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女子高生研ぎ師見習い 悪役令嬢に転生しました❗〜農高出身転生者の私、5歳でも生活力は半端ないよ!~

掲載日:2026/10/24

「リリアお嬢様が池に落ちましたわ!」


 メイドのメリーが大声で叫んだ。叫んだところでリリアには何の役にも立たなかった。大きな池の中では捕まるものが何もない。

 リリアの同い年の義姉《あね》ウーリから「相談があるの。裏庭に一人で来て」って呼び出されて池の前までいったのはついさっき。池についたらガタイの大きい薄汚い男がいた。ウーリが男に「よろしくね」って言ったら、男は、リリアを捕まえて池にぽ~んと投げ入れた。


「あはは、いいざまね」


 そう言うとウーリは男に


 「さあ、私を抱えて走るのよ。門の前で私を下ろしたら捕まらないように逃げて。あとは私とお母様で上手くやるから」


 そう言って男と一緒にいなくなった。メイドのメリーがリリアを見つけて叫んだのはその直後。「もうだめだわ」とリリアは意識を手放した。

 


 ◇


 

 という二次創作小説を私は書いていた。リリアっていうのはね、恋愛シミュレーションゲーム「LOVEパワー~愛の力で魔王を倒せ~」に出てくる悪役令嬢のリリア・ゴールドラッシュ様。


 見た目は完璧なほど美しいのだが、瞳と髪の色が限りなく黒に近いこげ茶。黒髪と黒い瞳は魔人の象徴として怖れられている世界設定のため、『悪魔のご令嬢』と陰で呼ばれているの。


 ゲームスタート時点で、その美しさと孤高を保つ彼女に惹かれる攻略対象たち。そのままでは世界は悪役令嬢が壊してしまう。そのため悪の道に引きずりこまれないように、ヒロインを中心に4人の令嬢が愛の力で引き離し、やがて力を合わせ魔王を退治するという、かなり変わった恋愛シミュレーション。


 最終的にリリアは追放され、魔族の四天王の一人としてヒロインたちを妨害するんだけど……。私こういう子好きなのよね。孤高のヒロインとして、王子たちを振りまくる二次創作を作ろうと頑張っているのよ。



 あ、私? 私は桜(さくら) 凛(りん)。農業高校食品加工科2年生。調理師になりたくて調理科のある高校に行きたかったんだけど、こんな田舎にはそんな高校はないし、それなら農業高校の食品加工科がいいと中学の担任に言われてそのまま進学。受験勉強しなくても楽勝で入れたわ。


 普通高校では得られない特殊な実習の数々。鶏を絞めたり解体したり。経理の勉強もできるし、料理も作りたい放題。

 なによりよかったのは道具の手入れね。OBの料理人の先輩たちが調理クラブの指導に来てアドバイスをしてくれたの。そこで「料理人目指しています」って言ったら、プロの料理人の心得と技術を仕込んでくれた。


 特に感動したのが包丁の研ぎ方! 幾つもの砥石を駆使し、丁寧に研ぐと、100円ショップの包丁でも恐ろしいほどの切れ味に! もちろん良い包丁ほどいいに決まっているんだけど、


「手入れしなければ名刀も切れん。興味あるなら、世話になっている知り合いの研ぎ師に会わせてやる」


 って言って、日本刀の研ぎ師さんに会わせてくれたのよ! ゲームで日本刀にも興味があった私はもう大興奮!


 研ぎ師の数も年々減る一方だからと、若い人が来るのを喜んだおじいちゃん先生。思わず弟子入りしそうになったんだけど、まだ迷っている私に、

「弟子入りせんでもいいけど、いつか研ぎ師になってくれたらうれしいから」


と、通いながら聞くことを許してくれたの。たくさん刀見せてくれたし、砥石には詳しくなったし。


 今は調理師か研ぎ師か迷っているんだ。研ぎ師選んで師匠を喜ばせるか、料理人としてお客を喜ばせるか。

 まあ、研ぎの腕が上がるのは、調理師にとってもメリットしかないんだけどね。


 実習、研ぎ師、オタク趣味。そんな充実した高校生活を送っていたんだけど……。



◇



「お嬢様が目を覚ましました!」


 はぁ? え? ここどこ? 天井高い! 天蓋付きのベッド? メイドさん? 何故ここに? バタバタと大勢の人の足音がして、遠くのドアがバタンと開いたら、きれいな女の子が走り寄ってきた。


