表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊屋  作者: 全力疾走
8/11

破〜3・後〜壊



手が痛い、拳を握る事が出来ない…


やっぱり、少し殴りすぎたかな。



痛みで頭が冴えてきた…

なんか、自慰をした後の虚無感みたいなのが込み上げてくる…




なんかもうどうでもいいや…



勉強も剣道もなんかもういいや。



今何時だろ?

外から学校帰りの小学生の声が聞こえてくる。


今日も終りだなー



外…あっ、竹刀どうしよう?


捨てたはいいけど、イタズラされて誰かにケガさせたら嫌だしな…


じーと天井を見ながら考えてみる。


途中から天井の染みに意識が行った


ハー…、取りに行く、か…



「ただいまー…」

一階から声がした。

どうやら、母さんのお帰りみたいだ


ならいっか、どうせ母さんが拾っただろうし、持って来てくれるさ。




――――トン、トン、トン…


ほらね、母さんが階段を上がって来た。

きっと右手にでも竹刀を持ってるさ。


はじめぇー?」

俺の事呼んでるし、間違いないだろ。


「何ー?」


フスマを開けて母さんが入ってくる。


竹刀は…持って無い?

「これ…ポストに入ってたんだけど?友達?」


代わりに持って来たのは、メモ用紙?裏は何かの広告だ、即席で作ったんだな、コレ…


―いつもの場所で待ってる―


「いつもの場所って?」


「分かんない…他に何か無かった?」


「他?うーん、あったけどゴミよ?」


「ゴミ?」


「うん、煙草の箱、本当に頭くるわよね、人のポスト何だと思ってるのよね!」


―煙草?いつもの場所?――


母さんは文句を言いながら、部屋を出ようとする。


「あっ!ねぇ、外に竹刀落ちてなかった?」


「竹刀?落ちてなかったわよ?」


間違いない、よな?


煙草、いつもの場所、消えた竹刀


思い当たるのは一つだけ…


「うん、分かった。ありがと」




――――pm8:00


いつもの時間、いつもの場所、いつもじゃない俺


石段200段を登り境内に、―――いた。


煙草の火が見える

脇には竹刀がある

………なんであの人が?


「あの、貴方ですよね?ポストにメモ入れたのって?」


「…ああ、そうだよ。」

ブワッと白煙が出てくる。

臭い…


「その竹刀、俺のなんですけど」


「ああ、コレ?コレは拾ったんだよ、今日、道端に落ちてて。」


「あの…返して下さい…」


「ハハハ、ソレは無理」


え?

「え?、いやソレは俺の…」

「捨てたんだろ?」


「………」

黙るしか無い

「今日、悪いがコレ拾った時聞こえたんだフザケンナ、チクショーってな。」


確かに叫んでた。


「だから、コレは俺が貰う。」


自然と拳を握る。


…でも、いいんじゃないか?別に、もう辞めたんだし。

返って好都合じゃん、捨てる手間が省けて……


「…………いいですよ、あげます。…一つだけ聞いていいですか?」


「何?」


「なんで俺をココに呼んだんですか?」


ニヤっと笑う男

「コレを見せたかったんだ。」

手に竹刀を握り、振りかぶる

「え?」

狙うは鉄塔

「まさか…」

踏み込み、振りきる。

「やァめろぉーーー!!!」



―――――――ガンッ!パキャッ!!―


鈍い音、折れた音。

笑う男


何もかもがムカついた。

何もかもが気に喰わなかった。


ハッキリとはしないけど、そう感じた。


ハッキリとしてる事は、目の前が濡れて何も見えないこと

男に向かって殴りかかろうとしていること


それはムカついてるとかそんなんじゃなくて、悲しかったからって事



「お前、本当に中途半端…」

男は俺の拳を受け流して、そのまま右手を掴んで男の右手を添えた…って、え?


身体が浮く、男がしゃがむ…


月を眺める、いや投げられたのか?


