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あなただけのアイドルに  作者: 胡椒は粗挽きで


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1/1

あなただけのアイドルに

15分短編です

 アイドルなんて、まったく興味がなかった。

 女の子のアイドルも、男の子のアイドルも、全然全く興味がわかなくて、アニメや小説も、そう言うアイドル物は基本的に見たことは無かった。

 でも人生とは面白いもので、街を歩いている途中、声をかけられた。

「あの、アイドルに興味はありませんか」

「いや、あんまりそう言うの見ないです」

「あ、観客でなく、アイドルになる方です」

 俺でも知ってるくらいの大手企業の名前の書かれた名刺をもらって、話だけでもと思ってその人について行ったら、あれよあれよという間に、男の娘アイドルとしてデビューが決まってしまった。

 俺を含めて5人のグループで、仲間はみんな可愛い系の顔立ち。俺は自分がそんなにアイドルに向いている顔だと思ったことは無かった。でも、採用されたってことは、まぁ向いてる顔なんだろう、なんて考えで、俺のアイドル生活が始まった。

 でも、そんな適当な感覚のまま、アイドルなんて続けられるわけがない。

 地下の小さな劇場や、LIVEのできるバーでの公演が多い初めの頃は、グループも個人も名前を売り出さなければいけないから、愛想をよくして、お客に気に入ってもらう必要がある。でも俺は、別に、アイドルになりたくなったわけじゃないし、愛想よくするのが苦手だった。

 いろいろ調べて、“塩対応キャラ”というものがあると知ってからは、そう言うキャラと言うことで難を逃れていたんだけど、ただ塩対応をすればよいというものでもないみたいで、いわゆるツンデレのように、時々はデレた姿を見せなくてはいけないらしい。なんて面倒な。

 そう思っていたら案の定、握手会などのイベントで、俺の列は閑古鳥。他の愛想のよいメンバーたちは、何人ものファンに握手を求められている。しかもめっちゃ可愛い女の子たちばかり。

 悔しい。俺だって、本気を出せば。

 愛想をよくするために、笑顔を作ってみたり、積極的にSNS投稿をしてみたけど、あまり効果は無くて、やっぱり俺の列は閑古鳥。俺の色のペンライトを持つ客はほとんどいない状態だった。

 ある日、俺の列に、一人のおっさんが並んだ。内心『おっさんかよ』と思ったけど、この際おっさんでも構わない、俺は精一杯の笑顔を向けた。

「無理に笑わなくても良いよ。そのままの君が好きだから握手会にまで来たんだ」

 よく見ると、還暦手前?くらいのいわゆるおじさんで、でもキモオタみたいな感じじゃなくて、“公務員”と肩書がつきそうなほど、真面目そうなおじさんだった。

「握手、いいかな」

「え、あ、はい~。応援ありがとうございます」

「うん、また来るよ」

 おじさんは多くを語らず、帰って行った。男のアイドルの列に並ぶおじさん、格好いいじゃん。

 その後もライブハウスに足を運んでくれるようになって、俺はおじさんを認知した。SNSも、アイコンそのままだからすぐにわかった。ネットリテラシーについてをDMしたときは、相変わらず硬い文章で感謝の返事を送られてきた。硬いなぁ。

 次第に俺は、LIVE中もあのおじさんを探すようになっていった。

 俺はLIVE中におじさんを探してしまうし、握手会に必ず来てくれるから、だんだんおじさんに会うのが楽しみになって行った。

「今日も良いライブだったよ、お疲れ様」

「ん、サンキュ」

「握手会も慣れて来たみたいで良かったね。いつも応援しているよ」

 おじさんの大きくてごつごつした手、俺結構好きなんだよね・・・。

「ま、俺、アンタの為のアイドルだからサ・・・」

「・・・塩対応の中の甘対応・・・。神対応、ありがとう、君はアイドルの鏡だ」

 そう言っておじさんは、颯爽と去って行った。



——俺、ちょっと本気だったんだけどなぁ・・・——

あのおじさんはオタクの鏡だな・・・

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