2話
「さて……どうするか」
未知の敵との遭遇。だと言うのに妙に落ち着いている自分に驚く。
思考はクリアで、動くべき行動が次々に浮かぶ。ワクワク感さえある始末だ。
状況分析。距離。間合い。足場。呼吸。
恐怖よりも先に、高揚が来ていることに自分で戸惑う。
だけど問題もある。
「流石に素手で戦うのは……ん?」
そんな事を考えていて、ふと思い出す。
そうだ、武器はある。
その自覚と共に、手の甲の刻印が淡く光る。
すると、いつの間にか俺は木の棒を握っていた。
持ち手に布を巻いただけの簡易的な武器。
だが、不思議としっくりくる重み。
同時にステータス画面が開いた。
【ステータス】
名前:織上 樹
レベル:1
筋力:E
技量:E
俊敏:E
耐久:E
魔力:E
スキル:なし
【装備】
武器:木の棒(初期装備)
防具:異世界式簡易衣(初期装備)
そうだ。俺は木の棒を初期装備として持っていたのを思い出す。
いや、正確には“呼び出せる”。
こうして戦いになれば自動的に手元に現れるのだ。
「改めてすげーな異世界」
刻印から植え付けられた記憶。
既に馴染んだ既知外の記憶を、俺はこうして思い出すことで自覚することができる。
木の棒を構える。
そして、戦闘が始まる。
シェルビートルが姿勢を低くする。
甲殻が軋む音が洞窟に響く。
すると、高速で角を突き出してきた。
「!?」
大きく横に飛びのく。
直撃を避けたが、少しかすめたせいで、服の切れ端が裂ける。
布がひらりと舞い落ちた。
「喰らったら……死ぬな」
黒光りする鋭利な角。
それ自体が巨大な刃物と考えた方がよさそうだ。
シェルビートルは間髪入れずに角を横に薙ぎ払う。
空気を裂く音。
後ろに下がり避ける。
すると、避けた先にあった鍾乳石が真っ二つに切れた。
乾いた破砕音が遅れて響く。
「すごい切れ味。それに比べてこっちのは心もとないな」
手元の木の棒に視線を落とす。
持ち手を布で巻いただけの棒きれ。
小さい頃のチャンバラなら神器にみえたであろうそれは、魔物の角の前ではただの玩具にしか見えない。
……でも、これで十分なのだと異世界の常識が俺に教える。
「ここまで来たら……信じるぞ!」
シェルビートルが再度角を振るう。
そのタイミングに合わせて肉薄する。
フルスイングされた角の下を搔い潜る。
風圧が頬を打つ。
間合いの内側へ踏み込み、シェルビートルの頭部に目掛け――
「おらぁ!」
木の棒を振り下ろした。
「■■■■!?」
直撃。
鈍い衝撃が腕を震わせる。
木の棒が直撃すると、シェルビートルの体から血に似た何かが噴き出した。
それらはすぐに大気に霧散する。
それは魔物の体を構成する魔素と呼ばれる物質だ。
魔物を倒すためにはこの魔素の連結を壊す必要がある。
それに必要なのが、魔力のこもった攻撃。
例え木の棒でも、魔力が乗っていれば魔物にダメージを与えることができる。
俄かに信じられなかった話だが、どうやら本当のようだ。
ダメージでのぞけるシェルビートル目掛け、何度も木の棒を叩きつける。
攻撃が当たるたびに面白いぐらいにシェルビートルがのぞけるため、いわゆるハメ状態になった。
「■■■■……」
そして4度目の叩きつけの後、シャルビートルは小さな断末魔を上げて地に伏せる。
すると、体の輪郭が解けてそのまま空気に溶けるようにして消えてしまった。
「……勝った」
最初こそ未知への恐怖感があったが、終始俺の優勢で勝負がついてしまった。
肩の力が抜ける。だが、油断はできない。
何となくステータス画面を開く。
【ステータス】
名前:織上 樹
レベル:2
筋力:E
技量:D
俊敏:D
耐久:E
魔力:D
スキル:樹魔法(NEW)
レベルが1上がっている。
パラメーターにも変化がある。そして、スキルが追加されていた。
「本当にゲームたいな場所だな」
目の前に起きている全てがまさにテレビゲームのような連続。
ここが本当に現実なのか、分からなくなってくる。
「まあ、現実逃避する暇もないけど」
マップに新たな反応。
意識を切り替える。
例えゲームのようなシステムが支配するとしても、ここは現実で、死ぬかもしれない危険な場所なのだと。
「ふぅー……よし、来いよ」
雑念を吐き出すように深呼吸。
暗がりから近づく敵に向かって、俺はゆっくりと武器を構えた。




