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【短編】愛する妻が姉妹格差で冷遇されていた上に姉は存在しないことにすると言われたため許さない。

現代恋愛ですね、久々!

サクッと読めるボリューム。



 俺は、獅子堂(ししどう)健司(けんじ)、現在29歳。

 生まれて初めて愛する女性に出逢えて、俺は結婚が出来た。

 俺は幸せの絶頂だが、彼女の方はどうだろうか。


 同じ会社に勤める、須田(すだ)朱莉(あかり)、現在28歳。


 多分、一目惚れだったのだと思う。染めていない黒髪を一本に束ねて、前髪をサイドに少し垂らした髪型。スッと伸びた背筋で佇む姿勢は凛としていて、真面目な顔つきで真っ直ぐに見つめて耳を傾けてくる姿が好印象だった。


 自己紹介をして、事務的な仕事の会話をかわしただけなのに、“ああいいな、この人”と思ったのだ。


 小さな花のように控えめに微笑む表情が、美しかった。穏やかな口調と雰囲気が心地いい女性だ。


 それから目で追い続けていて、チャンスがあれば声をかけて挨拶をして、退社の時間が合えば飲みに行かないかと誘ってみて、それから食事にも誘って。順調に仲を深めて、交際に発展して。

 二年の交際を経て、俺はプロポーズをして受け入れてもらって、式を挙げて入籍をした。


 俺の家族は、朱莉を快く受け入れてくれたが、朱莉の家族とは一切関わりがない。


 朱莉は、元々家族と疎遠にしていた。姉妹格差が酷く、朱莉は冷遇されていたという。


 なんでもあとから生まれた妹を優先し、金をかけてきた。逆に姉の朱莉には最低限の金しかかけなかったのだ。誕生日プレゼントだって、クリスマスプレゼントだって、物心ついた頃にはもらえていなかったという。そして高校までは通わせてもらったが、大学費用までは出せないと言われてしまい、就職するしか道がなかった。その就職をしている間も、何かと理由をつけて妹のために給料を奪われていたそうだ。だから、家を出て疎遠にしていた事情がある。


 妹ばかりを溺愛していた家族と離れて暮らしていた朱莉は、しっかり結婚をすることを電話で伝えて、俺と挨拶をすることを話そうとしたが、朱莉の両親は必要ないと一蹴されてしまったそうだ。横で見ていたから、俺は腹を立てた。朱莉が傷付いた顔をしたからだ。


 結婚の挨拶も必要ないと一蹴されて、家族に拒絶された。


 一言物申したかったが、“ごめんなさい”と申し訳なさそうに泣きそうな顔で言う彼女を抱き締めることが精一杯だった。


 俺や俺の家族が、これからは朱莉の家族だ。朱莉を傷付けるような実の家族なんて要らない。こちらこそ、必要ない。だから、今後は関係ない。

 そう思っていたのに……。



 ある日。

 会社で一緒にランチを過ごしていた時、朱莉の携帯電話に朱莉の妹から電話がかかってきた。


「妹からだ……」

「出る必要はないんじゃないか?」

「大事な連絡かもしれないし……」


 また傷付けられるんじゃないかと思い、電話に出なくていいと俺は言ったのだが、悲し気な表情をした朱莉もその予想をしつつも、電話に出てしまう。


「もしもし、久しぶり、梨花(りか)。どうしたの?」


 仲がよくない妹に対して、朱莉は優しい声で答えた。


「え? 結婚? おめでとう」


 朱莉の妹が結婚をするらしい。その報告の電話をしてくれたのか。なんだ、そんな義理は通してくれるのかと安心した矢先のことだった。


「えっ……?」


 言葉を失った様子の朱莉を見て、何かを言われたと察する。

 ショックを受けて青い顔をした朱莉の肩に手を置いて擦ってやると、朱莉はその手に自分の震える手を重ねてきた。ギュッと握ってやる。


「わかった……」と小さな声で応えると、電話は切れたらしい。


「なんだって? 何を言われた?」


 そっと頭を撫でて髪を掬い、耳にかけてやりながら、俺はそっと尋ねる。


「梨花……妹が結婚するんだって…………」

「……それで?」


 そのあとは、一体何を言われたのか。言葉に詰まる朱莉を、優しく促す。


「……私の、こと……結婚相手には言わないって……」

「は?」

「……高卒の姉は恥ずかしいから、隠すんだって……」

「なんだと?」


 血管がブチ切れるような感覚がした。


 高卒の姉は恥ずかしい? そっちが大学費用を出さないと就職させて搾取したんだろうが!!