「リリア、大丈夫! 怖かったわよね」


 そう言って抱きつくと、耳元で「あんた、あの男との事バラしたら殺す!」とドスを聞かせながらささやいてきた。


 これは……。原作ではないよね。私の書いた二次創作のLOVEパワーそのままの世界? 異世界転生? 異世界憑依? なんにせよ私の名前は……。


「ウーリ様、お離れ下さい。リリア様、ご気分はいかがですか?」


 お医者さんが私に聞いてきた。リリア、やっぱり私リリアになっているのね? え? 私死んだの? なに? 女神様とか会っていないよ! 最近のラノベ、展開だけは早いから! でもそこまですっ飛ばすことなくない?


「リリア様?」

「え、あ、ああ。大丈夫。なんでもないわ」


 私は、向こうで何があったかの記憶もなく、異世界転生してしまったらしい。


 悪役令嬢のリリア・ゴールドラッシュに。

 


◇◇◇



 私だって、だてに二次創作書いていたわけじゃないの。

 受験勉強必要なかったから、その時期に周回を重ね、全てのエンディングを見届け、さらに周回を重ねては悪役令嬢リリアの幸せを願っていたのよ。


 主役たちのバッドエンドを選択しても幸せになれないリリア様。だから設定集や公式のサイドストーリーも読み込んでの二次創作。本編では描かれていない幼少期の出来事をあらゆる面から推理をして、妄想をつぎ込みプロットを作っていったのよ。だから、ここは本編が始まる前の誰も知らない世界だけど、私の予想が当たったのね。それとも私の妄想の世界?


 思い出すんだ、設定資料集を! ここはスプリング・ウインド王国。ヒロインは平民。名前は自由に付けるから分からない。メインキャラ三人の女子の仲間は、


 

 公爵令嬢の イリーナ・ホワイトローズ(優等生)

 侯爵令嬢の ウーリ・ゴールドラッシュ。これが義姉ね。

 子爵令嬢の エリーヌ・グリーンフィールド(ロリ)



 彼女たちが、4人の攻略対象をそれぞれ落とすの。誰が誰を落とすのかは、ヒロインの選択が済んだ後ランダムで決まるの。ヒロインは自分の恋を成就させながら、仲間の恋のサポートもしなければならないから本当に大変。組み合わせによっては「相性悪すぎなんじゃない?」って組み合わせもあるから本当に大変なの。カップルが少なくなると、魔王討伐に向かうパーティ人数が減ったり、やる気のメーターが減ってデバフがかかったりして大変なのよ。親密度が高くなればなるほどバフがかかって強くなる。それがLOVEパワー。


 攻略対象は、


 第一王子   カール・ダイヤルビー (俺様)

 第二王子   キール・ダイヤルビー (ワンコ)

 宰相子息   クール・イエローブック(知的)

 騎士団長子息 ケール・ブラウンホース(脳筋)



 この4人ね。イウエとカキクケだから覚えやすいね。きっと制作者の手抜きだわ。ヒロインがアから始まれば完璧なんだけど。


 そして私、リリア・ゴールドラッシュ侯爵令嬢。現在5歳。本編は14歳の学園入学時から17歳の卒業までが攻略パート。卒業式でリリアが追放されたら魔族討伐、リリアが追放されなければバッドエンド1回目ね。追放されたリリアは魔王軍に入り中ボスとして行く先々で妨害を行うのよ。つまり私はそのフラグを折りながら静かな学園生活を送ればいいのね。よし! メインキャストに近づかないように……って無理じゃん! 義姉がメインキャストじゃない!


 考えよう。今の状況は……?


