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第40話 隠し事1

今話も会話が多いです。

 暗い夜道を進むこと十数分。大使館所有の馬車が突然止まった。


「はい、着きましたよ」


 対面に座っているミランダが外を見て言う。


 ……何とか持ち堪えた。


 現在は良く見れば何とか周囲が見渡せる程度の夜の帳が下りたばかりの18時過ぎ。馬車の中は魔道具(ランタン)が吊るされているので明るいが、そのせいで外は真っ暗に見える。


 外から執事長さんが静かに扉を開け、外へ出るように一礼をする。

 開けられた扉側にいるのは俺とマリアンヌなのでどちらかが出ないと奥の二人が出れない。ならば俺からと腰を上げかけようとしたところでマリアンヌが率先して外に出た。

 次に俺が馬車備え付けの階段を下りるとミランダが腰を上げる。

 そのミランダだがマリアンヌとは違いドレスを着ている。足元が見えずに階段を踏み外して怪我でもしたら大変と思い左手を差し出す。


「あらあらまあまあ」


 執事長さんのアドバイス通りにすると上機嫌に右手を添え降りてくれた。

 最後にエステリーナが扉の前に。だがそこで止まりると不安そうに外の様子を窺い始めた。


「……リナ」

「ん?」

「大丈夫、今の自分に自信を持て。どうしても不安な時は俺を見ろ」


「……うん。分かった」


 普段との落差が大きすぎる。昔、嫌な体験でもしたのか、余程のトラウマを抱えているようだ。

 そういえば今まで褒めても必ず一度は否定していた。これは謙遜とか初心だとかからくるモノだと思っていたが、もしかしたら他に原因があるのかもしれない。何せ同じ姉妹であるエルアノームにはそういった側面は一切見られない。


 ……マカニー絡み? いや前の夫か?


 その考えに至ると、()()()()()()()()が一気に冷める。邪念が無くなったことにより余裕を持った笑みになれた。


 その笑みを見たエステリーナは一呼吸、間を置いてから俺と同じ笑顔にしてから俺の左手を握ってくる。

 その右手を握り返すと「姫」と呼ぶに相応しい仕草で階段を下り、そのまま俺の左腕に手を絡めてきた。


 ……ま、また苦行が。


 至福の感触で再び邪念が芽生え始める。


「お待ちしておりました」


 声をした方を見る。

 周囲は暗闇、とはいえ門の前には明かりが「浮いている」ので、そこそこ明るかった。

 橋の前には数人の男女が横並びで列を作っており、その列の前にいた一人の衛兵がミランダに声を掛けてくる。


「この者が会場までご案内いたします」


 言われて淡い灰色の長衣を着た一人の女が一歩進み出る。


 今の我々は招待された客。なので案内人を付けてくれるらしい。

 本来であれば「挨拶」の時も案内役を付けると思うが「勝手知ったるミランダ」がいたから付けなかったのかも。いやもしかしたらミランダの方から断っていたのかもしれない。


 因みに先程から「苦行」とか「邪念」などと言っているが、その原因となっているのは我妻。

 屋敷の玄関を出てからここまで、エステリーナは俺の腕から一度も手を離してくれない、というか乗り降りする時を除き密着状態が続いている。普段から腕を絡めてくることはあったが今回は異なり完全な密着状態となっている。

 見たら分かるように今のこの容姿は素っ裸の方がマシに思えるほどの破壊力がある。そこに「相反する感情」も加わった。そこに抱きつかれたらどんな「賢者」でも即落ちしてしまうだろう。

