レディ・クラリスと僕
フジリナです。
少ししっとりするお話を書きたくて、書きました。
雪が降るニューヨーク。僕は、雪の街の喧騒の中を歩き、カフェへと向かったのだ。
テーブルに座り、ただ雪の降る様子を見つめていると、レディ・クラリスがやってきた。ただ美しい。だが、どこかさみしげな目をしていたのだ。
「コーヒーが冷めるわよ」とレディ・クラリスは言った。
「コーヒー飲んでいる場合じゃないんですよ。ただ…。僕は考えていることがあって」と僕。
「それは何かしら?」
僕は、これまでの思いを打ち明けた。
「僕は、観光地に向かって、食べ歩きをしても、お店の雑貨を買っても、いずれかはなくなっていくもの、そして次第に僕自身が、このお土産物自体を忘れるんじゃないかって。それで、観光地ごときで、満たされるわけがないんだって…。推し活をしても、熱狂的なのは、ほんの一瞬で、あとは虚無しかないってことなんだ」
僕は、本当に悩んでいた。
メディアで言われている、「推し活が流行中」とか、「この観光地が人気」というのは、所詮はいずれかは消えてなくなる、うたかたのもの。
バブル時代に多く築かれた、リゾートホテルなどが、人がいなくなって朽ちていく様を見ると、本当に諸行無常というのはこういうことなんだなって…。
「方丈記の、『行く川の流れは絶えずして…』という意味がわかってきたんです。」と僕はやはり意味がわかってきて、少し気が楽になったのだ。
「私も、多くのものが生まれて廃れていくさまを見てきたわ。」とレディ・クラリス。「なにせ、人間の流行って、そんなものだから。バブル時代に築かれていた、リゾートホテルが大盛況だったのが、バブル崩壊以降に、一気に廃墟になったのは、まさに人間の業そのものなのよ。まさに、1666年のロンドン大火みたいに、火が燃えていったら、街は一気に無へと帰すわ。」
そんな時代があったなんて、僕は今まで知らなかったけれど、調べてみたら、やはりロンドン大火で多くの犠牲者と焼失した建物があったみたいなんて。
「今あるものって、やはり有限なんだよね…。」と僕。「イースター島の、モアイだって、所詮はモアイの作り過ぎで、モアイを作っていたポリネシアの文明が滅んでしまった一因になっていたんだって。そういう説が流れているみたいだよ。」
「なるほど。ポリネシア人の文化に関しては、研究が進んでいるのよ。けれど、私の母国である、イギリスが略奪したものとして、博物館の展示品を現地に返還する動きがあるらしいわ。…一概には、モアイの作り過ぎが原因ではなく、侵略によって、持ち込まれた伝染病が原因とされてるのと、後は奴隷にされてしまったらしいわ。」
レディ・クラリスの口から、悲しい歴史の一説が語られていた。
「やはり、人の歴史って同じことを繰り返すもんだね…。」
レディ・クラリスのもとに、ブリューコーヒーが来た。
「あなたは、カフェモカを飲んでいるのかしら?」
「そうなんだよ。頭を使うから、余計に頭を使いたくなるんだよね。」と僕。
僕は「イリアス」の歌を歌いたくなり、口すさんだ。
怒りを歌え、女神よ…
古典ギリシャ語は、大学では習っていなかったが、父方の祖父から習ったので、自然と歌詞が出てくるのだった…。
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