 父、ダニエル・ゴールドラッシュ侯爵には二人の妻がいる。第一夫人は私リリアの母、サミア。隣国のシルバースミス侯爵家のお嬢様。もちろん政略結婚です。


 第二夫人は義姉ウーリの母シシリ。自国のグレイマウス男爵の三女。父とは大恋愛の末第二夫人になっているんだけど、金使いは荒くやりたい放題。父の威光を盾にやりたい放題なんだけど、私の母より少しだけ早く子供を産んだせいで態度が大きいの。


 母は気が弱いのと、この国の文化レベルの低さに精神が参ってしまっていた。さらに生まれた私がこげ茶の髪と瞳のせいで、第二夫人があることないこと吹聴したの。おかげで母のまわりからは、どんどん人が離れて行ったわ。


 父は第二夫人のシシリとその娘のウーリを溺愛。そのため、どちらが第一夫人なのか分からないような振る舞いをしているのね。この間の池の一件だって、絶対私を再起不能にするために仕組んだのよ。


 いくら本当のことを言っても、むしろ私の立場が悪くなるのは目に見えている。ここは実力をつけないと。私は母に頼み、文字を教えてもらった。母は、「文字なんて10歳を過ぎてから覚えればいいのに」と言っていたが、私には時間がない。


「あなたは私の、いえ、ウインター・コールド王国の血を受け継いでいるのね」


 母はそう言うと、楽しそうに文字を教えてくれた。生活が厳しい環境にあるウインター・コールド王国では、勉強と技術が重要視されているらしい。


 まずは文字を覚えないと。もともとスペックの高いリリアの頭脳と、西洋料理には語学が必須とばかりに、外国語は得意だった私の経験が合わさり、すぐに文字は読めるようになった。そこからは必死に家にある本を読み、母からいろんな話を聞きながら学んでいった。


 そんな素晴らしい日々は7歳で終わりを告げた。母がパーティーの帰りに夜盗に襲われ亡くなってしまったからだ。第二夫人が病気のため急に参加したパーティーの帰りのことだった。第二夫人の仕業ではないかと噂も立ったが本当の所は分からない。


 母がいなくなったので、ウーリの母シシリが第一夫人になった。他にいなかったから。


 私は、母屋から汚い小屋に追放された。今後一切母屋に入ることを禁じられて。


 そこから私のサバイバル生活が始まるのよ。恋愛ゲームのフラグを折る前に、私の命が折られそうだよ!



◇◇◇



 最低限の着替えとお皿とカップ。スプーンにフォーク。それから皮肉なのかステーキナイフ。毛布が3枚。敷布団の代わりにでもしろと言うのか? 


「それだけあれば十分でしょう?」


 義母がそう抜かす。


「ええ。でっぷり太ったお義母様は、これで生活できるのですね」


 嫌味を言ったらキレられた。落ち着くまで放っておこう。もういいかな?


「せめて長靴と作業着、ホウキとはたきとちり取りと雑巾、エプロンと包丁とフライパンと鍋、あと砥石くらいは下さい」


「なにそれ? 聞いたこともないものばかりね。使用人の使うもの?」

「そうですね。使用人を使えないなら、掃除も洗濯も自分でするしかないですよね」


 使用人の道具ときいて、義母は喜んだようだ。


「あはははは。いいわ。使用人の使うものならなんだって持っていきなさい。あんたが貴族らしくなく労働する姿、想像するだけでも楽しいわね」


 よっしゃ~! 生き残れそう! 義母様、単純思考でよかった!


「でしたら、植物の種なんかも貰えませんか? 畑を作りたいので」

「畑を作るですって! あなたが土にまみれるの? あはははは。どうぞどうぞ。好きなだけ持っていくがいいわ!」


 義母は義姉と、楽しそうに私をあざ笑っていた。この光景を父は満足そうに眺めていた。


 父って最低野郎だったのね。知っていたけど……ここまであからさまにやるか?