 だが何とか理性を保ち、踏み止まれていられたのは正面に座っていた二人の「微笑ましい光景を見る眼差し」のお陰。

 その二人が居なければ間違いなく押し倒していただろう。


 そして無事到着。でやっとの思いで解放されたと思ったところに苦行の再開。

 しかも今度は歩き。横揺れから微妙な上下運動に変わったことで一気にピンチに。


 ……これも精神鍛錬と思って。


 いやもう無理だ……と諦めかけた丁度その時に薄暗い橋を抜け対岸に足を踏み入れる。

 その途端、周囲がパッと明るくなった。

 見れば通路や中庭、更に巨大な城の回りに無数と思える数の「光の球体」が周囲を舞いながら辺りを照らしていた。


「す、凄い!」


 マリアンヌが感嘆の声を上げる。

 印象としては爆光のホタルが飛び回っているように見える。


「光の精霊がお二人方を祝福しているのでしょう」


 その声に案内人が答える。

 どうやらパルミラル王国の「仕掛け」では無いらしい。


 その光景を見ながら建物の中へ。中は魔法による灯り? でかなり明るい。

 今、歩いている通路は謁見の際に通過したところとは異なっており、アラナート城の様な石材メインの造りではなく、意匠を凝らした木材を使った廊下。

 軋み音すらしないがその造りにどこか懐かしさを感じたせいでさらに気が紛れた。


 たっぷり15分近くかけて案内された先は城の入口から見れば反対側の中層。その一画にあるかなりの広さを有するオープンテラス。


 オープンテラス、つまりここには屋根がない。屋根がないということは天井もない。そして「精霊の祝福」は終わっていたようで薄暗い。

 その代わり、という訳ではないのだろうが会場の中心には傘のように広がったそこそこ大きな木が、丸くくり抜かれた床板の隙間から伸びており、その幹や枝に光源が吊るされていた。

 とはいえ通って来た廊下と比べれば、会場内が何とか見渡せる程度の明るさでしかないが、屋外での夜会と思えば逆に趣がある。

 そして会場には数多くの円卓。椅子は端や壁際に並べられていることから今晩は立食形式になるらしい。


「リナ、そろそろ切り替えないと」

「う、うん。ごめん、いやすまなかった」


 腕は絡めたまま至福の元を離し普段の表情へ。

 俺達の前にいた二人はエステリーナの雰囲気の変化を感じ取ったらしく、役目を終えたとばかりに左右に分かれ、主賓である俺達に道を譲る。


「お、主賓の到着だ。皆、集まってくれ」


 歓談していた王がこちらに気付いて近寄って来る。すると散らばって者達もぞろぞろと集まってきた。

 大抵こういう場では一番の上位者は最後に姿を現すものと思い込んでいた俺は「約束の時間には遅れてないよな」と一瞬思う。ただ正確な時間を計れる時計なんぞ存在しないし、アラナート王国のような時刻を知らせる鐘の音もここに来てから一度も聞いていない。

 なので気にしなくていいのかもしれないなどと思っていたら、俺の腕を解放したエステリーナが「挨拶に行くぞ」と小声で付いてくるように言った。


「この度はお招き頂き感謝しております」


 王の前で止まるとエステリーナが挨拶。四人揃って頭を下げる。


「何を言われる。こうして穏やかな日々を過ごせていれるのはアラナート王国のお陰。感謝しているのは我々の方だよ」


 というと俺達を囲っている皆が一斉に頭を下げる。


「さあ堅苦しい挨拶をサッサと済ませてしまおうか」


 と王が皆の前で俺とエステリーナを紹介する。二人揃って会釈をすると周りから祝福の拍手が巻き起こる。

 その後は王とミランダの付き添いでパルミラル王国の官民問わずの主要な人物と、歓談を交えた面通しを終えやっと解放された。


 王とミランダも離れて二人だけとなる。

 先ずは飲み物と飲み物専用カウンターに行き、係の者からグラスに注がれた金色に透き通った酒を受け取り乾杯。


「飲みやすい」

「ワインだな」


 二人して一気飲み、というかグラスが小さいので三口程度で飲み干せる。


「そういえばアレはあるのかな?」

「アレ? あーー桃か」


 係りの者に聞くと「残念ですが」と謝られた。

 シーラが言っていたことは本当のようで、皆に振舞えるほどの量が確保できていないそうだ。

 それなら仕方ないと他のお酒を試飲。気に入ったモノの銘柄を聞いておく。

 酒の次は腹を満たすため円卓に目を向けると誰もいない卓があったのでそこに向かう。


「まだ手を付けていない?」

「しかも一通り揃っている?」


 周りを見るとそれぞれの卓にはそれなりの数がおり、用意されていた料理もそれなりに減っていた。


「いいのか?」


 何か特別な卓なのかも?


