第53話 幕間(4)
第二章終了まで、魔族攻略編を適時幕間を挟むことにしました。
この攻略編はラスト間近に発生する「言い訳」で使う予定だったものです。
数話程度の予定ですが、第二章終了までに入る「幕間」は(特に断りがないない限りは)「シーラの視点」で話が進みます。
(当然ですが山水君は魔族側の事情や事象は全く知りません)
……何?
就寝時には決まって展開している探知魔法に反応があった。
この探知魔法は幼少期に一般的な探知魔法を独自に改変、莫大な魔力量にモノを言わせて最大100kmの広範囲と「網の目」の大きさを自在に調整できるようにしてある。
さらにもう一つ。
基にした一般の探知魔法も原理は同じで探知に【魔素】を利用しているが術者には「何かが引っ掛かった?」程度で「それが何なのか」までは分からないとあまり使い勝手が良くなかった。
それでは面白味がなかった。なら「形」として認識できるようにしたら?
ルーナ様の叡智を借り改変したところで、地中・水中以外の生物全てが手に取るように見通せるようになった。
その探知魔法の範囲内に大きな魔力をもつ者が侵入してきた。
……え──と? お父様が何故ここに──ってもしかして⁈
微睡ながら父のやり取りを見ていたが「警戒対象」が気を失うのを見て意識が覚醒。途端に冷や汗が湧きだしてくる。
サリーという取り扱いに細心の注意を払わなければならない不確定要素を放置していたことに気付く。
……油断したかな?
ルーナ様の予言通りの容姿、雰囲気、そして【神力】を携え現れた運命の男性。幼き頃から憧れ夢見てきたその男性の妻に名実ともになれた。
欲しいモノは手に入れた。
残る1つが手に入れば私は自由になれる。
だがここにきて想定外な事が起きた。
「慣れるのには時間が掛かる」と言われている「夫婦の愛」を確かめる行為。
初夜に実感したその行為だが早くも二日目に? 我を忘れるくらいに悦に浸ってしまったのだ。
……エステリーナ様の影響?
今晩から床を共にすると言われ、エステリーナ様と旦那様が待つ寝室へ。
そこで自分の認識の甘さを実感した。
そう、人族とエルフ族の違いをまざまざと見せつけられた。
あんなの見たら欲が少ないエルフでも高まってしまう。
「もしかして旦那様に酷いことをした意趣返し?」かとも思ったがある方から「自業自得」と窘められた。
──ジゴウジトクとは?
経緯があってこその結果。
今回はやむを得ない目的があったとはいえ、その経緯を選択したのは貴方自身。
自業自得と思って受け入れなさい。
と諭された。
「罰でなくてご褒美かも?」とも思えなくもないが、現実問題として今の私は回復魔法だけは使えない。なのでルーシアに頼るのだけは避けなければならない。
……取り敢えず猛省。でお父様が直に来たってことはあの子が原因?
再度覗くと予想に反しルーシアが現れる。すると愛しの旦那様と共に転移魔法で何処かへ去った。
……いいな〜私が行きたかったな〜。
複雑な心境。
……はぁ──。
自分の役割りを思い出しため息。
……ホント、あの魔族は厄介ね。
魔族は契約に則って呪いをばら撒いただけで、悪いのはそれを指示した雷明という男。なのでパイモンと名乗る魔族には悪感情はない。ないが、
……ただね。
狡猾で計算高く感じる。故にどこまで信用してよいのか、提案に乗って良いのかの判断がつかない。
……大いなる神がパイモンの行動を公認しているのは間違いなさそう。
でなければ辻褄が合わない、というかコチラに都合が良過ぎる。
──シルヴィア様を思ってのことですか?
主神が容認している件? について本人に聞いてみる。
(多分そうなのでしょう)
──ではルーナ様のお告げも?
(恐らく)
主神の巫女であられるシルヴィア様の友。主神と接点があってもおかしくない。つまりこのストーリーは主神が決めた可能性が。
──ではエステリーナ様の犠牲有りきな結末も?
(力のない私にはどうすることも出来ません)
──では受け入れるので? 自分の為に戦ってくれている男を悲しませてまで?
