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第50話 宣言

 本陣直衛である重装歩兵、次に散発的に弓を放つ弓兵の脇をすり抜けると次第に兵の密度が増してくる。


 そして遂に「壁」というか死地が現れた。


 大盾を構えた兵が横並びで敵を押し留めているが、人の重みには抗えないようで一人、また一人と押しつぶされていく。そこに控えていた盾持ちが素早く入り盾の壁を補強していた。


「これはジリ貧だよな。ルーシア」

「はい」


 名を呼ぶと先程までの温和な雰囲気は何処へやら、細めた目で首を動かしながら周囲に目配せをしている。


 ……コイツ、場慣れしている。


 気配では動揺も無く冷静。


(平和な国とはいえ)王女付きのメイドともなれば護衛も兼ねている。いざという時は身を挺して守らなければならないが、護衛対象が魔法のエキスパートであるため同族の護衛では意味がない。


 シーラの護衛に求められるのは近接戦闘が出来て適切な状況判断能力を備えた者。

 それらを手っ取り早く解決してくれるのが相手の動きや感情を読み取れる「気配察知」なのだが、残念ながら彼女は気配を探れないらしい。

 それは彼女が今まで選んだジョブには「気配探知系」のスキルが無かったことになる。


 まあ体形からも分かる通り、エルフは物理で行う近接戦闘には不向きな種族。

「気配察知」を覚えるよりも「探知系魔法」を覚えた方が効率が良いと思う。

 なので魔法を習得しているだろうと思ったのだが、予想外に目視で確認していた。


 ここで考えられるのは二つ。

 探知系魔法を習得していないか、又は密集状態で使うには向いていないのか。


 ……多分後者だと思うが、ダンジョンで鍛えてるだろうから自分の身くらいは守れるだろう。万一、逸れたとしても俺が迎えに行けば良い。


「時間稼ぎか」

「のようですね」


 戦闘になったらお互い真っ先に弓兵や魔法兵を削る。その結果が今のこの状況を生んだのだろう。

 まあ数では圧倒に不利だが地の利はコチラ。応援が来るまで持ち堪えるつもりなんだろう。


 だとしても他にやりようがあると思うが。


「それだけ想定外だったのでは?」

「だな」


 と呑気に話ている場合ではない。


「頼みがある」

「何でしょう?」

「俺が囮になる」

「何故山水様が囮などに?」


 ごもっともな疑問。

 確かに俺にはまどろっこしい真似をせずとも捩じ伏せる力があるが、今は「その力を振るう時」ではない。


「敵からの圧を弱める。その間に俺かエンリケの名を使って構わないから前線の立て直しと反撃の準備を指示。頃合いを見計らい前線を押し戻させてくれ」


 暗い中、防衛部隊の隊長らしき人物を指さす。


「……成程。承知しましま」


 意図を理解してくれたようで頷いてくれた。

 そう、国軍には勝利して貰わないと困る。俺が自由に動くにはこの局地戦の勝利が必要なのだ。


「山水様」

「なんだ?」

付与(バフ)を掛けときます?」

「バフ、とは?」

「防御系魔法のことです」


 エステリーナの防具に付与されていた魔法かな?

 アレは永続型。壊れない限りは効果が続く超特製の一点物。


「今はいい」


 多分俺を対象としたバフだと思うがとがそうでは無い可能性も。

 どちらにしても魔法を行使すれば魔力は消費される。どのくらいの量を消費するかは分からないが、一晩寝ないと完全回復しない筈。今後のことを考えたら温存しておくべき。

 まあシーラ並みのバカげた魔力総量から見れば微々たる量だろうが。


「俺のことより身の危険を感じたら攻撃しても構わないが、ダメだと思ったら何をおいても逃げを優先してくれ」


 攻めてきた理由は知らないがエルフであるルーシアが目に留まれば確実に狙われる。勿論誰一人として逃すつもりは無いが万が一が無いとも限らない。


「判断を見誤らにように」

「でも山水様を残しては」

「俺ならどうとでもなる」


「……それはご命令でしょうか?」


 その不安そうな表情で充分だ。


「そうだ。シーラの夫として」

「……承知しました。では後程」


 最後のセリフが効いたようで渋々ながらも受け入れてくれた。


 その場で別れると数歩勢いをつけ前方の空に向けジャンプ。二十数メートルの高さで()()()()()に躍り出る。


 ……んーースペースがない。


 見渡す限り下は人、人、人。足の踏み場がどこにもない。このままだと誰かの頭の上に降りる羽目に。


 ……仕方ない。


 着地予定地点である剣が交わっている20m程後方に向け上段から振り下ろして斬撃を飛ばす。

 すると爆音とともに斬撃をくらった敵兵が火花を散らしながら左右に吹き飛ぶ。その鎧が上げた僅かな火花の明かりを頼りに地面に着地を果たすと阿鼻叫喚の叫び声の中、ゆっくりと周囲を見回す。