 私は、見張り役というメイド一人を付けられ、小屋に向かった。


「お世話になりますリリア様。わたくし、お嬢様付きのメイド、メイリと申します」


 私と同じくらいのメイドが挨拶をした。


「あなたも大変ね。寝泊りは母屋? 朝から夕方までなのかな?」

「いえ。私連絡時以外は母屋に行くことはできません」

「……大変ね」

「はい。あ、でも、大部屋に行ってもいじめられますから……」


 そう言って、メイリは口をつぐんだ。


「そう? じゃあメイリのためにも居住環境整えなくちゃね。後で毛布も盗んでこなくちゃ」

「え? 盗む?」


「え? 違うわ。ええと、黙って拝借しないと」

「報告してもいいでしょうか?」


「いいけど、あなたの寝床が作れなくなるわよ」

「……」


「聞かなかったの。あなたは何も聞いていない。そうよね」

「……はい」

「よ~しいい子。じゃあ掃除しましょう! まずは着替えからね」


 私は作業服に着替えた。布巾をつなげてマスクを作った。掃除は大変そうだ。気合入れるか。私は大声で歌った。


『とぅるるるる~♪♪♪~××る~』


「何ですかその歌は!」

「FFJの歌よ。いろいろあって歌詞は書けないけど、あなたには聞こえるでしょ。目で見ていないから!」


「FFJ?」


「FFJはね、農業を志す者たちに贈る応援歌よ。我々全国にある農業高校の生徒は、校歌が歌えなくてもFFJの歌は歌えるのよ!」

「何歌っているのか分かりません! どこの言葉ですか?」


 そうか! 日本語で歌っても分からないわよね! こっちの言葉に翻訳しなきゃ!


「分からないわよね。でもいいの! さあ歌いましょう! 『トゥルルー×♪×、♩~×♩と鳩!』」

「×××? ルイーナ? ホーニー? ×××? トゥハート? なんですか、それ?」

「分からないわよね。でもいいのよ。そういうものだから」


 そうよね。分かるわけないよね、日本語だし。乙女ゲームには、田んぼも富士山も出ないよね。でもね、農高生はこの曲歌うとテンションが上がるのよ! しかし、どう訳そうか。


 「実った小麦と山と鳥〜」


 こんな感じ? 後で考えよう!

 


「さあ、活力が上がったわ! 掃除するわよ!」


 すっかり私の行動に引いてしまったメイリに喝を入れて、私は率先して掃除を始めた。



 ◇



「大分広くなったわね。しかもシャベルや鍬はもちろんフォークまである! あ、フォークってあれね、農業用フォークよ。食べる方じゃなくてね。シャベルの先が4本の尖った串状になっているやつね。あ、ネコ発見! ネコって猫じゃないよ。一輪車のことネコって言っているの。田舎だからネゴって言っていたわね。ネが低い音でゴが高く。そうね、ゴは点点より丸が付いた感じ。そう鼻濁音なの。そこはこだわってね。あとは……。隣の小屋には干し草もあるし。少し拝借すれば簡易ベッドが作れるわね。問題は虫だけど……、燻せば大丈夫よね」


 テンション高めに私が言うと、メイリが叫んだ。


「なんで! なんでリリア様は私より掃除が上手なんですか! そんなに段取りいいんですか! テンション高く楽しそうなんですか! これじゃあ私、必要ないですよね!」


 そう言われたので少し考えてみた。


「そうね。ぶっちゃけいらないかもね」

「ああ~!」


 しまった! 泣かせてしまった。


「い、いや、いる! 必要! ほら泣かないで!」

「本当ですか。何が必要なんですか?」


「あ、それは……。ほら、観賞用とか、愛でるとか」

「愛玩動物ですか!」


「え~と……、そうかも」

「そうなんですね……」


 やばい、しゃがみ込んじまったよ。


「ほ、ほら、あなたにしかできないこともあるし」

「そんな事あるんでしょうか」

「そうね……。そうだ! 夕ご飯を取りに行くの、私じゃできないよね!」


 メイリは目を輝かせながら立ち上がった。


「行ってまいります!」

「頑張りすぎてこぼさないでね」


 メイリを見送った私は、シャベルで大きな穴を掘って、落ちていた杉の葉を集めては穴に入れ、魔法で火を着けた。茶色く枯れた杉の葉は油が多く燃えやすい。火が回ったところで、生木の枝をぶち込んだ。案の定煙が酷く出て来た。すぐに板をまばらにかけ、その上に干し草をのせた。


「火がつかないように調整したから、これで虫は死ぬか出ていくわ。そうなったらベッドとして使えるわね。しばらくは煙臭いだろうけど、そこは仕方ないわね」


 煙が効率よく回るように、両側から板を立てかける。そうこうしているうちにメイリが帰って来た。


「申し訳ございません、パンを2個しかもらえませんでした」

「これはメイリの分も入っているの?」

「はい」


「ひどいわね。私だけに嫌がらせするならまだしもメイリまで……。ホントなにも分かってないわね。私が向こうの立場なら、私にはパンを一個、メイリにはハーフコースを出して隣で食べさせ、ひもじさとみじめさを植え付けるのに」