「いやいいんだ。これは私達用に用意されたモノだ。その証拠に周りを見てみろ」


 何かに気付いたエステリーナに言われて軽く首を振る。

 すると明白(あからさま)でない程度に、視線や体をこちらに向けないといった気遣いを感じ取る。


「成程」


 と呟くと口の前に料理が刺さったフォークが待ち構えていた。


「あーーん」


 言われ反射的に口を開けたところ口の中に。もぐもぐ。


「……美味い」

「どれどれ」


 とエステリーナも口へ運ぶ。


「確かに」

「アレは何だろう?」

「野菜?」


 気になったので小皿を取ろうとしたところ、エステリーナに止められる。

 何故? と聞いたところ「今日は私が食べさせるんだ」と言われた。

 なので二人揃って同じ料理を食べていく。


「お飲み物はいかがでしょう?」


 二人で楽しく食欲を満たしたところで声を掛けられた。

 見れば先程飲み物のカウンターにいた係りの者でグラスが乗ったトレイ片手にこちらを見ていた。


「丁度良かった。リナは……」


 聞こうと振り向いたところ、エステリーナの脇には王妃がおり、なにやら話し込んでいた。


「ちょ、ちょっとお待ちを」

「いいから〜あちらで馴れ初めを聞かせて〜」

「え、え?」

「山水君、少しの間、奥さん借りるわね~」


 そのまま女性陣が待ち構える輪に連行されていった。


「君にはこの酒がいいんじゃないのかな?」


 声の主はグラスではなく陶器製の椀と手に取ると俺の前に。


「……この透き通った酒は?」

「芋から造ったお酒です」


 係りの者が答える。


「確か焼酎と言ったかな?」

「流石は陛下、正解です」


 焼酎。聞いたことがある。確か南蛮から伝わり京都(室町殿の都)で広まりつつあると。

 その椀を受け取ると係りの者が離れ俺と王の二人だけとなる。


「という訳で山水殿、少し私と話をしないか?」


 段取りが良いこと。


「ええ、構いません。私もお伺いしたいことがありましたので」


 俺にとっても都合が良い。なので断る理由がない。


「……聞きたいこと? もしやシーラのことかい?」

「はい。王女殿下は今どこに?」

「シーラは所用があるとかで明日帰って来る」

「……そうですか」


 あるとか。つまり理由は知らないと。


「急ぎ知りたいことがあるのなら明日、そちらに行かせるけど?」

「…………」


 出来れば余人に気付かれずに二人だけで話がしたかったが。


「難しい顔をしているね。僕が知っている範囲であれば答えよう。ただし【お告げ】の内容だけは話せないが」

「…………」


 この言い方をどうとらえたらよいのか。


「そうか、やはり()()()()。では話せる範囲で助言をしておこう。君は程なく大切なものを()()()()()()。それにより人生に絶望してしまうだろう」

「……失う?」

「だがその悲しみを()()()()()()()()()()()()()が待っている。だから決して諦めずに」

「ま、待ってくれ! 失うって?」

「……ああ。エステリーナ姫と【神の巫女】であらせられるシルヴィア様だ」

「…………」

「大丈夫。()()()間違わなければ()()()()()()()()

「間違った場合は?」

「五人、いやこの世界全ての命が失われる」

「……では後の一人は?」

「君にとって大切な人だ」

「…………」


 この言い方だと……エルアノーム?


「……ご忠告、感謝します」

「忠告か、まあ我々も今では心の整理もついているしそれでもいい。ただし今この場で話したことは誰にも言ってはならない。特にエステリーナ姫には」

「承知、する前に一つお伺いしたい。シルヴィアの存在は誰からお聞きに?」

「ここで黙したり嘘はつきたくないので正直に言おう、ルーナ様だ。ついでに素性や目的もね」


 チッ、おしゃべりな精霊め。シルヴィアだけでなく、俺の素性まで話したのか。

 更に不快な予言まで残しやがって。


「という訳でシーラを嫁に」

「どうしてそうなる?」

「いやね、これは()()()()()()()()()()()()()()()


 俺達の為?


「申し訳ないが俺の一存では」

「残念だがこれに関しては君自身で決めなければならない」

「? 俺が?」

「そう」


 瞬きせずに俺の目を見てくる。その目には強い意志が感じられた。


「今ここで返事を聞かせて欲しい」

「い、今?」

「そう今。手遅れになってからでは意味がない」

「…………」

「納得いくなら今すぐ戦っても」


「いくつか聞いておきたいのだが」


「お? 話し合いを選んだ。ではどうぞ」

「仮にその話を受けても俺はアラナート王国を離れる気はない。つまりシーラ様はアラナート王国に来ていただくことになるが」

「嫁として送り出すんだ。構わない」

「そちらの跡取りはどうするんだ? 聞いたところだとシーラ様しか」 


 パルミラル王国には何のメリットもないように思える。何せこの国で王位継承権を持っているのはただの一人。その一人を他国の嫁がせる。全く意味が分からない提案。


「後継者なら大丈夫。既に決まっている」


 決まっている? 亡くなった王子の他にも公表していない子がいるのか? それとも妃の腹に新たな生命が?


