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第21話 幕間(2)

多忙な中、追加・修正の繰り返しで遅くなりました。


今話でサリーとのデートは終了です。

 

 城から北方向へ歩くこと1時間。王都を囲う防壁の東門が近い場所。


「着いた」

「ここは?」

「冒険者ギルド。端的に言えば「金と気分次第で何でも請け負う命知らずの民間組合さん」です」


 周りの建物の数倍の大きさの建物には大きな出入口が3つ。内、横幅が広くとられた中央と右側の入り口は扉らしきものは見当たらなかった。


「今日はこっち」


 と唯一扉がついている左の入り口に向きを変えると、入り口の上には【各種ご依頼・新規登録】との案内板が視界に入る。

 その扉をサリーが開けると……


「いらっしゃいませ」


 正面にはカウンターがあり、そこに制服? を着た女性がこちらに向け頭を下げていた。


「当ギルドのご利用は初めてでしょうか?」


 俺の前にいるサリーに聞いてきた。


「いいえ」

「ではご依頼でしょうか? それとも冒険者登録で?」

「ご依頼です」

「ではあちらの窓口にてお伺いいたします」


 と流れるような所作で左後方を指さした先には壁で5つほどに仕切られた、扉のないこじんまりとした空間の奥にカウンターがあり、それぞれに案内してくれた職員と同じ制服を着た人が座っていた。

 その一つにサリーが向かうのでついてゆく。


「いらっしゃいませ。ご依頼で宜しいでしょうか?」


 カウンターの奥で座ったまま頭を下げる女性職員。


「はい、こちらの御方がある物を探しておられまして」


 と先導していたサリーが答えながら、対面の椅子に俺を座らせてから自分のスカートのポケットに手を突っ込む。

 そこから取り出したのは鎖が付いた、大きさ5cm程の「王家の紋章」が刻まれた丸い純金製のプレート。それをカウンターにそっと置くと俺の斜め後ろで椅子に腰かけた。

 因みに紋章だが、中央で交差する3本の剣を麦が囲っているというデザイン。


「え? こ、これって?」


 そのプレートを見た職員の態度が一変。驚いた表情で俺を凝視しだした。


「あーーーー! 貴方様はエステリーナ様の!」

「うぉほん!」

「うぇ? あ、すいません!」


 サリーの咳払いで我に返る受付嬢。


「仕事しようねーー」

「すすすすすいません!」


 で冷静になった職員は手続きの準備に入る。

 その間にサリーがギルドの仕組みの説明をしてくれた。


 冒険者ギルドは「依頼者」「ギルド(仲介者)」「請け負人」の三者で成り立っており、

 ①依頼者は金銭を支払い要望を出す。

 ②ギルドが依頼内容に応じた仲介料を差し引いて冒険者に仕事を発注。

 ③冒険者は依頼の達成により報酬を受け取る。

 といったシステム。他に冒険者が集めた貴重な素材をギルドが買い取ったりもしているそうだ。


「なので師匠が欲しいものをこの場で列挙すべし」


 職員が上下で一枚となっている依頼表とペンを差し出してくる。

 依頼表の上段は、


 ①「ギルド処理欄」「依頼No」「クエスト種別」

 ②「依頼者氏名・住所・連絡先」

 ③「依頼日」「請負締切日」

 ④「対象目的品名」

 ⑤「依頼料」「仲介料」「報酬額又は報酬品」


 で下段は、


 ⑥「依頼No」「請負締切日」

 ⑦「参加資格ランク」

 ⑧「報酬」

 ④「採取目的品名・量」

 ⑨「備考」


 となっており、②④⑨を記入して欲しいと言われた。


「⑨は?」

「請け負う冒険者に分かるように特徴や外観などを書いてもらえれば」


 今回は群生地(発見した場所)の調査だけでなく採取も伴うので、取り扱う際の注意も書いて欲しいと。その内容が濃ければ濃い程、満足のいく結果が得られやすいと。

 取り敢えず【井草】の絵を書き込む。


「じょ……上手ですね」


 水墨画風に描いたら褒められた。


「今度わたくしの肖像画を描いて」

「やだ」


 なんでサリー(お前)を描かなきゃらなんのだ?