 高卒ってだけで、家族の一人を存在を隠すだと!?


「だから、姿を現さないでって……」


 じわりと目に涙を滲ませて、声を震わせた朱莉が痛々しくて、俺は抱き締めた。

 わざわざ伝えて、朱莉を傷付けたことに殺意まで湧く。いや、沸く。グツグツと煮え滾るように。


「そんな実の家族なんてこっちから捨ててやれ。俺と俺の家族が、君の家族だ。俺達が大事にする」

「うんっ……」

「俺が心の底から愛するから、ずっと」

「っ~!! わかってるから、健司さんっ! ここ会社だからっ!」


 俺の胸の中で、朱莉は顔を真っ赤にした。ここが会社内だから、他の社員に見られたくないとジタバタする。生暖かい視線を注がれていると知ったら、赤面で卒倒するかもしれないので、そのままいなくなってもらうまで抱き締めさせてもらった。


 ……さて。

 俺は朱莉を大事に愛する。心から。そこは変わらない。


 だが、俺の妻を傷付けたあいつらを野放しにはしない。


 存在を隠すだと……? ハッ! 誰が従うものか。傷付けたお前達の要求に従うつもりはない。今まで朱莉を冷遇していた上に、存在をないものとして結婚をするだと? 傷付けたことを必ず後悔させてやる。


 先ずは、探偵に依頼して妻の実家を調べてもらった。そして、妹の結婚相手の名前も。

 その名前を知って、思わず笑ってしまった。


 世間は広いようで狭い。


 早速、彼に連絡を取り、俺は食事に誘った。


「獅子堂さん、今日は食事に誘っていただきありがとうございます」

「いや、いいんだ。今日は風の噂で君が結婚をすると聞いたから、それを祝いたいだけだ」

「そんな……お気持ちだけでも十分です」


 好青年な彼こそ、朱莉の妹の結婚相手だ。

 俺達の会社とも取引のある会社の御曹司で、仕事上でも関わりがあった。


「それで? 狩野(かのう)さんの婚約者は、どういう女性なんですか?」


 俺の妻の妹だということはまだ明かすことなく、にこりと笑いかけて尋ねてみる。


「愛嬌があってとても可愛い人なんです。気立てが良くて、俺にはもったいないほどの美人です」


 愛嬌だけが取り柄で、猫被りをしている女だな。

 狩野さんには悪いが、俺の印象はこれだ。


「そんな娘さんなら、両親もさぞいい人達なんだろうな」


 心にもないことを言ってやる。


「ええ、いい人達でした」


 俺とは違い、顔合わせをしたという。冷めた気分で聞いたが、笑みは張り付けたまま。

 どうせ溺愛した娘が玉の輿に乗ったと思い、外面よくして歓迎したのだろうな。


「獅子堂さんも結婚したばかりですが、奥さんはどんな方なんですか?」

「俺の妻か? 小さな花のように控えめなのに綺麗な人だよ。……でも、今までの家庭環境がよくなくてな。両親に姉妹格差で冷遇されていたそうだ。控えめな性格はそこから来るものだと思うと、悲しい」

「それは……辛いですね」


 妻のことを聞かれて、彼女を思い遣る気持ちになって語ったが、ここで種を撒くことを忘れない。


「大学費用も出さないと言われて、仕方なく就職をしたら、給料も搾取されていたそうだ。溺愛されている妹のために、な。昔から誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントも、もらえなかったと言うんだ。酷い話だろう?」

