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第19話 完敗

王(女王)の登場。

 連れていかれたのは王族専用エリア。

 始めに落ち着けない食堂。次におひとり様用の浴室。

 そこで軽く問答をしてから今日から自室となる「元第二王女」の部屋へ。。

 そこで何気なく言った一言で事態が急変。夕方まで出入りが出来なくなってしまった。


 仕方なしにと王族エリアから移動し城の構造を教えてもらいながら城下町に移動。そこで軽い昼食をとった。


 その後に偶然再会した屋台のオヤジの「何気ない一言」によりエステリーナの、いやサリーの策略(優秀さ)が露見する。


 その件に関しては、一度は泣かせてしまったので文句は言えなかった。逆にエステリーナの強かさ、サリーの忠義心や有能さも知れたし、お人好しばかりのこの国にもサリー(使える人材)がいたことに少しだけだが安堵した。


 で、だだっ広い王都を一日で回り切れるはずもなく、早々に案内を切り上げ城へと戻って来た。

 明日は各騎士団の駐屯所に出向く予定。


 そういえば壊滅した第一騎士団はどうするのだろう? 再建するのか?

 などと思いながら城前の橋をサリーと肩を並べて渡る。


「夕食にはまだ早いよな?」

「19時まであと2時間半」


 そういえば16時を知らせる鐘が鳴っていた。


「よし、やるか」

「……ではわたくしはここで」

「待て」


 何故か堀に向かって逃げようとしたので襟首を掴む。


「どこに行くんだ? 俺から離れていいのか?」

「えーーとその許可をもらいに団長の所へ」


 察しのいい奴。


「これからお前に稽古をつける」

「えーー稽古ぉぉーー」

「それとも風呂が先か?」


 王族エリアを案内してもらった際に俺の背中を流してもらう約束をしている。


「えーーと、どちらも明日にしません?」

「しない」

「ううう」


 と言って城の中庭に植えてある木の木陰に向かう。


「ほれ、これで素振りをしてみろ」


 と【収納】に入れてあった薪用の木材を剣の形に加工してもらった物を手渡す。

 因みにエステリーナが持っていたのと同じ両刃剣(ロングソード)


