第48話 呪縛
今回は会話多めです。
サリーが確固たる信念をもって行動しているように、それぞれが譲れない望みを抱えているだろう。それは俺にも当然あるし、夢を諦めるつもりはない。
俺が望む未来。
それは人界にて人としての死を迎えるその瞬間まで普通の、在り来たりな人生を謳歌する。その際、俺が気に入った者がいれば一人だけ伴侶を選べる。
死後は天界から離れられないシルヴィアの下に出向き、二人で永遠の時を過ごす。
両方とも【神】と取引した際に認めさせた【 勝利の報酬 】
前半はシルヴィアの勧めで、後半は俺の意向を汲んで決めたこの望みを叶えるために長い間戦い続けた。最終局面でひっくり返されたら泣くに泣けないし、何百年も俺を信じて待ち続けてくれたシルヴィアに申し訳が立たない。
なので(本心では)もう少し他人に対して強く出たいが、それはシルヴィアから厳しく禁止されている。
理由は俺が未熟で危なっかしいから。赤の他人ならまだしも身内との関係が拗れたら事が済んだ後、平穏な生活が送れなくなるかもしれないと、忠告を受けているのだ。
何度も言うが俺は誰かに従う気もなければ従える気もない。贅沢を言わせてもらえば冗談を言い合える対等な関係を築ける友人が欲しい。そんな俺の心の深層にある小さな思いを理解してくれているからこその助言を無下には出来ない。今まで一人で戦いに明け暮れてきた俺を思っての助言なら猶更。
なので自制を働かせ、今まで通りに当たり障りのない質問を心掛ける。
「いくつか確かめておきたいんだが」
「は、はい」
「解除の条件は調べたのか?」
エルアノームの場合は炎竜の肝、といった具合に術者本人を殺さずとも解決する手段はあるのではないかと思う。
ここでシルヴィアと話せれば一瞬で解決するのだが、今は手探りで見つけなければならない。
なので先ずはシーラに掛けられた呪いについて尋ねる。
「パルミラル王国で呪術に最も詳しいセシリア様が【鑑定】を試みましたが、分かったのは【unknown】のみ」
unknown。つまり詳細不明。
「セシリアの【鑑定】の実力は」
「パルミラル王国一」
それで分からなかったと。
「残るは『神の領域に達した、触れるだけで全てを見通す能力である【神眼】の鑑定スキル』を頼るしかないと」
神眼? 呼び名は違うがシルヴィアのスキルと同種と思われる。
「それはシーラも当然?」
「はい、知っております」
そこが解せない。なら何故コンタクトが取れないようにしたんだ?
そこは本人に聞かないと分からないだろうから置いといて、次は魔族について。
「第二階位を倒す目的は?」
優先目標というか、封印に関与していないのなら後回しにしても。
「少し長くなりますが」
「構わない」
「では先ずは魔族について。彼らが他の者に力を貸す際は相手と【契約】を必ず交わすそうです」
「契約とは?」
「勇者様が残してくれた情報によると魔族、悪魔とは天界を追放された、元は神に仕えていた天使達でしたが、神の反感を買い地に堕とされ「堕天使」の烙印を押されたそうです。ただ地に堕ちようとその身に宿した能力は剥奪されなかたったそうで、その力を私利私欲を満たすためだけに使うようになったと。そんな堕天使達に願いを聞き入れてもらうには、その願いの大きさに見合った【対価】を用意しないと相手にされないそうです」
「対価を用意?」
「はい。悪魔と言えども契約は絶対。一度交わした約束は反故にはできない。損をしないためにも自分からは一切要求せず、相手が自分の欲求を満たす条件になるまでのらりくらりとはぐらかすそうです」
「自分からは要求しないのか?」
意外に思える。
「はい、天使という根源を完全に滅せれるのは生みの親である主神のみで他の者では不可能と言われております。つまり彼ら彼女らは実質的には不死の存在といえます。永遠の時を生きる天使らからしてみれば、契約とは「その時をいかに楽しむか」の縛りでしかない」
「奴らにとっては遊び感覚?」
「はい。その契約ですが基本的には「後払い」と言われております」
「後払い。成功報酬?」
「はい。ただそれでは双方口約束で誤魔化す恐れがあるので、契約の際にはお互いの血を数滴交換する「血の契約」をし、約束を破れないようにお互いを縛るそうです」
「交換?」
「生き血を飲み合う、とのこと」
「…………」
腹、壊しそう。
「そして報酬で避けて通れないのは契約者の魂。これは契約の満了をもって差し出す、いや搾取されるそうです」
「満了前に依頼者が死んだ場合は?」
「血の契約で魂も束縛されているので逃げられないと」
アイツがそんな惨めな結末を選ぶか?