「自分も妹がいますが、そんなことを自分にされたら、もう親を信じられませんね」

「そうなんだが、妻は優しくてな……。この前も妹から電話がかかってきたから、優しい声で電話に出たんだ」

「電話? 姉妹仲はいいんですか?」

「いや、よくない」


 首を横に振った。電話をする仲だと思うだろうが、違う。


「その電話の内容、妹の結婚報告だったんだ」

「そうなんですか?」


 それで仲が悪いとはどういうことなのかと、狩野さんは首を捻った。


「その妹の結婚相手には、妻の存在を隠すと言われたそうだ」

「えっ!? なんですか、それ!!」

「妻が高卒だから恥ずかしいんだと。だから現れるな、と言われたんだ」

「なんですか……酷い話だ……」


 話しながら、ホッとする。青ざめている様子からして、狩野さんはまともな人だ。


「当然、妻は傷付いた。俺は許せないよ……でも、もうあんな家族は妻の家族じゃない。俺が妻の家族だ。俺が代わりに目一杯愛する」

「それがいいですね。獅子堂さんがいてくれて、奥さんも新しい家族になってくれたので幸せでしょうね」

「そうだな、幸せにする。絶対に」


 幸せにする。それが大前提だが、傷付けた報復は忘れない。

 愛する朱莉を傷付けた元の家族達には、新しい家族を作らせないし、玉の輿に乗って幸せにはしない。


「身内を隠すなんて愚かなことだよな、調べればすぐに明るみになるというのに」

「でも言われなければわかりませんよね……いやー怖い話だ。そんな人と結婚する相手が可哀想ですね」


 その相手は君のことだがな。


「そうだな、俺には朱莉がいるからいいが、例えばの話、俺の立場だったら間違いなく婚約破棄するだろうな」

「自分もですね。立場上、家族を隠すような人達と親族にはなれませんからね」


 それを聞いて安心したが、笑顔になることを堪えて、しっかりと頷いた。


「こんな話を聞かせてしまい、すまない。せっかくの祝いなのに、台無しだな」

「いえ、そんなことはありませんよ」


 はははっ、と笑う狩野さんに、種は撒いたのだ。あとは芽吹くことを待つだけ。

 調子を合わせるように笑ったが、俺の目は笑っていなかっただろう。


 でも狩野さんは気付かなかった。


 そのまま、食事を終えて、解散した。


 セキュリティーのしっかりした高層マンションの一室に帰る。愛する妻が待っている、我が家だ。


「ただいま、朱莉」

「おかえりなさい、健司さん」


 鍵を開けて入れば、すぐに出迎えてくれる俺の新妻。抱き締めて、肺一杯に彼女の匂いを吸い込んだ。


「食事は楽しめた?」

「うん。朱莉はちゃんと食べたか?」

「ええ、食べたわ」


 そうか、と相槌を打って、頬にキスをした。

 それだけでは足りず、唇も重ねる。吸い付いて、舌を捻じ込み、絡めた。零れる吐息も呑み込んで、キスで愛しい妻を味わう。


「一緒にお風呂に入るか?」


 甘く囁いて、誘った。


 頬を紅潮させる朱莉が頷いてくれたから、靴を脱いでそのまま浴室へと連れて行く。

 浴室でも、寝室でも、愛し合った。



 翌朝。ベッドで目覚めれば、腕の中に愛する女性がいた。


 幸せだ。この気持ちに、毎朝なってほしい。なってくれるだろうか。


 そっと頬を撫でる。瞼を揺らし、朱莉は目を開いた。

 眠気たっぷりの緩んだ顔で俺を見つめては、掠れた声で「おはよ」と呟く。


「おはよう、朱莉」


 チュッと、額にキスをした。

 幸せそうな表情の愛しい朱莉を抱き締めて、二度寝をする。

 最高の休日だ。



 そんな休日明けの月曜日の朝。狩野さんから電話がかかってきた。

 数秒、携帯画面を見つめたが、俺は電話に出る。


「おはようございます、狩野さん。どうしましたか?」

『おはようございます……朝から、申し訳ございません。獅子堂さん。どうしても、お伝えしなくてはいけなくて……』


 暗い声。余計な予測をすることなく、言葉の続きを待った。


『俺の婚約者でした』

「え?」

『俺の婚約者が……獅子堂さんの奥さんの妹でした』

