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第8話 雰囲気

 

 再度出発。

 所要時間を聞いたところ、このペースなら(夜間休憩を挟んで)明日の昼頃には王都に着くと。


「途中に町は?」

「遠回りになる」


 うーーん。彼女の心情を考慮すれば……寄るだけ無駄か。


 その後1時間ほどで森を抜けた。

 いきなり開けたその先は腰辺りまで伸びた一面の草原と先に続く一本道。その道の先には連峰レベルの山脈が左右へと続く。


「正面の山の麓まで行けば左右に街道が延びている。その街道を右に曲がり三叉路を左に行けば王都だ」

「この辺りに人は?」

「誰もいない」


 これだけ広大で平坦な土地が手付かず?


 不思議に思い聞いたところ「あの山脈のせいでまとまった雨が降らないので農業するには水が足りない。山の鉱物調査も間に合っているので誰も住もうとは思わない」のと。

 さらに「森に住む魔獣は人を見ると襲ってくるが、範囲が広すぎるのと行き来する者も限られているので放置しているとのことだった。

 つまり「うま味」が全く無いと。


 との話をしていたら気配を感じたので視線を横にふる。


「何かいるな」


 人ではない何か。

 気になったのかエステリーナも顔を出してきたので二人して目を凝らす。すると黒い何かが草むらの中をこちらに向け移動しているのが見えた。

 チラッと見えたのは黒毛のトラ。ただし大きさは俺の知識の倍以上。


「ま、不味い、ブラックリーパーだ」


 聞けば騎士数人がかりでなければ倒せない程の凶悪な魔獣らしい。


 〈炎竜よりは数段落ちますが動作が早く噛む力に特化した、森に住む魔獣です〉


「なるほど。で物知りなエステリーナに質問」

「な、なんだ?」

魔獣(アレ)って食えるよな?」

「え? ……多分。私は食したことはないのでどんな味なのかまでは」

「よし、アレを今晩のメインディッシュにしよう」

「え? あっちょっと!」


 荷台から乗り出していたエステリーナに手綱を渡すと御者台から飛び降りる。

 折角の新鮮な獲物()に逃げられても困るので【威圧】を放って行動を封じておく。

 刀を【収納】から取り出し腰紐にさし、柄に手を添え草をかき分けながら近づくと唸り声が聞こえてきた。


 動けない状態でピクピクと藻掻いているトラもどきの首を刎ねる。


「これも何かの縁。残念だが我が糧となってくれ」


 手のひらを合わせ拝んでから【収納】に入れる。

 ついでに馬達の食糧用にと周辺の草を2反(約2500m²)程、まとめて【収納】へ。


「も……もう終わったのか?」

「ああ、日が暮れる前に野営場所を見つけよう」


 そんなに見つめられると照れてしまう。


 街道に出て右に向かうこと、さらに1時間。

 馬の休憩も兼ねて、遅めの昼食を取ることにする。


 水汲み用の小さな樽に水を入れ、刈り取った草と一緒に馬の前に置く。

 次に豆と芋をメインにしたスープを作り二人で食べた。


 一時間程の小休止で出発。

 誰ともすれ違わず、そして魔獣とも遭遇せずに進むこと約3時間。

 気付けば街道と平行する二千m級の山脈が赤く染まっていた。


 これ以上は馬を働かせられない。

 早めに野営に適した目立たない場所を探すため山側へ逸れる。


「ここなら(街道から)死角になるな」


 岩肌むき出しの洞窟に似た袋小路を見つけたので、その前に馬車を止める。

 先に馬の世話を済ませてから袋小路の奥に小さめのテントを設置。

 その中にランタン、水を入れた桶とタオル、エステリーナの着替えと履き物、それと「私物入れ」を置いてから荷台に戻り、毛布等を運び込む。


「これでいつでも休めるな」

「すまない……ありがとう」

「気にするな。まだ本調子じゃないんだし。それに一人旅が長かったのでこういうのは慣れている」


 食事の準備を始める。

 昨夜と同じメニューだが今日は生肉が手に入った。


「よし解体するか」


 全ての準備を終えてからトラもどきを取り出す。

 シルヴィアから聞いた話では「身体の構造は前の世界の獣とほぼ同じ」とのことだったので、つたない知識で調理を進める。


 その時に魔魂石についても聞いてみた。


 ──全てと言っていたが草木もか?


