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黎明舞踏〜最期に私と踊りましょう〜  作者: 日並うたたね


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3/10

②あの日の約束

ここは......どこだ......


意識が......ハッキリしない......


なにか......約束をしていた気がする......


なんだ......


思い......だせない


それは......なんだ......


俺は......


なんだ......



カツ カツ カツ カツ


病院の屋上。

雲に隠れた月が南の空に浮かぶ頃、

彼女は闇夜を(まと)って現れた。


常夜(とこよ)を思わせる漆黒のドレスに身を包み

ゆっくりと屋上の真ん中へと歩いてゆく。



立ち止まると、入り口付近にいる男性に声をかけた。


「ここらへんでいいかしら?」


男性は何度か首を縦に振る。

手には小さなスピーカーが握られていた。


彼女は再び前を向くと、静かに目を閉じた。


辺りには、微かに風の音だけが聞こえる。


両手を胸の前で交差し、

ゆっくり地面へと広げてゆく


少し上を向くと、一つ息を吐き出し、目を開けた。


そして再び、目の前に視線を向ける。


右脚を後方に少し曲げると____


カツーン・・・


地面を蹴る音が、辺りに響き渡った。


空気が張り詰める。


次の瞬間、目の前に"霧"のような何かが現れた。


彼女はその霧に近づき、

右手をゆっくりと横へ広げる。

左手を優しく曲げ、上体をやや後ろへと倒した。


顔を少し左へ傾け、

目線を一瞬、入り口の方へと向ける。


それを合図に、男性はスピーカーを地面に起き、スマホの再生ボタンを押した。


曲名:朧月夜(おぼろづきよ)〜祈り


静かな琴の音色が鳴り終えると、彼女は霧とともにゆっくりと動き出した。


ヴァイオリンの一音が、夜の静寂に溶け

世界が静かに、踊りの舞台へと変わってゆく。


その音色とともに、彼女は三拍子のリズムにあわせて踊り始めた。


ゆったりと____


そして大きくフロアを使いながら、滑らかに。


回るたびに長い黒髪がふわりと揺れ、

ドレスの裾がひらりと月下を舞う。


____曲が進むにつれて、もう一つの足音が重さなりだした。


朧げだった霧が、段々と人の形を成してゆく。


スピーカーから流れる女性の歌声が、夜風に乗って辺りを包み込む。


時に、時間の流れに逆らうかの様に逆方向へステップを踏み、


時に、その身を預けるように後方へと身体を反る。


遠い何かを思い起こさせるような____

静かな音色にのせて。



曲がサビに入ったその時____


雲は風で流れ、現れた月が屋上全体を照らし出した。


・・・・・・


月明かりに照らされた壮麗なダンスフロア。


そこで踊るのは、もう一人ではない。


あの時、彼女と出会ったあの頃の____


神田信彦が姿を現した。



来てくれたんだな。


今思えば、約束なんて言えるものでもない。


俺の勝手な片想いみたいなもんだった。


本当はずっと君に会いたかった。


ずっと君を想っていた。


君が踊るその姿を見て____


俺は......



時間が止まった静寂の中に、しずくが落ちるような音が響き渡る。


その時は近い。


二人は立ち止まり、静かに一歩後ろへと下がった。


彼は彼女の瞳を見つめ、


優しく笑った。


そして目を瞑り____


静かに消えていった。


思い残すことは、もうない。


そんな表情を浮かべながら。



「さよなら」


朧月夜を見つめながら、彼女はそっと呟いた。


***


朧月夜〜祈り


童話、朧月夜をモチーフに、

中島美嘉の優しい歌声と、葉加瀬太郎のバイオリンが融合した幻想的な名曲。



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