第25話 国軍の将
元宰相の処分が決まりました。
「サリーには今回の視察の趣旨は伝えてあります。続きは彼女からお聞きください」
「分かった」
「あ、一つだけ。サリー以外に各騎士団から1名ずつ選別し護衛として連れていくこと」
「何故? 我々に護衛が必要か?」
エステリーナの言わんとするところは理解できる。
「お姉様、これは王命です」
お? 強気のエルアノームは凛々しく見える。
「分かった。こちらで人選していいんだな?」
「はい。団長と副団長以外であれば誰でも構いません」
ここで会話が一旦途切れる。
すると二人のやり取りを黙って聞いていた将軍がエルアノームに向き直る。
その動きに気付いた姉妹が将軍に目を向けた。
「では陛下とエステリーナ様。マカニーが何をしでかしたのか、お聞かせ願えますか」
意識して和やかな表情にしているのだろうが、声に感情が乗っているので多少威圧気味に聞こえてしまう。
「私はお姉様から聞かされた内容しか」
そんな威圧など気にする素振りも見せずに姉に振る。
「私は状況証拠と山水から聞いた内容を照らし合わせて判断した」
「では山水殿」
皆の視線が俺に集まる。
「尋問で聞き出した話なら出来るが」
とエステリーナに視線を向けると「任せる」と軽く頷いて見せる。
なので「俺はこの国に来たばかりで事情などは知らない」と前置きを言ってから、時系列に沿って私見を交えずに淡々と話していく。
「なるほど。王、にか。宰相で満足していれば良かったものを欲を出しおって。それで処罰はいかがなさるおつもりで?」
「とりあえずは王族籍の抹消と宰相の辞職。そこまでは決めました」
「当然ですな。他は?」
「伯爵位へ降格した後に家督を息子に譲らせ引退」
「成程。ヤツ自身への罰は?」
「正直、どうすべきか迷っています」
と言いながらエステリーナに視線を向ける。するとエステリーナも難しい表情をしていた。
「では他の者への見せしめにしましょう」
「見せしめ?」
「我ら古株は父君から直々に姫と陛下の行く末を見守るように仰せつかっておりましたが、奴はその願いを踏みにじりおった」
声に怒気を感じる。
「陛下、そしてエステリーナ様、いえ殿下。どうかワシに断罪のご許可を」
二人に対して頭を下げる。
その姿を見たエルアノームは横目で姉を見る。
「……本来ならば国王暗殺は成否に拘らず一族郎党斬首刑。だが……」
エステリーナがポツリと呟く。
「この国がここまで栄えたのは彼の功績が大きい」
「ではこうしましょう」
とパンと手を叩いた王が提案したのは、
①家督を継ぐ長男を除き「未婚の全ての息子」に男爵位を与える。
②男爵位を得た子の領地は元公爵領を分割したものを与え、それぞれ家名を変えて独立させる。尚領地はマカニー伯爵が決める。
③未婚の娘はナート侯爵の養子とする。ただし侯爵位の継承は認めないのと、婚姻する場合には侯爵の許可が必要。
④マカニー本人の身柄は長男預かりとし、生涯領地から出してはならない。
の三つ。
①と②は降爵により最大の特権であった、国に治める税の優遇処置がなくなり他の貴族らと同率となる。この国は他国に比べて税率は低いとはいえ彼らにとっては大幅な増税となる。
元々侯爵領は特権の代償として、与えられていた領地や人口も他領に比べて多いとは言えなかった。そこに子が分離独立、新たに家を興せばどうなるか?
