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第30話 越境1

うん、このペースなら二章は30万字内で収まりそう。

 【帰らずのパラダイス】とは異なる、どこか懐かしさを感じさせる手入れの行き届いた明るい森。その森を突っ切るようにどこまでも真っ直ぐ続く整備された土の道。


 静かな空間、長閑に流れる雲。

 そこをカイエンを先頭に触れるか触れないといった間隔で四頭が続く。

 その後ろを一馬身程度の間を空けて馬車でついて行く。


「何故ここまで密集しながら進むんだ?」


 まるで襲撃を恐れているかの如く。

 御者をしているサリーに聞いてみる。


「この森を守っている精霊は「悪戯好き」な性格で」

「……で?」

「ルーナ様に趣味と能力を買われ、ここの管理を任されている」


 ? 趣味は悪戯? 管理とは?


「越境を試みる者の選別」


 ①悪意を持って越境を試みる者は100%入り口に戻される。

 ②ルーナ様を信仰の対象にしていない者は「越境の目的次第」で入り口に戻される。

 ③最後に「その日の気分」により入り口にすら戻されずに彷徨い続ける、こともあるらしい。

 最後にどちらの国から入っても条件は変わらない、つまり差別はしないとのこと。


 ただし道を逸れ森に立ち入った者は問答無用で①と見なされ、複数人なら否応なしに引き離し、森に棲んでいる肉食獣を使って追い込んで、徹底的に心を折ってから入口に戻すと容赦無いらしい。


「その精霊は心が読めるのか?」

「多分?」


 疑問形? まあ精霊の存在を感じとれるのはエルフ族だけ。さらに対話が可能なのは一握りしかいないそうだし分からんよな。


「それと1と2は分かるが3の気分って」

「ルーナ様公認だからしょうがない。再挑戦は許されている」

「問題はそこじゃない」


 精霊に気に入れられなければ森の中を永遠に彷徨い続けることになる。


「……斬っていいか?」


 今の俺に斬れぬモノはない、はず。

 明確な基準があるなら仕方ないが気まぐれ? で決めているってなら、俺には納得いかない。


「ダメ」「ダメです」


 マリアンヌにまで反対されてしまう。

 ここは両国のどちらにも所属していないルーナが管理している領域。つまりルーナが「法」であると。


「ルーナ様の怒りに触れたら行き来は出来なくなる」


 苦労せずに通れる唯一の場所だから駄目だと。嫌なら他の道を進め。


 〈アレでも一応は大精霊ですから〉


 ……アレでもって。


「リナは?」

「団長とアタイは一度、ここを通っている」

「つまり顔見知りだから惑わされることはない?」

「二人だけなら」


 今回は初顔がいるから。


()側は?」

「リスクが大きすぎます」


 どうやら海にも魔獣が出るらしく、海岸からある程度離れると襲ってくるらしい。さらに海の魔獣は陸とは比べ物にならないくらいに数も多く巨大化しているので人では対処のしようがないそうだ。

 なのでこの世界では大型船を造るノウハウはないし、海岸線から1km未満の安全な範囲での漁しか行われていないと教えてくれた。


 因みにマリアンヌ姉妹は俺がこの国に来てまだ間もない事、さらに来た理由についても軽くだが明かしてある。

 なので事ある度に知識や助言を与えてくれる。


「……そういえば南に港があるって言ってたよな?」


 サリーに視線を向ける。


「アレをご存じなので?」


 マリアンヌが反応。


「あると聞いただけだが」

「そうでしたか」


 アレ?


「確かに港ですが漁港ではありません」


 ん?


「なら廃港に?」

「いえ、()()()「国軍」が駐留し監視に当たっています」

「? 魔獣を?」


「師匠、水中にいる魔獣は陸には上がらないし、陸の魔獣も水の中には入らない」


 海には魔獣がいるが岸には近付かない。でその魔獣のせいで遠洋には出れないといった不文律があるそうだ。


 では何を監視しているんだ?


「人です」


 人?


「「そろそろ」」


 二人の言葉が被り口が止まるが、サリーは続けて話す。


「そろそろおしゃべりはお終い」


 サリーの声色が変わる。いつの間にか前方から霧が迫っており、丁度先頭を進むカイエンが、続いて二列目三列目、最後に馬車が覆われた。

 その霧と共に周囲が暗くなり気温も下がり始める。


「ヒッ!」


 マリアンヌから動揺の声が漏れる。同じく前を進む四人も動揺していたが騎士としての誇りか、はたまたエステリーナに無様な姿を見せたくないのか、声には出さずに堪えている。


「お前はここを通ったことがあるのか?」

「うい」


 エステリーナ同様、サリーも落ち着いている。

 などと思っていたら先行している五人の姿が完全に見えなくなった。


「な、何も起きないんですよね?」


 動揺しているマリアンヌ。サリーの肩に手を回して身を寄せている。


「問題ないっす」


 若干離されたが五人は纏まって進んでいる。


 ──ん?


 この森に入ってから初めて感じる「人」の気配。


 〈山水様!〉


 そこにシルヴィアの声が。

 直感に従い気配を読むため目を閉じ集中する。

 白と黒の暗転する世界。その先にいたのは……




 ──……見つけた。


 ()()、とは言わない。




 一応、周囲に人の気配は無いのを確認してから、


「サリー、俺に構わず先に行け」


 と声を掛ける。


「へ、にゃぁ?」


 ()()()を見たサリーが奇妙な声を上げた。


「二人共、リナを任せたぞ」

「え? な、なに?」

「し、師匠何処へ?」


「奴を見つけた。この機を逃したくない」


 ここで片を付けれれば言う事無しだがそう上手くはいかないだろう。


「終わったら追いかけるから先に進め」


 と言い残し馬車から飛び降りると、奴に向け敢えて殺気を()()()()()()()()から森の中へ。


 ──この気配は間違いない、奴だ!


