第41話 提案
すいません。前話の区切りが悪いので続きを投稿しておきます。
今話も会話多めです。
「…………」
口を開きかけたが言葉が出ない。というのも話の節々から「違和感」を感じていたので決断に至れなかった。
例えシルヴィアの友とはいえ、やっている事に符合性が感じられない上に、何をしたいのか目的もハッキリしていない状況下で、裏付けも取らずに返事をするには危険すぎるし、そのルーナの意向に沿って行動しているであろうエルフ族にもルーナとは「別の意図」を感じた。
なので是が非でも拒否したいところだが、話の節々から善意が感じられたため拒否するのも躊躇われた。
『後日改めて三人、いやシーラを含めた4人に聞き一人でも拒絶、又は今聞いた内容に差異があった時点で無条件白紙撤回』
と条件を付けた。
無条件。これでは納得せずに拒絶されるかと思ったところ「それで構わない」と二つ返事で引き下がってしまい肩透かしを食らう。
仕方なし。
自分から条件を口にし相手が受け入れた時点でこれ以上条件を重ねるのは誠意に欠ける。自ら逃げ道を塞いだのだから受け入れるしかない。
最終的に俺が折れ、提案を飲んだ。
「ありがとう。これで大義名分ができた」
「大義名分?」
「シーラが戻り次第、婚姻を発表する。明日、君の元へ送り出すのでエステリーナ姫同様に扱ってくれ」
「……む」
同様にって。
「同様の意味は……君なら分かるよね?」
「……ああ」
「ん? 気乗りのしない顔つきだね。親の僕が言うのもなんだけど、シーラはエルフ族の中でもずば抜けて美しいと思うのだが……好みじゃない?」
「い、いや綺麗だと思う」
「だよね。気立ても良いし、これといって悪い点が思いつかないんだが」
親バカか?
「……もしかして胸か? そういえば人族の男は女性の胸の大きさを気にすると聞いたことが。でも成長期を終えたシーラであれ以上は望めないし。いやでもエルアノーム陛下も同じなんだし胸ではないのか?」
一人でブツブツと呟きだす。
そうか、成長しないのか。
いやシルヴィアも普通だし、エステリーナがたまたま規格外なだけで、胸の大小なんてどうでもいい。
それより何でエルアノームのサイズを知っているんだ?
「もしやエルフなのに回復系魔法が使えないから?」
「それは本人も言っていたな」
「それにはちょっとした事情があってね」
「事情?」
「その事情を解消するためにも君には頑張って欲しい」
「…………」
「大丈夫。シーラとの子は、君の問題が片付いた後になる」
「それもルーナ様の?」
「ああ」
それも懸念材料の一つだった。先にアラナート王国の後継者を作っておかないと、枕を高くして眠れない。
俺的には妻に優劣をつけるつもりはないが実際にはエステリーナを中心に過ごすことになる。それにはやむを得ない事情があるので割り切るしかないが、彼女ならその辺りの調整を上手くしてくれると信じている。
そこにシーラが加わったとしても変わらないと思う……っと受け入れる方に気持ちが傾いていた。
「……仮にも一国の姫だろうに式はどうするんだ?」
「式は約半年後、合同で行う予定……」
「……合同?」
その文言だと半年は大丈夫?
