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第13話 すれ違い

 


「そんな仕掛けが」


 〈あれが元凶でしたね〉


 確かに王だけを標的にするなら最適だな。


 ブルル……


 城の外を目指し廊下を歩きながらシルヴィアと話していると、素知らぬ顔で廊下をカンカンとテンポ良く「散歩」していたカイエンと偶然出くわす。


「お、丁度良いところに。伝言を頼んでもいいか」


 つぶらな瞳をパチクリさせながら耳をピクピクと動かしている。


「俺は城下町にいるので落ち着いたら声を掛けてくれ、とエステリーナに伝えてくれないか?」


 ブルル。


 ドヤ顔? で嘶く。


「そうだ、ついでにコレも頼む」


 馬車の荷台にあった「今後の俺にとって不用な荷物」と「エステリーナに必要」な物を分けて置く。

 旅に必要な物資と「通貨」はないと困るので今回の「必要経費」として貰うことにした。


「じゃあ任せたぞ」


 気配を探りながら、人目を避けて城外へ逃れた。



 ・・・・・・



 そのころ……


「山水殿!」


 彼を探して「謁見の間」に入ると部屋の中央付近に人集りが。その中心には宰相が床で横になっていた。

 そして彼は……何処にもいない。


「こ、これは殿下! ご無事でしたか」

「任務ご苦労。宰相の様子は?」

「意識を失っているだけで外傷は見当たりません」

「そうか。ところで黒髪で変わった服装の御仁を見なかったか?」

「直前までいましたが逃げられました」

「逃げた?」

「はい」

「何が起きたのか、状況を説明せよ」

「はい。我々が到着した際…………………………………………」



「け……剣を……抜いたのか?」



 呼吸が止まる。


「は? はい。宰相殿を守るために抜きましたが?」


 再度周囲を見回すが皆、五体満足な状態。勿論宰相も。


 ──良かった。


 彼の気遣いを感じるとともに情けなくなってくる。

 自分の不甲斐なさ、図々しさ、力不足に。そして騎士団の纏め役として傘下の思慮不足に。


「……宰相は捕縛。装備没収の上、地下牢に入れておけ」

「え? 何故です?」

「国王暗殺未遂罪及び国家叛逆の容疑だ」

「…………」


 罪状に戸惑う騎士達。


「聞こえなかったか? ならもう一度言おう。国王暗殺未遂だ」

「……陛下の……暗殺……」



「なぜ復唱しない‼︎」


 堪えきれずに声を荒げてしまう。



「失礼しました‼︎ 宰相閣下を暗殺未遂の罪で地下牢にブチ込みます‼︎」


 そこで「玉座」がたまたま視界に入る。すると何故だか頭の中が真っ白になり思考停止に陥ってしまう。

 一人残され静寂が訪れてから間もなく、玉座が前触れもなく音も立てずに砂と化した。それを見て我に返る。


 ……え?


 彼がやったのは明白。ならば何を意図してのことかと考える。

 一つの答えに達するとさらに落ち込んだ。


 ──この国に失望……いやこんな私に嫌気がさしたのかも。 


 助けてもらってばかりで何一つ返せていない。しかも救って貰った直後に追い出すような真似までしてしまった。


 気付けば誰もいない廊下を一人で歩いていた。失意に似た感情を抱えながら。

 当てもなく廊下を歩いていると偶然カイエンと出くわす。


 ブル!