「す、素振りくらいなら」


 と素直に素振りを始めた。


「…………」


 ……スジは良いんだがどこかチグハグに感じる。


 〈山水様、これはどうでしょう?〉


 新たな武器が現れる。

 成程。試してみる価値はありそうだ。


「これに変えて自由に振ってみろ」

「は、はい」


 今度は真剣に似せた「木刀」を手渡すと……


 ……お? 初めてにしては上手いな。


「この微妙に曲がった感じがしっくりくるというか、重心も手元に近くて振りやすい?」

「よし、それはお前にやる。今後の稽古にはそれを使え」

「りょ、了解っす」


 単純に適切な武器をチョイスしていなかっただけでスジは悪くない。

 これは思わぬ掘り出しモノかも。


「では見本を見せるから真似をしてみろ。構えはこう」


 サリーの前に移動。向かい合わせになり、愛刀を出して構えてみせる。


「ふむふむ」

「身体は正面を向いて刀は身体の中心で構えて……そう。腕の力を抜いて肘を少しだけ曲げる。そして刀の延長線が相手の喉元に常に向くように……そうだ」


「ウッス」


「そのままブレないように真っ直ぐ振りかぶり、雑巾を絞る感じで真っ直ぐ振り下ろしながら右足から踏み込む」


「ふむふむ」


「元の位置に戻りながら腕も元の位置へ」


「元の位置へ」


「これが素振りの基本。この訓練をする時に気にするのは間合い。今のサリーの間合いだが、左手だけで刀を持って」

「こうっすか?」

「そう。足を揃えて刀を突き出したまま足は動かさずにその手を目一杯前に伸ばす」

「のーばーすー」

「その切先がある場所までが「今の」お前の間合いだ。その間合いを覚えておくこと」

「剣に比べて狭くないっすか?」

「今のって言っただろう。剣もそうだが体捌きを覚えれば自ずと間合いは広がる」

「了解っす」

「その辺りは順に教える。では今の動作を一回として千回」

「……へ? せ、せん……かい?」

「へ? じゃない。今日中に基本の振りをマスターしてもらう。俺も付き合うから頑張れ」


 と横に移動、素振りを始める。


「九百九十九」

「はあはあはあはあ」

「千! よし、今日はここまで!」


「だーーーー」


 そのまま芝生に倒れた。

 気付けば辺りは夕暮れ。


「はあはあはあはあ」


 最後までやりきるとは。意外と根性あるし、センスもよい。そして明らかに刀の方が合っている。


 〈これまではジョブが本人の適正に合っていなかったようですね


 ──どうすればいい?


 〈このまま刀の指導を続ければ、いずれは優秀な【忍び】になれるかと〉


 忍びって忍者?


 〈はい。素質だけでなく()()()充分あります〉


 女だから【くの一】か? ならやはりコイツはスパイ(間者)だな。


「それじゃお待ちかねの風呂に行くぞ」

「ひゃ、ひゃほーじゃなくてちょっと待て! もう動けねえって! ぎぶみーぽーしょん!」

「仕方ない。ホレ」 


 この心地良い疲労感を薬でどうにかしようとは。とは言え頑張ったからにはご褒美はあげないと、とポーションを一個だけ渡してからサリーを背負い浴場へと向かった。


「先に入ってる」

「へ、へい」


 今だに脚が喧々諤々の状態のサリーにもう一つ、ポーションを渡してからタオル片手に一人浴場へ。

 午前中とは異なり木製の引き戸を開けるとモワッとした湯気が立ち込めていた。


 陶磁器製のおひとり様用浴槽には並々とお湯が注がれている。

 その手前は洗い場となっており、壁の器具からお湯が出るとサリーは言っていた。


「で、これはどう使うんだったか?」


 シャワーだったか? 確か壁のノブを回すとお湯が……


「おーーって熱!」


 水が急に熱くなった!


「それ熱湯。罰ゲームじゃないんだから水で調整する」


 ここでサリーが登場。


「そ、そうか」


 見れば袖なしの膝上スカートエプロン仕様のメイド服に着替えていた。


「お前は入らないのか?」

「何度も言うけどここ王族専用。私が入ったら絞首刑」

「そうか」


 約束とは言え、それなら仕方ない。


「でもね、師匠の希望は明日叶う」

「明日?」

「現在突貫工事中」


 言ってみただけだったんだが既に作業を始めていたとは! しかも明日には出来上がると!

 スキル万歳!


