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第9話 手加減

 

 翌朝。

 日の出とともに起き、日課の「早朝素振り」をするため荷台から降りる。

 軽く周囲を探るが昨夜と変わらず街道、草原、山脈には何も感知せず。

 ただ王都がある方は殺気混じりの不穏な「気」が増していた。


 そしてこの「気」には覚えがある。


「誰かが戦っている?」


 一人二人ではない、合戦と呼べるほどの数が動いている。


 ──いかん。無心にならないと。


「おはよう」


 素振りを初めて約一時間。

 エステリーナがやって来る。


「動いて大丈夫なのか?」

「魔力が戻ったので回復魔法を使った」


 ……使えるんだ、魔法。見てみたかった。いやそれより、


 王都の状況を説明するにあたり、先ず俺のスキルに「気配を探れる能力」があるのを簡単に説明しておく。


「人や動物の存在を感じ取れる?」

「ああ」


 納得して貰ったところで王都と思われる場所の現状を伝えると動揺しだす。


「そ、それは誠か?」

「ああ」

「数は?」

「百人単位が五つ」


 それが都の中心にある王城? に向け進軍している。


「ま、まさか……私が不在時を狙って?」


 青褪める顔。


「全ては……仕組まれていた?」


 顔色が一層悪くなる。


「山水殿!」

「な、なんだいきなり?」

「今は貴方しか頼れる者がいない! どうか私を、我が国を、王を救ってくれないか!」

「状況は?」

「王都で反乱が起きている。騎士団が不在の今は防ぐ手立てがない」

「分かった。手を貸そう」

「ま、誠に⁉︎」

「武士に二言は無い。ついでにお前も守ろう」

「か、感謝を!」

「では参ろう」

「ああ」

「鎧は一人でつけれるか?」

「勿論!」

「ではその間、出発の準備をしておく」

「すまない」


 一旦テントから離れて馬車へ。


「馬車は不用だな」


 速度が出せない。馬単体の方が早い。なので全て収納。


「シルヴィア」


 名を呼ぶとカイエン専用の馬具だけが現れた。


 ……えーーと、もう一つは……どこ?


「……まさか(俺は)走れと?」


 〈他の二頭は「荷馬」なのでカイエンの速度にはついてこれません〉


 はぁーー? そこは魔法で……って、俺は魔法が使えねーー! 

 ……エステリーナは使える?


「カイエン!」


 仕方なし、と呼ぶと岩陰から三頭揃って仲良くこちらにやって来た。


「今から王都に行く。お前はエステリーナ()を運べ」


 ブルル!


 やっと出番か! と鼻息を荒くしている。


「お前達はどうする? 自分達だけで戻れるか?」


 瞬き少なくこちらの話を聞いている二頭。「話が通じないか?」と思いかけたところにカイエンが数回嘶くと、直前のカイエンと同じ反応にて嘶いた。


「たまの休暇だと思ってお前達のペースで帰るんだ。それじゃまたな」


 と別れの挨拶をしてからカイエンに鞍を取り付けてゆく。


「待たせた」


 片手に兜を抱え、金銀で装飾を施された鎧を身に付けたエステリーナが現れる。


「体調は?」

「魔力以外は万全だ」

「……魔力は?」

「枯渇状態。回復するには丸一日かかる」

「なら念の為、これを飲んでおけ」


 収納からポーションを取り出して手渡したのは魔力回復薬。

 それを飲んでいる間に手を翳して残り全てを収納する。


「ここからどれくらいで着く?」


 馬車がないことから馬に乗って向かうと理解したらしく「飛ばせば2時間はかからない」と。


「山水殿は?」


 他の馬がいないことに騎乗しながら気付いたらしい。


「俺は走る」

「え?」

「おいてくぞ!」


 一気に加速。


「なっ! い、行けカイエン!」



 流れる風景。まともに受ける風圧。

「総髪」の黒髪が後ろで靡く。

 馬でもここまでの圧は体験したことがない。


 ……うん、この速度では流石に無理か。


 後方の気配が()()()()()()()

 仕方なしと点になったエステリーナ達を待つため止まる。

 程なく彼女らが到着。

 今にも倒れそうな勢いで息をするカイエン。

 俺が近寄ると何故だか顔を背けられた。


「エステリーナ」

「なんだ?」

「コレ、馬にも効くよな?」

「……ばっちり」


 というわけで体力回復ポーション片手にカイエンに近寄る。するとヨロヨロしながら背を向けた。


「ハハハハ! か、カイエン!」


 声高らかに笑うエステリーナの(待て)でピタリと止まる。


「か、カイエンが逃げ腰とは珍しい!」


 涙目になりながら言っている。


「不味いんじゃないのか? これ」

「いや回復薬は魔素を原料にしているので無味無臭。しかも胃に届く前に身体に吸収されるので腹も膨れない」

「それ知らないんじゃ?」

「いや何度か飲ませたことはある」


 では何故逃げた?