(…………)
──迷ってらっしゃいますよね?
(……はい)
あれからこまめに会話を積み重ねてきたお陰で巫女様の性格は分かってきた。なのでその苦悩は理解できる。自分が同じ境遇であったら同じ反応をするだろう。
──ではここで私からのご提案を。
そろそろ頃合いかと切り出す。とは言ってもルーナ様が示された選択肢の一つなのだが。
(どのような?)
──それは…………
提案は案の定、拒否される。
そりゃそうだ。千年来の「夢」が土壇場で変えられたらたまったもんじゃないし、この幸せを選択した場合はシルヴィア様だけでなく旦那様も「夢」を諦めてもらうことになる。
だがルーナ様が示された選択肢の中で、皆が幸せになれる可能性はこれしかないし、アラナート王にも「このストーリー」で説得をしており今更変更は聞かない。なので否定されても何度でも説得を続けるしかない。
……私的にはこの身を捧げても構わないのだけれど。
その選択肢を思うとちょっとだけワクワクしてくる。なので諦めない。
──その時が来るまでご思案を。
と引き延ばしを図る。
(…………)
最終的にはシルヴィア様が決めること、なのだが彼女の性格なら拒否はしないと踏んでいる。
そう割り切り意識を切り替え体を起こす。
「エステリーナ様」
「……ん?」
「王宮から使いが来られたようです」
「急ぎの用かしら?」と誤魔化す。
真面目で純粋なエステリーナ様は私の言を疑いもせずに聞き入れると、急ぎ下着とガウンを羽織り魔道具のランタン片手に真っ暗な廊下を進み談話室へ向かった。
部屋の扉を開けると天井付近に魔道具ではない、小さな魔法による明かりが灯っており、その下には男女が二人、ソファーに腰かけていた。
「こんばんは、エステリーナ様」
エステリーナ様を見るや否やセシリアが立ち上がり一礼してくる。
「お二人でしたか」
「二人共、お休みのところすまないね」
こちらに背を向け座っていた父も立ち上がるとこちらに向き直る。
「いえ、お二人と分かってれば身なりを整えたのですが」
急いで来たのでガウンの中は下着のみ。こんな格好は夫や身の回りの世話をしてくれている者以外には見せられない。
「いやいや良い思い出になるよ」
「奥方一筋のお方が何を仰られる」
エルフ族の男性は人族の女性に対する「美の基準」がだいぶ異なる。彼らは自分ややリーアのような「スラリとした体形の女性」に美や欲を感じている。
その程度は一般常識であり当エステリーナ様も知っている。
なので不敬にならない程度に言い返したようだ。
「お父様、急ぎの用とは?」
ここで何も知らないフリ、ではなく聞かされていないのだからフリではない。それを踏まえて会話に割り込んだ。
まあ想像はつくけど。
「用事は二つ。一つは君達の旦那様。もう一つは君達二人」
聞き手の指を二本立てて見せる。
「山水と私達?」
「そう。で旦那の方は話がついてここにはいない」
「……山水が?」
エステリーナ様が訝し気な声で呟く。
「大したことじゃないから安心して」
「…………」
確かに旦那様ならあの程度の兵なら障害にすらならない。イレギュラーさえ起きなければだが。
「僕らが責任を以て連れ戻す。だから君は気にしなくていい」
そう、旦那様はあそこで一度本懐を遂げる。遂げる筈なのだがそこで終わらない。その先にある結末が何故だか複数存在しているのだ。
「そう……ですか」
一国の王にそこまで言われたら聞き難い。なので大人しく引き下がってくれた。
そんな彼女の性格を思うと後ろめたさを感じるとともに、言葉通りの振る舞う自分の父を少しだけ見直した。
「で、本題の二つ目」
笑顔に戻すとエステリーナ様と私を交互に見てから指を1本畳む。
「「お願いの件」について」
「お願い? 魔族討伐ですよね?」
「そうそれ。悪いが直ぐにでも出発して欲しいんだ」
「構いませんが……今、から?」
「うん」
「……理由をお聞きしても?」
「好機を逃したくない」
「好機?」
