第42話 驚天動地
現在身体ボロボロで絶不調の真っ只中。
確定した話は上げていきます。
チュンチュンチュン。
「……ん? 朝か」
小鳥の囀りで目を覚ます。
隣に目を向けるとエステリーナの安らかな寝顔が。
……今何時だ?
窓の隙間から差し込む光だけでは時間は分からない。体感では六時は過ぎていると思うが。
ここで恒例となった気配を探る。
……朝練に行くか。
変化が無かったのでそっと抜け出し、一人で素振りをしているサリーがいる裏庭に移動する。
「早いな」
「うす」
いつになく真剣に素振りをしている。
……「基本」は身に付いたしそろそろ頃合いか。
一歩で詰めれる間合いも、素の状態で倍になったし、太刀筋や目線も安定している。そこにジョブの補正とスキルが加われば、自分の身くらいは守れるだろう。
後は「見極め」をし、進む道を選ぶ。
「よし、そこまで」
「?」
振りかぶったところでピタリと動きを止めた。
城の中庭で初めて素振りをした時は、終わった途端にぶっ倒れてたが、今では息を切らすことなく最後まで続けられるようになった。
「今日は見極めを行う」
「……見極め?」
「ああ」
木刀を地面に置かせて忍び装束に着替えさせる。
「愛刀は鞘に収めた状態で腰に掛けて」
「う、うす」
準備が整ったら5m程距離を空けて向かい合う。
「これからやるのは鬼ごっこ。百数える間に俺の背に触れろ」
「背? 背中?」
「そう。手段は問わない。お前のタイミングで仕掛けてこい」
「…………」
「ごっこに刀は不要。手にするのは禁止。それ以外は何をしてもよし」
「卑怯な手段でも?」
「ああ。それと俺からは反撃しないしこの場から動かない」
「ホントに?」
「ああ、ハンデだと思えばいい。但し」
「?」
「それではまだ足りない。なので」
サリーに対し徐に右手を向ける。
「?」
「俺はこの場を動かない。代わりに手を使いお前を捉える」
「…………」
意味が通じたらしく、身体の動きだけでなく瞬きも止めた。
「知られたくないのなら背に触れるか避けろ」
今は(俺に知る手段がないが)脅しには使える。そのメリットを生かしサリーを追い込んでいく。
そう、サリーに対して初めての宣言。この宣言により俺の人物鑑定の能力と、サリーの特殊な能力の二つを公に認めたことになる。それが理解できたからこそ俺への明確な警戒心を露にした。これで容易に接近できなくなった筈。
「では開始……一つ」
合図と同時にサリーが消える。
……動揺がバレバレだ。
素早く身体を反転、サリーが向かっている後方に向き直ると目の前に現れる。
そして一瞬視線が重なるとそのままバックステップで俺から距離を取った。
「三つ。感情が駄々洩れだ。平常心を保て」
「う、うす!」
それを何度か繰り返すとだいぶ落ち着いたらしくマシになってくる。
「十九、忍法は使わないのか?」
さあここからが正念場。どうでる?
すると片手で素早く「印」を組むと一瞬で俺を中心に半径5m程の足元の土が泥沼と化した。
……そうきたか。
機動力を奪う発想は良いが「鬼ごっこ」に使うものじゃない。何故なら術者であるサリーも同じく動作が阻害され、動きが鈍くなってしまう。
自ら選択肢を狭めた結果、相手に次の手を読まれてしまうことになる。
案の定、上空から飛来してくる。
それに対し、サリーに向け悠然と片手を伸ばす。このまま突っ込めば問答無用で捕まえるぞと目と気で訴える。
……さてどんな選択をするか。
刀とは異なる間合い。お互いの呼吸音が聞こえるくらいの接近戦。
この直後の一手で「目指す道」が定まる。
そしてサリーが選んだ策は「逃げ」の一手。
ノーリアクションにて一瞬で姿を消した。
……自制し最善の一手を選んだ。これなら立派な【忍び】になれるだろう。それよりあの状況でも消えれるのか。訳分らんな。
ここで泥濘の地面が元の状態に戻った。
「はあはあはあはあ」
荒い声の主は勿論サリー。20m程離れた位置で、こちらに背を向け這いつくばっていた。
……急速な成長の代償か。
〈圧倒的な実力差〉からくる絶望感。
生か死か、そんな実戦を経験していない故の悩み。こればかりは避けては通れない、ある程度強くなれた者が突き当たる壁。
そんな壁を初回の稽古で見れたのは運が良い。
「今日はここまで。風呂にでも入って汗を流してこい」
「りょ、りょうかい」
冷や汗なのか、全身汗だく。だが俺を見る目に怯えはない。
精神が擦り減った状態で稽古を続けても効果は期待出来ないと早々に切り上げた。