「他にもあるんだが」

「は、はいお待ちを」


 とカウンターに依頼表の束をドンと置いた。


「稲……モチ米……ソバ……大根……梅……胡麻……ゴボウ」


 一つ一つサリーに聞きながら、彼女の記憶に無いモノを書き込んでいく。


「ゴボウ? 木の根っこ? 食べれるの?」

「食べれないモノを探してどうするんだ?」


 唯一「大豆」を書いていた時に「似たものならある」と言われたので一旦取り下げた。

 この国は良い意味で農業大国。豆の種類も多いので先ずは試食してからでも遅くないと。

 これには同意。確かに大豆に関しては類似品でも構わないし、俺が欲する大豆は加工が前提となるので、形は気にしない。

 そして稲が無ければ煮るか焼くか()くしかなく、他の食材と扱いには大差がないのだ。


 一通り書き終えるとサリーと交代。依頼料等の交渉に移った。


「では王家からの正式な依頼で処理しておきます。ご報告は城へ?」

「もしくは第一騎士団詰所で」


「ん?」


 気になったのでサリーに聞いたところ「騎士以外にも所属している者はいる」とのことで、今でも準騎士を始め事務や後方支援に従事している者が数十人働いていると。


「今後はどうなるんだ?」

「団長は再建するつもりです」


 他の騎士団から引き抜く?


「それはないです」

「何故?」


 騎士団員になる条件は3つ。

 ①各団長が得意としている属性である魔法が使えること。

 ②剣が扱える。

 ③王に忠誠を誓える者。


 入団は随時受け付けているが、お眼鏡に適った者は中々現れないとのこと。

 これは人口が少ない故の悩みだそうだ。


「因みに第一騎士団は「雷系魔法」が使えるのが条件」


 例外は回復系が得意な騎士。

 こちらは数が少ないので均等に割り振っているとのこと。


「それ以外の属性は?」


 戦闘に使えそうな者は各騎士団長の采配で入団を決めているらしい。

 他の騎士団も同様にそれぞれの団に特色があるため、入れない場合は王立大学所属の魔術師になるか国軍に入るか、又は自立するか冒険者になるかは本人の意思次第とのこと。


「冒険者か」

「師匠も登録しとく?」

「なれるのか?」

「もちのろん」


 と席を立つと隣の「登録窓口」へ。


「いらっしゃいませ。冒険者登録で宜しいでしょうか?」


 営業スマイルが似合う女性職員。


「はい、このお方が」


 と再度プレートを差し出すと先程と似たようなリアクションをされる。


「しし失礼しました! で、ではこちらにお名前のご記入を!」


 と登録用紙を渡される。


「名前は……山水、と」

「あ、師匠」

「ん?」

「山水の後の苗字の欄に【ナート】と記入して」

「……マジで?」

「決定事項で手続き済」


「…………」


 王との話し合いは済んでるのか? それともエステリーナの独断か? それにナートが付くということは王族入り?


「眉間にシワを寄せて……嫌なんですか?」

「嫌というわけでは」

「では何が気に入らないので?」

「…………」

「師匠」

「ん?」

「師匠は団長が「欲しい」んですよね?」

「ああ」

「なら今は疑わずに受け入れて下さい」

「……分かった。で住所は?」

「アラナート城で良いですよ」

「…………」


 住所なんて知らないので言われた通り「アラナート城」と書いておく。


「ジョブは【侍】と」


「侍、ですか? 初めてお聞きしますね」


 物珍しそうに俺の容姿を眺める職員。

 そういえばここの職員は俺の小袖(服装)を気にしている素振りは見られない。


「では書類を確認させていただきます。お名前は……さんすい・なーと? あれこの名前、どこかで見た……ような?」

「「?」」

「思い出せない。取り敢えず先に実力を計っちゃいます」


 とカウンターの下から魔法陣が描かれた正方形の銅板を取り出し俺の前に置く。


「これは現在の基礎ステータスを計測する魔法陣です。これを使って適正ランクを決めます。ではその魔法陣に触れて下さい」

「こうか?」


 言われた通りに触れてみる。

 すると魔法陣(銅板)が金色に輝きだした。


「……え?」

「「?」」


 戸惑う職員。


「し、失礼しましたって思い出したーーーー! ちょちょちょっとお待ちください!」


 と立ち上がると後方にある書類棚を漁り始めた。


「……あっあったーー! これだ!」


 何があったの?