「それは楽しみだ」

「但し」

「?」

「先王が決めた決まりで王族であろうが貴族だろうが「自分の事は自分でする」のが決まりとなっている。そこは覚えておくのだ」

「承知」


 流石はリナ。全くのその通り。


「分かったらグタグタ言わず、サッサと回れ右」

「は、はい」

「冗談だったとはいえ約束は約束。ただし私が背中を流すのは今回だけだからな」


 と文句を言いながらも背中を洗ってくれる。 


「意外と律儀なんだな」

「意外とはなんだ? 師匠は見た目で人を判断するのか?」

「いやしない。すまなかった」

「素直に謝れる性格は好まれる。だから許す」

「それは有難い」

「それより次からは流してくれる人に頼めば」

「誰に?」

「団長」

「……そうするか」

「さり気なく誘えば団長もきっと喜ぶ。さらに団長の背も流してあげたらもっと喜ぶ」

「勿論そのつもりだ」

「但し邪魔が入らなければ」

「?」

「はい、これでお終い」

「あ、あちい!」


 いきなり熱湯をかけられた。




「あーーいい湯だった」

「れでぃーの前では前は隠す」

「え? あ、はい」


 脱衣スペースに戻るとサリーが待機していた。


「文化の違いか? そのままだと団長に嫌われるぞ」

「それは……嫌だな」

「なら王族(ここ)の習慣に合わせる」

「はい」


 怒られた。

 コイツも俺の扱いに慣れてきた気がする。


「はい、これ着替え」

「お? 甚平?」


 群青色の甚平が手元に。

 部屋を案内してくれた時に採寸してくれた服飾職人が作ってくれたのか。

 しかし半日で良く作れるな。


「甚平と言うのか。小袖? を参考に作らせたんだが。あとはコレ」

「下着?」


 紺青色をした下着はこちらの世界の下着だった。

 履くとスース―してなんだか落ち着かない。


「慣れろ」

「はい」


 確かにもう日本には戻れない。なのでこちらの様式に合わせていかないと。


「あとはスパッツも渡しておく」


「スパッツ? あー「ももひき」か」


これは黒色。


「小袖を着る時に履くこと」

「分かった」


 ここでエステリーナ(の気配)がものすごい勢いで近付いてくる。

その速度から強化魔法を使っているのかも。


「入るぞ。山水はいるか?」


 とノックもせずにフリルのついた水色のワンピースを着た、困惑顔のエステリーナがドンと現れる。


「いるぞ」

「すまないが少々……っと、着替えの最中だったか」

「どうした? 夕食にはまだ早いよな?」

「いやそうではない。ちょっと頼みがあって」

「頼み?」


「え、えーーと、わ、私についてきて欲しい」


 子供が無理なおねだりをするような、遠慮がちのよそよそしさを感じる。


「別に構わないが……急にどうした?」

「え、えーーとエル……王がお前と直接会って話がしたいと」

「解呪の件の礼ならいらないと言ったよな。なら要望の件で?」

「そ、そうなんだが……途中で(こじ)れてしまって」

「拗れた?」


「ありゃりゃ、また始まっちゃいましたか」


 傍で俺たちのやり取りを澄まし顔で眺めていたサリーが呆れ顔で顔を背けた。


「?」


「まあ元気な証明ってことで。ではではややこしくなりそうなので、以後のエスコートは団長にお任せしても?」


「ああ、お疲れさん」


「ではではではでは本日の業務はこれにて終了! あーばよー」


 と目の前から姿だけでなく気配も消えた。

 出口は一つ。そこにはエステリーナが陣取っているにも拘らず何処に消えた?


 アイツ何者だ?


 〈見習い騎士ですよ〉


「毎朝素振りするから来いよ!」


 一応言っておこう。


「急いでくれ!」


 俺の手を握ると強引に走り出した。

 何をそんなに慌ててるんだ? 妹相手に。


「もう動けるようになったのか?」

「ああ。エリクサーや回復魔法のゴリ押しで()()()()()


 各種の回復系の魔法や薬の効果を阻害していた呪いが消えたことによりそれらが使えるようになったので、宮廷付き医術師や回復魔法が使える騎士、さらには民間の回復系魔術師を総動員して回復させたそうだ。お陰で魔力回復薬だけでなく、貴重な万能回復薬(エリクサー)の備蓄も減ってしまったそうだ。


「そこまで重症だったと?」

「いや全然」

「なら何故? 急ぐ理由は?」

「り、理由? そ、それは本人がわが、いや希望で……」


 赤面しながらバツが悪そうにチラチラと俺を見ている。

 なんだその可愛らしい反応は?


「希望で?」


 貴重な在庫を浪費した?

 なんか想像していた王のイメージとは……


「と、兎に角、今の妹は暴走していて手に負えない! だから決して挑発には乗らずに冷静に対処してくれ!」

「……挑発?」


 何だ挑発って? しかも暴走を止めるとかではなく冷静に対処?

 もしかして解呪には成功したが、長い時間呪いを受け続けていた影響が?

 どちらにしてもただ事じゃなさそう。


「急ぐんなら」


 と言ってエステリーナをお姫様抱っこする。


「キャッ! ちょちょ()()()()()って!」

「急いでるんだろ? どこに向かえば?」

「ええええ謁見の間で待つと言っていた! そそそれより不味いって!」

「承知」




 で謁見の間の前に到着。


「着いたぞ」

「え? もう?」


 途中から観念したのか、大人しく首にしがみついていたエステリーナが名残惜しそうに俺の首から手を放して床に足をつける。


 エステリーナの先導で扉を開ける。

 謁見の間は前回同様とても静かで気配も一つだけ。どうやら一人でいるらしい。

 その少女は呪いの面影など微塵も感じさせない容姿で、ひな壇の最上段に置かれた玉座の代わり? の「簡素な椅子」に、何故か上下一枚ずつの下着姿で背筋を正して座っていた。

 その容姿やイメージとは真逆の恰好でいるエステリーナそっくりの少女は、俺と目が合うと挨拶も自己紹介もせずに、こう話し始めた。


「やはり貴方でしたか」


 あの時の同じ、俺を観察するような眼差し。


「話は聞きました。貴方がお姉さまを誑かそうとしている男ですね?」


 はい?


