第46話 内緒話4
絶望のどん底から抜け出せない
「……手合わせ?」
「ああ。まだ一度もしていないよな?」
「そういえば……そうだな」
「どうする? 木刀で悪いが」
「……いいの?」
「遠慮しなくていい」
「ならやる!」
意見が合ったところで立ち上がる。
「さ、山水……様?」
「?」
困惑気味のシーラに呼び止められる。
「手合わせとは?」
「?」
「手合わせとは?」と聞かれても「手合わせ」としか言いようがない。
……お、そうか。単に習慣の違いなのか? いやそれだけではなさそうだが。
俺には魔力がどういうものなのか分からないが、エンリケを見た時がそうだったように相手の力量程度なら見分けがつくのと同じように、魔法を極めたシーラなら相手の魔力量を見抜けると思っている。なので俺には魔力が一切ないことも見抜いている筈。
そんな魔力無しの俺が「手合わせ」と言ったら、それは純粋に剣技を指す。
今回俺の相手となるのは俺と同じく常人の域を超えているエステリーナ。
達人同士の手合わせならば「寸止め」などの縛りも守られる。
片や呪文は「寸止め」が出来ない、というか一度放ったら何かに当たるまで止まらない。つまり相手が対処しなければ当たってしまう。
では防御系の魔法を事前もしくは都度かければ? とも思うが万が一、防御を抜かれ怪我を負えば「手合わせ」ではなくなる。
手合わせとはお互いの研鑽の結果を計り比べ、五体満足な状態で終えるもの。
シーラはその辺りの習慣の違いや剣士への知識不足から、良からぬ方向に想像が働いていると思われる。
それともう一つ。これは二人に共通している点。
「…………」
閉口したまま成り行きを見守るミランダ。
こちらはアラナート王国出身であり剣士同士の手合わせくらいは知っている筈。しかもエステリーナの性格も熟知している。つまり大怪我などは負わないと。
では何故、何も言ってこないのか?
その原因は多分俺にある。
シーラ以上に、俺またはエステリーナに何かをさせる前に、特に俺の機嫌を損ねる事態だけは避けたいという感情が有り有りと伝わってくる。だからこそ止めようとしない。
「大丈夫、あくまでも手合わせだ」
魔法やスキルは禁止。寸止め限定。獲物が相手に触れたら反則負け。
ハンデとしてエステリーナは身体強化魔法は使用可などを宣言しておく。
それともう一つ、保険も掛けておく。
「ルーシア、万が一の時は回復魔法を」
「承知しました山水様、いえ旦那様」
ここまでお膳立てしておけば手合わせと思うに違いない。
ガゼポに三人を残し、二人揃って橋を渡って広い裏庭の中央へ。
そこでエステリーナの獲物と同型の木刀を取り出し手渡す。
「身体強化魔法は初めから使っても?」
「いいぞ」
でなければ茶番と見抜かれてしまう。
5m程離れてから向き合う。
……綺麗な構えだ。
無駄な力が一切入っていない自然な構え。
あの夜とはまるで別人。
……これならいけそうだ、とその前に。
三人はガゼポから動いていない。他に見ている者は……一人だけ。
シーラは動揺しているからか、残りの「三人」も俺が気配を読んでいるのに気付いている様子はなし。
「いつでもいいぞ」
合図を出す。すると、
「では初手は私から!」
視界からエステリーナが文字通り消えた。
……早い。
が気配を消せていないからどこにいるかは丸分かり。さらに俺はその速度でも対応できる。
左後方に回り込み、そこから左手一本で突きを繰り出してきたので刀の峰で弾く。すると弾かれた剣の勢いをも利用しその場でクルっと一回転。剣の重量を感じさせない澱みない動きで勢いをつけると、片手のまま横薙ぎを放ってくる。
俺はそれを正面から受け止めると、強引に鍔迫り合いの態勢に。
開始からここまで約2秒。
「良い動きだ」
鍔迫り合いをしながら率直な感想を述べつつ、ジワジワと最適な位置に移動する。
「それはもしかして褒めているの?」
「勿論」
【侍】以外を相手にするのは初めてで正直やり辛い。さらに相手が経験豊富な高レベルの騎士ということもあり、頻繁に位置を入れ替えられたり先読みされたりと思い通りの位置に移動出来ない。
そのエステリーナは俺よりも長いリーチを生かしノビノビと剣を振っている。
……ストレス発散になれば良いが。
ギルドランク序列三位に上り詰めたエステリーナ。師であるエンリケを超えてからは、魔獣相手に研鑽を詰んだのだろう。
つまり対人を想定した模擬戦は久しぶり。格上相手はもっと久しぶり。それが遠慮の要らない相手とくればに、得も言えれぬ良い表情になるのも納得がいく。
「アハハ! では調子に乗らせてもらう!」