「何言っているんですか!」

「え、ああ、二次創作の妄想が」

「よく分かりません!」


 ジト目で見られてもどうしようもないじゃない。


「分からなくていいわ。いいえ、むしろ分からないで!」

「どういうことですか!」


 分からなくていいと言っているのに。


「それによく見たら外が煙だらけ! 何をしているんですか!」


「これは必要な処置なのよ。大丈夫。もう少ししたら煙は治まるから」


「火はどうしたんですか? どうやって起こしたのですか?」


「え、ああ魔法で」

「魔法?」


 驚かれてしまった。まあ、魔法は学園で習うものだし、使えない人も多いからね。大体、男性は使えないのが魔法だし。


 これはゲームバランスを取るために制作側が考えたシステムだからなのか、もともとこの世界がそうなっているのか分からないけどそれがこの世界の魔法体系。


 戦いは男子には武器での戦い、女子には魔法での補助。それが基本だからパーティは男女混合にするしかないの。バフ効果・防御系・治療系がほとんど。火を出せる人なんて本当に少ないの。


 私は、前世の記憶でいろんなゲームをやり込んでいるから、もともとの登場人物と考え方が違うのかもしれない。イメージ力かな? 小さな火や水を出すくらいはできるようになっていた。


「そこは置いておこう。今は食事。パンが二つしかないのね」

「そうなんです。申し訳ありません」


「十分よ。パンしかないなら、おかずを作ればいいのよ!」

「何を言っているんですか。かまども材料もないのに」

「かまどがなければ作ればいい! 食材はいっぱいあるじゃない」

「はぁ?」


 南東北人を舐めてもらっちゃあ困る。毎秋、宮城と山形で、さらに山形は海沿いと内陸で『芋煮戦争』が起こるのを知らないのか?


 高級食材山形牛・米沢牛を中心とする牛肉・醤油味の芋煮と、庄内豚の庄内地方、酒田・鶴岡・三川連合と、仙台味噌を心から自慢する宮城県の巨大勢力が挟み込む豚肉みそ味の芋煮。どっちが美味いのかを競う、そう、キノコタケノコ戦争より白熱した戦いが起こっているのを!


 福島県はキノコを入れて高みの見物をしているし……。キノコを入れたものは芋煮と認めたくない!


 芋煮シーズンになると海であろうと、川であろうと、キャンプ地であろうと、どこでも薪を炊いての野外料理。子供の頃から野外炊飯は叩き込まれているんだよ! 生火上等! 薪上等! 野外炊飯慣れたものよ! 設備の整った都会のバーベキューとはわけが違うんだよ、わけが!


「そういう事で石を積み上げかまどにします。イモはこの里芋の種芋を使いましょう。大丈夫。食用にするためかなり多めに貰ってきましたから。キノコはそこに生えているヒラタケを使いましょう。肉がありませんが、まあいいでしょう。調味料は塩だけですね。仕方ありません。マルジュウかベニヤの出汁醬油があれば最高なのですが。今日は美味しいものではなく、腹が膨れたらいいという方向で作ります。メイリさん。そこの一番大きな鍋に井戸から水を汲んできてください」


 私は石でかまどを組んで、里イモの皮を剥き始めた。



 ◇



「思った以上にキノコがいい仕事をしているわね。キノコの出汁が調味料の不足をおぎなってくれたわ。ちくしょう、福島の軍門に下ることになろうとは」


「おいしいです~! リリア様~」


「そう? そう言ってもらえると作った甲斐があったわ」


 メイリは突然泣き出した。


「どうしたの? メイリ」


「リリア様。私リリア様付きになって絶望していました。悪魔の子と呼ばれ蔑まれているお嬢様。小屋に押しやられ、どんな意地悪や八つ当たりをされるのかと」

「本人を前にひどい言いようね」


「パンを2つしかもらえない時は本当に絶望の底に叩き落されたんです。私まで人扱いされなくなったのかと思って!」

「だから、あなたの私に対する思いって酷くない? って、聞いちゃいねえよ、この子」


「それなのに、そんなに明るく、料理上手で私にまで施しをくれるなんて。なんてすばらしい人なのですか!」

「え? え~と、餌付けしたのかな? 私」


「一生ついて行きます!」

「いらないから! 一宿一飯の恩義でそこまで重いやついらない!」


「お姉様と呼ばせて頂いても」

「あなたいくつ?」

「7歳です」

「同じ! 私と同い年! やめてよね、お姉様呼び!」


 ゼイゼイ。この子こんな子だったの?


