表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/55

第49話 急報

 

 その後は早めに昼食をとってから大使館に戻るが暇そうな者はいなかったので、酒瓶片手に風呂へ。

 チビチビと呑みながら時間を潰すが誰も来ず。

 仕方なしにと大使館内をブラつくが何故だか誰ともすれ違わない。

 皆の仕事を邪魔するのもどうかと思っていたところに笑顔のルーシアが何かを持ってきた。


「良ければ」


 と一冊の本を差し出してくる。


「何の本?」

「今後の為になるかと」


 読みごたえがありそうな厚みのある本。著者は……「ヒラガミカン」というらしい。


「誰?」

「かの勇者様パーティ―で回復役を担当されていたお方です」

「それって、確かアラナート城にあるっていう?」

「はい」


 その複写版らしい。


「いいのか?」

「それはシーラ様のモノです」


 写本した物の複写であり紛失しても問題ないのと、持ち主もだいぶ前から読まなくなったので俺が持っていても文句は言わないだろうと。


 夕焼けが眩しい裏庭の一画の木陰を選び、一人寝そべりながら読み始めて数十分後。


「トウキョウってところから来たのか」


 勇者らはコウコウという名の学校に通っていた同級生で、四人纏めて召喚されたらしい。


 至る所に意味不明な単語が並んでおりシルヴィアの解説なくては全ての解読は不可能に思えるが、そこかしこに「懐かしい言い回し」などが載っていたことから、勇者達がいた世界は「未来の日本」であると確信に至った。


 そしてそろそろ灯りがないと読み辛くなった頃、再度ルーシアがやってきた。


「戻られました」


 帰って来たのでエントランスに行って欲しいと。

 久方ぶりの長閑な時間を惜しみつつ、本を【()()()()()後について行く。


「おかえり」

「……ただいま」


 抱擁(ハグ)にて出迎えると、疲れているのか覇気の感じられない声のエステリーナが耳元で返事をする。その後ろでは立っているのもやっとといった様子の四人が俺への挨拶が終わるのをジッと待っているのが目に入る。