どうやら計画が早まったらしい。いややっと進み出したと言うべきか。ならば「説得」も急がないと。
エステリーナ様も察したらしく「こちらにプラスであるなら」と了承する。
「済まないね。今回は万全を期したいのでセシリアも同行させる」
「よろしくお願いします」
父の後方にいたセシリアが私達に頭を下げる。
「それは頼もしい。では準備しますので少々お待ちを。サリー!」
当然だが反応はない。
「……エステリーナ様」
あの子が来ないのを確かめてから袖を引っ張り名を呼ぶ。
「ん?」
「皆さんご就寝中のようです」
「?」
はい? といった表情で私を見ている。
強制的に眠らされている状態では「能力」は生きない。仮にここで目を覚ますようなら我々では対処は不可能だった。
「なのでエステリーナ様のお着換えは私がお手伝いします」
「え? いやしかし」
「以前お話したように今回は対魔族用の防具を身に付けていただきますが、アレは少々特殊で説明が必要なんですよ」
なので私が手伝いますと。
「……分かった」
「ご同行して頂く騎士団の四人は……」
とセシリアに視線を向ける。
「では私が」
「頼みますね」
セシリアが部屋から出ていく。
「では着替えの邪魔になる僕は後方支援の準備に入る」
「お願いします」
「こちらこそ。あっそうだシーラ」
「どうしました?」
「魔力を分けてくれ」
「はい」
と握手で魔力を譲渡。一瞬で父の魔力を全快させた。
「ありがとう。では後は任せた」
「任されました」
打合せ通りに。
「この鎧の効果は?」
「極限まで耐魔法性能を高めておきました」
七大属性だけでなく精神感応系も99.99%無効化。ブレス攻撃も同様。
「ただし一つだけ欠点があります」
「どんな?」
「……構成している素材の本来の強度を超える物理攻撃は防げません」
エルフの叡知をもってしても耐魔法効果と耐物理防御の両立は無理だった。
ただ今回相手する魔族の武器は「スタッフ」のみ。しかも魔術特化タイプで攻撃力はエルフと同程度。
「なら私が油断しなければ良いだけ」
エステリーナ様が冒険者ギルド序列三位なのは有名な話。
「そうなのですが……ダンジョンでは何が起こるか分かりません」
そう、可能性はかなり低いがドラゴン族が特異点を超えてくるとも限らない。
「ごもっともな意見だが今回はセシリア殿が居られる」
確かにセシリアの治癒魔法の能力はかなり高い。即死さえしなければ大抵は元に戻せる。
「すいません。お役に立てなくて」
魔法が効かない・無効化する相手に自分は無力。
「シーラがいれば戦いに集中できる」
「はい、周囲の魔獣は受け持ちます」
特異点に近いあの場は魔族以外にも脅威となり得る魔獣が五万といる、というか次から次へと湧き出してくる。とはいえ特異点の外側にいる魔獣は漏れなく魔法が効く。
あの場での懸念材料はパイモンが呼び寄せる「第三階位」の魔物。
先日現れた魔物は奴から離れていたので魔法が効いたが今回は確実にレジストされる。
……この試練を皆で乗り切らないと。
「エステリーナ様にもう一つ、言っておきたいことが」
「?」
「貴方の命は守り通します。この命に代えても」
「ど、どうしたんだ急に?」
「い、いえ」
ルーナ様のお告げでは犠牲になる、いやなってもらうのは二人。内、シルヴィア様は説得中。
問題はエステリーナ様。
彼女がどの様な形で命を奪われるのか、そこが不明なままではフォローも覚束ない。
仮にエステリーナを「不本意な形」で失おうものなら、山水の手により世界は滅ぶ。それはシルヴィア様も同様で二人を失う結末だけは何としても避けなければならない。
「まあいい。ナート家に嫁に来たシーラも今では私の妹。だから悩みがあったら姉に遠慮せずに相談して欲しい」
「……はい」
その言葉を聞くと、心の中に僅かに残っていた妬みが罪悪感に染まった。
エステリーナの心情は敢えて省いています(蔑ろにしているわけではない)
その分、第三章以降のスローライフ編に回します。




