第45話 疑心暗鬼
1653時間やりこんだゲームのセーブデータが・・飛んだ。
課金記録以外のデータ復元は無理?ってことはいちからやり直せと?
( ̄д ̄)
*今話は「魔法講座編」の予定でしたが数話ほど延期します。
【服部半蔵】
確か元服名は服部半蔵保長だったか。
忍びとは本来、素性や名を明かさないのが当たり前、なのだが彼だけは隠す事なく堂々と明かしている。
その理由は彼のジョブ。
【忍び】と【侍】の二つのジョブを両立させていたのは日本、いや世界でも彼一人だけであり対人戦では無類の強さを発揮していたからだ。
忍びの強襲を防げるのは、同じ忍びか侍だけ。だが忍びの頂点に君臨している彼に敵う忍びはこの世に存在しない。
残るは侍となるが、厄介なことに半蔵自身も高レベルの侍であり、彼以上の力量を持っていないと勝てない。
俺がいた地は中央とは無縁の遠くはなれた小領の「田舎」だった。仕えていたお館様と縁がある守護殿も中央とは距離を置いていたため、伊賀の忍びと相対したのは守護殿の戦に駆り出された時の一度のみ。
今の俺なら無難に戦えるだろうが【居合い抜き】しか取り柄の無かった当時の俺ではもって数分。防戦一方で苦戦は免れなかっただろう。
そんな厄介な奴の名が称号に?
称号は確かルーナが与えていると聞いた。
そもそも忍びの存在を知っている俺と接触したとはいえ、日本人でもないサリーが【忍び】のジョブになれたのもおかしい。
だとしたらこれもルーナの企みなのか?
「で、スキルはどんな効果なんだ?」
「さあ?」
試そうとしたがかなりの精神力が必要らしく、発動出来なかったと。
確かに精神力値がカンストしている俺とは違い、サリーはまだ低レベルの発展途上なので致し方ない。
だがそれより、
「おいおいサリー」
効果が分からないのにこんな場所で使ったらヤバいだろうに。今後、試すなら誰もいないところでやること。
「りょうかい」
そっけなく答えた。
分かってるのか、こいつ?
「では今日は二刀流を覚えてもらう」
と【収納】から小太刀サイズの木刀を取り出す。
「利き腕は?」
「こっち」
右手を上げた。
「では今持っている木刀は右手に。これは左手で持つ」
渡すと違いに気付いたらしく目の前で「揃えて」みせた。
「かなり短い?」
「短いのには理由がある」
メリットとデメリット、さらに構え方を説明する。
「最大の利点は攻守の幅が増えるところ。デメリットとしては力負けしやすい」
「確かに押し込まれたら簡単に負けそう」
まさにそれ。相手の攻撃を受け止めるには適さない。
「だからこそ、初めに「いなし」を教えたんだ」
馬鹿正直に受けるのではなく相手の力を、刀だけでなく身体も使って「受け流した後」で、残る右手で制する。
「お前ならコツさえ掴めば上達する」
「……構え方は?」
「基本は」
左手の小太刀を相手に向け構え、右手の太刀は上段か下段。
「お前は下段が良いだろう」
背が低いサリーが上段に構えても効果が薄い。
鞘を取り出し太刀とは反対の右側にかけ、小太刀を一旦腰に収めさせる。
「あとコレも渡しておく」
「?」
手のひらサイズの苦無と手裏剣を数個渡す。これは昨日「一方的に」シルヴィアにお願いして作って貰った。
「牽制で使う投擲武器だが、工夫次第では忍術にも応用が効く」
使い道はサリー次第。
「この二刀流をもって刀の稽古は終了。明日以降は俺とひたすら実戦形式の稽古となる」
「望むところだ」
「はあはあはあはあ」
約10分。
あらゆる角度から斬りこんだ俺の木刀を片手だけで「いなす訓練」を繰り返す。
初めはゆっくり。慣れたら徐々に速度を上げ休む暇も与えず打ち込んだ結果、
「よし、及第点」
「よ、よっしゃーー!」
と万歳したが握力が無くなったらしく手から柄がするりと抜け落ちてしまう。
パチパチパチパチ。
複数の拍手の音。
「ここまで変わるものなのか」
「ええ」
「コレも山水の力か」
「埋もれていた才能を開花させるキッカケを山水様が与えたのかと」
稽古の途中からこっそり眺めていた二人だったが頃合いと判断したらしく、肩を並べルーシアを引き連れ姿を現した。
シーラの言う通り、この成長速度はサリーの才能と強い意志によるもの。
俺が教えたくらいで上達するなら喜んで国軍の指導を受けもつ。
「はあはあ。こ、これは団長とシーラ様」
慌てて取り繕い背筋を正す。
「まだ終わっていないのだから私達に挨拶は不要」
「は、はい」
「ですがもう朝食の時間では? そろそろ切り上げて汗を流されては?」
