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第16話 白状

暑いわ。

 

 二人だけとなったところでエステリーナが小声で話しかけてくる。


「付き合ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

「とても嬉しかった」

「それは良かった」

「初めてだったんだ」


 そこで口を紡いでしまう。


 何が? なんて聞かない。

 聞こうものならシルヴィア先生にまた怒られてしまうから。


「では場所を移そう」


 騎士団とは異なりのんびりと去るカイエンを見送ってから肩を並べて城の中へ。

 案内されたのは薬品の匂いが漂う一室で、ローブを着た研究者らしき者達に出迎えられた。


「ここで王にかけられた呪の研究をしていた」

「研究?」

「ああ。()宰相の情報の裏付けをさせていた」

「結果は?」

「相違ない、と」


 ぶっつけ本番は危険すぎる。だから余裕があるうちに確かめる。

 で調べたら合っていた。宰相の話は合っていたと。


 そりゃ解呪()()を目的とするなら大正解だろう。文句の付け所がないほどに。もし違っていたら宰相が宰相でいられなくなるし、この()()()()()が達せられない。

 真の目的は王の殺害ではなく、この俺なのだから。


「分かった。肝で良いんだな?」

「はい」

「量は」

「拳大ほどあれば」

「分かった。用意はいいか?」


 研究者たちが頷く。


 ──シルヴィア。


 〈はい。アレを出します〉


 皿の上に赤黒い寒天のような物体が現れる。


「……これがドラゴンの肝……」

「ああ。まだ温かいだろ? 採れたてホヤホヤだから」


 皆一点を見つめて暫し沈黙。


「で、では早速作業に掛かります!」


 周りが慌てて動き出す。


「頼む」


「「「お任せを!」」」


 一斉に作業に入ると俺とエステリーナだけがその場に取り残された。


 ──調べないのかね?


 〈そこは同意です〉


 それじゃダメだ。例え恩人であっても疑ってかからないと。

 特にエステリーナ、お前がそれではこの国に未来はないぞ。


 実はこのタイミングを狙っていたが肩透かしをくらってしまった。これでは「説明」する機会は巡ってこない。

 少々荒療治になるが予定を変えよう。


「完成するまでの時間は?」

「一時間もあれば」

「なら猶予はあるな。少し話がある」

「猶予? どうしたんだ?」


「二人だけで話がしたい。場所を移そう」


 怪訝そうな表情のエステリーナ。


 というのもこのまま順調にいけば()()()()()()()()()()

 その前に言わなければ後々「感情面」でややこしい事態になるだろう。

 そのややこしい事態を防ぐには今のうちに事情を説明し「今後の方針」を決めておかなければならない。


 だがそれには俺の素性やシルヴィアの存在も明かすことになる。

 そして事情を知ったエステリーナとこの国は、さらなる厄介事に巻き込まれてしまうだろう。


 ◇


 昨晩中悩んだ。この国を巻き込んでしまって良いものかと。



 〈今更、というか手遅れです〉


 規定により今までは新たな場には二人同時に送られていたが今回、雷明は記憶をリセットせずに、しかも先に転生するという規定違反を犯したことにより渡る時期に差が生じた。

 結果、俺がいつどこにやって来るかは雷明にも分からなくなった。

 必然、広く網を張り、いつ来ても良いようにと準備を整えておく必要に迫られた。


 準備が必要なのは何故か?