「……ただし抜け穴も存在します」
「抜け穴?」
「…………交渉前に代わりとなる魂を用意しておく」
「……成程。それでザームを」
納得。奴らしい。
そして悪魔にとってはエルフの王子の魂は極上に違いない。
「はい。この世界で交わされた契約はこの世界でのみ有効で、契約を無効にするには双方同意の上で契約を放棄するか、又はこの世界に顕現する際に得た身体を滅すかのどちらか」
魔族を討伐する理由は分かった。とはいえ俺の役割には変わりはなさそう。
「で、俺はどう戦えばいいんだ?」
「私には分かりません、がルーナ様曰く『山水様に任せておけば万事上手くいく』と」
なんだかな。せめてヒントくらいは寄越せって。
「ザームの実力は?」
「不敬になるやもしれませんがヤーム様とほぼ同レベル。普通の王族の実力かと」
と言われてもヤームの実力なんぞ知らぬわ。
「広域殲滅魔法とかは使えるんだよな?」
具体例を挙げる。
「そこまでの威力を出すのは王族でも無理です。姫様なら容易いでしょうが」
ってことはシーラはあの程度はやってのけると?
んんん? いやちょっと待て! 無理? いや奴は使ってたぞ?
また情報に齟齬が出た。
……まさかルーナの能力も?
確か雷明は他人の能力を奪うのに長けたスキルの持ち主であり初手さえ取れれば向かうところ敵なし。
……相変わらずの下衆め。
「ところで奴が何を願い出たのかは分かっているのか?」
「魔族から得た情報なら。ただ契約の内容は明かさないのが当たり前と聞いているので真偽の程は」
「構わない」
「〈絶望を与えたい〉と」
勝てないと分かった上で俺に一矢報いるつもりか?
「ん? ちょっと待て」
「?」
もしや逆なのでは?
「一つ確認しておきたい」
「はい?」
「……………………」
ふと思いついた「最悪の事態」を首を傾げるルーシアにぶつける。
「……分かりません。分かりませんが可能性はゼロでは無いかと」
それが起これば非常に不味い事態になってしまう。下手をしたら俺でも対処が不可能になる。
……多分こちらが本命。ってことはまだ諦めてないと。
「もう一つ。魔族の能力を聞いておきたい」
「名はパイモン。特徴的な服を着た小柄な女性の姿をした第二階位。かなり高位の魔族であるため魔法無効は勿論のこと状態異常への高耐性、さらには擬態を変化させたりと多芸。特徴は多くの部下を召喚する能力と高い知性も身に付けている点」
「いやそちらはいい」
俺が戦うわけではない。その辺りは実戦経験のあるシーラが総合的に考え、エステリーナ達に的確なアドバイスをしてくれる筈。
「それより固有能力とかがあれば知りたい」
不死の存在と関わるのだ。今後の為にも聞いておきたい。
「姫様が得た情報によると魅了や洗脳、更には呪術が得意な面が判明しています。また交渉事もかなり上手だと」
「成程」
つまり搦め手が得意だと。
魔法への抵抗値が低い俺には避けたい相手。
シーラがこのタイミングで俺に事情を話すのを許したのには訳がありそうだが、そのお陰で各々の思惑が見えてきた。
その結果、疑問が二つ残る。
一つは雷明が利する行為をシーラは何故したのか?
それとサリーはエステリーナすら知らない「最悪な事態」をどうやって知ったのか?
「最後にルーナについて」
「はい」
「王族とは意思疎通が取れると聞いたが方法は?」
「方法ですか? 基本的にはルーナ様からの呼び掛けに応じるという形で」
「こちらから呼び掛けたら?」
「…………」
返答しようと口を開くが言葉が出ず。
「ん? どうした?」
「昔は呼びかけにも応じて下さいましたが今は」
「今は?」
「…………封印されてからは応じていただけません」
こりゃ確定だな。
「今の話、何故シーラは黙っていたんだ?」
言う機会は幾らでもあった筈。
「……お察しください」
成程。理由は知らないが言わないのではなく言えないと。
多分だがヤームも含めた王族全員に呪いの類で規制が掛けられているのだろう。
パルミラル城で起きた事件。
これが事の始まり。
さて話がややこしくなってきた。
例えばシルヴィアを封じたのがシーラの本意でなかったのなら話はさらにややこしくなる。
そんな状況下で俺は今後どう行動し、誰をどのタイミングで斬れば良いか。俺が決めなければならないのだ。
……頼れそうなのはアイツだけか。
帰ったら相談してみるか。
雷明は実は善人だった、というオチはありません。ここまでの行動通りの私利私欲に染まった極悪人。念のために言っておきます。
ほぼ全ての情報が出そろいました。なので予告通り次話から事態を動かします。