 そのまま事務所の裏に消えてしまう。

 待たされること約3分。扉が突然開かれると他の女性職員を引き連れ戻って来た。


「はあはあ」

「落ち着こうねー」

「す、すいません!」


 澄まし顔のサリーに言われ、誤ってからスーハ―スーハと深呼吸。

 その間に新たに来た職員が俺に声を掛けてきた。


「ファイヤードラゴンを討伐なされたそうで」


 何故それを?

 聞くと俺の前に1枚の紙を置いた。


「これをご覧下さい」

「……討伐証明書?」

「はい。今朝王家から届いたものです」


 見ると「ファイヤードラゴンの単独討伐をアラナート王家が保証する」と言った内容であった。しかも文と署名(サイン)が同じ筆跡からみるに、エステリーナ本人が書いたものと思われる。


「しかも素材もお持ちと書かれてありますが?」

「うん、持っている」

「可能でしたらランク決めの前に確認したいのですが、ご頂けますか?」

「構わない」


 リナが公表しているのなら拒絶はしない。


「今、出そうか?」

「……もしや(アイテムボックス)スキルを?」

「ああ」


 頭の回りが早いな。


「何を見せればいい?」

「そうですね……では(キバ)辺りを」

「承知」


 とカウンターに手を翳して炎竜のキバを一つ取り出す。


 ドン!


 女性職員の二の腕ほどの太さの尖ったキバが一つ現れる。


「せ、先輩、この大きさ……これどうみても本……物……」

「…………」


 固まる二人。


「貴方、交渉部門長を呼んできて!」

「は、はいーーーー!」


 とまたまた走って出ていく。


「【鑑定】が出来る者を呼びに行かせました。少々お時間を下さい」

「どうぞ」


 キバをまじまじと眺める先輩職員。


「…………もしやこれ以外にも?」


 流石に気付くか。

 まあ要望に気軽に応えた時点で察しはつくか。


「ああ。血も含めて余さず持ってきた」

「え? 血まで?」


 絶句する。どうやら予想の遥か上を行ったらしい。

 そういえばエステリーナも最初は容量がどうとかで驚いていたっけ。


 と今度はガタイの良い男を連れてきた。


「ファイヤードラゴン(の素材)が出たって?」

「これよ」


 と間近まで顔を寄せジロジロ見始める。


「あ、紹介が遅れました。わたくしは依頼・登録部門の責任者である「アレイン」です。それとこの男は素材買取部門の責任者の「ゴードン」です。以後お見知りおきを」

「こちらこそ」


 二人してペコリと頭を下げる。


「早速だが【鑑定】してもいいか?」


 俺に、ではなくアレインに尋ねている。


「山水様。【鑑定】をするにはこの者が素材を手で触れることになりますが、宜しいでしょうか?」

「どうぞ」


「んじゃさっそく!」


 と言うとごっつい手でキバを遠慮なく持ち上げる。暫くすると持っている手のひらが光り出した。


「その光は?」

「鑑定を見るのは始めてで?」

「ああ」

「今使用しているのは【接触鑑定】で残留魔力量を計っております」

「残存魔力?」

「はい。種族ごとの保有魔力総量の基本値は遺骸が消滅するまでは変わらないんです。それは消滅するまでの間に採取した素材も同じ」

「へーー」

「その特性を利用したのが【接触鑑定】で、流した魔力と残された魔力量が一致すると対象物の正体が思い浮かぶそうです」

「スキル、だよな」

「はい」


「…………マジもんだ。ファイヤードラゴンで……間違いねえ」


 驚愕の表情で驚いている。


「確認が取れました。では準備を」

「は、はい!」


 またまた事務所の裏へ駆けていく。


「なあアンタ!」


 ゴードンがキバをそっと置いてから俺に詰め寄って来る。


「ん?」

「他にも持ってるのか?」


 炎龍? ああ、ほぼ全身。


「よっしゃ! いつでもいいから買取窓口に来てくれ! 今くらいの時間なら空いてるからじっくり査定が出来る!」


 えーーと、これ売れるの?