「だから違うって!」


 エステリーナがオロオロしながら身振り手振りで否定すると話し相手がエステリーナに変わる。


「え? 違うの?」

「何ども説明しただろう!」


「裸にされたんですよね?」

「そそそれは意識のない私の介護を」

「口実にして手籠にされそうになったんですよね?」

「だだだだだからそれも違う!」


「……何て羨ましい」


「へ?」


 今なんと?


「お姉様ばかりズルいです!」


 はい?


 本気で悔しがっている王。くいっと顔が俺に向く。


「山水様、でしたね?」

「え? あ、はい」

「はじめまして」

「え? こちらこそ」

「では今から決闘をしてもらいます」

「お、俺? 誰と?」

「私と、です!」


 何故に?


「私に勝てたのなら貴方の要望は全て認めましょう! 勿論国の総力を挙げて二人を祝福します!」

「……ほう」

「ですが貴方が負けた場合」

「場合は?」

「貴方とお姉様の関係を認めた上で、私の言うことを一つ、無条件で受け入れるてもらう! 勝敗は床にお尻を先に付けた方の負け!」


「さ、山水! ダメだ!」


「いいだろう」


「いざ勝負!」


 勝っても負けても俺の要求が通るってことだよな? なら負けなければいいだけ、とエステリーナの警告を無視して返事をしたところ、王が椅子を蹴ってひな壇を裸足で駆け下りてくる。

 どうやら戦いは避けられなくなったらしい。

 とはいえ相手は病み上がりで無手。武術を嗜んだ様子も見られない体つきのただの小娘。

 下手に手を出して怪我でもさせたらエステリーナが悲しむだろうから適当に転ばせて、などと思っていたが……


「ば、バカな……」


 この俺が……何故だか仰向けで天井を眺めていた。


 〈手も足もでない、完敗でしたね〉


「はあはあ! い、イェーイ! 私の勝ち〜〜」


 俺の胸に片足を乗っけて勝利のポーズを決める王。


「……だから挑発に乗るなと」


 あちゃーと頭を抱えるエステリーナ。


「何が起きたんだ?」


 ひな壇を降りたあたりから記憶がない。


 〈魔法かスキル、どちらかを行使されたようです〉


 ──魔法? ってシルヴィアも把握できていないのか?


 〈いえ。()()()()()()は判明しています〉


「フッ、人外と聞いていましたがこの程度とは他愛(たわい)もない」


 聞こうとしたところで王が呟く。見ればニヤケながら俺を見下していた。


「では早速、私からの要望ですが……」


「「…………」」



「私もお姫様抱っこされたーーーい!」



「へ?」



「ハグもされたーーーーい!」


「キスもしたーーーーい!」


「…………」


 エステリーナを見ると……顔を隠している両手まで真っ赤になりがらワナワナと俯いている。




「最後に…………わ・た・し・もーー嫁にしろーーーーーーーー!」




 俺の真上で真に迫る心の雄たけび? を上げている。



 未婚の女がそんな恰好で男を足蹴にしながらそんなポーズしているのを両親が見たら間違いなく泣くぞ?



 いやそれよりリナさんや。何がどうしてこうなったんだ?

 それに俺、負けちゃったけど、どうしよう……


妹の名前は第二章で。容姿は10年前の(まだ未発達な頃の)エステリーナ。

そして今話で第一章は終了。

週明けに幕間を入れたら暫く休載。雷明との決着の目処がついたら再開します。


では感想、ブクマ、評価をお待ちしております!

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