04-92 その裏での一幕
申し訳ない、どうにも手間取っているため非常に短い話です。
そして時間軸上、同じ数字の裏話。ぶっちゃけどこに入れたらいいか
解らなくなって困ってた話をぶちこみました。
どうしても11月中にもう一回ぐらい更新したかったので。
冒頭から─ある人物たちにとっては─とんでもない暴露があります。
これを読んだあとにもう一度「04-92 銀の弾丸とは格が違う」か「04-95 狙われるのは…」を
読むともしかしたらクスッとするところがあるかもしれません……おそらく
─────『蛇』
そう名乗る裏組織をシンイチが認識したのはじつのところ、彼らにとっては
業腹なことであろうし説明した彼女にとっても驚愕だったが“あの”直前だ。
礼拝堂を襲った脅威とモニカを狙った狙撃の様子からミューヒは一連の
不可解な暗殺事件を連想しこれも『蛇』の仕業ではないかと当たりを付けていた。
だからあのリビングに潜んでいる際に、当然知っているという体で声を使わぬ
テキストではあったが話し合っていたが会話の齟齬で仮面が存在自体を
知らなかった事が露見したのである。
『マジで?』
外骨格を纏った顔が見えなかったというのに心底から驚愕しているのが
ありありと伝わる文章であったと後々シンイチは語ったとかなんとか。
あれだけ裏社会を震え上がらせた張本人がその裏社会でも伝説に近い
扱いを受けている組織を名前すら知らなかったというのはどんな笑い話か。
ゆえに実はあの場の裏では彼女による『蛇』の解説が行われていた。
本物の構成員がいる場だと思えばなんとも間の抜けた話でもあったが、
その解説時間を設けたからこそあのタイミングでの介入となったのだから
結果論あるいは後々振り返ってみるとというべき幸いな話であった。
ミューヒ自身はそれも彼特有の奇妙な偶然と解釈しているが。
曰く『蛇』は非常に古い歴史を持つ秘密結社だという。
それこそ誕生がいつであったか同じ裏の住人達でも分からないほど。
『無銘』が誕生して10年にも満たないほど若く、ここ数年で急成長して
裏と表で名を挙げた犯罪組織ならば確実に数百年以上は昔から存在していたはず
なのに裏社会でも存在が疑われているほど目的と正体が不明な結社が『蛇』だ。
ガレストの歴史において重大事件や何かしらの要人の暗殺か失踪の裏には彼らが
必ずいるとまことしやかに語られている。軍や政府も上にいる人間ほど実在を
認識しているという話だ。それでも“分かっている”といえることは上記を
含めてもかなり少ない。多種多様な犯罪行為を行っているのは確実なのだが
動機面やそれを可能とする財力や技術力、組織力がどこから来ているのかは謎。
そもそもにして彼らは自分達の存在を表に出そうとはしていないが、完全に
痕跡を消そうともしていないのだ。疑って根気よく調べればそれこそ
『尾』の先ぐらいは見えるようにしていくのだという。
『存在の不透明さと不気味さの演出としては理想的だな』
これへの仮面の率直な意見に、ある種コレとは逆かと彼女は思案する。
片や全貌も規模もよく分からないが存在してることだけは薄ら分かる存在感。
片や裏では好き放題して存在感は抜群な最強の個人なれどその正体は不明。
尻尾だけは見せている組織と全体は見せているが謎だらけな個人。
─果たしてどちらが厄介なのか
内心で頭を抱えるもミューヒは説明を続けるのを選ぶ。
実際『蛇』のそれはそんな意図があるのだろうと考えられている。
薄らと存在と影響力を匂わすことで有力者・権力者への牽制と一種の宣伝。
知られていない組織より知られている組織の方が人、物、金は集まりやすい。
また違法合法含む様々な交渉もスムーズに進むだろう。
何が目的かは判然としないが実際その被害に遭ってる者達を表裏関係なく
見てきたと彼女は語る。それでもガレストの捜査機関・諜報機関が
追えているのは『尾』まで。あるいはせいぜいが近づきすぎた者を
始末する『牙』だ。さらにいえば組織名どころかこういった各部門の
呼び名でさえ把握するのに幾人もの捜査官や諜報員、懐柔した末端構成員の
犠牲があってなのだ。その本丸『頭』は影すらつかめていない。
同じ裏の住人たちでさえその先を知っている者はいないだろう。
普通はたいていの組織は横か縦のつながりがあるものなのだが、
『蛇』は『蛇』だけで独立している。もしくは全ての組織を
裏でそうとは知られずに操っているのではという噂まである。
本来なら与太話だが比較的近い裏側の住人達はそれもあり得ると
感じている。そうさせるだけのナニカを『蛇』という組織は持っていた。
『まさに謎の秘密結社、漫画だな』
『笑い話じゃないよ。それにここからが一番異常なんだから』
謎多き秘密結社『蛇』の特異性はそれらだけではない。
そしてその異常事態はここ数十年の間に起きていたのだ。
ガレストと地球による異世界交流の準備を進めていた時期に。
まだ互いの政府や国連が秘密裏の交渉を行っていた時期に。
地球側にもあった『蛇』とガレストの『蛇』が手を取り合ったのだ。
『……………は?』
『それが歴史上ガレストと地球の間で初めて行われた組織合併』
無論、完全非公式でこれから表沙汰になることもない話ではあるが。
これに地球側及びガレスト側の政府要人や捜査機関等の者達は愕然としたという。
互いの世界に自分達が手をこまねいている秘密結社が同じように存在していた事も
だがどうして同名で手口や組織形態まで同じモノが世界を隔てて存在していたのか。
よしんば互いに同じ形の肉体と知性、精神を持った生命体が文化を築いた世界だ。
そんな偶然も起こり得たとして、どうして自分達ですらまだ極秘交渉の段階なのに
裏組織がこんな簡単に手を取り合えたのか。そして何故その情報が漏れたのか。
『彼らの合併が各国首脳陣、むろんガレスト含めた連中も焦らせた。
私が生まれたかどうかぐらいの時期だから直接は知らないけど
『蛇』を知る者達はみんな戦々恐々としていたって話よ』
ゆえに意図的に知らされたのだと推測した彼らは『蛇』が近々何か
大きなことを仕出かすのではないかという懸念を抱いてしまった。
『おいおい、まさか色々事前準備の粗が目立つのって……』
『度合いは断言できないけど、当初考えられていた全体的なスケジュールが
速まったのは事実……『蛇』がその一因なのは間違いないと思うわ』
とりあえず形の上でも手を結ばなければ二世界を跨いで活動する『蛇』に
何をされるか分かったものではないと急いだ面があったのは確かだという。
どちらの世界にとっても何を目的としているのか判然としないまま
暗躍され続けたのだから当然の懸念といえよう。だが。
『へえ、そうだったのか』
それを聞いたマスカレイドのどこか感心したようなテキストがじつのところ
これまでで一番恐ろしく、鳥肌が立ったと後々ミューヒは語ったという。