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第10話 殿下

米が手に入らない

 

「エステリーナ」

「何だ?」

「あそこにいるのは全て敵兵で相違ないか?」


 念のため確認。


「……ああ!」

「よし」


 なら遠慮はいらない。


「そこを退()け! 邪魔をする者は全て斬り伏せる!」


 実力差がある状況で背から斬るのは信条に反する。せめてもの情けと大声を張り上げ警告。

 それがある意味功を奏しこちらに視線が向けられたが、こちらが二人と見るや剣先をこちらに向けてしまう。


 そして宣言を聞いて引かない、さらに()()()()()()()()にも刃を向けてきた。

 それを見て意識が殲滅へと切り替わる。


「すぐ済ますので橋の手前で待ってくれ」

「分かった」


 斬った後の倒れる方向にも気にかけながら、素人の目でやっと追える程度の速さで武器をいなしてから首を刎ねていく。相手は声を上げる暇もなく次々と倒れゆく。

 10m程の幅を左右に流れるように移動しながら前へと一歩ずつ確実に進む。


「な、なんだこいつは!」

「ば、バケモンだ!」


 程なく橋の中程に差し掛かったところで、次は自分の番と思った兵士が、そう言って武器を手放し自ら堀に飛び込んでゆく。

 それを見た者達が反射的に続く。


 ──いやお前達、軽すぎるだろ!


 そう何が何でも相手を討ち取るといった気概が全く感じ取れない。

 その証拠に橋の上にあれだけいた兵の姿は何処にもなかった。


「サッサと道を開けろ!」


 橋の手前で待機していたエステリーナが焦れたのか、声を張り上げる。すると橋の先の城門の下にいる兵達が一斉に動き、城内へと続く一本の道が出来上がった。


「これで最後だ! 戦闘の意思が無いものは武器を手放せ! 持っている者は全て切るぞ!」


 エステリーナの威圧を伴った宣言に合わせ、俺は一歩踏み出す。その途端、一斉に金属音が鳴り響く。


 既に橋の上は遺骸と血の海。

 だが橋の中央、馬一頭が通れるスペースだけは汚さずに残しておいた。


「行こうか」

「承知」


 返り血で汚れた俺。対照的に一切穢れていない馬に乗ったエステリーナ。そのエステリーナの合図に合わせ同時に歩みを進める。


 城門は開かれていたので難なく侵入を果たす。

 城の扉を抜けてから切りかかってきた者もいたが、以後は忠告はせずに武器ごと一太刀で返り討ちにしてゆく。


 ここまでだいぶ返り血を浴びたが、紺色の服のお陰で見分けがつかない。とはいえ動きにくい上に臭い。

 片や剣を抜いていないエステリーナは汚れておらず綺麗なままだ。

 なので臭いのは俺だけ。こんな状態で王とは会いたくないので頃合いをみて(【収納】で)綺麗にしておくか。


「山水殿!」

「どうした?」


 王なら()()()()()()()()にいると思い「上」を目指そうとしたところ、後ろから呼び止められる。


「こっちだ!」


 振り向けば一つ手前の通路を曲がろうとしていた。


 ──そういえば呪われているんだったか。なら違う場所で療養しているのかも。


 ある程度、上階へ進んだところで城の裏側に回り込む。

 すると不穏な気配と共に微かな戦闘音が聞こえてきた。


 これは剣同士がぶつかる金属音。

 ここでカイエンから降りると、剣を抜きながら音がしている方へと一人で駆けてゆく。


「お前はここで待機」


 ブルル!


「なんだ不満なのか? なら俺が乗ろうか?」


 顔を背けられた。


 エステリーナの後に続きながらついでに服の汚れを取り除く。

 通路の角を曲がったところで敵の兵士2名とばったり出くわした。


「な、お前ら!」

「チッ!」


 2人よりも早くエステリーナが踏み込むが、俺はお構いなしにとエステリーナを押しのけ敵兵の首を落とす。

 二人の首が床へと落下。残された身体が血を撒き散らしながら力なく崩れてゆく。

 鎧と床がぶつかり金属音が鳴り響く。すると先で戦っていた者達の視線がこちらに向けられた。


「「で、殿下ご無事で!」」


 ──ん? 殿下?


 行き止まりの通路の先にある扉は開け放たれており、その扉の前では2名の騎士が多数の敵兵に抵抗を試みていた。

 その騎士達の目が捕らえていたのは、前に出ている俺ではなく後方のエステリーナ。さらに「殿下」との言葉に敵兵が反応。結果全ての視線がエステリーナに注がれる。


「貴様らここを何処だと心得ている‼︎」


 逆上したエステリーナが威圧を放ちながら俺を追い越し敵に向かっていく。


「か、構わん! 切れ!」


 威圧が多少効いたのか全員に躊躇いが生じるが引かせるまでには至らず。

 我に返った上官らしき人物が命令を下すと、その場にいた10人が一斉に向かって来た。


「ダメだ、お前は斬るな」


 エステリーナ、お前は人を斬っちゃダメだ。代わりに俺が斬るから。


 エステリーナのマントを引っ張り場所を入れ替える。すると受け身を取れずに尻餅をついてしまった。


 〈山水様〉


 敵は初めて見る格好をした俺に逡巡しつつも勢いそのまま再び剣を振り下ろしてきた。


 〈もう少しエステリーナ様の〉


 難なく躱してから斬り伏せる。一人ずつ、躱してから確実に命を奪う。

 10人、上官、そして騎士と力比べをしていた兵の全てを片付け終えた。


 〈心情を察してあげて〉


 ──ん?


 そこにタイミングよく焦った表情のエステリーナが脇をすり抜けてゆく。


 ──す、すまん。


 〈謝るならエステリーナ様に〉


 俺を追い越したエステリーナは二人の騎士を引き連れ部屋の中へ。意気消沈しながらそれに続く。


 広くて明るい部屋の中央には豪華なベット。部屋の隅には頭を抱えて縮こまったメイドが2名。

 そしてベットの手前にはエステリーナの鎧と遜色ないレベルで装飾が施された鎧を着ている「程好く肥えた初老の男」がこちらを向いて立っていた。

 その手には剣が握られており、刃先が片手に抱えた十代後半と思しき小柄な女の首に添えられていた。


「と、止まれ! それ以上近付くな!」


 額から大量の汗を流しながら大声を張り上げる男。


「マカニー宰相! いや侯爵、剣を引け!」

「お前は何故死んでいないのだ⁈ どうやって生き延びた⁈」

「これはお前の企みか⁉︎ 何故こんな真似を!」

「ええいもうどうでもいい! 王の命が惜しくばそこをどけ!」


 その言葉にエステリーナと2名の騎士の動きが止まる。


「くっ! 卑怯な」

「何とでも言え!」


 首筋に刃を立てたままジリジリと出口に進み行く(こちらに来る)

 対する3人は手が出せないと判断し左右に分かれ道を開ける。

 すると必然的に最後尾にいた俺と相対する位置に。


「お、誰だお前は? ん? その服装……」


 その反応を見たら自然と言葉が出た。


「……雷明……」


 奴の名を呟くと今度は侯爵の動きがピタリと止まる。


「ほお? 奴を……知っているのか?」


 胸の高鳴りを感じた。


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