蒸し暑い中、虫が鳴く

「ゲホッ!!ハァ、ハァ…ゴホッ!」

息が詰まった


「しかも、弱ッ!」


うるせぇ!俺は剣道しかやってないんだ!


「何がいらないだよ、めちゃくちゃ怒ってんじゃん?しかも何、泣いてんの?男のくせに?」


男が倒れた俺を見下て続ける


「用はお前、中途半端なんだよ。自分でふっきったつもりですか?」


中途半端………確かに

「お前本当に馬鹿だよ、アレだけ毎晩毎晩ココに来てやってたのに、急に飽きたとか言って辞められると思ってんの?」


「…………」


「ま、辞められないから、『やァめろぉーーー』なんだろうがな。」


「…………うるせぇよ!あんたなんかに何が分かるんだよ!!さも、知ってますみたいな事言いやがって、フザケンナよ!!」

殴りたいだけど…届かない。クソッ!体がびびってる、コエーよ


「……………確かに、俺はお前の事は何も分からない、お前の事はお前が一番分かるだろうな。じゃあ、なんで俺に殴り掛かった?なんで涙を流した?なぜ止めた?一度は了承したくせになんでだ?」

「………分かんねぇよ!そんなの…ただ何かムカついて気にくわなくて……」


気に食わなくて、いらついて…自分を見捨てたみたいで。


「……悲しかったから?」


「……え……?」


「ずっとアノ竹刀でやってたんだろ?素振り?」


何が言いたいのか分からない、俺は黙ってるしか選択は無いみたいだ


「用は、アレはお前の剣道が具現化したもんだと考えてもいいわけだ。それが目の前で壊された…。それがクダラナイ道なら笑って済むだろうな、だけど、自分なりに必死こいて築き上げてきたもんなら悲しいだろうし悔しいだろうな」


「悔しい…?」


「自分が築き上げてきたもんを俺なんかにぶっ壊されたんだから。」


「……………」


熱く湿っぽい風が吹く

今日は夏なんだと、肌で感じた


「…それでもって、それを守れなかった自分自身が」


煙草の煙が流れてく


…この人の言ってる意味は何となくは分かる……それにコレって…

「なんで、お前が竹刀を捨てたかなんて知らない、お前の事は何一つとして知らないから、でもお前がとった行動の結末は分かる。……今見たから、な。」

「……」


「お前は…2回、竹刀を捨てたわけだ、窓からと、俺に、そのどちらも無理矢理諦めようとした産物って感じで、そして俺に捨てた結果…今泣いてるお前がいる……

なら、窓から捨てた結果はどうなる?

変わると思うか?」


そんなの聞かれ無くても分かってる。


「しかもだ、窓から捨てたのは竹刀だけじゃないだろ?竹刀と一緒に何を捨てた?」


ナニヲステタ?


カミ?


ティッシュ?


ゴミ?



違う



捨てたのは



俺の本当の気持ちだ



「竹刀だけでこんなに悔しくて泣いてるのに、それ以上のもんと一緒に捨てたとくれば……まぁどうなるかわかるよな?しかも、今度は壊すのは俺でもなければ誰でもねぇ、お前自身なんだよ」


竹刀だけでも、今俺の中に穴が空いた、なら俺の本心を捨てたなら?

しかもそれを壊すのが俺自身なら?

