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魔女と哲人王子  作者: フジリナ
第三部・故郷での日々

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僕と師匠の思い出

長らくお待たせしました。フジリナです。

ロバートのつらい過去と、師匠との思い出のシーンを描きました。

 僕は、実家から少し車を走らせて、ベイエリアにある、西の海岸へと向かった。ここは、オーシャンビーチと呼ばれて、小さい頃は、しょっちゅう遊びに来ていたのだ。

「ここで、老いた師匠を、連れてっていったっけな…。」と僕は海風に吹かれながら、じっと向こうを見ていたのだ。


 2020年の、パンデミックの最中。さざ波が揺らぐ中で、老いた師匠でもある、ヘンリー・キッシンジャーを車椅子を押して、オーシャンビーチへと連れて行った。

 ネット上では、師匠は、「残虐行為を繰り返した」とか「策士というより、戦争犯罪人に近い」と、糾弾する言葉が多い。日本人だと、特にアドルフ・ヒトラーやアメリカに占領統治をされてしまったことを、複雑に思う人が多いのだろう。後は、ベトナム戦争のこともあるので、彼は功罪を背負っているのだ。

「ロバート…」とどすの利いた低い声で言う師匠。「私のことを、戦争犯罪人に近いというのについて、事実と分析に基づいてやってただけなのが、やはり大衆には恐怖の象徴になってたのかもしれないな…。やはり、ヒトラーの『大衆は常に感情によって動かされる』というのは、言えているかもしれんな。敵ながらあっぱれだ。」

 師匠は、ドイツ系ユダヤ人で、幼少期にドイツからアメリカから逃げてきたのだ。

「歴史は繰り返すというのか…。古代ギリシアから変わらんな。僭主政治が、共和制の成熟とともに、あのいつぞやの独裁者を生み出すとはな…。あのお方も、まさか、世界的な大流行になると思わなかったと、おっしゃったものだ。あの、黒死病で、多くの民が亡くなり、そして黒ずんだ死体で溢れていたと…。その、死に至る病が、恐怖とともに伝染していく…。まさにそれだよ。」

 

 僕は、あのときは街角に出るたびに、「おい!コロナ!移すんじゃねえ!!」と、アジア系の顔立ちゆえに、差別されたのだ。恐怖によって煽られて、そして差別だとかが強化されていく。そんな状況になった僕。

「師匠…僕は、つらいんです。新型コロナウイルスで、ただアジア系だからという理由で、僕は差別されていたんです」と僕は打ち明けた。

「―――そうか。あのお方も、魔女だからという理由で、黒死病を広めた責任を取らされて、ロンドン塔にお隠れになったそうだよ。私も、同じだ。私もヨーロッパで根深い、ユダヤ人差別を受けてしまい、わざわざ逃げてきた…。だが、」

 と師匠の声が詰まった。


「――――――まさか、私もあの男と同じことをするとはな…。同類だったのか、それともゲルマン人とイスラエル人も、同じように選民思想が強いのかもしれんな」


 これまで師匠が、否定していた、ヒトラーのことだが、あっさりと認めたようだ。しかし、師匠は二面性があるし、なんとも言えないのだ…。

「師匠、どういうことですか…。」

「ああ、歴史は繰り返すんだ。因果律というのを知っているか。因果律の中の、環状因果というのを。環状因果は、ニーチェで言う、永遠回帰なのだよ」

「同じことを、繰り返す…。か」と僕。

「神は、人間の世界を、実験場にしたのかもしれんな…。クラリス王女殿下にも、ご挨拶をしなくちゃな。」

「え、なんで、おばあちゃんに?」

「最後の挨拶をな。」


 師匠は、すでに死期を悟っていたのか。やはり、激動の時代を経て、鉄の男として生きてきたのだから、穏やかに人生を終えたいのだろう。

「ロバート。お前はまだ若い。私の教えを、お前自身と時代に合った、やり方で体現するのだぞ。」

 老いてしわがれて、固くなった師匠の手と、若くてふわふわした僕の手が合わさったのだ。


 もう、この世には師匠はいない。師匠はたしかに、功罪がある。ベトナム戦争やカンボジアといった、東南アジアなどの問題を残してしまった。師匠がやれなかったことや、師匠の罪を償うのは、僕しかいないのか。

「先生。僕は、先生ができなかったことを、やっていくから…」と僕は海に向かって、つぶやいた。

 すると、光るものが。指輪だ。指輪には、

「Henry Kissinger, My dear Robert」と小さく書かれていた。

「あえて、捨ててたんだな」と僕。

 僕は、師匠の遺品を持って、実家へと帰っていった。

また、お会いしましょう。

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