シーラの提案を聞いたサリーは俺を見る。
「今日はここまで。遠慮せず行って来い」
「うす」
と答えると今日は姿を消した。
「逃げ足は健在だな」
「磨きがかかってますね」
驚かないところを見るに二人共知ってたんだな。あれがスキルだと。
それよりシーラがサリーと接点があった方が意外に思えた。
因みに俺がスキルと確信を得たのは昨日の稽古の後、浴室に着くまでのサリーの気配を読んで。
「そうだ、忘れてた」
朝のスキンシップを忘れると機嫌が悪くなる。悪くなると宥めるのに苦労する。なので習慣となるように毎朝目を覚ましたら欠かさず行うようにしている。
歩み寄ると阿吽の呼吸でエステリーナが目を閉じて顎を上げる。そこに軽い口付けをする。
その行為を見ていたシーラは赤面しながら固まってしまう。
「シーラは?」
どうする? と名を呼んだところ、
「え? は、はい!」
同じく目を閉じてしまう。
こちらは身長差があるので俺が屈む。
「はぅ」
挨拶を済ました直後、後で控えていたルーシアが赤面しながら軽く悶えていた。
そんな二人を微笑ましい眼差しで見ていたエステリーナ。
「山水」
「ん?」
「サリーはどうだ?」
どうだ、とは?
「? 順調に強くなっているが?」
「それは見れば分かる。そうではなく普段と変わった様子はないか?」
「……いや特には」
質問の意図が読めず取り敢えず話を濁す。
「ならいい。それより朝食の後、少し付き合って欲しい」
「いいが?」
「話がしたい」
話? サリーが言っていた件かな?
「分かった」
前日のパルミラル王国の視察も「延期」になったし特にやることもない。王都の気配も変わらず長閑で不穏な気配もしない。なので何も聞かずに了承する。
朝食の後、両脇を妻二人に固められ、先日パーティが行われた裏庭の一画にあるガゼポへ。ここは池の中に建てられており密談をするにはもってこいの場所。
「ん? 叔母上?」
ミランダともう一人、ルーシアがいる。他に気配は無し。
「あらあら三人とも、仲が良さそうで羨ましいわ」
揶揄され両脇が俯く。
「では早速始めましょう」
と着座を促してくる。
直径1.5m程の幹から造られた一枚板の円形のテーブル。その周りに置かれた簡素な椅子に腰かける。
並び順は正面にミランダ、左にエステリーナ、右にシーラと対角線上に腰かける。
着座するとルーシアが見事な手際で飲み物を用意してくれた。
「ではこの場は私が仕切りますね」
両脇の二人に目配せをしながら言う。それに対し二人は何も言わない。
「では山水様。先ずはお礼を言わせて下さい」
「お礼?」
「はい。姪達のみならず生まれ育った祖国をも救って頂いたこと。そして終生を送ると誓った地の若き姪を娶ってくれたことに対して」
立ち上がり、俺に対して頭を下げた。
「特に礼を言われる程の事はしていないませんが」
「いえ、山水様でなければこの運命は変えられなかった、いえ変えられないのです」
「分かりました。一旦お座り下さい」
この手のやり取りは正直うんざりしている。
俺は頼まれたから手を貸したというより、自ら進んで顔を突っ込んだ。
その結果、たまたま良い方向で収まった、ただそれだけのこと。
もしどうしても礼がしたいのなら、雷明の居所を探す手伝いをして欲しい。
「ではお言葉に甘えて」
と腰を落とした。
「運命、と仰られましたが」
「はい、我々では抗えない運命です」
「?」
エステリーナを見ると事情を教えてくれた。
今回の件についてはあの晩、シーラから説明を受けたそうだ。その時にここまでの流れと、シーラを娶るまでは口外禁止を言い渡されたそうだ。
「しゃくだがな」
「…………」
少々憤慨気味のエステリーナ。
要約すると「パルミラル王国側」では事前にルーナからこの流れを教えられていたが、それをアラナート王国側には「敢えて」教えていなかった。
教えなかった理由はルーナの指示により。
余談だが先日の「式」の後からエステリーナは俺と同じくシーラから「様」を外して呼んでいる。
というのもナート家の一員である俺に嫁入りしたシーラは、名実ともにナート家の一員となった。
そのナート家だがエステリーナが家長であり、ナート家内での立場は最上位となる。
国内での爵位が最も高いのが侯爵であり無位無冠の「元王女」の肩書きより遥かに上。
なので非公式の場で「殿」だの「様」で呼ぶ必要がないのだが、エステリーナの本心はそれとは違う。
「何故止めた?」
「この結果にしたかったからでは」
「…………」
結果さえよければ過程は問わない?