「売れる売れる!」


 ん-ーどうしよう? とサリーを見ると小さく頷いていた。


「分かった。その内に寄る」

「運搬に人手がいるなら言ってくれ!」

「では後の手続きは先程の職員がおこないますのでその場で少々お待ち下さい」


 とゴードンは笑顔で手を振りながら、アレインは会釈をしてから引き揚げた。

 残されたキバをそのままにしておいても仕方ないので取り敢えず再収納。


「はあはあはあはあ」


 と同時に職員が戻って来た。


「で、では手続きを進めます。こちらが認識票でギルドを利用する際には必要になるので無くさないように」


 木製のトレーの上には小冊子と、紐に括られた純白の認識票(プレート)が乗せられていた。

 それを手に取り眺める。


「これは?」


 と何の金属かは知らないが、俺の刀の派文と似たような、一切濁りのない色のプレートに俺の名前が刻んである。


「はい。山水様の適正、功績。これらを吟味した結果【特等級】となりました」


 特等級って?


「冒険者のランクです」


 と等級の説明が始まった。

 等級は1~5まであり、最階位は5等級。最上位は1等級と実力や功績によって変動するとのこと。


「ではこれは?」


 今の説明には出てこなかった特等級。


「今まで該当者がいなかったんです」


 特等級になれる条件は二つ。

 ①1等級であり「二か国以上の推薦」を受けた者。

 ②天災級個体を「単独討伐」した者。

 どちらかの条件をクリアしていればなれるとのこと。


 現在、最上級の1等級の冒険者はこの大陸に5人いるが、そのいずれの者も単独での天災級魔獣の討伐は不可能とのこと。特にドラゴン族は高難関で1等級冒険者が最低でも3人は必要らしい。

 なので②の条件は事実上、形骸化。①にしても推薦を受けるにはその国から(ギルドを通して)依頼された国難級クエストを「完遂」するのが前提となるなど条件が非常に厳しい。


