破〜2・後〜壊
カラスが鳴く。
オレンジの空の下、ずいぶん日が長くなった。
さて、雄介君を公園に連れてきたのはいいけど……
どう話そう……
今この子結構、厭世主義になってるとおもうのよね。
全部離すとなると、う〜ん、今後の教育によくないかな?
私は、盗聴機を借りて大原君の家に仕掛けたの
合計7個。
後、電話回線も電柱を少しいじったし、近くに駐車場があったからそこにワゴン車止めて、よし、電波範囲内。え?免許?持ってないよ?
車?え?道端に落ちてるじゃない。
もちろんナンバープレイトは変えたけどね。
さて、プライバシーも人権もどうでもいいの。
私が狙うのは大原 亮宅の家庭内崩壊。
居場所を奪った者には同じ苦しみを。
世の中、等価交換が原則でしょ?
(車泥棒?大丈夫、これ、政治家の家から盗ったから)
ま、そこから考えれば、破壊=創造ってのも頷けるわね。
さてさて、お仕事しますかー
今、私が調べて分かってる事は、大原宅は以外と裕福な家庭みたいね。
閑静な住宅街に、立派な一戸建て、庭付き、で、亮ちゅんはずーと、甘やかされてたみたい。
まー、そこはいいとして、問題がおきたのは、小4の半ばくらいね親父さんとお袋さんの仲が覚めきって、なんとか亮君のおかげで夫婦保ってたみたい。
イジメは…ま、今までの反動だろうね。自分が今まで望んだ物はあらかた、買って貰ってただろうし。
わがままに育ってきたんだろう
な・の・に、今自分が一番望む環境が手に入らなくなった
それで(まぁなんで雄介がターゲットになったかは知らんが……)いじめたってところね…
両親の情報は
親父さんは、、医者やってるんだって。
お袋さんは、専業主婦ね、ただ昔は大手の企業のバリバリのキャリアウーマンだったみたい。
今は暇を持て余した危ない人妻ってとこみたい、夫も子どももいない時間帯に、何回も電話があった、セールスとか、そんな堅苦しい電話じゃなくて、危険な香りがプンプンする電話。
……いや甘いニオイって言った方がいいか…
しかも、特定じゃなくて、多数ね。
実際に張って見たけど、若い男ね。
フリーターって感じのいかにも、性欲なら自信ありますって感じ。
まぁ、奥様の方はだいたいこんな感じね。
さて、殿方は…と………………コイツ大物ね。
職場は市内でも大きな病院。
あちゃー、ありゃ看護婦と出来てるわ…
なんかスキンシップがいやらしい…もうイタリア人もビックリね…
し・か・も、堂々とその看護婦とホテルイン、いや、お城イン。
何診察してるのやら……っと、失敬
写真も撮りまくったし、証拠充分
いや、小道具充分か…あとはドロドロの昼ドラ突入よ!
まずは、奥様宛にご主人のベストショット(お城イン)を送付。
もちろん差出人不明でね。
………で、無言電話を奥様に、ご主人がでたら、
「あっ俺ですけど、また会えます?」
もちろんボイスチェンジャーの設定は男。
さて、ご家庭はいまピシピシね、いやー、盗聴機がたくさんあると、人間の裏がたくさん見えるね。
奥様は、写真の事を聞き出せず、疑心暗鬼。
殿方は、謎の電話で疑心暗鬼。
もういっちょう追い詰めますか……
私は敢えて目立つ毒舌で大原の小学校の周りをウロウロ、不審者情報は連絡網で流れて…そこで、今度は大原宅の周りをウロウロ。
心当たりがある奥様、最近電話番号変えましたね?
アハハ、何人も家に連れ込んでおいて
もう、遅い。
さらに、亮ちゃんが雄介をイジメてるとこを撮影。
だめだよ?
ちゃんとカーテンくらい閉めなくちゃ?
他にも良からぬ事してる亮ちゃんを撮影!
おっと、家庭内ヤバイわねーー
奥様ビクビク
ヘへ、こんな家庭じゃまともな子供は育たないわね
同情?悪いけど私はしないわよ。《こんな家庭で育ったからー》とか、そんなのただの甘えじゃない、ましてや、こんな裕福な環境で…
子供が無力だとお思いで?
自分に不相応な事も、しっかりやってる子だっている、蹴られても、イジメられても、甘えたくても、涙さえ、全部押し殺して、笑顔を作りつづけてた。
子供だっている
そんな事ができる子供を無力だと言える?
言えないわ。
亮は変えようと思ったなら、きっと変えられたでしょう。
だってあの家庭、亮で繋がってるんだから
なのに、何もしなかった。
選んだ方法は、傍観。今まで散々、わがまましてきたみたいなのに、肝心な所で望め無かったのね。
…確かに、見方を変えれば、可哀想な子、非力な子と見れるけど
何にも出来ない自分を恥じず、人に当たったその精神は、私にとっては充分破壊目標。
言ったでしょ?
私やる事はとことんやるの。
雄介があんな想像できないように、元凶を粉砕するのみ。
ショータイム!!