多分…いや確実に




一生の“悔”になる




俺の中に、今まで偽って、逃げて、隠そうとしてた事実があった


俺はソレを誰よりも、知ってた、だから隠そうと押し込んでた


でも今、晒け出された事実がここにいる



そして、一緒に引っ張り出された、押し込んでた感情もまた、ここにある



「な、ら…お、れ…どうし、たら?」


涙が止まらない、声が出ない、何かを吐き出そうとしてるみたいに喉が動く


男は月を仰いで

煙は登る



「自分の本当の気持ちも大切な物も、捨てなきゃいい。」



自分の大切な物?本当の気持ち?何を軽々と言ってくれやがるんだ


「…………ソレだけを守り通したとしても、結果が、結果がダメなら!?」

男の無責任な言葉に噛みつかずにはいられなかった


俺は今まで俺なりに努力してきた、だけど結果にはならなかった。試合では負けて


テストでは間違えて


メンバーには入れなくて


何したって結局は結果がダメなら、ムカつくし、やりたくなんかない。


「結果なんて、後から出来る物であって、守れるもんじゃない。」

何が言いたいんだろう、コイツは、いきなり人の前に現れて、投げ飛ばして


「結果云々の前にお前は何を積み上げてきた?それこそ守るもんだろ?」



色々と考えが回る。

俺は何を考えてやって来たんだ?

勝ちたいから?結果をだしたいから?

確かにそれもある。

あったけど


それ以上に



“諦めたくなかった”


だから、やってきたんじゃないのか?


“努力”


こんなにもありふれてこんなにも難しい言葉は、きっと他にはないだろう


「結果がダメでもその“守り抜いた事”に胸を張って堂々としてりゃいい。」


とんでもない言葉を煙りと一緒に吐き出す

本当になんなんだ、この男は


「…俺、諦めたくなかったんです…」

ずいぶんと落ち着いてきてたのに

また喉から何か出そうになる


それを堪えたら代わりにまた目から漏れてきた



「諦めたくないから、馬鹿みたいに、やってきた、だけど胸なんか張れない!」

結果は着いてくるものだ…って昔、先生に言われた事があった。

努力し、継続してようやく結果が出てくる…っと、だけどソレって結局、結果が出なければ、努力も継続も無意味って事だろ?


なのにこの人は結果何ていらない、何て言ってくれる


「結果がでなけりゃ努力も継続もいみなんかねぇんだよ!!」


フザケンナ…今日何回言った言葉だろうか?


どんなに“諦めたくない”なんて思っても、俺は凡人『頑張ったで賞』なんてもらえる結果は出せない


つまり、やる意味なんて無いんだ、自分に合った器で我慢するしか無いんだ


コレは誰へでも無く、今までの自分に言おう。


「フザケンナよ…」


「………」

何だまだ何か言う気かよ、これ以上もう聞く必要なんて無いじゃん

拳から血が溢れだす、さっき付けたキズテープは、もう真っ赤で粘着力も無かった。


「……言いたい事は理解出来てる。」


何だ、分かってるんじゃん、…そう思ったら不思議と凄い怒りが沸いてきた


「でも、お前の考え方じゃあ何も出来ない、何も始めず、やる前から負けた気になって臆病になってるのと同じだ」


何も言えない俺の代わりに、鈴虫が返事を返す


ああ、その通りだ。っと、涼しげに返事を返す


「さっきも言ったが、自分の胸を張れ、他のを張らしてやる必要なんてない。自分自身を認めてやれ。」


本当になんなんだこの男は

とんでもない言葉を

とんでもない真顔で

とんでもなく真っ直ぐに投げてくる。


「“諦めたくない”凄く大変な物をお前は胸に抱いてた。結果がどんなに出せなくても、必死にその気持ちを守り抜いてた。」


今は違う、俺は無意識にそう呟いた。


「そうだな、今は違う、だけどこの今が最後のチャンスだ。」


「え?」


「“諦めたくない”こんなデカイもん抱えてアレもコレも落とせずにいられるほど、器用には見えない。きっとお前、今までいろんなもの諦めただろ?」


図星だった。

最後の最後って所で諦めってた姿がよぎる


「今諦めようとしてる物は、その中で必死にお前が守り抜いてきた物だ。つまりこれだけは落としたくないって思ってたもんってわけだ。」


最後、そうか、これ捨てたらもう諦めるものなんてなにも無い。


「だから、最後の今だ。今まで諦めずにいたお前。だけどもしコレを捨てたなら、コレからは臆病風に流されてくお前になる。」


…………確かに、俺は器用な性格じゃない、家でも料理やりながら掃除とかすると、料理がコゲてたりする。

何か考え出すともう周りは見えなくなる

だから、授業の時の回答率は30パーセントも無いだろう



つまり俺は凄い不器用なんだな。




だけど一つの事だけなら、やり抜ける自信ならある


「お前は結果を求めてたな、…気付いていないかもしれないけど、“諦めたくない”って気持ちでずーとやり続ける事ができたお前のその道は充分な結果だ、それは胸を張っていいもんだ、認めてやっていいもんだ。」