「他に質問は?」

「そもそもシーラ様の意思は? 事情は知らないが義務だの誰彼の為に、ポッとでの多種族の男のところに嫁げと言われたら可哀そうではないかと」

「そこも問題ない」

「へ?」

「君はアラナート城でシーラと会ったよね」

「ええ」

「その時に『一目惚れした』と言っていたよ」


 マジか。


 あの時は立場が立場なだけに、揶揄われたと思うことにしていた。だがあの「好意の気」は間違いとかではなかったと?

 だが初めて会うこんな三十半ばの冴えないおっさんに一目惚れするものか?

 エステリーナは事情が事情なだけに理解できるしその妹もまた然りだが、それは同族だからで、肉体的に自分の親よりも老けており、さらに確実に先立つ奴に興味を持つのか?


「そして先日、救援に向かい暫く其方らと同行した際に『山水殿と触れ合い、迷いがなくなった』そうだ」

「あの程度で?」


 大した会話も交わしていないし触れてすらいない。……少なくとも俺からは。


「念の為に言っておくけど外交とか王族とかの義務ではない。私も妻もそしてシーラも、実際にこの目で確かめた上で君に提案している」


「……はあ。だがその話を受けるには、せめて全員の承諾を」

「実は既に得ている」

「……へ?」

「二人は既に承諾済みだ」

「…………」

「先ずエルアノーム陛下だが条件を一つ付けられただけで快諾して下さった」


 エルアノームが……承諾した?


「いつ?」

「君が我が子と面通しをする前に話したそうだ。本来なら私が出向き直接陛下とお会いして決めるものだがそうもいかない。なので今回は僕の代理としてシーラを送り、かの英雄であるエンリケ将軍に立会人になってもらった」


 あの時か、ってことは騙された?

 いやこちらは知らないし、知らないのだから聞いてもいない。そしてあの場で話した内容で履行されていないのはエルアノームの婚姻後の件だけ。つまりアイツは何一つ嘘は言っていない。


「陛下が出された条件は〈事を公にする前にシーラ本人が姉に「事情を告げる」〉だった。なので姫には我が国に入った後に説明したそうだ」


 あの晩か?

 しかし解せない。あの姉っ子であるエルアノームが許可した理由とは?


「ならリナは婚姻を認めている?」

「エルアノーム陛下の条件は「告げろ」で「了承したら」ではなかった。なので説明を終えた時点で条件はクリアしたことになるよね」

「確かに」

「姫が納得してくれたかどうかまでは分からない。ただ受け入れてもらえれば彼女自身にそれ相応の利益、いや幸運がもたらされる。それを知った上で受け入れてくれたんだと思う」

「幸運?」

「幸運については()()()()()()()()

「何故?」

「悪いね」

「…………」


 話す気はなさそう。


「最後に巫女様だけど『君が望むなら拒否はしない』と仰られていた」

「仰られていた? シルヴィアと話せるのか?」

「いいや、話せない。あくまでもルーナ様がそう言っていた。多分ルーナ様のご見解だと思う」

「…………」


「それともう一つ。巫女様と交わされた約束事だが」

「約束まで言ったのか?」

「ああ、三人までと」


 ごく最近のことまで話していたのか。

 そう既に新たな上限である三人に達している。なのでシーラを嫁にしたらまた約束を破ることになる。


「なら」

「うん、大丈夫。そこは気にしなくていい」

「どうして?」

「言えない」


 だんだんと腹が立ってくる。何に対してかと言えばやりたい放題感がする妖精に。


「望む結果が得られるかは君次第。今の僕から言える事は少ないが一つだけ。僕も妻も、我が子らと同じくらいに「君達」の将来を案じている。疑念が生じてしまうのは仕方ないが、この想いだけは信じて欲しい」


 最後だけは父親の表情? で締めくくった。



「では返答を聞かせてくれ」



では書き溜めをするため、暫くお休みとなります。

年明けには再開できるかと。


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