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第4話アフタヌーンティーへようこそ③

 白いテーブルクロスと銀のティーセットの前に、私ともう1人のエリカが座っている。


 静まりかえった空間には、紅茶の湯気だけが揺らめいていた。


 彼女はニヤリと笑って告げる。


「さあ、どちらのケーキに毒が入っているか、あなたが選ぶのよ。泥棒さん」


「美味しそうね。でも、その呼び方はやめてくれないかしら?」


 私がそう言うと、エリカが言い返す。


「随分と強気なのね。私には、どちらが毒入りかわかってるというのに」


 テーブル上のケーキに目を落とすと、どちらも美しく、甘い匂いを放っていた。


 チョコレートケーキ。


 ――初日に、ルミナの代わりに食べたのと同じ。


 ――どちかには毒がある。


 全身が緊張感に包まれて、手の震えが止まらない。


 エリカが、その様子を見て、あざ笑う。


「……なら、言わせてもらうけど」


「私はあなたよりも、強欲なの」


「どちらかを選べなんて、できないわ――」


 私は深呼吸をして、2つのケーキを頬張った。


 —―私は、エリカではない。


 —―でも、あなたの作ったケーキを食べてあげることくらいはできる。


 思い出した。


 この世界に来て、初めて口にした食べ物。


 エリカの作った毒入りケーキだった。


 味わいは、驚くほど濃厚で滑らかで、口の中で広がる甘みが体の隅々まで染み渡る。


 丁寧な舌触りに、不思議な安堵感。


「…あなたの作ったケーキは、何よりも美味しいのよ?」


 目の前の本物エリカを見つめながら、私は静かに言った。


「ま、まさか。嘘でしょ?」


「毒入りのケーキを迷うことなく食べるなんて、信じられない—―」


 エリカは戸惑った様子で私を見つめる。


「……エリカ、あなたのケーキは、誰かを幸せにするの」


 何かを口にしている彼女を見て、私は目を閉じる。


 —―そのケーキは、誰かを幸せにするのよ。


 その時、遠くから聞こえる声。


「…お姉様!!」

「エリカ!」

「エリカ様!」


 —―私を呼ぶ声がする。


 その声は、ルミナにフラン王子、リコッタ。


 意識は朦朧とし、その声も遠くなっていく。


「……ごちそうさま」



 ◇



 目を開けると、そこは日本の自室だった。


 朝の光が窓から差し込み、布団のぬくもりが肌を包む。


 豪華なシャンデリアも、蝋燭もない。


 見慣れたマンションの一室だった。


「私、泣いてる…?」


 なぜか、私の頬に一筋の涙が伝っていた。


「なんでなんだろう…」


 ベッドから身体を起こし、洗面台の前で歯を磨きながら、鏡に写った自分に目をやる。


 そこにいるのは、ただの専門学生である佐藤真依。


 —―なにか、長い夢を見ていたような。


 ぼんやりと頭の奥にある記憶。


 —―ケーキ…。


 突然、違和感が走った。


 そして、自室に戻ると本棚にあった一つの本を手に取る。


『ショコラ姫』


 嫉妬した魔女が、毒入りのケーキで妹を毒殺するという悲劇のお話。


 —―なんで、私この本を?


 でも、何か大事なことを忘れている気がする。


 そして、本をめくる


 魔女エリカは、フラン王子と妹のルミナに嫉妬して、ある夜、ケーキに毒を盛った。


 しかし、その日は不思議な夜でした。


 魔女の前に現れたもう一人の魔女。


 彼女がエリカと入れ替わって、ケーキを自ら食べてしまった。


 すると、助かったルミナは彼女を助け、抱きしめました。


 二人はすぐに仲の良い姉妹に戻り、ケーキを皆に振る舞うことに決めました。


 ――私は、この話を知っている。


 本物の魔女ともう一人の魔女。


 二人はアフタヌーンティーをしました。


 ケーキを食べた魔女はもとの世界に戻り、元のエリカだけが残されました。


 かつて、魔女だったエリカは誰かのために作るケーキの大切さを知った。


 それからは、妹のルミナと少しずつ仲を取り戻していきました。


 そして、美味しいケーキで皆を幸せにしようと決めました。


 微笑みが自然とこぼれる。


 ルミナもフラン王子も、リコッタも、そしてエリカ自身も、みんなが幸せになる物語に。


 —―変わったのね。


 ――みんな、ありがとう。


 胸の奥に、温かな気持ちが広がった。


 そっと本を閉じる。


 すると、ふわっと甘いチョコレートの香りがどこからともなく漂った。


「またいつか会えたら、ケーキをごちそうしてよね」


 私は新しい日常へと歩みだした。



完結となります。

ここまでお付き合いいただいた方々には、本当に感謝しかありません。

ありがとうございました。


新作「 断罪された令嬢、来世では仔猫として王子の膝で気ままに暮らします 〜冷徹王子なんて私の【もふもふ】にかかればイチコロです!〜」を今日から書きたいと思っています。


仔猫になった令嬢が、前世で冷たかった王子にあの手この手で、溺愛されるイチャラブコメディです。

ご興味がありましたら、こちらも見ていただけると大変うれしいです。


最後になりますが、「ヒロインを毒殺する魔女」を読んでいただき、本当にありがとうございました。

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