あっ、と声が漏れる


確かにソレはソレで結果には違いない。


そうか、分かったよ先生。努力も継続もやり抜いてそこで、そのやりぬいた事実が初めて結果と言える物になるって意味だったんだ


「だから、この結果をやりぬけ、まだ終わっちゃいない。」


二人の男はニヤっと笑った


真っ赤に染まったキズテープは粘着力は無かった、だけど、それでもまだ、拳にくっついてた、シツコイ奴だと思った。

でも、俺も同じだと思った。


「…まだ諦めるわけにはいかない、って訳だ。」

ようやく鈴虫に代わって返事が出来た。


「おう、その通り。ま、一つぐらいなら、どんなに不器用な奴でも諦めなきゃやり抜けるだろ」


男の言い方は少しムカついたが、まぁここは押さえよう。


「ああ、それと…」


男はベンチの裏の茂みに手を突っ込む


「ほら、まだ必要だろ?やり抜くんだったら」


右手には竹刀が握られていた。


「…………え?」


じゃあさっき折られたのって、折れてる竹刀の柄の部分は真っ白だ…まるで新品みたいに。


「まぁ、嘘も方便とはよく言った物だな。」

乾いた笑い声が余計にムカついた。


「…アンタ、一体なんなんだよ!!」


「俺か?俺は破壊屋だ。」


「は?破壊?……なにも壊してないじゃん」

事実なにも壊れてない、俺は諦め無かったし、竹刀もある。


「お前のコレからを壊して、今までにしただろ?つまり、変化をぶち壊してやった訳。」

「………」

黙る事で相づちを返す

「まあ、変わらン事の方が良いものってのが世の中にはあるって事だよ、ああ今回は料金とかはいいや、雀の涙も命取りの学生だろうし、タカが知れてるし。ぶっちゃけ今回竹刀はお前の学校から頂戴したし」


「…………」


「ま、そんな喜ぶなって、今回だけだからな」


怒りって黙ってるだけでも伝わらないんだな


「……………ま、うまくやれよ、最後の最後になるなよ?」


「分かってるって」

コレからも諦めるにでいられるような、継続点にしてやる


「……そうか、じゃあお別れだ。」

「……そうなのか?」

「ああ、そういう決まりだ。」



「……じゃあな、青年。武運を祈る。」


男は階段へと消えた。

「……ありがとう。」絶対に聞かれたくない言葉を、絶対に言いたくない奴に向かって呟いた。


ま、聞こえる訳も無いし、いいか。


リー、リー、と鈴虫が鳴くように。

俺は竹刀を振ろう。


コレしか俺には出来ないから。

コレしか俺は守れ抜けないから。


そしてコレが俺だから。




鈴虫が鳴く、そんな中笑う男が一人階段にいるのには俺は気付かなかった。













〜後日談〜


その後、青年とは会ってない。まぁ、大丈夫だろう。


そうそう、風の噂できいたんだが、この前の剣道の大会で、強校のレギュラー相手に延長3回まで戦い抜いて敗けた奴がいたらしい。最後には体力もつきて何回も転んで、立ってるのがやっとだったらしく、終わったらぶっ倒れたって言うんで、今じゃあ有名だ、ソイツ不思議な事にぶっ倒れてる時の顔は笑ってたらしい



そして、竹刀の柄は真っ黒で、しかも、もうほとんどはげてたんだとさ。



ハハハ、やっぱりアイツの竹刀、学校から盗んだのは失敗だったかな?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