「もういいから! 食べ終わったら食器を洗って。私は寝床の準備をするから」


 とにかく離そう。私は燻した干し草を小屋の中に運び入れてはベッドになるように積み上げた。匂いが……。しょうがないね。量も少なかったか。また明日増やすか。


 包丁も研いでおきたいけど明日にしよう。大体、砥石が荒砥石しかないのよね。料理長に聞いてもこれしかないって首をひねられたわ。この世界研ぐことに無頓着なのかな。まあ、日本人がおかしいのかもしれないけどさ。中砥石くらい目が細かいのがあってもいいんじゃない? 切れ味ダイレクトにかかわるから。


 メイリが来たので毛布をシーツ代わりに敷くのを手伝ってもらった。うん。二人でやるとピンと張れるね。

 汲み置いた水で歯磨きをし、パジャマに着替えた。歯ブラシと歯磨き粉、それにパジャマが持ち込めたのは有難い。


「じゃあ、寝ようか。メイリも今日は同じベッドで寝てね。明日になったら毛布やシーツ拝借してもう少しまともなベッドを作るからさ」


 私がそう言うと、「え、リリア様と同じベッドで?」と頬を赤くして喜びながらくっついてきた。ヤバい。なんかヤバい雰囲気がする。


「今日だけだからね」

「そんなこと言わないで下さいよ、リリア様~」


 メイリは疲れていたのか、私に抱きついてすぐにスースーと寝息を立てた。今日は何とかなったけど、明日からの生活どうしよう。どうやって生き延びよう?



◇◇◇



 あの追放から一年がたちました。私は元気です。


 って言うか、ここ最高! 嫌味ったらしく息苦しい本邸と違って、ノンストレスで過ごせる日々の素晴らしさ! 

 まわりには野生の食材がたくさん。りんごを取っても停学にならない!

 ニワトリに似たミニコカトリスを見つけたので、クリッピング、え~と風切羽を切って飛べないようにしてから空き小屋を改造して飼育。本家のコカトリスと違って攻撃力低いから安心よね。畑も順調に広げている。


 農業最高~!


 メイリも順調に育っていったわ。

 最初はミニコカトリスの首を刎ねただけで大騒ぎしながら、殺人鬼を見るような目で私を見ていたのに、今ではツボ抜き率先して出来るようになって。ツボ抜き知らない? え~と、ここでは書けないわね。農高生ならみんなできるわ。

 知りたかったら、ググルのね! グロ覚悟よ! 閲覧注意よ!


 それより、ここの地層ヤバいぐらいに凄いの! いろんな砥石が取れるのよ。なんでこんなに取れるのに研ぎの文化が栄えないのか不思議。荒砥石・中砥石・仕上げ砥石に該当するの石はもちろん、研ぎ師の先生が見せてくれた内曇りや備水、名倉とか言われる砥石にそっくりな粒立ちの砥石まで取れる。さすがに使い道はないんだけど、おじいちゃん先生のこと思い出して泣けてきたわ。


 もちろん、LOVEパワーの事も忘れていない。とにかくレベルを上げて強くならないと……。


 と思っていたのだけれど、どうやらゲームのようにはいかないみたいだった。いくら「ステータスオープン」と唱えてもイメージした画面が現れない。冒険者登録をして話を聞きまくったが、そんなものは誰も知らないらしい。


 レベルもそう。レベルが上がると強くなると思っていたら、強くなった人にレベルと言う称号を与えるのが冒険者ギルドの役割らしい。

 スライムを一日で10匹捕まえられたらレベル2とか、一角ウサギを安定して捕まえられるようになったらレベル5とか、そんな感じ。

 実績に応じて何がどのくらい出来るかの目安がレベル。言われてみれば当たり前の事だったよ。


 レベルが上がったからって急に魔法が出来るようになったりしないし、筋肉がついたりしないよね。実力をレベルで言っているだけ。ゲームはその現実を無視して、楽しめるためにシステムが作られていただけだったみたいね。


 あ、違うと言えば魔物を退治した時もそうね。倒したらキラキラと光の粒になって消えて、そこにアイテムがドロップするとか無いから。


 獲物はそのままの形で残るし、解体しないと毛皮も肉も取れないのよ。内臓とかいらない所は、早めに血の匂いに誘われた獣たちのために投げ捨てるようにぶちまけて食わせないと、解体中も危険だからね。ドロップアイテム? なんで動物が持っているの? ありえないよ。ゴールドだって換金して初めて手に入るに決まってるじゃない!