サリーが風呂に向かうのを見届けた後、愛刀を取り出し一度だけ無心の【居合い抜き】を行う。
「……よし」
今朝は得るものが多かった。
客室に戻り寝ている妻に声を掛けたが昨晩の疲れからか、はたまた「藁のマットレス」で勝手が違っていたからか、起こすのに時間を要した。
起床後は着替えと身なりの整えを手伝ってから俺も正装とまでは言えない、それなりの服に着替える。
今日の予定は各所の表敬訪問と視察なのでその予定に合わせたものとなっている。
お互いをチェックし合ってから客室の扉を開けると、廊下を挟んだ向かいの部屋の扉をマリアンヌが閉めているところだった。
……ん? もう復活したのか。
「おはよう」
「え? あ、おはようございます」
「ああ、おはよう」
アイツは取り敢えず放置。先にマリアンヌに声を掛けると、振り返り慌てて頭を下げてくる。その挨拶を受けてエステリーナが返す。
形だけだが王族の一員となった俺は城の執事長さんから挨拶に関する作法を受けている。その中には挨拶の仕方も含まれており、例えば今のような上下関係がハッキリしている者が挨拶を行う場合、先ずは立場が下の者が挨拶をし、上となる者がそれに応えるようにと教えてもらった。
その方針は先日のミランダの出迎え時のやり取りからも分かるように王族でも変わらない。
なので本来であればエステリーナのように振舞うのが正解、なのだが親しい間柄でそんな堅苦しい作法を押し付けたりはしない。
「変わらず仲が宜しいようで安心しました」
言われお互いを見る。
昨晩のようにベタベタしてないよ?
「ちょっと心配してたんです」
「心配?」
「シーラ様の件でお二人が変わられてしまうかと」
風呂でのやり取りを気にかけてくれていたらしい。
「「そお?」」
「厚く固い絆で結ばれているお二人には要らぬ心配でしたね」
「「?」」
普段と変わりないと思うが?
「お気付きでない?」
「「何を?」」
「(この国の建築物はほぼ木造でアラナート城のような遮音は望めません。なので声の大きさにはご注意を)」
と小声で言われた。
「声? ……あっ」
固い絆の意味に気付いたエステリーナが赤面しながらワナワナと両手で顔を覆ってしまう。
確かに昨晩は遅くまで普段以上の声を上げていたが、窓はしっかり閉めていたので問題ないと思っていた。
「だ、大丈夫です! この離れの客室は本邸から距離がありますし、ここに滞在しているのはお二方と私の二組のみ。なので私以外に聞かれる心配はございません!」
慌てて繕う。
確かに石材で組まれたアラナート城とは違い、機密性は低いだろう。
因みにサリーらは従者用の相部屋に泊まっている。
「わわわわマリアンヌには聞こえていたのか!?」
「私のことはお気になさらず!」
「気にするなって気になるだろう!」
「男女の営みは恥ずかしいことではありません!」
それには同意。だがそれを生娘であるマリアンヌが言うのもどうかと。
「それにこれも宰相の仕事の内。どうかご理解を!」
「し、仕事⁈」
「はい! 王族の体調管理や心のケアは私達の担当です!」
そう言えばマカニーも似た様な事を言ってたっけ。というか仕事の内って。
大体、王族の情事を覗くってどうなの?
では城でも本人は……忙しいだろうから誰かがチェックしているのか? それはそれで嫌だな。
いやそれよりその仕事を当人達に教えたら不味いだろう。
……リナの精神衛生を考えれば、これからはいたす時には気配を探り、露骨な場合は(殺気で)気絶させるか。
任務を遂行している者達も責務であるなら仕方ないとはいえ、あまり良い気はしないだろう。ましてや実行しているのが未婚の生娘だったら刺激が強すぎる。
なので今度何らかの形で買収おこう。
「えーーと、おはようございます?」
ここでやっとサリーの登場。
「おはよう」
待たせてすまん、いや遠慮せずに顔を出せば良いものを。
「いいいいいつ来たんだ?」
「マリアンヌに挨拶をする直前だな」
俺は気付いていたので代わりに答えた。
それより気力が回復したのか、変わらず気配をさせずに現れるなコイツ。
シーラらエルフの王族が使う「転移魔法」かと思ったが、確か使うには莫大な魔力を消費すると聞いた。なので魔力量が少ないサリーには無理だろう。
残るはスキルとなるが【万感】を習得している俺ですら、どこにいるのか分からないというのはどうにも解せない。
そもそもそんなスキルは存在するのか?
あるなら俺も習得したいところだが「ユニークスキル」ならどう足掻こうが無理な話。
もしや別次元に移動している?