 自分の足元から50m程先にできた地割れ。その周囲には藻掻く負傷者と物言わぬ無残な死体の数々。

 今の衝撃で最前線の動きが止まった。


「我が名は山水! 今よりアラナート軍の助太刀をする!」


 日本にいたころの名残か、周囲に向け宣言を行う。


「これをしたのは貴様か?」


 人垣をかき分け、周囲よりも頭一つ分背の高い大男が前に出る。


「ああそうだ」

「なら死ね!」


 エンリケが持っていた大剣ほどではないがそこそこの大きさの剣を振りかぶりながら切りかかって来る。


「我が剣の錆にしてくれるわ!」

「…………遅い」


 大剣と刀では間合いが異なる。同レベル同士の斬り合いならリーチが多少長い剣の方が有利。

 だが俺は【侍】でありレベルを極限まで上げてからここに来ている。なので間合いは有って無いも同然。


 瞬時に相手の懐に踏み込み、振り上げた鎧に包まれた両手の上腕を首ごと刎ねる。

 首と腕が無くなった大男が前のめりで地面に倒れると、周囲から音が消え去った。


「……次は……誰だ?」


 ここで周囲に向け軽く殺気を飛ばす(脅す)。すると見える範囲の敵兵は恐慌状態に。


「ばばばばバケモンだ!」

「は、離れろ!」


 と剣を向けながらも俺から後退ろうとするが、その後ろには分厚い人の壁があり思うように動けない。


「おい!」


 周囲に向け声を張り上げる


「お前らは自分が攻められたら笑顔で受け入れるのか?」


 再度殺気を飛ばす。

 数名卒倒するものが出始める。


「生憎、俺はそこまで寛容でもなければ寛大でもない、解脱(げだつ)とは無縁な男だ」


「「「…………」」」


「だからこそ敢えて言おう」


「「「…………」」」


「お前らはエステリーナ達(俺の女)が大切にしている国に手を出した! そんな奴らを俺は絶対に許さない! その身に報いを受けてもらう!」


 ここで強めに殺気を前方に向け放つ。すると前方100mに渡り全ての敵兵が口から泡を吹いて卒倒してしまった。




「復讐こそが(われ)が生きる糧!」




 声高らかに宣言をする。

 この絶好のタイミングに「今だ突撃!」との声が聞こえたので気配を探ると、動きの止まった敵兵にアラナート軍が反攻を開始しているところだった。

 この時点を以て侵入してきた敵は総崩れとなる。


 ……絶好のタイミング。よし後は任せて殲滅開始。


 その場で再度上段に構えてから深呼吸を一回。

 そして気合を込めた破岩斬(一撃)を前方の逃げる敵兵の背に向けて放つ。


 放たれた斬撃が地面に沿って前方に進む。

 その斬撃は阻むものなく2km先の国境付近に到着。経路にいた全てのモノを蒸発させて消滅する。


「よし、道が出来た。行くか」


 軽い声とは裏腹に素早く移動しながら敵兵の首を漏らさず刈り取ってゆく。

 今回はアラナート城攻略時のような「目で追える速度」ではなく人では認識不能な速さを以て殲滅を行う。




 ……俺の存在を知った者は漏れなく斬ったよな。


 時間にして約10分。前方には崩れた石垣があり逃げる敵兵もそこに向かっている。

 多分あれが国境の役目をしている関所だろう。


「……山水様」


 戸惑った様子の女の声が後ろから聞こえる。


「……ルーシアか」

「は、はい」


 振り返ると何処か余所余所しい表情をしている。


「怪我は無ないか?」

「山水様のお陰で傷一つ」

「そうか」

「それよりエンリケ様からの言付けが」

「何と?」

「『そこから至急離脱し後退しろ』とのご達です」

「そうか。うん、一旦下がろう」

「う、受け入れていただきありがとうございます」

「?」


 なんでそんなに畏まってるんだ?


 高さ20mはありそうな城壁そっくりな石壁の一部が無残に破壊されており、その瓦礫が散らばる中を無我夢中でよじ登る敵兵達。その数残りは十数人。それらに背を向けると……


 ……あちゃーーまたやっちまったわ。


 うわーーこりゃ酷い。

 無心でいたからこそ気付かなかったが辺り一面には首と胴が離れた死体が無数に転がっている。

 さらに地面は全て血の海と化しており、それが2キロ先まで星あかりを黒く反射させていた。


 ……やはり未熟な俺にはシルヴィアがいないと。


 つまり畏怖。俺に対して恐怖心を抱いている。


 まあ悔やんでも仕方ない!

 戦場以外ではシルヴィアの言い付けは守れている!


 自己完結して(開き直って)から右手を翳し全てを【収納】に入れる。


「「「へ?」」」


 周囲にいた兵だけでなくルーシアの口からも魔の抜けた声が漏れ出る。

 さらに抉った地面も元に戻しら後方にも手を翳し壊れた国境の石壁を元に戻すと、


「「「はい?」」」


 と呆気に取られていた。


 ……門は元の形を知らない。だから……


 一枚岩に加工した石で塞いでおく。


 最後に己の服に付いた血糊を収納して終了。


「ん? 何か来るぞ」

「え? どこ?」


 味方の陣地の左右からここに向け何かが空に弧を描いて飛んできている。

 この速度と方角だと……


「関所か?」


 何かが関所の壁に激突すると、手直しした部分が一度黄色く発光した。


「アレは……防御魔法?」


 ルーシアの呟きが聞こえた。


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