 だから私は、ありとあらゆる刃物を研いでは武器に変えていった。包丁、ナイフ、ナタ、フォーク。


 結局、私のメインの武器はシャベルになった。メイリの武器は農業用四俣フォークになったわ。


 シャベルは最高よ。耐久性は抜群だし、突く、叩く、切りつける、掘る、埋める、何でもできる万能ソード、それがシャベル。

 まあ、メイリのフォークも突き特化だけど、先が細いしシャベルより軽く扱いやすいわね。


 一輪車(ネゴ)を押しながら、農業用フォークとシャベルで魔物を倒す私達は、他の冒険者から奇異な目で見られていたが、そんなことはどうでもいいわ。生き残った者が正義だ。冒険者になったおかげで強くなれたんだけど、言葉遣いがやさぐれて来たのはしゃーないよね。



◇




 魔法についても研究を重ねたよ。本宅に忍び込んでは、魔法について書かれている本を拝借しては返すを繰り返したんだ。


 大したことは書いていなかったよ。ゲーム知識で大概予想していた通りだった。攻撃魔法ないね。


 仕方がないので、私のイメージで魔法の底上げをしたわ。一日使い切って寝る。これは効果があったみたい。ついでにメイリにも魔法が使えるように指導した。火と水の魔法は仕事に直結するので、私はメイリに感謝されたよ。


 まあ魔法はその程度かと思っていた時、倉庫の奥から異国の文字で書いてある本を発見したのよ。我がスプリング・ウインド王国で使っている文字でもない。母の実家のウインター・コールド王国の文字でもない本。しかし、私には読める。なにせ日本語で書いてある本だったから。


「メイリ、この文字読める?」

「どれでしょうか? なんですかこの文字。大体リリア様が読めない文字を私が読めるわけないじゃないですか」


 そうだね。私が勉強を教えているんだった。万が一学園に行くとき付いてくるのはきっとメイリだから、恥ずかしくないように基礎教養と礼儀作法は仕込んでいるのよね。私はメイリを放っておいて、一人日本語で書かれた本を読んだ。


 そこには、今まで調べてきたのと、全く違う魔法の体系が書いてあったのよ。今まで調べつくした魔法、特に補助系ばかりの魔法とは違う、攻撃も出来るオールラウンドな魔法。

 しかも効率が良すぎ、っていうか今までのが悪すぎに見える。そんな魔法の世界。


 私は実践と実験を重ね、この世界の魔法の一端を理解することができた。


 王国の魔法ってカスね! 愛だの恋だのに左右され過ぎ! ゲームの影響受けすぎているのかな? 私は知り得た魔法理論をもとに、自分自身とメイリを鍛え上げた。


 そうして日々、農業と狩りと、魔法の訓練と勉強と、メイリを育てながら、忙しく過ごしていた。



◇



 今はそう、ちょうどボアの喉元にシャベルを突き入れたところ。ボアは猪を狂暴にした感じね。お肉が美味しいから、今日の夕飯は焼き肉ね。


 首から血液が噴水のように噴き出した。血抜きはこれでいいわよね。

 メイリが手慣れた手さばきでボアの腹を包丁で開くと内臓をバラまいた。

 そうね、頭もいらないや。私はスコップで首を切り落とすと、ポーンと遠くへ投げた。


 集まってきた肉食動物や鳥が、内臓と頭に群がる。それを確認して、胴体を一輪車(ねご)に乗せて、私達は街へ向かった。一番おいしい所を切り取ったら、後はギルドに売ってしまう。そうやって一年間でかなりの資金を貯めることができた。


 こうして、私達は実家からノーマークで放置されながらも、たくましく成長していったのでした。

お読みいただきありがとうございました。


長編ですと続きが読めます。

サブタイトル変わりますが、4話目まで同一作品です。


女子高生研ぎ師見習い 悪役令嬢に転生しました❗ 〜農高出身転生者の私、勇者の剣を研いだけど、結局追放されました。よっしゃー!~

https://ncode.syosetu.com/n6571jb/

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