「……そんな」


 言葉を失ったように声を溢すが、俺は口角を上げることが我慢出来なかった。


『あのあと、念のためと思って、興信所を使って結婚相手の身辺調査を依頼したんです……。獅子堂さんの奥さんの話を、父にも話したらそうするべきだと言われたので。そしたら……一人っ子だと聞いていたのに、姉がいるとわかりまして。そして、獅子堂さんの奥さん……須田朱莉さんのことだったんです』

「……須田家、だったのか? 相手は」

『はい……俺の婚約者は、須田梨花でした』


 電話口から、聞こえてきたのは、乾いた笑いだ。


『最悪な人でした……。“姉はいなくて同然な人だからいいじゃないか”って、全く反省もせずに逆ギレをしたんです。本当に身内を虐げるような人間を目の当たりにして……心底怖くなりました』

「そんなことを言ったのか……。なんて人だ」

『獅子堂さんから聞いた話が事実なのか、問い詰めたら、答えなかったんですが、言葉に詰まっていました。事実なんでしょうね。もう無理でした。その場で婚約破棄を告げました。今日、弁護士に任せて成立させてもらいます』

「なんて声を掛けたらいいか……」

『いえ、獅子堂さんの話を聞いてなければ、酷い人間と結婚するところでした。いつかは獅子堂さんの奥さんと顔を合わせて発覚することでもあったのです。結婚する前でよかったです。ありがとうございます』


 それもそうだ。悪い女とその家族と縁続きにならなかったんだから、お礼を言われて当然だろう。


「不幸中の幸い、だな」

『ええ、そうですね……。でも一つ、訊いてもいいですか?』

「なんだ?」

『俺の婚約者が、奥さんの妹だって知ってて話したわけじゃないですよね?』


 流石に勘付いたのか。偶然ではないと。

「え?」と声を溢したから、それで違うと解釈したらしい。


『違いますよね、すみません。いいんです、どちらでも。婚約破棄が出来てよかったです』


 もう一度、狩野さんはお礼を伝えてきた。どこまで気付いているかはわからないが、追及はしないようだ。

 そのまま、電話は切ることになった。


 俺は満足して、フッと笑う。


 ざまぁみろ、とな。


「健司さん? 朝食、冷めてしまうわよ?」


 電話が終わっても部屋から出ない俺を心配して、ドアから覗き込む朱莉を見て、優しい笑みになる。


「今行くよ」


 朱莉に話さないとな。

 君の妹の結婚は、破談になった。相手は狩野さんで、狩野さんに朱莉の家族のことを話したせいで発覚したこと。恐らく、朱莉にも連絡が来るかもしれないから、もう傷付けられないためにもブロックしてもらわないと。

 愛している君を、もう傷付けさせない。


「……今日は、一緒に休もうか?」


 話し終えて、ブロックも着信拒否も済ませたあと、黙り込んで携帯電話を見つめる朱莉に、俺はそう提案した。


「次期社長がズル休みなんてだめよ。私は大丈夫。支度をしましょう」

「……そうか。無理はしないでくれよ。俺の奥さん」

「ええ、あなた」


 無理なく笑って見せる朱莉に、安心した俺は口付けを落とす。

 

 俺が幸せにするからな、これからずっと。


 愛しているよ、朱莉。




 end


現代恋愛がランキングに載っていたので、私もブームに乗ってみました。


実は、御曹司ヒーロー。

ヒロインは未来の社長夫人です。

勝ち組。


もっと対面して、ヒロインの家族にざまぁを突き付けたかったんですが、まぁヒロインにこれ以上の傷を増やさないようにこの展開にしました。


今回は『執筆配信』ではないです。

久しぶりにR18バージョンも書こうかと思ったのですが、

ヒーロー視点は難しそうですね。残念。


よかったらアクション、ブクマ、ポイントをくださいませ!

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

2025/06/22◎

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