「おっと口を滑らしてしまった。今のは無し、聞かなかったことにしてくれ」
「いや、しかと聞いた」
「仕方ない。では大変惜しいがエルフの秘宝をシーラに持たせるので受け取ってくれ」
と言いながら俺の肩に手を置くと、誘導するように視線を逸らす。
俺も釣られて同じ方を見ると、まるで申し合わせていたかと思えるタイミングでエステリーナが解放され、こちらに向かって来るのが目に入る。
再度、王を見ると「今宵は二人で楽しんでくれ」と笑顔で言い残して離れていく。
「酔ってる?」
「うん、少し飲み過ぎたかも」
どうやらトラウマは御婦人方によって解消されたらしく気分よく飲めたそうだ。
「来てよかった」
「そうか」
その後はミランダと合流。エステリーナを中心に他の参加者と気軽な雑談を熟し三時間程で閉会の時間を迎える。
そこで終始別行動をしていたマリアンヌがだいぶやつれた笑顔で合流。
皆に見送られながら会場を後にする。
そこから馬車まで今度は手を繋いで歩いた。
俺達四人は大使館に着くとそのまま風呂に直行する。
今回拵えた露天風呂だが、頑張れば10人程度は同時に入れる程度の広さ、つまり王城の露天風呂とほぼ同じ広さにした。
これにはいくつか理由がある。
先ずこの世界では、湯に浸かるのは貴族や金持ちの一部と限られている。その者達もお一人様用の浴槽を使うのが一般的で、二人で入るという発想自体が無いのと、混浴には根強い抵抗感を持つ倫理観の違い。
ただ同性に対してはその限りではないとサリーから聞かされていた。なので「案」を二つ用意してきた。
一つは「男女別」にそれぞれを造る案。もう一つは「入れ替え制」にする。
最終的な決定権を持つのは大使であるミランダ。彼女の意見を聞いたところ後者に決まった。
で今は客をもてなすという理由で「臨時の貸し切り」となっている。
初めは抵抗していたマリアンヌも回数を重ねるごとに慣れたのか、今ではエステリーナ同様に裸体を隠すことなく堂々としている。
そして心配していたミランダだが……流石は元人妻。心配するだけ無駄だった。
日本の習慣をすんなり受け入れただけでなく、気軽に俺の背中を洗ってくれた。
二人には先に湯に浸かってもらい、エステリーナの背を流し、最後に湯に浸かる。
「……という提案を受けたんだが、本当か?」
二人が聞いている中、エステリーナに問う。
「ああ」
躊躇う様子を見せずに返した。
「ではエルも了承していると?」
「それを私に教えてくれたのはシーラ様。なのでまだ直接は聞けていないが、エルから指示を受け動いていたマリアンヌがそう言っているので事実なのだろう」
「何か訳があって?」
「勿論」
「どんな理由で?」
「ごめん」
エステリーナとは【騎士と侍】だけでなく「男と女」の誓いも立てた、シルヴィアと同等に近い立場。なので虚偽や裏切り行為などは心配いらないが、その【誓約】のせいで縛り身動きが取れなくなる場合もある。
「山水様」
やり取りを黙って聞いていたミランダが、俺に対して小さく首を横に振って見せる。
「すまない。ただ理由が知りたかっただけで怒ってるんじゃないんだ」
「うん、分かってる。気にして無い」
「山水様。私は経緯は存じませんが、その……国家間の取引きだと割り切るのが良いかと」
マリアンヌは経緯は知らないと。
「取引きか。ではその取引きに俺だけでなくリナやエルへの配慮はされているのかな?」
「ええ勿論」
マリアンヌの代わりにミランダが答える。
「ではシルヴィアは?」
「…………」
知っているとの前提でミランダに問う。そこで真っ先に反応したのはマリアンヌで「ん?」と動きを止め視線を泳がす。その仕草に気付いたミランダが何かを言おうと口を開くが直ぐには声は出てこなかった。
「勿論」
代わりにエステリーナが答えた。というか本来この中ではエステリーナにしか答えられない問。
ここでどちらかが答えていたら更に問答を続けただろう。
まあシルヴィアの存在は置いといて、マリアンヌまでもが知っているのならエルアノームが承諾した点は真実なのだろう。
ならば残るシーラも承知の上で、ということになる。
「もう一度聞くがリナはそれで良いんだな?」
「ああ」
「そうか。なら俺からは言うことはない」
ルーナが言うように、シルヴィアならこの現状を受け入れてしまう、と思う。
「山水はシーラ様は嫌か?」
「エルに負けるまでは(シルヴィアとリナの)二人で充分だと思っていた」
「……そうか」
本心を聞いてか口元が綻んでいる。
「それはもういい」
「よくはない、がここは我慢して欲しい」
「我慢? いやもう割り切ったぞ」
シーラの件はもういい。なにせ自分から望んでくるのだ。その決意は尊重しないと。
……そういえばパルミラル王国がこちらに接触し始めた頃からシルヴィアの様子もおかしかった気がする。
残念ながらシルヴィアは「神の代弁者」で未来を予見する力は無いし、降りかかる災いに抗う力も無いし、その身の不幸にすら気付けない程のか弱い存在だった。
だが今ではフラグ程度は簡単にへし折れる「感性」は取り戻した。
俺とは比較にならない程に優秀な彼女は予感めいた「何か」を感じていたのかもしれない。
それを口にせず、あるがままの「流れ」に任せていた。そう思えば否定はしないと思う。
それよりも気がかりなのはミランダの方だ。マリアンヌやエルアノーム、さらにはエステリーナさえ知らない何かをしっている。
そんな予感がする。
……ミランダなら知っていそうだな。
「犠牲」とは?