 〈ある程度の魔力がないと魔魂石にはならずに「魔素」の状態で大気や地中に「溶けて」しまうようです〉


 ──へーー。


 切れない包丁に悪戦苦闘しながら二人分の肉を切り分け、残った部分は再度収納しておく。


「食える部位が意外に多いな。餌が豊富な証拠だな」


 生肉の半分は叩いてから半分に。片方は細切れにして鍋に入れ、もう半分は適度な大きさにしてからワイン()に漬ける。

 15分程で酒から取り出し塩コショウをまぶしてから鉄串に刺し、炎のそばに組めた。


「何か手伝いを」


 暗闇からエステリーナが現れた。


 起きた時とは別人と思える程、落ち着いた雰囲気と容姿。僅かな間、見惚れてしまう。


「?」

「で、では少しの間、火を見ていてくれ」

「分かった」

「その間、トイレ(用を足せる場所)を作る」

「それはありがたい」


 少しだけ離れた場所に【収納】で岩壁をくり抜き小部屋を作る。

 奥の地面に直径20cm程のかなり深い穴を【収納】で空け、その上に岩で造ったこの世界の便器を設置。

 同じものを二つ造りそれぞれに必要な用具を置いてトイレが完成。


「便利だな【収納】って」


 〈管理(操作)はそこそこ大変なんですよ〉


「……ありがとう」


ついでに馬の寝床も拵えた。


 食事を終えたエステリーナは早々にテントで寝かせた。

 その際「見張りが出来ない」と言い訳をしてテントで寝るのを断ると、渋々ながらも引き下がってくれた。

 なので今晩の寝床は馬車の荷台。


 片付け終え火を消してから横になる。

 すると妙な雰囲気に気づいた。


 〈【万感スキル】が微弱ながら何かを感知していますね〉


「寝る前にもう一度探っておくか」


 広範囲に気配を探る。

 山間部及び草原エリアは何も居らず。

 逆に森林エリアにはかなりの数の魔獣が戻っていた。


 〈山水様が去ったので〉


 明日向かう予定の方向に意識を向けると2グループの人の集団を見つける。


 右側は昨日見付けた気配と思われる百人程度の小さな集団。規模と長閑な雰囲気から村ではないか。


 そして左手。

だいぶ離れているが、右手とは比較にならないほど気配が多かった。たぶんそちらが王都なのだろう。


 ──妙だ。


 王都と思われる左側から不穏な気配を感じる。夜にも拘らず何者かが忙しなく動き回っている。


「普通、じゃないよな?」


 〈はい〉


 何かが進行中のようだが、ここまで離れていては「探る事」しか出来ない。


 最後に王都とは逆側。

 こちらはどこまで行っても気配無し、と「探る」のを止めようとしたところで何かを感知した。


 距離は王都の数倍。

 多分、人? の小集団?


 距離があり過ぎる為に「何となく?」程度でしかない。

 ただハッキリしているのは、寸前に見た村と同じで長閑な雰囲気。


 ……行き来する者も無い、整備された立派な街道。何処に繋がってるんだ?


 と一瞬思ったが脇道に逸れていることに気付く。


 ──それともう一つ。この場の気温と風が明らかにおかしい。


 気配を探った最大の理由。それはこの風。

 通常、夜の麓は「山頂側から」風が吹く。

 理由は単純で高低度による寒暖差。

 通常、太陽の陽により温められた地面は熱を蓄える。そして日中に温められた空気は日が沈むとともに上昇してゆく。これが山の傍だと、上昇する空気と入れ替わりで山頂付近の冷えた空気が山肌に沿って降りてくる。

 それはここでも当てはまる自然現象の筈……なのだが今はその逆で麓側から山に向かって緩やかに風が吹いていたのだ。


「もしや」


 この目で確かめておきたい。

 草履を履き外へ。暗い足元に注意しながら山を登っていく。


 〈これは〉


「やはり」


 途中から草すら生えていない、岩肌丸出しの景色に変わる。


「ただ……問題が山積みだな」


 妙な地形と気温。知識はあるが情報が足りないがゆえの悩み。


 〈確かにこのままでは不味いですね。ですが今すぐ、では無さそうですし幸い周囲に人もおりません。なのでエステリーナ(彼女)には今は黙っておいたほうが〉


 シルヴィアにも「この場のヤバさ」が分かっているらしい。

 意見が一致したので早々に引き上げ床についた。


のんびりモードはここまで。


明日は都合によりお休み。

次回は月曜となります。

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