旦那様には悪いけど朝仕事に向かう時財布をすらせて貰ったわ。
そしてこの中に、あの看護婦さんの携帯番号と《いつでも、電話して》とピンクでカワイイ感じに書いた紙をわざと抜きやすい状態で大原宅に届ける。アハハ、奥様こんにちは!
旦那さんの方には、明日奥様のパパラッチを送って完成ね。
ま、今日事態が動けば、それでいいけど。
さてさて…ダッシュでワゴンへ!朝の風が気持いい!
電話盗聴開始!!
トゥルルル…トゥルル…カチャッ
「はい、もしもし?」修羅場開始じゃあーー
「あの、わたし、大原の妻ですが、主人とはどういう関係なんですか?」
「え??うそ、ヤだ!―――どうした?
奥さんからかかって来たの!
―――えぇ!?」
オイオイ、しかもばっちり一緒かよー最高ねこの展開!
「貴方!?いまそこに居るのね!?どういう事なのよ!!貴方!!」
「ちょっと!?どうするの?!
―――い、いや、どうしよう?
どうしようって先生…」
アハハ、マジ旦那情けなーい。
「ふーーはじめまして、大原さん?私旦那さんの愛人です」
キッターーーーー
強気な女!!
「な!?何を堂々と!!この泥棒!!」
うわっ生泥棒初めて聞いたー!!
「よく言うわよ、貴方だって浮気してるんでしょ?」
「え?」
「自宅にかかってくる若い男からの電話…次はいつ会える?…ってしかも、それ出会い系でしょ、かかってくる男の声みんな違ってたって言うじゃない?
―――お、オイ
先生は黙ってて!」
ハイ、ソイツは私です。毎回声変えてました。反省!
「そ、それは…」
「貴方、最近、愛のあるSEXしてる?貴方のやってる事ってただの穴埋めじゃない?旦那さんに愛されたいのに愛されないだから、その行為だけで、穴埋める。ま、そんなんで穴が埋まらないから何人もの人とヤッちゃうんでしょうけど…」
スッゲーこの看護婦スッゲー
「わ、私は…」
「ごめんなさい、貴方の旦那私を愛してるの。」
決まりました!!ストレートです!!おっと奥様立てません、ダウンかダウンかーー!!!
「今晩、御自宅にお邪魔するわ、三人で話し合いましょう」
ガチャン……ツーツー
カンカンカン!!
KOです!!奥様立てません!!
いやー見事なまでに畳み込む看護婦ねーー
なんか聞いててサッパリしちゃった!
奥様パパラッチは必要なくなったわね……いや、コレはコレで利用可能ね
でも、ま、充分火は起こしたし……クライマックスといきますか。
PM8:00
うっわードキドキするー
今どうやら、リビングのテーブルに大原の奥様、旦那さん、そして看護婦の三人が座っている。
クッソーどういう形で座ってるのか見たい、盗撮も借りれば良かった……
亮ちゃんはお部屋に避難してるわね…
エヘッ、ごめんね。
もう学校には君の家の家庭内状況は伝えておいたんだ。(もちろん、噂を流してね)
君には肝心なことを望まなかった事を悔いてもらう。
そして、自分の非力さを自覚してもらう。
もしコレがきたなら君は優しくなれる。
本当の望み方ができるようになる。
もし、コレが出来ないなら、ま、仕方ない、あの学校から君を追い出そう
この状況で一番熱が上がった時に、君がやっていた悪行を電話で全部バラすね?
イジメ以外にも落書きとか、万引きとか色々やってたね
全部写真に撮ったから
例えこの状態を大原家が乗り切ったとしても、亮くん、君のやってきた行動で、多分潰れるね。ま、そしたらまた悔いてくれ。
…………………………………熱が上がる所って……何処がピークか分からないんですけど…………
ここは覚めたとこにいくしかないわね。
PM8:45
戦績…
奥様、0ポイント
看護婦、100ポイント
ま、こうなるだろうとは思ってたけどね。
そろそろチェックメイしますか。
携帯で大原宅に電話をかける…
ま、直ぐには出ないだろうし、気長に待ちますか…
ふっと空を見ると暗くて、星一つ見えない。
周りには街灯があって明るく見えてるけど、きっと、この街灯のせいで、星は見えないんだろう。
トゥルル…トゥルル……カチャ…
「ハイ?大原ですが」
おっ奥様の声だな、ボイスチェンジャーも装備して…よし。決めますか!
「あ、もしもし、夜分遅くに失礼します。
私、亮君の学年の主任の者ですが、今お時間よろしいですか?」
「え?ええ…と」
奥さん戸惑ってるな
「こちらも電話で失礼かと思ったんですが、事態が事態なので…」
「…と、言いますと?」
「いえ、今日私どもの机に何枚かの写真が送られて来まして。その内容がですね、亮君の非行行為なんです。」
「えっ!、…ぐ、具体的にはどんな?」
「万引き、暴力、落書き。などです。」
「そ、そんな…」
「あっ大原さんFAX有りますよね?今から送ります…」
「え?」
もうFAX番号は調べてあるの。
車に置いてある小型FAXに写真を入れてと、(勿論電柱いじったわよ。)
GO!