俺にとって大切な者?
最後の一人は?
……いやミランダもアラナート王国出身。良いように利用されている可能性も。
頼れるのはサリーだが、この国家間レベルの交渉に助言などしてくれるとは思えない。エステリーナも賛同している事案に口を挟むようなことはしないだろう。
……そのサリーも気掛かりだな。
「そうか。では割り切りついでになるが、早急にやって貰いたいことがある」
「何を?」
「なるだけ早いうちにエルと同じことをシーラ様にもして欲しい」
「同じ? ……って抱けと?」
「そう。ヤーム陛下とリーア妃、そして私やエルだけでなくシーラ様を含めた全員の総意だ」
「…………」
「好みじゃない? 難しい?」
「…………」
「なら私が手伝おうか?」
答え難い質問に黙っていたらとんでもない提案をしてきた。
「どうしてそこまでして拘るんだ?」
口を揃えたように皆『手を出せ』と。
「最低でも私と同じ条件にしておきたい」
「同じ? ……そうか」
そっちが目的か。ならシーラは誰かに狙われていると?
「成程。なら結婚しなくても」
「それじゃダメだろう」
「何故?」
「皆が納得しない、というよりその発想はシーラ様だけでなくパルミラル王国に対して失礼ではないか?」
「ごもっとも」
一国の姫、いやミランダの前でする発言ではなかった。
平民同士なら兎も角、王女に手を付けるのなら正式に娶る。ましてや異種族婚姻への条件が厳しい国の王族同士の婚姻であり、法を定める立場の者が法を破るわけにはいかない。
「抱くんだから潔く責任を取れ」
「はい」
王に返事をする前に外堀は埋められていた訳だ。
「ん? そうだ、パルミラル王国の後継者はどうなるんだ?」
「そこまでは知らない」
マリアンヌも首を横に振っている。
「そこは叔母上に聞いてくれ」
とエステリーナの隣で俺達のやり取りを聞いていたミランダに視線を向ける。
「実はね、いるのよ一人」
予感は的中した。
「実子? それとも親族?」
「夫妻の子」
「それは私も知らなかった」
「私もです」
エステリーナだけでなくマリアンヌまでもが驚いている。
「フフフ」
遠くの星空? を見上げながら静かに笑っている。
「な、ならこれで懸念は払拭されたな」
エステリーナが何故だか動揺していた。
「そう言えばシーラ様は何処に?」
ミランダに聞く。
「貴方達と別れた翌日に『急ぎ確かめたいモノがある』と言って、一人で出掛けられたそうよ」
確かめたいこと?
「行き先は?」
「この国のダンジョン」
「「「ダンジョン?」」」
「そうダンジョン」
何をしに行ったのだろう?
では次回は来年になります。