 ……あまり長引かせるのも気の毒だな。


「シーラもお帰り」

「はい、只今戻りました」


 シーラにも同じく抱擁(ハグ)をする。


 〈今日は皆さん頑張りましたよ〉

 〈そうか〉


 ()()()()()()()()()()()()。こちらは対照的に元気なご様子。


「王都観光はどうでしたか?」


 今度は声に出しチラリとルーシアを見ながら尋ねてくる。


「ああ、とても有意義に過ごせた」

「それは良かった」


 言いたいことが分かったのでお互い小さく頷く。


「「「!」」」


 するととここで至近距離から皆にもわかる程度の殺気が放たれる。

 その煽りをモロに受けた四人が背筋を伸ばす。


「あらあら、夕食の前に汚れと疲れを落としてらっしゃい」


 殺気とは異なる方から笑顔のミランダが現れると、頬を膨らませたエステリーナの肩に手を置きながら言ってくる。


「では遠慮なく。さあ行くぞ」

「え? 俺はさっき入ったが」


 と何故だかご機嫌斜め(プリプリ)モードのエステリーナに浴場に連行された。


 室内よりかは暗い露天風呂。その洗い場でエステリーナ、シーラと順番に身体の隅々まで洗わされる。

 その際、ついでに妻らの怪我の有無も調べたが痕跡は何処にも無かった。


「要らないと言ったんだが『念のために回復魔法を』と(門の外で待機していた)エルフの従士兵に回復魔法を掛けられた」


 と俺を二人掛かりで洗いながら教えてくれた。

 そんな会話に加わることなく黙々と身体を洗っていた娘四人が湯ぶねに入った証である「「「あ゛ーーー」」」とのオヤジ声が聞こえてきた。


 程なくこちらも洗い終わり三人同時に湯に入る。

 良家の娘だからか、顔を緩ませるだけで声は我慢していた。


「で今日の成果は?」


 機嫌が直ったようなので、本日の成果を窺うとエステリーナらの雰囲気が一変する。


「そう、流石はシーラ! 威力は三倍、消費魔力は半分になったぞ!」

「「「私達も!」」」


「へーー」


「さらに身体強化の効果も倍になった!」

「「「同じく!」」」


「そ、そうなんだ?」


「ああ。シーラの言っていたことは本当だった!」

「「「うんうん!」」」


 感動しているのか皆、身振り手振りで説明してくれるせいで、目のやり場に苦労してしまう。


「講習ってどんなことをしたんだ?」

「先ずは詠唱の見直しから」


 一人冷静なシーラが答える。

 魔法の詠唱、それはある意味、()()()()()とのこと。


「儀式?」


 どうやら詠唱の「文言」には定型文というものは存在しないらしい。


「詠唱とは内にあるイメージを体内に存在する魔力を使って具現化させる最適な手段」


 詠唱を省いても魔法は使えるが「儀式」を省いているのでどうしても効果は限定的となってしまう。なので一定以上の効果を望むなら適切な詠唱は欠かせない。

 ただし個々のイメージに差があるように十人いれば十人分の詠唱(手段)が存在する。価値観も異なるのだから(同じ魔法といえども)文言が一致するとは限らないそうだ。


「道術のようなものか」

「ドウジュツ?」

「俺がいた国で行われていた儀式で「神降ろし」もやっていた」


 確か正しい手順を踏まないと望まぬ神や悪霊が降ると。


「シーラは?」

「その都度詠唱していますよ」


 シーラと言えども類に漏れず。


「慣れれば属性の異なる魔法を一回の詠唱で混ぜ込めます」


 詠唱に工夫を凝らせば「炎と風」をミックス。火力上げなどができるようになると。

 それを聞いたエステリーナが食いつく。


「どのように?」

「それはご自分で考えないと」


 初めに覚える初歩の初歩程度の魔法なら他人とのイメージに差は殆どない。なので詠唱もほぼ同じ。問題はその先で自分のイメージに合った内容に合わせた詠唱を「構築」していかないといつかは頭打ちとなってしまう。


「ヒントを」

「うーーん……詩、に似てるかな」

「詩……か」


 俺が唯一知っている魔法である、エステリーナが使うサンダーストームの詠唱を思い浮かべる。


 ……短歌とか? どうだろう?


 魔法が使えないので考えるのを止めた。


「属性の異なる魔法でしたら四つ。そこが限界ですね」


 限界とは相反する属性を混ぜても思った効果は望めない。それを考慮しての限界だそうだ。


「で皆さん魔法が上達したのでスキルの効率も上がっている筈です」

「どういう理屈で?」

「魔法は体内を巡っている魔力、スキルは心の力。根源が異なるこの二つですが、意外にも共通点があります」

「それは?」


「意志です。確固たる意思」


 意思の持ちようよって効果が変わるらしい。


「成程」


 確かにごく最近、意志の持ち方ひとつで異常な成長を遂げた奴を見てきたし、実際に成果が上がっているのだから否定は出来ない。


 ……ってことはアイツも(魔法が)上達しているのかも。


 その後は夕食を取り早々に寝室へ。

 マリアンヌは王城から未だに戻らずとのことで、離れは俺達夫婦だけとなる。

 それを知っているから、それとも戦いの余韻なのか、なかなか寝かせてもらえなかった。





 ……そろそろか。


 無防備な寝顔で熟睡している二人に気付かれないよう、静かに部屋を出て裏庭のガゼポに向かう。

 門兵以外は皆就寝、ルーシアは今日も同じ場所で待機中。

 かなり遠くにいるフクロウに似た鳴き声が聞こえるほどの静寂。

 星明りを頼りに橋を渡ると灯りも持たずに椅子に腰かけているサリーと目が合う。


「お役目とはいえ毎晩大変だな」

「はは」


 ぐうの音も出ない程の的確な指摘。これでは笑うしかない。

 帰国したら三人を相手にしなければならない。二人は()()受け身だが若さ故、歯止めが効かなくなる恐れが。もう一人と同じになるのは時間の問題だろう。

 とはいえ身体強化の使い手は一人だけ。エステリーナさえ攻略出来れば夫の尊厳が保てるが、戦闘系に極振りしてしまったステータスのせいで思うようにはいかない。

 事が済んだらシルヴィアに相談してみよう。


「で、相談事なんだが」


 散策から帰りサリーを探すと『陛下からの勅命』が届いていたようで『今は無理』と断られた。その時、声を出さずに口を動かし〈夜なら〉と伝えてきたのでこうして会っている。

 因みにお互い気配を探れるので合図は不用。


「どこまで聞いた?」

「王城での事件以外は」

「ほぼ全てか。で結論は?」


「ザームを斬る」


 俺の返答を聞いて深く目を閉じる。


「ザーム様はミランダ様の夫。そんな方を師匠は斬ると?」

「ああ」


「想定外な返答。ではエステリーナ様の気持ちは?」


 痛いところを突いてくる。

 多分だがミランダは今のザームの状態を理解している。なので今後起こりえる「不運」は割り切れていると思うが、死んだと思っているエステリーナはそうではない。


「それも相談したい」

「それも?」


「なんとか奴だけを斬れないものか?」



 〈万事上手くいく〉



 ルーシアが言っていた話がどこまでが正しいのか判断つかないが、今はこの言葉を信じるしかない。ただ手段が思いつかない。


「当然そう考えるよね。でその質問の答えは……YES」

「手はあると?」

「あるといえばあるし、ないといえばいない」

「?」

「師匠次第」

「俺次第?」

「正しく言うなら『斬れるかどうかは師匠次第』

「…………」

「というか目標が違う」

「違う?」

「誰を斬れば良いか、アタイ言ったよね」

「…………ルーナか?」

「そう。ここで重要なのはルーナ様。()()()()()()()()()()()()()()