「それは山水殿が原因」


 俺?


「気持ちは有り難いが、もう少し()()()()()()()()


 俺の手から掠め取ると、背を向けカイエンの耳元で何やら囁く。

 すると嫌々ながらも自ら口を開けたので馬上からポーションを流し込む。


「今後は私が飲ませるからいくつかポーションを預からせてくれ。それとペースは「私が作る」ので山水殿は先行せずに並走して欲しい」


「そ、そうか?」


 ポーションを手渡す。


「いや、笑ったのは久しぶりだよ」



 言われた通りにしたら予定よりかなり早く着けた。

 どうやらカイエンに身体強化魔法をかけたらしい。


 ……使えたんだ。ま、疲れてないからいいか。


 そのお陰で約70kmを1時間強で走り抜けた。

 既に山や草原は遥か彼方。今では青々とした壮大な農耕地に変わっていた。


「あれは」


 最後の休憩を終えあと2kmというところで街を囲う長大壁、さらに巨大な建造物が見えてくる、がそれよりその周辺から立ち昇る黒い煙の方が気になった。


 建造物は形からみて城で間違いないが、煙は狼煙……ではないよな?


「やはり!」


 手綱を握るエステリーナの手に力が入る。悪い予感が当たったらしく「死地」になっているらしい。


 王都は目と鼻の先。

 このタイミングでエステリーナに尋ねる。


「今の内に一つ訪ねておくが、お前は人を斬ったことはあるか?」

「……ない」


 ──やはり、な。


()()ここからは俺が先行する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 これはエステリーナが弱いから、ではなく単に俺には敵味方の識別が出来ないから、との言い訳で()()()()


「了解!」


 疑わずに聞き入れてくれた。


 縦列にて門に向かう。

 直ぐに王都の居住区を囲う高い壁の間に設けられた門が見えてきた。馬車一台がやっと通れそうな幅の門は閉じられており、その前には十人程の兵士がいた。


「あの装備は……マカニー侯爵の軍! アレは全て敵!」

「承知」


 門の脇には縛られた門兵らしき者が数名と異なる武装をした者が多数。


 約300mまで接近。

 相手もこちらに気付いたらしく剣や槍、盾を構えながら隊列を組み応戦の意思を示した。


 ……敵確定。


 俺一人ならいざ知らず、近衛騎士であるエステリーナを見て剣を構えた。


「カイエン、速度は落とすな」


 一声を掛けてから竜の頭部を切った感覚で刀を横に「軽く」抜く。

 すると歪んだ空間と化した刀の軌道(斬撃)が門に向かって飛んでゆく。


 ドーーン!


 粉々に砕け散る重圧な木製門。軌道上にいた兵士も分け隔てなく木っ端微塵に。

 呆気にとられ動けぬ兵士の間を颯爽とすり抜け門の中へ。


「T字路を左、二つ先の十字路を右に!」


 いかにも裏通りの道を言われた通りに左へ。その時、前方から敵意を感じたので走りながら気配を読む。数は15。


 ──先程と同じ武装。


「敵だな」


 見えない位置にいる武装した集団が足早にこちらに近づいている。

 会敵のタイミングに合わせるように「ゆるく」斬撃を飛ばして右折。


 ギャーーーー


 結果は声と音にて。

 まあ路面や民家の破損は多めにみてくれ。


「程なく大通りに出る! 出たら左へ!道沿いに進めば城の門が見えてくる!」


 大通りに到着。馬車4台分の幅がありそうなかなり広い石畳の通り。さらに随所に戦闘の痕跡と思われるバリケードの残骸や倒れている兵士達が路面に転がっていた。


 ──今は構っている時じゃないな。


 言われた通り緩やかに右へとカーブしている道に。そこを俺とカイエンは身体を傾けながら駆け抜ける。


「もうすぐ堀が見えてくる! そこを右に曲がり堀沿いに進めば橋がある! そこから中へ入れる!」


 約500m進むと前方には手前は柵、奥は城壁で区切られた「堀」があった。

 指示通り堀沿いに進むと正面左には立派で大きな城の一部が見えてきた。

 そして橋が迫る。そこから中へと進入する予定だが……


「敵兵だらけだ」


 所狭しと「中へ」となだれ込んでいるところだった。この様子なら門が破られてから然程時間は経過していないと思われる。

 その橋は木造の可動橋。なので斬撃を使えば余波で壊れかねない。よって一人ずつ斬って進むしかない。


 さあここからは時間との勝負。敵よりも早く王の所へ向かわないと。

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