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第18話 付き人

 

「そろそろ時間だろ?」

「…………」


 と促すと俺の腰に回していた腕に力がこもる。


 ──痛いって。強化魔法でも使ってるのか?


 〈いいえ。痛みを感じるのは山水様が未熟だから〉


「分からん……いてて!」


 暫くすると力が弱まる。ここで肩に手を置き直し、身体を離しにかかると今度は素直に離れてくれた。

 その時、顔を見ると……澄まし顔をしていた。


「そういえば【国軍】の指揮官は今どこに?」

「彼は北の国境にいて直ぐには戻ってこれない」


 今回一切姿を見なかった国軍。今後を考えれは無視はできない存在。

 その指揮官とは早めに面通しをし、腹を割って話をしておきたいところだが、その前に先ずはエステリーナと王とで意識のすり合わせが必須。その際に俺の要望を認めて貰わないと。

 特に第二の要望が受け入れられなければ、この国の為に働く意欲が湧いてこない。


「で残るは俺の所在。暫くは宿暮らしだな」

「なぜ(ここ)で暮らさない?」

「流石に不味いだろ」


 城には騎士団だけではない。国を動かす主要人物を筆頭に沢山の者が働いている。

 軍属ならまだしも、文官や非戦闘員を「命令」一つで納得させるには無理がある。

 俺が原因で不協和音が生じるのは避けたい。


 〈変なところで意地を張らずに()()を〉


 ──それをお前が言うのか!


 なんだか虚しくなってきた。


「そちらの心配はいらない」

「何故?」

「何故って? いらないから」


 だからその理由が知りたいんだって!


「それよりここで生活した方が気を使わなくて済むと思う。大体宿代はどうするつもりだ?」


「……うっ」


 あるにはある。例の金は屋台と宿代にしか使っていないので殆ど残っている。

 ただこれ以上、許可無く手をつけたら、土下座は必須だろう。

 ってゆうかくすねたの知ってて聞いてるよな?


「城なら衣食住は保障するし給金も出す。なんなら手付けとして私の身体を」

「では暫く世話になるか」


 不穏な単語が出てきそうだったので途中で割り込む。

 欲しいには欲しいが今はその時ではない。


 てかグイグイくるな。

 こりゃ間違いなく遠征費用をくすねているのに気付いているぞっと。


 まあ「次の問題」が起きない内に奴の情報を集めておきたい。

 身の回りの心配をしなくて済むなら甘んじて受け入れよう。


「そうだ、俺への連絡手段を教えておこう」

「連絡?」

「リナも立場上、忙しいだろう?」

「そう……だな」

「その1。俺が近場にいる時はカイエンに頼む」

「確かにアイツは賢い」


 今朝も立派に役目を果たしてくれた。


「多分、アイツは俺ほどではないが「気配」が読めている」


 ──だよな?


 〈はい、主に従順、ついでに人の感情も理解しています〉


「その2。急ぎの用事はリナが()()()()「気」を放つ」

「気とは?」

「所謂感情。喜び悲しみ憎しみ殺意。それらを意図して他人に向ける行為。身近なのは昨日リナも使っていた【威圧】だな」

「それなら分かる」

「リナの「気」なら離れていても感じ取れるように()()()


 つい先程の話。


「だから遠慮せず」

「……こう、か?」


 話の途中で試してきた。

 手を伸ばせば容易に届く距離にあるブルーの瞳と視線が重なる。


 ……む? むむむ?


 〈あらあらあらあら〉


「おやその反応……。満更ではなさそうだ」


 動揺を見抜かれた?


「これなら……」


 これなら?


「この世界にも似た様な逸話があるんだ」

「どんな話なんだ?」

「いや今はいい。それよりも山水の部屋だが私が昔、使っていた隣りにしよう」

「……部屋? 寝室?」

「空いているんだ。妹が使っていた部屋が」


 ニヤリと意味深げに微笑む。


 ……ってことはベットだよな。畳は……今は諦めるとして板張りに変えてもらうか、と断り難い現実から逃避する。


「ん? 何か言った?」

「いや何も」


 勘が鋭いな、コイツ。


 その時突然突風が。エステリーナの髪がバタバタと靡くとヒモが解けてしまう。


「あ」

「っと」


 反射的に手を伸ばす。片手は今まさに飛び立とうとしているバンダナ(結き紐)に。もう一方の手は万が一を考えエステリーナの腰へ。

 なにせこのベランダの枠は面ではなく支柱タイプ。落ちる程の隙間はないとはいえ結構怖い。


 そして紐を難なくキャッチ。持ち主に渡そうと視線を向けた瞬間、エステリーナは俺の首に両手を回すと強引に口付けをしてきた。


「んぉ!」


 不意を突かれ妙な呻き声をあげてしまうが、目を瞑り集中しているエステリーナを見たら直ぐに冷静になれた。

 口付けは数秒程度。名残惜しそうに離れた。


「これは私の感謝の気持ち」


 清々しい表情で言い切った。


「嫌……だったか?」

「嫌なわけないだろう」

「嫌いではないんだよな?」

「嫌いならここにはいない」

「本当に?」

「ああ」

「なら証明して」


 なら遠慮なくと今度はこちらから。

 改めてエステリーナの腰に手を回すと俺の首が引き寄せられる。そのままお互いを引き寄せると再び二人だけの世界へ。


 程なくしてどちらからともなく唇を離すとエステリーナが妖しく微笑む。

 その笑みに違和感を覚え聞こうと口を開きかけたところ手で口を塞がれた。

 その代わりにと彼女が口を開く。


「あ、そうだ。今日から私も自室に戻ることにした」


 自室? 確か隣り、だよな?