「では今、仰られた「変えられない」とは?」
再度ミランダに視線を戻し問う。
「エステリーナとエルアノーム、この二人は「あのまま」であれば死ぬ運命にあった。今の山水様であればお分かりになられるかと」
「ええ」
「実はもう一人運命に抗えない姫がおりました」
「……もしや」
「はい、わたくしです」
ニコリとシーラが微笑む。
「ルーナ様は仰りました。『三人の若き姫が山水様と「縁」を結べば「滅びの運命」は回避できる』と」
「滅びの運命?」
「はい。三人の内、一人でも欠ければ世界が滅びます」
「滅ぶ? 一体何が?」
「ここからはわたくしが引き継ぎます」
とシーラが割り込む。
「では今回の事情を説明させていただきます」
「事情?」
「はい。その前にパルミラル王国に魔族が出現しているのはご存知で?」
魔族、つまり悪魔?
「そうなのか?」
「はい。かなり前に突然現れまして」
「どのくらい?」
「凡そ二十年程前。私が産まれてまもなくだそうです」
「そんな前から」
「はい。名は【パイモン】と言い」
「パイモン?」
「はい。変わった服を着た小柄な女性です。魔族一般の能力以外に魅了した相手を洗脳したり操ったりします」
「それは厄介だな」
特に魔力値ゼロの俺は耐魔法値は低いので注意が必要。
ただ洗脳や魅了といった、精神に作用を及ぼす効果がある魔法だけは、精神力値は高いお陰で掛かりにくいのが救い。
「彼女のお陰でこれまで幾人かの犠牲者が出ています」
「彼女? 女なのか?」
「容姿、出立ちは人族の女性そのもの」
「…………」
「そのパイモンですが最近はダンジョンの「ある場所」を根城にしています」
「ダンジョン? では先日ダンジョンに潜った時に?」
「はい。珍しく気配がしなかったので「確かめるチャンス」と思い行ったところを襲われまして」
「強いのか?」
「魔族の階位はご存知で?」
「知っている」
「現在のパイモンは第二階位相当と思われます」
「成程」
何が成程といえば、やっとサリーの話と繋がったから。
「それで?」
「ここで山水様にお願いがございます」
「……そのパイモンを討伐しろと?」
「いえ、それはエステリーナ様に。山水様には是非「本来の目的」を果たして頂きたく」
「雷明か?」
「はい」
「それは勿論だがその前に、リナ一人で成し遂げられるのか?」
「勿論!」
エステリーナが突然声を荒げる。
「…………」
「…………」
「……先日、ヤーム王からある話を聞かされた」
「どんな?」
「リナが……死ぬ、と」
「わ、私が⁈」
「「…………」」
慌てるエステリーナとは対照的に冷静な二人。
ある程度の確信を持って二人を見る。すると、
「エステリーナ様には私が同行します」
とシーラが真顔で言ってくる。
それに対して一言だけ、
「で?」
死の可能性があるとの前提で話をしているのだが?
「……エステリーナ様の身に万が一が起きた場合には、この命を持って償います」
ほう。そこまでの決意があると。
いやそれより今のやり取りでハッキリした事が一つ。
……リナはパイモン戦では死なない。
聞きたいことはまだあるが取り敢えずは話を進める。
「試すようなことを言ってすまなかった。リナだけでなくシーラも大切な家族。二人共失いたくはない」
「……はい」
「ではリナ」
「?」
「俺と手合わせをしてくれ」
「て、手合わせ?」
「今ここで。リナの実力を確かめる」
では皆様、良いお年を!