 それは刀を振るう力の全てを俺が奪い返したから。

 だから俺との「直接対決」はしない。代わりに唯一の武器であるシルヴィアから奪った「心」を行使してくる。

 これからは心理戦。あの手この手と揺さぶりをかけてくるはず。


 そしてその手は俺が来る前にこの国にまで伸びていた。

 抗うには俺の力が不可欠なのだ。


 〈山水様はエステリーナ様の命を救ったのです。忠告は無碍にはしないかと〉


「だといいがな」


 〈心配性ですね。彼女……エステリーナ様に否定されるとお思いで?〉


「それは……わからない」


 〈怖い、んですね。でも大丈夫〉


「どうして言い切れる? 未だに(心を)覗いていなんだろ?」


 〈覗かなくても見ていれば分かります。だってエステリーナ様はこちらでは大変珍しい山水様と「同じ気質の持ち主」なのだから〉


「……気質……」


 〈否定されます?〉


「……いや」


 〈あの「要求」を彼女は誠実に受け止めた。二つ目の要望の意味もきっと理解してくれます〉


「……そうだな。信じるしかないよな」


 〈それは相手も同じなんですよ〉


「同じ、か」


 〈エステリーナ様なら必ず受け入れてくれます。なので今は耐え下さい〉


「…………」



 ◇


「偶然だ。私も余人を交えず二人だけで話がしたかった」


 最適な場所があると、エステリーナに連れてこられたのは城の最上階にある城下町に面するバルコニーだった。

 このスペースは王族専用とのことで、城の中庭や城下町だけでなく、昨日までいた草原や森までもが薄らとだが一望できる、最高に見晴らしが良い場所だった。


 外に出ると高所特有のつむじ風がおこる。するとエステリーナの金色の長い髪がバサバサと暴れ出してしまう。だが慌てず首元に巻いていたスカーフをスルリと抜き取ると慣れた手つきで髪を結わいた。


「それで話とは?」

「そちらの用事は?」

「後でいい」

「分かった。では話をする前に約束して欲しい」

「約束?」

「今から話す内容を誰にも言わない欲しいのと、俺が言うことを信じて欲しい」

「どうした? 改まって」

「先ず俺の素性を話す。それを心の中に留めておいて欲しいんだ」

「…………分かった」

「誓えるか?」

「ああ」


 力強く頷いている。


「では正直に言うと……俺はこの世界ではない、別の世界から来た異世界人だ」

「だろうな」

「……信じるのか?」

「信じるも何も、見ていれば誰でも気付くって」

「どこが?」

「自慢になるが、私はこの世界の人族の中では上位一桁台の強さを誇る。そんな私でもドラゴンを一刀両断? したりカイエンよりも早く走るなど、身体強化魔法を駆使しても成せるものではない」


 〈鋭い観察眼をお持ちのようで〉


 ……シルヴィアさんや。アンタの指示でそうしたんだんだぞ?


「それで?」

「それでって……ここからが本題だ」


 千年以上前、魂だけの存在となっていた「シルヴィア(神の巫女)」と【永房の間】で偶然邂逅(かいこう)した。

 その時に現れた【ある御方】から「神の巫女」である「シルヴィアの全て」を奪った「雷明」から、奪われた身体(パーツ)を取り戻し元の姿に戻してくれないかとの提案を受けた。その際、取り引きを提案し受け入れられたので、長い年月をかけ戦い続けてきたことを告げる。


「シルヴィア? 神の巫女?」


 〈山水様、彼女に触れて下さい〉


「手を出してくれ」


 エステリーナの手を握る。


 〈初めまして、エステリーナ様。私がシルヴィアです〉


「!」


 王族らしく綺麗に整った顔が硬直している。


「これは……なんと形容したらよいのか。まるで女神のような声」


 ──だそうたが?


 〈…………〉


 ──なんだかな。


 続いて俺やシルヴィアの能力を掻い摘んで教える。


小物入れ(アイテムボックス)ではなく【収納(インベントリー)】と言うのか」

「ああ。シルヴィアの補助があってこそ生きるスキルだな」

「成程。一つ質問しても?」

「?」

「シルヴィア殿と話すには、山水殿を介さなければならないのかな?」

「本人に直接聞いてくれ」


 手を出すと今度はエステリーナの方から握ってきた。


 暫しの沈黙。

 その間、エステリーナの表情に微妙な変化が。


「…………成程」


 何が成程なんだ?


「どうやら触れてさえいれば、二人だけの会話が出来るみたいだ」


 へーー。


 〈因みに他の方では無理ですね〉


「…………」


 急に寒気が。いや寒くはないが、こう背筋が凍るような……感覚が。

 風邪でもひくのだろうか?


 自己紹介(一つ目)は無事終了。問題はここから。


「先程渡したドラゴンの肝だがな、実は肝ではないんだ」


「え? それは……どういう」


「アレは肝に似せた、竜の「心臓」だ」


 それを言った途端、エステリーナ顔から「感情」が消え失せた。


第一章はあと数話で終了。

その後に幕間を入れたら暫くお休みとなります。

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