「守りやすいだろ? 隣りなら」


「…………」


「楽しみだ」


 と口元を緩ませながら背を向けてしまう。で何が楽しみなんだ?


「ああ、この感覚は久しぶり……いや初めてかも」


 両手を上げ背伸びしながら清々しい笑顔で言う。


「それは良かった」


 その笑顔が見たかったんだ。




 ご機嫌なエステリーナの案内で階下へ。

 そして騎士達が警備をしている「儀式の間」の扉の前に到着。


「山水も立ち会うよな?」

「おれは遠慮しておく」

「何故?」

「新たな門出にするためにも、最大の功労者であるお前が最後を締め括れ」


 皆で一丸となり成し遂げたのだ。

 その感動の場面に苦労らしい苦労をしていないポッと出の俺がいたら……いらぬ気を使わせてしまう。


「……配慮に感謝を」


 皆まで言わずとも伝わったらしい。



「そうだサリー!」



 突然エステリーナが声を張り上げる。


「はい、お呼びでしょうか」


 すると俺達の前に小柄な女が()()()現れた。

 まん丸瓶底眼鏡に金髪おさげのそばかす顔。背は頭一つ分低くとてもスラっとした体形の女。


 ……コイツ何者だ?


「紹介しよう。彼女の名はサリー。第一騎士団の唯一の生き残りだ」

「いたのか? 生き残りが」

()()()()()として留守番を任せていたんだ」


 成程。だがなんというか……


「騎士団員には見えないんだが」

「確かに雷系の初級魔法が使えるくらいで剣の腕も一般兵に劣るが」


「いやそうじゃなくて、この国の騎士はメイド服も着るのか?」


 そう、まさにメイド服を着ている。


「そんなワケあるまい」

「…………」


「コイツは正騎士ではない」

「なら準騎士?」

「いや」

「正確には第一騎士団団長付きの秘書。平たく言うと騎士見習いで私の付き人だな」

「……それで?」

「サリーには暫くの間、山水の付き人をさせる。だから着せた」


 エステリーナは立場ある者。普段から彼女に付き添う・付き添われるのは非効率。

 だからといって俺の世話を本物のメイドにさせるには役不足。

 ならば他の騎士団員……では釣り合わないと判断し、エステリーナを良く知る、そして彼女の意向を汲めるコイツを寄越した。

 メイド服姿なのは……全く分からんがそこまでは理解した。


「成程。お前はそれでいいのか?」


 服を眺めながら言う。

 見習いとはいえ騎士を目指している身。プライドもあるだろうに、と思って聞いたところ……顔を赤らめモジモジしている。


「嫌がってるぞ」


 可哀そうに、羞恥心で顔が真っ赤だ。


「「え?」」

「……え? 違う、の?」

「「「…………」」」


 暫しの沈黙。


「……ついでと言ってはなんだが剣の稽古も頼む」

「それくらいならって俺が?」

「ああ。手が空いた時で構わない」


 と言われても剣と刀は似て非なるもの。意外と共通点は少ないのだ。


 例えば戦い方。

 剣の基本は力で叩き切るだが、刀の基本は素早く突いて(威嚇して)怯んだところを斬る。この程度の違いは刃の形状を見れば素人でも想像がつく。

 さらに体捌きも異なるし、間合いも異なる。特に刀の場合は鍔迫り合いなんて以ての外。

 仮に俺が剣を使っても思う通りに切れないし、騎士に刀を持たせても折るか刃こぼれさせるのが関の山。


 この辺りは適切なジョブを選べばある程度は自動補正が掛かるらしいが、それも基本的な動作のみ。スキルも含めて使いこなすにはそれなりの鍛錬が必要なのだ。

 なので現状では心構えくらいしか教えられない。


 因みに俺は刀以外の武器スキルは一切持っていない。


「師匠、よろしくお願いします」


 どうやら師匠になったらしい。

 頭を下げてきたので握手を交わす。


 〈この方……〉


 ──なんだ?


 〈あらあらそんな思惑が〉


 ──……思惑? スパイ(間者)か?


 〈いえいえ。エステリーナ様()忠誠を誓ったこの国の……見習い騎士です。それ以上でもそれ以下でも〉


 ──リナに忠誠?


 〈今はお気になさらず、仲良くしてあげて下さい〉


「少々言葉使いは悪いが悪気があるわけではない。そこは目くじら立てずに流してくれ」


「いえーーい」


「…………」


 訳のわからないポーズをしている。


 ……性格に難ありか。まあ堅苦しいのは性に合わないので良しとしよう。


「では夕食にまた会おう」

「え? あーそうなるか」


 王と宰相が不在な今はやる事が山積みに違いない。

 そちら方面では俺は役に立てない。


「サリー、山水から目を離すなよ」

「了解。あ、団長」


 去ろうと向きを変えたところで呼び止められる。


「ん?」

「おめでとうございます」


 エステリーナに対して深々と頭を下げている。


「……そうか、おめでとうか。フフフ、では後は任せた」


 含み笑いを残していった。


「なにがおめでとうなんだ?」


 気になったので聞いてみた。


「陛下の復活」

「なるほど」


 その言葉は事が済んでからでは? それより王に対して「復活」とは、(いち)見習いが言ったら不敬にあたるぞ?


「ではこれから師匠を連れ回します」

「連れ回されるのか、俺は」

「結構広いので迷子にならないように」

「なら手でも繋ごうか?」

「残念ながら私にはその権利はございません」

「権利?」

「気にしない」


 サリーの先導で先ずは「王族専用エリア」へ向かった。


 剣や魔法の才能に乏しかったサリーがエステリーナの付き人たる所以は幕間にて。

 そして第一章最後の新キャラはエステリーナの妹である現女王様。

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