 こんなところにいたのか! とばかりにこちらを見ると脚を畳んで座り込んだ。


「……乗れと?」


 素直に乗るとカチカチと足音を響かせながら城の廊下をマイペースで進みゆく。


「あっ!」


 馬車の荷物一式が置かれてあった。

 その隣には武具等の遺品。一番目立つ位置には「魔魂石」が入った袋も。


 それを見て今、自分の中にある感情が失意ではなく「失恋」であったことに気が付いた。


「生涯叶うことのない夢」と諦めていた()()が「叶うかもしれない夢」へと変わり始めた矢先に「永遠に叶わない願い」になってしまったと。


 より一層気が沈むが、カイエンはお構いなしにとその前を通過。気付けば城下町の屋台が並ぶ通りにいた。

 普段なら人で埋め尽くされるほど賑わいを見せている通りだが、今は流石に客もおらず営業している店も見当たらない。


 そこをマイペースで進むカイエン。

 もう少しで出店がなくなる寸前、一軒だけ営業している店を発見。カイエンはその店に鼻先を向けた。

 すると話し声が聞こえてくる。


「こんな物騒な中を来るなんて、アンタも度胸が座ってるな」

「人のこと、言えないだろうに」

「ガハハ違いねえ。それよりあんちゃん珍しい服着てるな。どこから来たんだ?」

「遠い国だ」


 垂れ下がった布製の(ひさし)で腰から下しか見えないが、間違いなく彼はそこにいる。

 その声を聞いて胸の奥がズキンと痛む。


「流石はカイエン。もう連れてきたか」


 彼の背の前でカイエンは止まった。





 ・・・・・




 ──お? 来たな。


「流石はカイエン。(ご主人様を)もう連れてきたか」


 振り向かずに言う。


 ヒヒーン!


「山……水……殿」


 どこか他所よそしいエステリーナの声。続けて馬から降りた音が聞こる。


「まあ何も言わずにここに座れって」


 年季の入った木製の簡素なカウンター。俺の隣の席をポンポンと叩き着座を促す。


「だ、だが」


 こんな三十半ばのオッサンの隣りは嫌だってか?


「店主、連れが来たから同じ物を頼む」

「あいよ」


 無視して追加注文。店主は調理をするためカウンターから離れる。

 するとやっと庇を潜って隣の席へ。


「腹空いてるだろう? 昨日の夜から何も食べてないもんな」

「……ああ」


 しんみりとした声。元気がないな。


「先に言っておくか」

「?」

「奴の手掛かりを得たから今すぐにでも発ちたい」

「……え?」

「と言いたいところだが、暫くは王都(ここ)にいることにした」

「どうして?」


 宰相から聞き出した情報の一部を教える。


「でな宰相は「最低限の手勢を連れてきた」と言っていた。つまり主力は領地に残していることになる」

「…………」

「仮にだ、事情を知らない侯爵の身内なりが他の貴族と結託し侯爵を取り返そうと、王家に反旗を翻してきたら? 現状で太刀打ちできるのか?」

「勝てるには勝てるが……どちらにしても王国はもたない」

「だよな」


「それより私自身、今だに信じられないんだ。あの宰相がこんなことを」

「それは仕方ない」


 基本的には「善人」であり「善政」に寄与していたからこそ、エステリーナを始め誰もが疑いをしなかった。

 だからこそ不安は尽きない。

 今後の対応次第では侯爵側につく者が出てきて内乱状態になってしまう。いや間違いなくそうなる。

 それでは王を助けても結果は変わらない。


「ただ王国、というか今の体制が崩れるのは、俺としてはかなり困る」


 〈それは建前ですね〉


 ──ちょっと静かにしていてくれ。


「何故?」

「欲しいモノを見つけた」

「欲しいモノ?」

「てな訳でもう少しだけ、この国の事情、というよりエステリーナ、お前に手を貸すことにした」

「それはどう言ったらいいのか……すまない」


 良くない傾向だな。


「……謝ってばかりだな。いや誤解する前に俺からの要望を伝えておこう」


 先に「同情で手を貸すわけではない」と断っておく。


「欲しいモノは二つ。一つは土地」

「土地? 領地?」

「そう領地。お前と出会った森と草原及び山脈の全て」

「あんな辺鄙な場所を?」

「その辺鄙な場所が欲しい、というか俺が自由にできる場所が欲しいんだ。勿論所属も王国のままで構わないし王国の法には従う。それに伴う根回しと()()()()()()はエステリーナ、お前に任せる」


「…………」


 思案顔のエステリーナ。


「土地を得るということは我が国の民に……いや王国貴族になってくれると?」

「ガラじゃないしその気もないが、お前が望むならなっても構わない」


 今の要望は王が絡むので独断では決められない。

 だが次の要求は……エステリーナの意思次第。


「何故土地が欲しくなったのか、それは欲しいものが出来たから」


「……それは?」




「エステリーナ、お前だ。是が非でもお前を手に入れたい」



 明日は久しぶりの休み。久しぶりに手の込んだ料理でも作るか。

 で来週は休み無しデスマーチ。生き残れるか・・

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