 容姿は全く違う。「人族」ですらない。だが中の「気」は奴其の者。


 〈この動きは……まだ気付かれてい?〉


 変わらず10km程離れたところを馬車と並走するように馬で移動しており、距離を半分詰めた今でも動きが変わらない。


 ──俺の動きを察知できていないのか? もしや想像以上に……


 今の奴は弱体化(ハンデ)している。だからこそそのハンデを何かしらの手段で補っていると思っていたが。


 ならどうやって馬車の動きを把握しているんだ? 魔法か?


 ──ワナ……の可能性は。


 〈自らを囮にして?〉


 今もサリーやエステリーナの周囲には何の気配も感じられない。


 ──なら悪戯好きの精霊が独断で。


 〈それはあり得ません〉


 ないらしい。


 ──では()()()()()


 〈精霊と同じ。パルミラル王国はルーナの恩恵が無いと作物は育たない地。精霊もこの世界で最上位の存在であるルーナの意向には逆らえません〉


 ──ならルーナか?


 〈ルーナは私の事情を知っている筈。だから私の意に背くことはしない筈〉


 珍しく断言していない、というか「精霊」と「神の巫女」である二者はそこそこの関係がありそうな気がしてきた。


 ──大丈夫。俺はお前を信じている。


 〈…………〉


 仮にルーナが雷明と通じていたとしても、動けぬシルヴィアに責はない。責が無いならこれ以上のやり取りは無意味。

 それに例え裏があっても終わりは目前。奴の首を刎ねれば全てが片付く。


 そう思った途端、妙な違和感と同時に前方で何かがキラリと光ったので、咄嗟に刀を抜き振り抜く。


 キン!


 俺の眉間目掛けて飛んできたそれは氷柱のような氷の塊。


 〈氷系魔法による攻撃かと。さらに次が来ます〉


 今度は上空を含めた前面が広範囲にキラキラと光る。


「なっ!」


 十や百ではきかない数。その全てが俺目指して飛んでくる。これでは最速で刀を振っても全ては捌ききれない。なので、


 ──【破岩斬(ストーンクラッシュ)】!


 地を巻き上げ壁を作ってやり過ごす。

 直後、衝突時の音と振動で壁だけでなく大気が震える。


 ──奴は?


 その間に気配を探ると約500m先に「馬の気配」が。


 ──いない? いやいた!


 水平方向ではなく45度上に。


「と、飛べるのか?」


 ジャンプではない、浮遊しながら高速でコチラに向かってくる。


「ちっ!」


 壁がなくても霧のせいで姿は見えない。ならばと気配頼りで壁越しに牽制のつもりで斬撃を飛ばす。

 初撃で壁に開いた穴をニ撃目三撃目が擦り抜け奴に向かっていく。

 その間に移動を開始。奴の側面に回り込むように右側から迂回していく。


 案の定、当たらなかったのか奴は健在。進む向きがコチラに変わる。

 そこに移動しながら立て続けて斬撃を飛ばす……が手応えなし。


 ──当たってないのか?


 〈詳細不明です〉


 ──音速よりも速い斬撃を躱わせるのか? それは不味いな。


 見えているなら俺でも躱わせる。3m内ならどんな速さで迫ろうと【居合い抜き】で叩き落とせる。

 だが(当然だが)見えなければ躱わせないし、手数を超えたら捌ききれない。


 などと思案していたら奴がいる方向が赤く染まる。


 〈今度は炎系の広範囲殲滅魔法がきます〉


「効果は?」


 〈中心から半径100m内に灼熱の炎が満遍なく降り注ぎます〉


「ダァーーーー鬱陶しい!」


「圧」を込めた【居合い抜き】を二回放つ。

 一つは奴に、もう一つは森に向けて。

 今回は線ではなく5m程の面を伴う斬撃で、大抵のモノは触れた途端に蒸発する程の圧を持たせた。

 なのですぐさま斬撃によって出来た「退避路」に移動を始める。


 だがここで奴とは異なる方向、かなり離れた場所に()()()()()()()()()()()が突如現れる。


 ──な、なんだこれは!


 人にしては俺並みに規格外! しかも以前どこかで、と思った直後、後方から閃光爆音、さらには爆風が押し寄せそれどころではなくなってしまう。


 ──や、奴は?


 今はこちらが優先。なので気配を探る。


 ……いない? 当たったのか?


 かなりの広範囲を探ったが何処にも見つからない。


 ──当たった感触は……無かったよな?


 〈ですが感知範囲にはおりません〉


 ──倒した?


 〈それなら山水様が「召喚」される筈〉


 ならば奴はまだ生きている。ってことは逃げた?


「……あの力」


 奴自身に魔法を操る力は無い筈。


 〈何処かで手に入れたのかも〉


「可能なのか? いやすまない」


 動揺しているのか無意味な質問をしてしまったことを謝罪をする。


 しかし厄介な事態になった。

 空は飛べる、転移は出来るのではいつ何時襲われるか分かったものではない。つまりそれは安易にこの地を離れられなくなったことを意味する。


 ……せめてエステリーナやエルアノームだけでも。


 悪魔のささやきが脳裏を横切る。


 いやそれは却下だ。

 彼女らが愛する者やこの地を守り通さなければ意味がない。


 頭を振り邪念を振り払うと決意を新たにした。


明日は忙しいので日曜日に投稿します。

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