お互い二歩分下がり距離を取る。すると今度は目にも留まらぬ速さの連撃をしてきた。しかも一撃がとても重い。それを右からと思いきや左から。上段から切りつけた直後に下段からの突きと目まぐるしく変わる。一秒間に三手、多い時には四手。
それを五秒程凌ぐと再び姿を消し死角に回り込まれ絶好の位置が遠のくが、攻撃を捌きながら根気よく待ち続けると、やっと理想な位置に来たので、再度強引に鍔迫り合いに持ち込む。
……よし、ここなら俺の背後。三人からは俺達の顔は見えない。
「(リナ、手を抜かずにそのまま聞いてくれ)」
間近にいるエステリーナにだけ聞き取れる音量で話し掛ける。
「(なんだ?)」
「(伝えておきたいことがある)」
「(何を?)」
「(シルヴィアと連絡が取れない)」
それを聞いて僅かに目を細める。
今後は周りの目を気にせずに二人だけで内緒話をする機会は激減するだろう。
なので今の内に伝えておきたかった。
「(……いつから?)」
「(ここに来る途中)」
「(……それは本当……なんだろうな)」
「(ああ)」
思い当たる節があったのだろう。
そしてその反応で色々と確定した。エステリーナは俺と同じく巻き込まれているだけで、自らの運命も知らされていないと。
「(だがなんのために?)」
「(あの二人なら知っているだろうが)」「…………」
「(だからダンジョン内では充分気を付けてくれ。特に背後には気を配るように)」
背後とはそのままの意味ではない。
「(そうする)」
無事忠告を受け入れてくれた。
目論見を終えた後は締めくくるだけ。
なのでここで間合いをとる。
「では今度は俺からいくぞ」
「こい!」
侍の真髄を少しだけ見せようか。
お互い中段で構え動きを止めると暫しの沈黙。
そして……
「これで……勝負あり、だな」
「あ、ああ」
侍の特技の一つである「突き」に反応出来なかったエステリーナが、喉元数センチで止まる切先を見て負けを認めて手合わせ終了。
「動いたのは分かったが、反応できなかった」
見えたのか、マジか。
「気配を読む訓練でもするか?」
「読めるようになれば避けれる?」
「ああ」
覗き見しているサリーだけでなく、シーラも使えるのだから不可能ではない、と思う。
ここで右手に一縷の望みを託して差し出す。その手を見たエステリーナは僅かな間をおいてから握ってくれる。そこから二呼吸ほど置くと……俺の目を見ながら首を横に振った。
……やはり話せないか。となるとその都度訓練と称した内緒話をするしかないな。
シルヴィアの存在は皆知っているが、エステリーナがシルヴィアと話せることは俺以外は知らない。
そのメリットを生かそうと思っていたが、そう上手くはいかないようだ。
「今後も手合わせしようか?」
「ああ」
木刀を預かるとそのまま【収納】に入れる。そして三人が待つガゼポへ向かおうとしたところ、橋の手前でシーラが待っていた。
「あのーーもう終わりで?」
ここまで約10分。シーラには短く感じたらしい、というか見ていないのを逆手にとり、気配を消して近付いていたのか。
「ああ。気が済んだ」
あれなら炎竜相手でも互角に戦えるだろう。後は決定打となる何かがあれば。
「リナ」
「ん?」
「今回使用するリナの武具は持ってきた物を使うんだよな?」
問題は武器の方。数種類持ってきているが、そのいずれかで通じるのか?
「その」「いえ、こちらで用意してあります」
答えようとしたところシーラに遮られる。
「用意した?」
「はい。対魔族用に特化した武具をです」
通常は鉄をメインに他の鉱物を混ぜて作るのが一般的。だが今回用意したのはミスリルをメインに「オリハルコン」を混ぜて「鍛造」にて作り、さらに剣と防具のそれぞれに十種類近くの付与魔法を掛けておいたそうだ。
「前もって鍛冶師ギルドと付与術師ギルドに作らせておいたのです」
「成程」
前もってね。
口にはせずに心の中で呟く。
今の俺には魔族の知識もないしアドバイザーもいない。なので何が正解なのかが分からない。
それなら知識豊富なエステリーナに丸投げした方が良い。
「それとエステーリナ様、話は変わりますが一つお尋ねしても?」
「え? どうぞ」
突然名指しされ戸惑っている。
「先程エステリーナ様がお使いなられた【身体強化】ですが」
「ですが?」
「それ、魔法ではなくスキルなんですよ」
「「はい?」」
言っている意味が分からない。
「だーかーらージョブ由来のスキルなんですーー!」
長い耳をピクピクと動かしながら興奮気味に言うシーラであった。
こんな感じで「魔法講座編」へ。




