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黎明舞踏〜最期に私と踊りましょう〜  作者: 日並うたたね


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5/10

①始まりの舞

半年前____


柴田光一はこれから活気づくであろう、夜の街を歩いていた。


大学を卒業して社会に出て、早4年。

部下と上司との板挟みで仕事がたまり、会社を出る時はいつも定時から3時間を過ぎていた。


会社を出たのは20時過ぎ。

「今日こそは自炊しよう」と意気込んでいたが、体力も気力も残っていない。


ふと、昨日コンビニで見た商品を思い出す。


「今日はインド風カレーにしようかな…」


そう呟いて、家までの道をとぼとぼ歩く。


駅前の通りには、外にテーブルや椅子を並べた飲み屋が立ち並んでいる。

学生の団体が大声で騒ぎ、カップルらしき2人がタバコ片手に楽しげに話していた。


別の店では、くたびれたスーツの中年男性が、

パリッとしたスーツの若者に神妙な顔で何かを話している。若者は、ただ黙って頷いていた。


下品なネオンピンクの立て看板の横では、キャッチの男が貼りついたような笑顔で通行人に声をかけている。


が、自分に声をかけてくることはない。

この見た目だ。きっと学生とでも思われてるんだろう。


居心地の悪さから、足取りが早くなる。


少し歩くと、細い路地が見えてきた。

人がすれ違うのも窮屈なその道は、車も通れない。

ここを抜けるのが最短ルートだが____


(……今日は、やめておこう)


道の中央あたりに、強い“気配”を感じた。


誰かが立っているわけではない。

でも、確かに“何か”がいる。


「はぁ……仕方ない。回り道するか」


そう呟いて、柴田は右方向から遠回りするように歩き出した。


やがて、その路地の反対側に出ると、

改めて中央あたりに目を向ける。


……やはり、いる。

間違いじゃない。


でも、それ以上に彼の頭にあったのは、


「これから帰るのが遅くなる」という現実だった。


溜息まじりに肩を落として歩き出す。

少し進むと、いつも寄るコンビニが見えてきた。

最近は毎日の様に世話になっている。


「インドカレー、まだあるかな」


さっさと買って、さっさと食べて、さっさと寝る。

今日はもう何もしたくない。


そう考えながら、店のドアに近づいたその時____


チャラリラリラリー


扉の開く音とともに、誰かが店から出てきた。


その瞬間、時間が止まった。


黒く波打つ長い髪。すらりと伸びた手足。

薄いグリーンのワンピースがひらりと揺れて、

独特な香りが夜の空気に混ざる。


気づけば、目は彼女を追っていた。

さっきまで考えていたことなんて、すべて消えていた。


今、心の中を支配しているのは、たったひとつの言葉。


"美しい"


光に吸い寄せられる蛾のように、衝動のままに彼女のあとを追っていた。


彼女は、コンビニから少し離れたビルの地下へと降りていく。

その姿が見えなくなったのを見届けてから、柴田も続いた。


階段を下りきると、壁に大きなロゴが貼ってあるのが見えた。


alba(アルバ)?」


左を見ると、大きなガラス窓のついた茶色い扉があった。

開ける勇気はなかったため、そっと中を覗く。


壁一面が鏡張りになっていて、いくつか椅子が立てかけてある。

中はそれなりに広いようだ。


「ここ……ダンススタジオか?」


小さくつぶやいたそのとき、視界の端に彼女の姿が映り込んだ。


鏡に向かい、ペットボトルの水を飲んでいる。

ただそれだけ。特別なことをしているわけじゃない。


でも、そんな後ろ姿さえ、何か神聖な儀式のように見えた。


見とれていた、その時____


鏡越しに目が合った。


「ま、まずい……!」


慌てて視線をそらし、ゆっくりと戻す。

彼女は……すでに扉の前まで来ていた。


カチャッ……キィー……


扉が開く。思わず背筋が伸びた。


「こんばんは! もしかして、入会希望の方?」


彼女は、にこりと微笑んだ。


緊張で、彼女の言葉がどれだけ耳に届いていたかはわからない。

でも、口が勝手に動いていた。


「は、はい!」


彼女はふふっと笑い、手を差し伸べた。


その手に導かれるように、中へと一歩踏み出した。



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