「師匠」

「どうした?」

「団長の認識票は金色の1等級です」

「登録していたのか?」

「はい。王になる前に」

「そういえば『この大陸でなんとか』と言っていた気が」

「団長は1等級の序列3位なんですよ」


 へーー、リナよりも強い奴がいるのか。そういえばアイツが剣を振るっているところを見ていないな。一回手合わせをしてみるか。


「こっちは?」

「ギルドの規約や活動の仕方等が記載されいます。大抵の事は書かれておりますので活動を始める前に必ずお読み下さい。他にご質問は?」

「今はない」

「それではご幸運を」


 小冊子と認識票を収納してから窓口を後にした。


「で先程の件だが」

「買取りの件?」

「ああ」


 サリー曰く、()()()()はギルドに売るのは最後にした方が良いとのこと。


「何故だ?」

「レア度が高い魔獣ほど、素材の利用価値が高いんだな」


 今や世界有数の(資産)を持つ王家の後ろ盾がある俺は売却で金を得るよりも、金では手に入らない希少な品に(素材を)変えた方が利口なのだとか。


「希少な魔獣の場合、外皮やキバ、さらに骨などは鍛治師ギルドや占星術師ギルド。内臓系は錬金術師ギルドや呪術師ギルドに相談すべし」


 他には農業系や酪農系のギルド、王立研究所なのに役立つ素材もあるらしいので、手に入れたら先ずは自分かエステリーナに一声掛けてくれと。


「覚えておく」


 ただいつまでもエステリーナに「おんぶに抱っこ」の状態は避けたいし、気にせず自由に使える金も欲しい。


「なら早めに狩りに行く?」

「そうだな。サリーも一緒に行くか?」


 勝手も分からないので助言が欲しい。


「デートに誘うなら相手が違うでしょ?」

「……リナ?」

「そう。手筈は整えてやるしフォローもする。今まで苦労されてきたエステリーナ様の労いも兼ねて1週間くらい遊んできやがれ」

「分かった」


「それより師匠?」

「ん?」

「私、お腹空きました」


 唐突だな、おい。


「師匠も空きましたよね?」

「そうか? 俺はまだ」


 身体が日本にいたころの食事のタイミングを覚えているようであまり腹は空いていない。


「空きましたよね?」


 俺の腕を引っ張ると抱え込み薄い胸にグリグリと押し付けてくる。


「奢るから〜〜」


 下なのに上から目線だな、おい。


 というわけで王都一の繁華街エリアへ。

 昨日の無人に近い状況に比べたらかなりの人出。しかも陽気な雰囲気。

 そして何故かすれ違う人が皆、コチラを見て笑顔で会釈していくではないか。


「? 気のせいか皆、俺に頭下げてないか?」

「気のせい。気にしない」

「いやいや気になるだろ!」


 サリーにではなく、俺に。

 確か昨日は屋台と宿屋の親父を除いて住民とは会っていないし、今日も城に来るまでほとんど見かけないほど閉散としていた。

 なので俺を知っている者は皆無な筈なのだが皆、微笑ましい笑みを向けている。

 考えられるのは俺の容姿。ただ服装や黒髪等が原因なら笑顔ではなく奇異な眼差しを向けてくると思う。


「自意識過剰? まさかの願望癖?」

「はあ……そこまで言うなら」


 目が合った女に笑顔で手を振ってみる。すると笑顔で会釈された。


「ほら見ろ! やっぱり俺……」


 サリーを見ると女に対して笑顔で手を振っていた。


「…………」

「すいません。私に対して、でしたね」

「…………くっ」

「ドンマイ」


 本当に俺の気のせい? 確かにメイド服と小袖のペアは目立つよな。


「実はこれでも結構な人気者なんすよ、私」

「へーーーー」

「あーー信じて無いなコイツ。ちょっとそこで待ってろ」


 と憤慨しながら少し離れた場所にある10人程の列ができているテイクアウト(持ち帰り)専用の店へ一人で向かう。

 そして2分も掛からず戻って来る。


「ホットドックとジュース、げっとだぜ」


 俺の分を手渡してくる。


「…………お前、今金払ったか?」


 サリーが客と店主に声を掛けると雰囲気が一変、フレンドリーモードに切り替わる。

 すると店主が順番を無視してサリーに商品を手渡し皆に笑顔で見送っていた。


「向こうが勝手にくれたんだな」

「俺の分も?」

「感謝のしるしと言われた」

「感謝? さっき言ってたリナの功績に対して?」


 国民の生活水準を上げた件。


「半分正解」

「半分?」

「気にしない」

「…………」


 頬張りながら繁華街をうろつく。人出も多くなってきた。

 とここで突然声を掛けられる。


「お? 昨日の兄ちゃんじゃないか!」


 昨日エステリーナと食事をした出店の店主だった。


「お? オヤジか。昨日は世話になった。今日は店は?」

「うちの本業はこっちでな」


 と酒を飲むフリをして見せる。


「昨日は特別で、普段の昼間はかあちゃんが店に出ている」

「そうか」

「お?」


 サリーに視線が向く。


「あん時の姉ちゃんか! アンタのお陰で助かったって皆んな喜んでたぞ! で今日はなんで()()()()()してるんだ?」


 その問いに対してサリーが顔を背ける。


「いやそれより兄ちゃん!」

「何だ?」

「昨日はすまなかった! 本来なら俺がご馳走しなきゃならなかったに!」

「?」

「アンタのお連れさんが「あの御方」だと全く気付けなくて!」


 リナのことだよな?

 と思ったところでサリーの気配が微妙に変わった。


「ついさっきの抱擁を見てやっと思い出したわ!」


 さっき? 抱擁? まさか……


「やっとエステリーナ様に釣り合う男が現れたって皆んなも喜んでたぞ!」


 ん?