だがそれは「神の身技」であり「普通の人」であるサリーには天地がひっくり返ろうとも無理な話。それなら魔法と言われた方がしっくりくる。
「ででででではいいいい今の会話を?」
「……聞いてたよな?」
「うい」
『それが何か?』といった澄まし顔で返事をしている。
「うーーーー!」
どうどう。
「朝食の準備が整っていますが……食べられますか?」
サリーなりの気遣いか、サラッと話題を変えてくる。
さりげなく気配を読むと食堂でミランダが護衛の四人と和やかに雑談? していた。
「頂こう」
「はい」
待たせては申し訳ない。
マリアンヌも頷いている。
「うーーーー」
ホレ、恥ずかしがってないで行くぞ。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
「……えーと? いただきます、とは?」
この場で食卓についているのは俺、エステリーナ、マリアンヌ、サリー、護衛の四人とミランダの計九人。その内の八人が一斉に同じ動作と声を合わせたのを見たミランダが、不思議なものを見たとの表情で聞いてくる。
「これは以前、私がいた国の習慣でして」
いつの間にか広まっていた。
「……そう、神様だけでなく全ての生きとし生けるものに感謝をしていると」
「はい」
「それは良い考えだわ。なら私も」
と真似をした。
この手の話は宗教が絡んでくる。習慣も異なる世界では受け入れられないと思っていたが、今のところは拒否感を露わにする者には出会っていない。
「ミランダ様、ご報告が」
突然、門兵が慌てた様子で乱入してきた。
「食事中です」
「す、すいません。急ぎの報告です」
「続けて」
「今、王宮から伝令が参りまして、本日の予定は全て延期させてほしいと」
「まあまあ。それで理由は?」
「シーラ様が大怪我をされたとのことです」
「はぁ?」
珍しく場にそぐわない声をエステリーナがあげる。
「怪我?」
「帰られた時は全身血まみれで、陛下の顔を見られた直後に意識を失なわれたそうです」
「治療は?」
「既に治癒されたそうですが、魔力と体力の回復に専念したいと」
「…………」
話を聞き終えたミランダが苦渋の表情に変わる。
「ポーションの類は?」
「人を対象として作られているポーションでは焼け石に水。シーラ様の膨大な魔力を満たすにはそれこそ膨大な数がいる。それより大人しく安静にして回復に専念した方が早く済む」
「成程。全快するまでの時間は?」
「多分、人族よりも早いと思う」
確かエステリーナは一晩で回復したっけ。
「そう言えばダンジョンに赴いていたと言っていたな?」
「ああ」
「ってことは魔獣にやられたと?」
「それは……有り得ない」
「何故?」
「ここがパルミラル王国だから」
「?」
「精霊との親和性が高いエルフ族はこの地では最大限の恩恵を授かれる。中でも飛び抜けて高いのがシーラ様で、各属性の効果を高めたりと手助けをしてくれる。パルミラル王国にいる限りは最強だと思っていい」
「でもそれは魔法が通じる相手なら、だよな?」
確か本人が「魔法無効耐性」の相手とは相性は最悪とかなんとか言っていたような。
どうやら厄介なヤツと出会ったらしい。
「確かに。ただ……どうなんだろう?」
「ん?」
「叔母上ならご存知かも」
「……ならそちらは予定通りに?」
「若干遅れるとは思いますが、夕刻までにはこちらに参られるかと」
「ん? 何の話? 聞いてなかった」
「どうやらシーラ様の輿入れは予定通り本日行われるそうです」
すかさずサリーがフォローしてくれる。
「叔母上」
「はいはい」
「この国のダンジョンに魔法無効耐性の魔獣はいるの?」
「魔獣はいないけど……一体だけ」
「いない? 一体? ……まさか魔族?」
「そう。数年前からたまに出没し始めたらしいの」
「それはエルフにとっては厄介な」
「どう厄介なんだ?」
「魔物なら魔法は通るが魔族に魔法はほぼ効かない。大抵はレジストされる」
「剣は?」
「通じる、というか相手のレベル次第だが物理でダメージを与え倒すしか手段が無いと思っていい」
「因みにリナは戦ったことは?」
「一度だけ。冒険者として【帰らずのパラダイス】の地下二階を攻略中に偶然」
「どんなヤツだった?」
「見た目は普通の人で初めは驚いた。何でこんなところにいるんだと」
「それで?」
「目が合うと勝手に話し始めたんだが、どうやら「第三階位」らしく殆ど内容が理解出来なかった」
「第三階位?」
「魔族の階級で三階位は一番下になる」
「階級とは?」
「団長」
「何だ?」
「後の説明は引き継ぎますので、ミランダ様とマリアンヌ様と今日の予定を打ち合わせて下さい」
「分かった」
そう言って席を立ちミランダの所へ。
「では師匠、説明すっから場所移動」
「ここじゃマズイのか?」
「片付けの邪魔になる」
それは失礼。
「お前らも一緒に来る」
とサリーは護衛の四人も誘うと談話室へ移動した。
以前にも書きましたが、本作は「その時代=中世」の価値観(時代背景も)に合わせた表現になるように努めております。なので現代感覚での「ツッコミ」はなさらぬように。