「では俺はダンジョンに行くべきか?」

「入れねえ、というかダンジョンには行かなくていい」

「え? ルーナはダンジョンにいるんだろ?」


「斬るのは()()()()()()()()()()()()()()()()


「ん?」


「斬るのは()()()()()()()()()()()()()()()


 ……やはり取り込まれているのか。


「それが魔族に()()()()()()()()()()()()()


 契約。


 とここでサリーが突然崩れ落ちるように横に倒れる。


「お、おい!」



「やれやれ、全く余計な真似を」



 サリーの後ろにはヤームがいた。


「何をした⁈」

「何って? 若くて美しい妻を娶った翌日に幼子と密会するとは感心しないよ」


 笑みを浮かべているが雰囲気は真剣そのもの。


「密会ではない! それより何の用だ!」

「そう怒らない。実は君に急ぎ伝えたいことがあってね」


「何を?」


「明日では手遅れになる。その前に君に判断してもらおうかと思ってね」


「何を?」


「我が国の西、湖を挟んだ国が先程アラナート王国に対して正式に宣戦布告、侵攻を始めた」


「……それは本当か?」


「ああ。なので君の意見を聞きにきた」


「俺?」


「君が援軍に向かうかどうかを聞きに来た」


「…………」


 それは俺一人では判断できない。

 現状を知らない俺が闇雲に動き回っても結果は付いてこない。


「いいのかい? 滅多にない好機だと思うけど」


「好機?」


「アチラの方角を探ってごらん」


 とある方向を指さしたので言われた通りに気配を探ってゆくと……


「なんと」


 かなり先にこの世界に来て二度目となる奴の気配と、奴の周りにアラナート王国の兵ではない、多数の兵を見つける。



「この騒乱の元凶は彼であり、彼に対抗しうるのは君だけ」



 奇襲が成功したのか? アラナート軍は混乱しており、エンリケがいる本陣の目と鼻の先、あと数分の距離まで迫まられていた。


「クッ!」


 ここと戦場はかなり離れた場所。俺が寝ずに走ったとしても二日はかかりそうな距離。しかも途中には湖があり迂回は必須。


「との理由でお邪魔した。で僕ならあの場に送れるけど……どうする?」


 今すぐ決断しろと。


「分かった。送ってくれ」


 迷っている時間はない。


「承知した。ルーシア」


「はい陛下」


 メイド服の状態で現れる。


「悪いが彼に付き添ってくれ。皆への説明とシーラのフォローは僕がする」


「承知しました」


「では山水君、向かう前に助言を一つ」


「?」



「彼は()()()()()使()()()()()()()()



「?」


 今日の分とは?


「いいかい、今後迷うことがあったら僕の話を思い出すんだ」


 目を瞑り右手を掲げたヤームの魔力が膨れ上がったのを感じた、がその直後視界が途切れた。



「願わくば二人の犠牲で済むように」



 一人残ったヤームが呟く。





「き、貴殿は」


「……お、無事に来れたようだ」


 眼前には大剣を抜刀した状態のエンリケが。


「山水殿か? 何故ここに?」


 俺とルーシアを交互に見て驚いている。



「ああ、故あって助太刀しにきた」



「姫は?」

「パルミラル王国にいる」

「……そうか」


 俺がここに来た「訳」を知っていそうな間と表情。

 だがそれを問う時間は無い。


「先ずは突出しているヤツらを片付ける。その間に体制を立て直してくれ」

「スマン」


 ザッと調べたところ敵はコチラの約三倍の十万。

 こちらは地形を上手く活かした防御陣形で数の不利を補っていたようだが、物量に押し切られたらしく、一部の戦線が崩壊していた。そこを約二千の敵が凸陣形にて犠牲を顧みずに突進してきている。

 そして肝心のアイツはその陣形の最後方。


 ただこちら側も何かの策があるらしく、陣形の両翼の一部が崩壊した戦線に向かって移動をしていた。

 これらのことから今優先すべきは前線を元の位置まで押し戻す。

 そう判断しエンリケからルーシアに視線を変えた。


「ルーシアはどうする?」

「お供します」


 ほう、付いてくるのか。


「なら決して俺の正面には立たないように」

「はい」


 そう言ってから鞘から抜いた状態で愛刀を取り出すと敵軍に向け走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