まあ高望みさえしなければ慎まやかな生活は可能だろう。
③をどう捉えるかは本人次第だが俺は「人質」と解釈した。ここで注意しとかなければならないのは婚姻に関して。(仮に)エステリーナが許可を出さずに亡くなった場合は生涯結婚は出来ないし、未婚の状態で子を生んでも戸籍上は実子とは見なされないと、この点だけは誰がどう見ても違え様がない。それ結婚を希望する場合、嫁として相手の家に嫁ぐことが条件となるだろう。何故なら婿をとるのはエルアノームが絶対に許さないからだ。因みに娘は二人いる。
④を提起した理由は主に二つ。一つは処刑はしない代わりに行動の自由は認めないという、エステリーナの意向を汲んだ王の温情。もう一つは子ら(主に家を継ぐ長男)の憤慨を親に向けさせるため。さらに王家に逆恨みした場合の家取り潰しの口実を残しておく。こちらは自ら「王家の盾」となることを選んだ将軍の意を汲んで。
──僅かな時間でこれを思いつくのか。
〈大したものです〉
この提案に対し、将軍は暫く思考を巡らせた後に口を開いた。
「陛下はお命を、そして姫は……。お二人はその処分でご納得を?」
問われた二人は顔を見合わせる。
数度の瞬きの後、二人同時に俺に視線を向けると混ざりっ気のない笑みを浮かべながら返事をする。
「ああ」「はい」
清々しい返事。
「……なるほど。お二方ともご立派になられましたな」
将軍はしみじみと考え深く呟く。
「もう老体の出る幕はなさそうですな」
フッと笑みを浮かべると一旦目を瞑る。
次に目を開けると俺に向き直った。
「山水殿、一つお聞きしたい」
「何か?」
「貴殿がこの地に来られた目的は?」
「約束を果たすため」
「約束を果たした後は?」
「この国で骨を埋めることにした」
「…………」
ここで俺の目を瞬きせずに見つめる将軍。
「……お二人を任せする」
「ああ、任せてくれ」
返事をすると将軍は満足そうに頷いてからエルアノームに向き直る。
「陛下、そして姫。マカニー家への対応はワシがやります」
「えーーと、お姉様?」
「本来なら貴族の対応は騎士団の仕事だが」
「いえ、今回はワシが適任」
「ふむ」
悩むエステリーナ。
〈エステリーナ様が言われた通り、この国では王から貴族への重要事項を伝えるのは騎士団員の仕事〉
──それを国軍の将が肩代わりをする。これは意味合いが大きく変わるな。
〈はい〉
──それにしても……コイツ結構強いな。
〈ええ。エステリーナ様ほどではありませんが、各団長よりかはずっと〉
「お姉様」
「ん?」
「将軍の申し出、受けましょう」
「だが」
「ではエンリケ、貴方に任せます。いつ向かいますか?」
「準備が整い次第」
「分かりました。それまでは自宅で待機。準備が整い次第、使いを出します。僅かではありますが夫人と息子と過ごして下さい」
「……感謝を」
と言いながら時間をかけた一礼をした。
「……将軍」
頭を上げたところでエステリーナが声をかける。
「何か?」
「一つ、頼まれてはくれないか?」
「なんなりと」
返事を聞くと将軍に歩み寄り、何やら小声で話し出す。
そのやり取りをエルアノームは和やかな表情で見守る。
「なるほど。お任せ下され」
「騎士を何人か出させるので使ってくれ」
「奴に成り変わり感謝を」
と再度姉妹に一礼をしてから退室していった。
扉が閉まってからエルアノームとエステリーナの二人を交互に見る。
「「?」」
俺の視線に気付いた二人。
「いやなに、姉妹なのに性格がだいぶ違うな、とな」
直ぐに考え込む姉に即断の妹。面白いくらいにとんとん拍子で話が纏まった。
「なんかバカにされてるような気がするーー」
ひな壇を降りて俺の前へ。
「そうじゃない。感心してるんだって」
「どうだか」
可愛い膨れっ面。
「まあまあ」
困り顔のエステリーナ。
「ではお二人は旅の準備に取り掛かって下さい。私は面倒ですが元侯爵の処理に取り掛かります」
「分かった」
とその場で両腕を拘束され、両手に花の状態で謁見の間を後にした。
何気にフラグが立った?
将軍は二章の中盤で再登場の予定です。