「え?いや、何コレちょッ、ちょっと!!」奥さん必死だな。
「私は、確かにこれで警告と、事態のご説明はしましたから。何かクレームがあったらどうぞ、学年主任のハゼモトまで…」
……ピッ……
よし、これでいいだろ。ハゼモトなんて名字そうそういるもんじゃないし、大丈夫かな。
後は…事の成り行きにまかせますか………
はい、で、今にいたります。
雄介には
「うーん、何かやろうとしたら、大原さん所が離婚しちゃって、あとは成り行きまかせねー、運も実力の内ってわけ、凄いマジックでしょーー」と、適当な事を言っておくことにした
雄介の話しによると、大原はスッゴク落ち込んでるらしい。
そりゃそうよね。だってあの後、ヒステリックマダムが亮をリビングに連れてきて、夢の四者面談ですもん。
……もし彼に反省と後悔する知能が無かったら、学校にいられなくしてやろうと思ってたんだけど。ま、この分だと大丈夫かな…?
「じゃあ、もうイジメは無くなったのね?」「うん、友達も戻ってきたよ」
ふー、大丈夫そうねこれで。
あの奥さんに送り付けた写真の中には、亮が雄介を蹴っている写真はいれなかったし、雄介がこの件に関わってるなんて、夢にも思わないだろう。
「あっ、お姉ちゃん、コレ…」
雄介は500円を私に渡した。
「500円でいいんだよね?」
「うん、500円よ。…………ねぇ、もし、大原がなんかまたしてきたら…」
「大丈夫だよ、僕今の生活を守りたいもん。だから、大丈夫。」
そうだった、この子は自分が守りたいと思ったものは、守り通そうとする子だ、なんか、今回、私少し破壊しすぎたわね。
想像を無くすつもりが…でも、こんなオーバーワークなら悪くはないか…
「そ、なら大丈夫ね。あ、後、大原なんだけど……」
「う、ん。まだ僕はアイツの事が嫌いだけど、あのままずっと独りでいるなら、許してあげようと思ってる」
「え…?」
「やっぱり、独りは寂しいから。僕もイヤだったもん」
ああ、この子は優しくなれたのね。
夕日で笑顔がキレイにみえる
「お前…カッコイイな!」
髪を手でクシャクシャにしてやった。
「さて、じゃあ私は帰るね、って言っても、もう会えないけどね。」
「…………そうなんだ…」
うん、それが破壊屋だからね。
こればっかりは、仕方がない
「じゃあね。」
とお別れを言う雄介、目がうるんでる。
「うん、バイバイ」
私はそう言って雄介の額にキスをした、何故って?不覚にもカワイイな…って思ったからよ。
でも、コイツちっちゃいから、わたしが腰曲げなきゃならなかった
雄介のポカーンとした姿に一笑し、私は踵を返した
帰り道
雄介のポケットに、いつかの飴玉の袋が入ってた
「やっぱり甘かったな」
雄介が出した言葉は、夏の風に乗って淡い空へと消えていった。
後日談
「ただいまー」
「お帰りー」霧川さんが返事をかえしてくる
「あっ、霧川さん…コレ今回の分です。」
私はポッケからお札を渡す。
「………え?どうした?コレ?」
その数、10枚、計10万だ。
「こんな大金子供が持ってるわけないし…誰から?」
「ま、アレです。経済的に裕福なマダムから徴収しました。」
そう、大原の奥様からだ、あの家庭離婚したらしいが、子供は奥様が引き取る事になったらしい。
もちろん養育費はたんまりだ。
しかも、この奥さん、以前男とあってた時にその男に“謝礼”を払ってた。
だから私は、手紙にこう書いたんだ。
「貴方の御趣味拝見しました。
写真を同封します。
ネガを買ってくれませんか?15万円でいいです。
下手な動きをするとこの写真ばらまきます。払ってくれれば、何もしませんし、ちゃんとネガは消します
ただ、私の方で一枚お気に入りのネガがありまして、奥さんキレイに写ってますよ?
これはもし今度、貴方が若い殿方をお宅に連れこんだ時に、バラマキましょう。
これは、嫉妬です。貴方をいつも見ています。
貴方を愛する者より」
ストーカー風味に仕上げてみました!
効果は抜群で、私の懐もホカホカ…さらに、これで奥さんも変わるだろうし。
めでたしめでたし。
あれ??コレなんだろう?
ポケットに黒いアンテナが着いた機械が入ってた
あっ、盗聴機の受信機だ…さっき盗聴機全部ユリちゃんに返したけど、受信機返し忘れてた。
意味も無く電波を受信してみる。
《今日も疲れたー》
うっそ!?電波入った!!
《霧川さんにパシラれて、隣町まで買い物行かされたし、なにが安いから!だよ、電車賃で俺赤字じゃん!》
あっ、これ靭だ…
ユリちゃん……
私は恋は人を変えるという事を知りました。