、こっちの消耗狙いだと? こんな状況こんな戦力で?」


そんな馬鹿なといいたげなベノムだがシックスの表情は真面目そのもの。

むしろその発言を非難するように指摘する。


「こんな、と言えるほど把握しきれてないんだ。浅慮はやめろ。

 それに数的劣勢側がゲリラ戦で敵戦力を削るなんて珍しくもない」


「何をいっている? これのどこが…」


「ゲリラ戦だよ、こっちが待ち構えてる敵の所に送り込まされる形のな」


本来ゲリラ戦とは、進撃する敵軍に小規模な待ち伏せを頻繁に行う戦術だ。

奇襲により兵力を削り、即座に撤退する事で自軍の損害を減らし、

次への恐怖で敵の士気を下げ、精神的疲労をついてさらに不意打ちを続ける。

そして補給線も破壊して敵軍の長期継続戦力を消耗させるのだ。

そういう視点で見れば散兵させていることにはこれまでと違う意味が

見えてくるが、異常なのは敵兵の位置が判明しても機能してしまう所だ。

無視できない戦闘力が一兵ずつにある上に謎の第二防衛ラインの存在で

第一ラインの穴を素直に抜けられない。第二でまごついている間に

自由に動ける彼女達に挟撃されては兵を無駄に消耗するだけ。

それはつまり。


「結局のところ、俺らがやることに何も変わりがない。変えようがない。

 その事実をより強く突きつけられただけ……なんだ、これ。どこぞの

 将軍閣下みたいな戦術使いやがって。じつは来てるとか無いだろうな!?」


分かっていても、相手の思惑に乗るしかない状況にある。

指揮官としては単純に罠にかかるより度し難い屈辱に声が荒れる。

手の平で踊らされているのを自覚しながら踊るしか道が見えない。

脳裏に浮かぶのは過去に一度そうやって、彼を自爆せざるを得ないほどに

追い込んだ『無銘』トップの顔である。


「冗談でもそんなこといわないでほしいな。

 彼の将軍とその懐槍にマスカレイドなど私でもどうにもならんと分かるぞ」


可能性として絶対にありえないとまで言い切れないせいかベノムの顔は青い。

裏社会で唯一マスカレイドに対抗できる個人ではないかと期待される男だ。

共闘などされてはこちら側に勝ち目などほぼ無い。


「悪かったよ、嫌なこと思い出しちまっただけだ。奴は来ない。

 いるならそれこそここに無銘の本隊まで来て真っ当な戦争してるさ」


「………」


それはそれで嫌な光景だとベノムは苦虫を噛み潰したような顔をする。

自分達は突如寄せ集めた兵力ゆえに数は多いがまとまりと士気は微妙だ。

元より組織が秘密主義及び両世界に跨る程の巨大さから『牙』の長である

シックスのことを知らなかった者さえいる。今回が初指揮下という者も。

一方で件のオルティス将軍は政府に反旗を翻してなお内外から支持が高く、

その忠実な配下とのこの状態での全面衝突など狂信が覚めるほど無謀だった。

だがシックスはそんな様子を意図的に無視して戦況をリアルタイムで

映しているモニターに意識を完全に向けた。


「あのクリムゾンレディズを本当に使い潰すかのように戦わせているな。

 ならその後ろにある防衛ラインには奴らが倒れた後でもこっちを

 迎え撃てる準備があるってことか、もしくは……」


それさえもブラフで他に狙いがあるのか。

時間稼ぎ。戦力及び戦術分析。虚仮威し。誘い出し。囮。

今にも全滅しそうな第二陣を冷徹に眺めながらもいくつかの可能性を

考えて、だがシックスは首を振った。何にしろ第二防衛ライン以降の

正体を暴かなくては話にならない。歌姫の暗殺も、本命の仮面(マスカレイド)抹殺も

今はまだ状況すら整わない。ならば。


「シックス?」


「いいだろう、誘われてるのは最初から分かってんだ。乗ってやる。

 ベノム、捨て駒の第三陣を投入しろ同時に主力から地上と空にそれぞれ

 一個分隊を出せ。地上分隊はここ、空襲分隊は反対のここから侵攻だ。

 目的は威力偵察だが可能なら突破しろといっておけ。それと外縁部の

 連中には支援射撃要請、味方に当たらなければ狙いは気にするなと言え」


「わかった…まったく本当に侵攻作戦になってきたな」


頷きながらも厄介なことだと漏らしたベノムに、

だがシックスは胸中で「これは最初からずっと暗殺だよ」と返す。

集めた戦力が全滅しようが構わないと本気で彼は考えている。

どの道、単純な「兵数」という戦力が仮面に通用するわけもない。

あちらからすれば固まってくれた分葬りやすくなるだけの話だ。

ならどれだけ被害を出そうがここはマスカレイドの思惑通りに

進んでいると思ってくれた方が都合がいい。それで防衛網の

いくらかが判明するなら儲けもの。全てはマスカレイド抹殺のため。

その準備にどれだけ損失が出ようと高過ぎるという事はない。

最後に敵味方誰も立っていないのならそれは『蛇』の勝利なのだ。


しかし今はまだその前準備にすら至れていない。

ならば兵をいくら使おうとも至れる屍の道を作るだけ。

それまではいくらでも策に乗ろう。罠に嵌ろう。損害を出そう。

本当に全てはそれから(・・・・・・・)なのだから。


さて、削り合いで勝つのはどちらか。

クリムゾンたちはどれだけ兵を落とせるか。

マスカレイドの罠と策略は『蛇』をどれだけ悩ますか。

どれだけ凶悪な隠し玉が用意されているのか。



関係がない。



目の前の攻防など所詮はただの児戯、茶番。

そこでいくらでも策謀を巡らし局地的な勝利を得るがいい。

仮面が盤上を見下ろしいつでも引っ繰り返せるつもりなら

こちらはそれ以上の広い盤上でモノを考えていればいい。

だから。




──せいぜい頑張って、最後まで(・・・・)歌姫を守っていてくれよ


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