 サリーを見ると慌てた様子で俺から顔を背けた。


「皆んな?」

「今朝、お触れが出たから王都の住人は殆ど見てたんじゃないか」


 再度サリーを見ると俺に背を向けている。

 分かりやすい反応だな。いやコイツならオヤジが口を滑らす前に上手く誤魔化す事もできた筈。ってことは開き直ったか、身バレの頃合いかのどちらかだな。

 どちらにしろ、期待に応えて問い詰めよう。


「おい」


 多少の「威圧」をサリーに向けて放つ。


「え? い、いやなんでもねえ」


 その威圧はサリーではなくオヤジに効いてしまったらしく、冷や汗をかきながら逃げ腰になっていた。


「ま、まあお幸せに!」


 と言ってそそくさと逃げてしまう。

 オヤジも勘が鋭いな。


「おい」

「はい? わたくしをお呼びで?」


 振り返ると口の回りがケチャップまみれ。


「…………」

「もしかしてお腹いっぱい? ならわたくしにくだちゃい」

「誤魔化すな、お前の仕業だろう?」


 どうやら城のバルコニーでのやり取りを見せ物(利用)にしたらしい。エステリーナが率先して企んだとは思えないので主犯はコイツだろう。

 そう言えばシルヴィアの様子もおかしかった気がする。



「い、いえーー特にわたくしの仕業という訳でもない……とは言い切れない……のかも」


 何とか誤魔化そうと必死な様子。

 話す気がないのならとサリーの腕を掴もうとしたところ、スッと交わされた。


「おい」

「な、なんだ?」

「リナから聞いたのか?」


 シルヴィアの存在を知っているような動き。


「……いいえ。団長からは何も聞かされておりません」


 エステリーナの名を出したところで雰囲気が変わる。


「なら何故逃げた?」


 俺に触れられたら不味いと知っていたから逃げたんだろう?


「私のスキルの囁きによって」

「リナはそのスキルを知っているのか?」

「スキルの内容ですか? 勿論。知っているからこそ師匠の付き人に私を選んだのです」


 そういえばリナは「私の代理」とか言っていた気がする。

 ってことは共犯か。

 まあ結果だけを見ればどちらも不利益は被っていないし、リナを泣かせてしまった負目もある。

 なのでこれ以上の詮索は止めておこう。

 ただ……


「一つだけ教えてくれ。アレを企てたのはどっちだ?」


 お前かエステリーナか。


「そんなの団長には無理です。わたくしに決まっております」


 無い胸を張って答えた。


「何故見せ物にした?」

「師匠が()()()()()()()()()()()のと同じ理由です」


 同じ理由。つまりエステリーナではなく俺に近い感性の持主。


「分かった」


 ならば何も言うまい。

 ここで威圧を解く。するとサリーの表情が緩んだ。


「誤解されぬように一つだけ言っておきます」

「何だ?」

「私が望むのはエステリーナ様の幸せのみ。それだけは覚えておいて下さい」

「よくぞ言った、覚えておこう。それともう拭いてもいいぞ」

「読まれてましたか」


 と()()()()ながら口元を拭いた。


 ──計算高いヤツ。


 〈仲良くしておいて損はありませんよ〉


 ──はいはいってシルヴィアは……こうなると知っていたわけだ。


「そうだ、騎士団について聞きたい」

「何を? 好みの女? 浮気するつもり?」


 するか!


「場所だけでも知っておこうかと」

「それなら団長らがいる時に行けば?」

「そうだな」


 まだ城の警備から帰還していないのかもしれない。


「それより町の構造や主要な店を案内するからサッサと覚えやがれ」

「はいはい」


 と王都の案内を続けたが流石は30万人が済む都市。半日では回り切れなかったが、サリーがこの国の現状を教えてくれながら回れたので時間を無駄にせずに済んだ。


「今日はこの辺りで戻ろう」


 先程15時の知らせる鐘の音が聞えた。今から戻れば16時すぎには着く。その頃には城も落ち着いているだろう。


「今度は馬でも借りるか」

「大ー賛ー成ー」


 途中休憩を挟みながら回っていたが、やはりというか疲れていたらしく力なく賛成していた。


「寝室の工事も終わっているかも」

「なら寄り道せずに帰るぞ」


 帰って風呂にでも入ろう。


今週中にもう一話、幕間を入れます。

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