プロローグ〜葬送〜
黎明舞踏
それは、死者との別れの舞
この世の未練を浄化し
魂を次の場所へと送り出す
***
1972年____
パァンッ!
彼女が手を叩くと、辺りの空気が一瞬にして変わった。
既に取り壊しが決まっている廃ビルの最上階。
外壁はところどころ破れ、地面には瓦礫があちこちに散らばっている。
だが、漆黒のドレスを彼女の周りだけは、まるで月明かりに照らされているかのような神聖さに包まれていた。
彼女が一歩前へと踏み出す。
先程までからっぽにみえたその空間には、"霧"のようななにかが渦巻いていた。
右手をゆっくり横へと広げ、左手は何かに優しく触れるようにそっと折り曲げる。
顔を少し左に傾けると、彼女は霧とともに動き出した。
タン、タン、タン… 3拍子のリズムにあわせて床をすべるように舞うたび、埃を巻き上げ空気がきらめきを帯びて揺らぐ。
見えない誰かに寄り添うように、くるりと回る。彼女の目の前にはまだ“霧”しかない。けれど、確かにそこには気配があった。
ステップを踏むたびに、もう一つの足音が重なりはじめる。
*
「すげぇ……」
目の前で起こる不可思議な現象に、神田信彦は目を奪われていた。
ひとりでに踊り始めたかのように見えた彼女の前に、今はハッキリと相手の姿が見て取れる。
ゆったりとしたスローテンポのワルツ。
瓦礫のなかで踊るその姿は、崩壊した世界に取り残された2人の__最期の会話のように思えた。
「オレがもし死んだら……」
最期はあんな風に送ってもらいたい。
心の中で、彼はそう呟いた。




