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黎明舞踏〜最期に私と踊りましょう〜  作者: 日並うたたね


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9/10

⑤始まりの舞

どこに......いるんだ......


ずっと......待ってる......


誰を......待っているんだ......


なんだ......


思い......だせない


誰を......俺は......


大切な......


それは......



カツッ カツ カツ カツ


常夜(とこよ)を思わせる漆黒のドレスに身を包み

彼女はゆっくり、部屋の真ん中へと歩いてゆく。



気配のする場所まで辿り着くと、静かに立ち止まった。


奏は目を閉じる。


両手を胸の前で交差し、

ゆっくり地面へと広げてゆく


少し上を向くと、一つ息を吐き出し、目を開けた。

そして再び、目の前に視線を向ける。


右脚を後方に少し曲げると____


カツーン・・・


地面を蹴る音が、辺りに響き渡った。


空気が張り詰める。


次の瞬間、目の前に"霧"のような何かが現れた。

それと同時に、彼女の周りが淡い光に包まれる。


(あ、あれは......なんだ!?)


柴田は突然の出来事に思わず声を発しそうになったが、なんとか言葉を飲み込む。


彼女は一瞬こちらに視線を向けると、小さく頷いた。

それが合図だと理解した柴田は、慌てて再生ボタンを押し、スピーカーを地面に置いた。


曲名:ポル・ウナ・カベーサ(Por Una Cabeza)


流れてくるヴァイオリンの旋律に合わせるように、彼女はその霧のまわりを、ゆっくりと回り出した。

やがて霧に背を向け、静かに立ち止まる。右脚を後ろへ軽く上げると、首をかしげるようにして目を閉じた。


____その瞬間。


突然、ピアノの一打が空気を裂く。

彼女は体をくるりと反転させ、霧へと身を預けるように歩み寄る。

右手を横に広げ、左手は胸の前で優雅に折りたたみ、ステップを踏み出した。


(霧と......踊ってる)


重なる音。跳ねるリズム。ひとつひとつの動きが、霧の中に眠る“想い”を呼び起こしていく。

揺らいでいた霧が、ゆっくりと形を持ち始める。


まるで、彼女のダンスに導かれるように____ぼんやりとした人の輪郭が浮かび上がる。

それは、踊りに合わせて腕を広げた。


もはや、見えない“誰か”ではなかった。

確かに、そこに“誰か”がいる。


彼女は静かに目を開ける。その目に映るのは、霧の中で手を差し伸べてくる影。

ほんの一拍の“間”。そして、触れ合う指先。

重なるステップ。絡む影と影。


彼女はまるで、過去を抱きしめるように踊っていた。


ピアノとヴァイオリンが激しく絡み合い、音楽はクライマックスへと向かっていく。


影の手が彼女の腰に添えられる。彼女は身を預けるようにしてしなやかに背を反らせた。

息を呑むような旋律。時が止まったかのような数秒。


そして____


最後の音が鳴り響くと同時に、影はふっと、光の粒となって天へ舞い上がった。

音もなく、ただ美しく。夜の静寂に溶けていくその姿を見つめながら、彼女は深く一礼をした。


柴田は自然と理解した。


これは、魂との最初で最後のダンスだと。


その踊りが終わったとき、一つの未練が、この世から消えていた。



***


ポル・ウナ・カベーサ(Por Una Cabeza)

情熱と切なさを併せ持つ、至極の愛情を表現したカルロス・ガルデル作の名曲。

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