第4話アフタヌーンティーへようこそ②
薄暗い牢獄。
湿った地下牢の中で、私は1人、夜が明けるのを待っていた。
すると、地面に一筋の灯りが差し込んだ。
ふと目を上げると、蝋燭の灯りを持った人影がそこにいる。
「……誰?」
私が問いかけると、その人物は近づいてきて、手を強く握った。
柔らかい髪に青い瞳…。
――フラン王子…。
「……どうして、あなたが」
驚きの声を上げる私に、彼は柔らかく微笑んだ。
「君が作ってくれたエッグタルトの味は、本物だった」
「たとえエリカじゃなくても、僕には関係ないよ」
そう言うと、彼の手には、古びた鍵が握られていた。
「その鍵は…」
「メイドの子に貰ったんだ」
――リコッタね。
危険を犯してまで牢獄の鍵を手に入れて、王子に託したんだ。
『ギイイィ…』
牢の扉が静かに開く。
「さあ、一緒にここを出るんだ」
フラン王子の腕の中に導かれて、私は廊下へと脱出する。
湿った空気から解き放たれ、外の空気が、生き生きと感じられた。
――なんで、偽物の私のためにここまでするの。
すると、廊下の奥から、駆け寄る足音があった。
「…誰か来たみたい、隠れなきゃ」
けれども、フラン王子は一つも焦るどころか、その足音に向かって歩みを進めていく。
「待ってーー」
私が呼び止めると、彼は振り返って言った。
「安心してくれ、みんな君の味方だよ」
「エリカ様!」
彼の後ろから、リコッタが私のもとへ駆け寄ってくる。
「心配しておりました!」
「リコッタ……ありがとう」
「……お姉様」
その横に立っていたのは、ルミナだった。
――なんで、ルミナまで。
「心配してました!」
彼女の手が私を強く抱き締める。
「私は……私はあなたの姉のエリカじゃないのよ!」
必死に説明するが、ルミナは微笑みながら首を横に振った。
「それでも、私にとっては素敵なお姉様なんです!」
「ルミナ…」
私は彼女をゆっくりと抱きしめ、その温もりを感じた。
――もう、何があっても、あなたを離さない。
その時、広間の扉がゆっくりと開いた。
そこには、高貴で冷たい気配を漂わせながら、佇む一人の女性。
――本物のエリカ。
「あら……遅かったわね」
優雅に歩みを進め、鋭い視線を私たちに向ける。
「美しい姉妹愛だこと。まあ、本当の姉妹じゃないのにねぇ?」
冷たい笑い声が、広間に響く。
私の鼓動がどんどん早くなっていくのが、わかった。
――彼女の狙いは明白ね。
「ここで偽物もルミナも一気に、片づけさせてもらうわ」
そう告げると、エリカはティーワゴンを私たちの前へと運ばせる。
「さあ……勝負をしましょう」
その声は、微笑を浮かべながらも冷たく、まさに悪魔のようだった。
「どちらが本物の魔女か、このアフタヌーンティーで決めるのよ」
目の前に差し出される銀のティーセット。
その中央には、二つのケーキ。
――毒が盛られているのね。
「ふふ、お察しの通り、このケーキの片方に毒を入れたわ」
「お姉様、こんなことやめてください!」
ルミナが、悲痛な叫びをあげる。
「それは、”どちら”のお姉様に言っているのかしら?」
「もし、私に言っているのだとすれば、無駄よ」
そう言うと、彼女は椅子に座る。
「どちらかが、死ぬまで続けないといけないのよ」
そう告げる彼女の眼差しは私に向けられていた。
「ルミナ、ここは私に任せてちょうだい」
私は静かに息を整え、対面した椅子に腰を下ろす。
その視線の先には、微笑む本物のエリカ。
――エリカとエリカ。
――こうして、死のアフタヌーンティーが始まろうとしていた。
私の運命も、ルミナたちの未来も、すべてはこの茶会にかかっている。
私の背後では、フラン王子とリコッタ、そしてルミナが息を潜めて見守っていた。
「では、いただきましょう」




